暴力パワハラの対応|傷害罪・警察届出の完全ガイド

暴力パワハラの対応|傷害罪・警察届出の完全ガイド パワーハラスメント

この記事を読むとわかること
1. 暴力パワハラ被害直後に「いつ・どこへ」警察へ届け出るべきか
2. 診断書・写真・録音など「証拠の種類と集め方」の具体的手順
3. 慰謝料・労災申請を含む「刑事・民事両面での賠償相場と請求方法」

職場で上司や同僚から殴られた、物を投げつけられた──こうした行為は「指導の範囲」でも「仕事上のこと」でもなく、刑事事件として警察が動ける犯罪行為です。多くの被害者が「大げさかもしれない」「会社のことだから」と一人で抱え込みますが、放置すれば被害は繰り返され、証拠も失われます。

この記事では、被害直後から刑事告訴・民事賠償請求まで、実際に動ける手順を時系列で解説します。


暴力パワハラが該当する法律と刑事罰

まず「職場の問題」ではなく「刑事事件」であることを確認しましょう。暴力行為は以下の刑罰法令に直接抵触します。

法律・条文 内容 主な適用場面 法定刑
刑法208条(暴行罪) 暴行を加えたが傷害を負わせなかった場合 突き飛ばす・頭を叩くなど 2年以下の懲役または30万円以下の罰金
刑法204条(傷害罪) 暴行により身体を傷つけた場合 殴って怪我を負わせる 15年以下の懲役または50万円以下の罰金
刑法261条(器物損壊罪) 他人の物を壊した場合 被害者の机・PC・私物を破壊 3年以下の懲役または30万円以下の罰金
刑法222条(脅迫罪) 生命・身体に危害を加える旨を告知 「やめたら殺す」など 2年以下の懲役または30万円以下の罰金
民法709条・715条(不法行為・使用者責任) 損害賠償義務 加害者個人+会社への慰謝料請求
労働安全衛生法(安全配慮義務違反) 使用者が安全な職場を提供する義務 会社への損害賠償・労災申請

⚠️ 重要:傷害罪は「親告罪ではない」
傷害罪・暴行罪は被害者の告訴がなくても警察が捜査できます。ただし、告訴状を提出することで捜査の優先度が上がり、被害者の意思が明確に記録されます。


被害直後にやるべき5つのステップ

ステップ1|その場を離れ、身の安全を確保する(最優先)

二次被害を防ぐため、まず加害者から距離を置くことが最優先です。

□ その場を離れ、別室・社外に移動する
□ 同僚・他の管理職に状況を伝える(目撃者を確保する意味もある)
□ 継続的な危険がある場合は当日の帰宅・休職を判断する
□ 緊急性が高い場合は迷わず110番通報する

110番すべき状況の目安:

状況 推奨行動
骨折・出血・意識障害など重傷 即時110番+119番
打撲・あざなど軽~中程度の怪我 医療機関受診後、警察に届出
怪我はないが暴行を受けた 警察に被害届を提出(暴行罪として立件可能)
物を壊された 証拠写真を撮影後、警察に届出(器物損壊)

ステップ2|48時間以内に医療機関を受診し「診断書」を取得する

診断書は刑事・民事の両方で最重要の証拠です。時間が経つと傷の状態が変化し、暴力との因果関係が証明しにくくなります。受傷当日か翌日までの受診が原則です。

□ 病院・クリニックを受診する(外科・整形外科・救急が適切)
□ 医師に暴力の経緯を正確に伝える(誰に・どのように・いつ)
□ 診断書に「業務上の暴力による受傷」の旨を記載してもらう
□ 診断書は2~3枚取得する(警察用・労基署用・会社用)
□ 傷の写真を日付入りで複数角度から撮影する(スマートフォン可)

💡 診断書取得のポイント
医師に「警察への届出に使用する予定」と伝えると、傷の部位・大きさ・程度を詳細に記載してもらいやすくなります。また、初診で取得した診断書の内容は後から変更が難しいため、「いつ・どこで・誰に・何をされたか」を受診前にメモしておきましょう。


