職場で怪我をしたのに会社から「労災は使わないでほしい」「外には言わないで」と口止めされた——そんな経験をしている方は、今すぐ行動を起こしてください。労災隠しと口止め行為は犯罪です。あなたには労災保険を使う権利があり、会社にはそれを妨害する権利は一切ありません。
このガイドでは、口止めされた直後からするべきことを優先度順に整理し、証拠の取り方・労基署への告発手順・刑事告訴の流れまで、実務的に解説します。
労災隠し・口止めは違法行為|適用される法律と刑罰
まず確認しておきたいのは、会社の行為がどの法律に違反しているかです。法的根拠を理解しておくことで、告発の際に自信を持って対応できます。
労災隠し・口止めに適用される主要な法律
① 労働基準法(第104条・第119条)
労働基準法第104条は、労働者が業務上の事由により負傷・疾病・死亡した場合、会社は所轄労働基準監督署に遅滞なく報告しなければならないと定めています。これを怠る「労災かくし(事故報告義務違反)」には、第119条により6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
また、労働者が労基署に申告することを妨害する行為は第104条第2項の不利益取扱い禁止にも触れる可能性があります。
② 労働者災害補償保険法(給付請求権の保護)
労災保険法は、業務上の負傷・疾病に対する給付請求権を労働者に認めています。この労災保険給付請求権は労働者固有の権利であり、会社が制限・妨害することは違法です。さらに同法は、給付を受ける権利の譲渡・担保・差押えを禁止しており、権利そのものを奪う行為も違反となります。
③ 刑法(脅迫罪・強要罪・証人等威迫罪)
口止めの程度や方法によっては、刑事責任が生じます。
| 適用条文 | 要件 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 刑法第222条(脅迫罪) | 「解雇するぞ」など害悪を告知して申告を断念させた | 2年以下の懲役または30万円以下の罰金 |
| 刑法第223条(強要罪) | 暴行・脅迫を用いて申告させなかった | 3年以下の懲役 |
| 刑法第105条の2(証人等威迫罪) | 申告者・証人を威迫して申告を妨害した | 2年以下の懲役または30万円以下の罰金 |
ポイント: 「穏やかにお願いされた」場合も、立場の優位性を利用した圧力であれば違法性を問える可能性があります。言い方の強さだけで判断しないでください。
口止めされたらすぐやること|優先度別・初動対応
時間が経つほど証拠は失われます。以下の順番で、即日から3日以内に動いてください。
【優先度★★★】当日中:医療機関を受診する
会社の言いなりにならず、すぐに医療機関を受診してください。会社指定の病院・クリニックに行くと、「私傷病扱い」で処理されたり、医師が会社寄りの対応をする場合があります。できる限り会社と関係のない医療機関を選びましょう。
受診時のポイントは以下のとおりです。
- 医師に「業務中に発生した事故・怪我です」と正確に告げる
- 診断書に「原因:業務上の事故」と記載してもらう
- 領収書・処方箋・紹介状はすべて保管する
- カルテの複写請求(診療記録開示申請)を早めに行う
⚠ 注意: 「会社から言われたので私傷病で」と診断書を書かせることは絶対に避けてください。後から訂正は困難になります。
【優先度★★★】当日中:口止め発言を証拠化する
口止めの事実を記録することが、告発の決め手になります。以下の方法で証拠を確保してください。
録音(最も有効)
- 会社から口止めを受けた会話は、スマートフォンのボイスレコーダーで録音してください
- 自分が当事者である会話の録音は違法ではありません(秘密録音も証拠として活用できます)
- 録音後はクラウドストレージや自宅PCにただちにバックアップを取る
書面・メール・チャットの保存
- LINEやメールで「申請しないように」と言われた場合は、スクリーンショットを撮って外部に保存する
- 紙の書類(念書・誓約書への署名を求められた場合)はスキャンまたは撮影して保管する
記録メモの作成
- 口止めを受けた日時・場所・相手の氏名・発言内容を、できる限り詳細にメモする
- メモはその日のうちに作成し、日付を記録する(後日の改ざんを疑われないため)
【優先度★★】3日以内:事故の状況を記録する
事故発生の状況も、できる限り早く記録します。
- 事故現場の写真・動画を撮影する(立入り制限がかかる前に)
- 目撃者の氏名・連絡先を控えておく(同僚が協力してくれる場合のみ、無理強いは禁物)