ステップ3|証拠を収集・保全する

証拠は「多ければ多いほど」有利です。以下のチェックリストを使って、思い出せるものをすべて記録・保存してください。

✅ 証拠チェックリスト

【物的証拠】

□ 怪我の写真(日時・角度・複数枚)
□ 壊された物の写真(器物損壊の場合)
□ 血痕・破損物など現場の写真
□ 衣服の破損・汚れ(洗わずに保管)

【書面・デジタル証拠】

□ 診断書(原本を保管・コピーを提出用に使用)
□ 加害者からのメール・チャットの脅迫的なメッセージ
□ 業務日誌・手帳(暴力があった日の記録)
□ 会社への報告メール(送信した場合)
□ SNSのメッセージ・やりとり

【録音・録画】

□ 暴力現場の録音・録画(スマートフォンのボイスメモ等)
□ 暴力後に加害者が発した言葉の録音
□ 職場の防犯カメラ映像(保存期間が短いため早急に保全申請を)

⚠️ 防犯カメラ映像の保全は急いで行動する
職場や共用部の防犯カメラ映像は、上書きされると永久に失われます。会社のほか、近隣の店舗やビルの防犯カメラも対象になり得ます。警察に被害届を提出すると、警察が会社に対して映像の提供を求めることができます。

【目撃者情報】

□ 現場を見ていた同僚の名前・連絡先(任意で話を聞いてもらう)
□ 証言してくれる意思があるかを穏やかに確認する
□ 証言を録音・メモとして記録しておく

ステップ4|会社(人事・コンプライアンス窓口)に報告する

警察への届出と並行して、会社への報告も重要です。会社が適切な対応を取らなかった場合、後の使用者責任追及の根拠になります。

□ 人事部・コンプライアンス窓口・ハラスメント相談窓口に報告する
□ 報告は「メール」で行い、送信記録を残す(口頭だけでは記録が残らない)
□ 報告メールには日時・場所・行為の内容・証人の有無を明記する
□ 会社の対応(または無対応)の内容をメモしておく

💡 会社が握りつぶそうとする場合
会社が「内部で解決する」「大げさにするな」と圧力をかけてきても、被害者は警察への届出を拒否される権利はありません。並行して外部機関(後述)に相談してください。


ステップ5|警察に被害届または告訴状を提出する

被害届と告訴状の違い

種類 内容 特徴
被害届 犯罪被害を警察に申告する書面 受理義務あり・捜査は警察の裁量
告訴状 犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示 受理されると検察官への送致義務が生じる

初めての場合は「被害届の提出」から始め、告訴状は弁護士と作成することを推奨します。

警察への届出手順

① 管轄の警察署(犯罪が発生した場所を管轄する署)に出向く
② 「被害届を提出したい」と受付で申し出る
③ 担当者(生活安全課・刑事課)に案内してもらう
④ 以下の資料を持参する:
   - 診断書(写し)
   - 傷の写真
   - 経緯のメモ(日時・場所・行為の内容)
   - 目撃者情報(あれば)
⑤ 被害届を記入・提出し、受理番号を確認する
⑥ 担当刑事の名前・連絡先を確認しておく

⚠️ 被害届が受理されない場合の対処法
警察が「民事でやってくれ」などと受理を渋る場合があります。その際は「告訴・告発の受理に関する規則(犯罪捜査規範第63条)」に基づき受理する義務があると伝えるか、弁護士を通じて告訴状として提出する方法が有効です。都道府県警察の本部(首席監察官室)への申し入れも可能です。


告訴状の作成と提出手順

告訴状は刑事手続きを正式に動かす最も強力な手段です。受理されると検察官への送致義務が生じ、捜査が実質的に進みます。

告訴状に記載すべき事項

1. 告訴人の氏名・住所・連絡先
2. 被告訴人(加害者)の氏名・住所・職業
3. 告訴の趣旨(処罰を求める旨)
4. 犯罪事実(日時・場所・行為の詳細)
5. 適用法条(例:刑法204条傷害罪)
6. 証拠の一覧
7. 告訴年月日・署名・押印