- 事故当日の業務記録・作業指示書・シフト表などを手元にコピーしておく
- 自分の雇用契約書・就業規則のコピーも確保する
【優先度★】1週間以内:相談先に連絡する
証拠が揃ったら、以下の相談先に連絡してください。費用は基本的に無料です。
| 相談先 | 特徴 | 連絡先 |
|---|---|---|
| 労働基準監督署 | 告発・申告の受理窓口、調査権あり | 管轄の労基署に電話または来署 |
| 総合労働相談コーナー | 厚生労働省設置、相談無料 | 都道府県労働局内 |
| 労働組合(合同労組) | 交渉の代行・サポート | ユニオンに申込み |
| 弁護士・法テラス | 刑事告訴・訴訟対応 | 法テラス:0570-078374 |
労基署への告発手順|申告から調査完了まで
労働基準監督署への申告(告発)は、労災隠しを是正する最も直接的な方法です。
STEP 1:管轄の労基署を確認する
申告先は事業場(勤務先)の所在地を管轄する労働基準監督署です。厚生労働省の公式サイトまたは電話帳で検索してください。
STEP 2:申告書類を準備する
労基署への申告に必要な書類は以下のとおりです。
必須書類
– 申告書(労基署の窓口でもらえる、または持参した文書でも可)
– 事故の経緯を記載したメモ(日時・場所・状況・怪我の内容)
– 診断書のコピー
あれば有利な書類
– 録音データ(音声ファイルをUSBメモリ等に入れて持参)
– 口止めのメール・チャットのスクリーンショット(印刷して持参)
– 事故現場の写真・動画
– 目撃者情報
STEP 3:申告書を提出する
窓口に出向いて申告します。申告者の名前は原則として会社に開示されません(労基法第105条)。匿名での申告も可能ですが、調査の進展に限界が生じる場合があるため、実名申告が推奨されます。
提出時に「口止め行為があった事実」と「労災申請を阻止されている事実」を明確に伝えてください。
STEP 4:調査・是正勧告
申告を受けた労基署は、事業場への立入調査・帳簿確認・関係者ヒアリングを実施します。是正が必要と判断された場合は是正勧告書が発行されます。悪質なケースでは送検(刑事手続き)に至ります。
重要: 申告後に会社から報復行為(降格・解雇・嫌がらせ)を受けた場合は、それ自体が新たな違法行為(不利益取扱い)になります。すぐに労基署または弁護士に報告してください。
刑事告訴の手順|脅迫・強要があった場合
口止めが脅迫・強要のレベルに達している場合は、警察署または検察庁への刑事告訴が有効です。
刑事告訴に必要なもの
- 告訴状(弁護士に作成を依頼するか、自分で作成する)
- 証拠一式(録音・メール・診断書・事故記録のコピー)
- 身分証明書
告訴状の提出先
- 被疑者の居所または犯罪地を管轄する警察署の刑事課
- または検察庁(検察に直接提出することも可能)
告訴状の基本構成
告訴状には以下の内容を記載します。
1. 告訴人の氏名・住所・連絡先
2. 被告訴人(会社・担当者)の氏名・住所
3. 告訴の趣旨(何の罪で告訴するか)
4. 告訴の理由(具体的な事実経緯)
5. 証拠の概要
6. 年月日・署名押印
弁護士への依頼を強く推奨します: 刑事告訴状は法的な要件を満たして作成する必要があります。法テラス(0570-078374)に相談すれば、費用が払えない場合でも弁護士を紹介してもらえます。
労災申請は自分でできる|会社の同意は不要
重要なことをお伝えします。労災申請に会社の同意は必要ありません。
労災保険の給付申請(療養補償給付・休業補償給付など)は、被災労働者が自分で書類を作成し、労基署に提出できます。会社が申請書に押印しない場合でも、その旨を労基署に申告すれば労基署が職権で調査してくれます。
労災申請の基本フロー
① 労基署で申請用紙(様式第5号など)を入手
② 必要事項を記入(事故状況・医療機関・怪我の内容)
③ 会社欄の記入を会社に依頼
└ 会社が拒否した場合→「会社が記載を拒否した」旨を記入して提出
④ 医療機関に診断書・療養費明細を依頼
⑤ 管轄の労基署に申請書を提出
不利益取扱いを受けた場合の対応
申告後に会社から報復的な対応をされた場合、以下の対応を取ってください。
- 記録を続ける: 報復行為の日時・内容・相手・言葉をすべてメモし、録音も継続する
- 労基署に追加申告: 報復行為は労基法第104条第2項違反であり、別途申告できる
- 労働審判の申立て: 解雇・降格などの人事措置には、労働審判(地方裁判所)で対抗できる
- 弁護士に相談: 損害賠償請求(慰謝料・逸失利益)も視野に入れる
よくある質問(FAQ)
Q1. 会社から「示談金を払うから申請しないで」と言われました。応じるべきですか?
応じてはいけません。 示談と引き換えに労災申請を断念することは、あなたの権利を永続的に失うことを意味します。示談金は一時的なものですが、労災認定を受ければ長期の療養補償・休業補償・後遺障害補償を受け取る権利が生じます。示談の話が出た場合は、必ず弁護士に相談してから判断してください。
Q2. 録音は証拠として使えますか?違法ではありませんか?
使えます。 自分が会話の当事者である場合、相手の同意なく録音しても違法にはなりません。録音データは労基署への申告でも、刑事告訴でも有力な証拠になります。録音後はすぐにクラウドやPCにバックアップを取ってください。
Q3. 申告したら解雇されるのではないかと不安です。
解雇は違法です。 労基法第104条第2項は、申告を理由とした不利益取扱いを明確に禁止しています。解雇された場合は解雇無効を主張できますし、損害賠償請求も可能です。不安な場合は申告前に弁護士や合同労組に相談し、サポートを受けながら進めてください。
Q4. 事故から時間が経ってしまいました。今から申告できますか?
申告はできますが、早いほど有利です。 労災申請の時効は療養補償給付で2年、障害補償・遺族補償で5年です。ただし、証拠は時間とともに失われます。迷っている時間はありません。今すぐ診断書の取得と証拠保全から始めてください。
Q5. 労基署に申告したのに動いてもらえない場合はどうすればよいですか?
上位機関への申告または弁護士を通じた対応に切り替えてください。 労基署が動かない場合、都道府県労働局の「個別労働紛争解決制度」を利用する、または弁護士を通じて刑事告訴状を警察・検察に提出する方法があります。あきらめずに複数のルートを使うことが重要です。
まとめ:今日からできるアクションリスト
| 優先度 | 行動 | タイミング |
|---|---|---|
| ★★★ | 会社と無関係の医療機関を受診し、業務上の事故として診断書を取得する | 当日 |
| ★★★ | 口止めの会話を録音し、メール・チャットをスクリーンショット保存する | 当日 |
| ★★★ | 事故状況のメモを作成し、写真・動画を確保する | 当日〜翌日 |
| ★★ | 法テラスまたは弁護士・合同労組に相談する | 3日以内 |
| ★★ | 管轄の労基署に告発申告書を提出する | 1週間以内 |
| ★ | 脅迫・強要があった場合は刑事告訴状を作成して警察に提出する | 弁護士と相談のうえ |
あなたが口止めを受けているとき、会社はあなたの権利を侵害しています。 一人で抱え込まず、今すぐ医療機関・労基署・弁護士に連絡してください。動けば必ず道は開けます。
本記事は一般的な法令解釈に基づいて作成されています。個別の事案については、弁護士または社会保険労務士等の専門家に相談されることをお勧めします。
よくある質問(FAQ)
Q. 会社から労災申請をしないよう口止めされました。従わないと違法ですか?
A. いいえ、従う必要はありません。むしろ会社の口止め行為が違法です。労働基準法違反、脅迫罪など複数の犯罪に該当する可能性があります。
Q. 口止めされたことを証拠として記録する場合、秘密録音は法律違反になりませんか?
A. なりません。自分が当事者である会話の秘密録音は合法です。スマートフォンで録音後、クラウドやPCにバックアップして保管してください。
Q. 労災隠しで会社を告発する場合、どこに連絡すればよいですか?
A. 所轄の労働基準監督署に申告するのが最初の手段です。違法性が高い場合は警察への刑事告訴も検討できます。弁護士相談も有効です。
Q. 怪我をした直後、会社指定の医療機関に行くように言われました。従うべきですか?
A. できれば従わない方が無難です。会社と関係のない医療機関を受診し、診断書に「業務上の事故」と記載してもらいましょう。
Q. 労災申請を拒否される場合、労働者は補償を受け取れませんか?
A. 受け取れます。労災保険給付請求権は労働者固有の権利で、会社は妨害できません。会社の反対があっても労基署に申告・請求可能です。