💡 告訴状は弁護士に作成を依頼するのがベスト
告訴状は法的文書であり、記載内容の不備が捜査に影響することがあります。法テラス(0570-078374)に連絡すれば、資力に応じて弁護士費用の立替制度を利用できます。初回相談が無料の弁護士事務所も多いため、まず相談からはじめましょう。


会社への懲戒処分請求と民事賠償請求

刑事告訴と並行して、会社および加害者に対する民事上の責任追及も行えます。

会社に求められる対応

請求内容 根拠 内容
加害者への懲戒処分 就業規則・パワハラ防止法 降格・減給・出勤停止・懲戒解雇
配置転換・異動 安全配慮義務(労安法) 被害者と加害者を引き離す措置
損害賠償(会社) 民法715条(使用者責任) 治療費・休業損害・慰謝料
損害賠償(加害者個人) 民法709条(不法行為) 同上

慰謝料・損害賠償の相場

損害の種類 相場の目安
治療費 実費全額(診断書・領収書で立証)
休業損害 休業期間 × 日額賃金
慰謝料(軽症) 50万~150万円程度
慰謝料(重傷・後遺症あり) 150万~500万円以上(事案による)
器物損壊の賠償 損壊物の時価相当額

⚠️ 慰謝料の相場は事案によって大きく異なります
上記はあくまで参考値です。具体的な金額は弁護士に相談して見積もりを取ることを強くお勧めします。

労災申請も忘れずに

暴力パワハラによる怪我・精神疾患は業務上の災害として労災認定を受けられます。

□ 所轄の労働基準監督署に「療養補償給付の請求書(様式第5号)」を提出
□ 診断書・業務との関連を示す資料を添付
□ 労災認定されると治療費・休業補償が給付される
□ 会社が労災申請に協力しない場合でも、被害者単独で申請可能

相談窓口一覧

一人で抱え込まず、必ず専門機関に相談してください。

機関名 連絡先 対応内容
警察相談専用電話 #9110 警察への届出前の相談
法テラス(日本司法支援センター) 0570-078374 弁護士費用の立替・紹介
総合労働相談コーナー 各都道府県労働局内(全国379か所) パワハラ・労働問題の総合相談
労働基準監督署 各地の監督署 労災申請・法令違反の申告
都道府県労働局 雇用環境・均等部 各都道府県労働局 パワハラ相談・紛争解決援助
よりそいホットライン 0120-279-338(24時間) 暴力被害・精神的な苦しさの相談
配偶者暴力相談支援センター 各都道府県 DVと重なる場合の相談

よくある質問(FAQ)

Q1. 暴力を受けた直後に警察に行くべきですか?それとも会社に先に報告すべきですか?

A. 重傷の場合は医療機関受診→警察の順で動いてください。軽傷・物損の場合も、証拠が消えないうちに警察への届出を優先することを推奨します。会社への報告は並行して行えますが、「会社に先に報告してから」と考えて時間をかけると証拠が失われるリスクがあります。医療機関の受診は48時間以内が鉄則です。


Q2. 「大げさだ」「仕事上のことだから」と周囲に言われます。それでも警察に届け出ていいですか?

A. もちろんです。職場での暴力は「仕事上のこと」ではなく刑事事件です。傷害罪・暴行罪は職場内外を問わず適用されます。周囲の言葉に左右されず、専門家(弁護士・警察・法テラス)に相談してください。


Q3. 証拠がほとんどない場合、届出しても意味がありませんか?

A. 証拠が少なくても届出の意味はあります。①被害届の記録が残る、②その後に証拠が出てきた際の起点になる、③複数回被害がある場合の蓄積になる、という効果があります。また、診断書は今からでも取得できます。目撃者の証言も証拠になります。「証拠が足りない」と自己判断せず、まず警察や弁護士に相談しましょう。


Q4. 告訴状を提出しても、加害者が逮捕されるとは限らないのですか?

A. その通りです。告訴状の受理は「捜査義務の発生」を意味しますが、逮捕・起訴は証拠の内容・逃亡リスク・証拠隠滅のおそれなど複数の要因で判断されます。一方、告訴状の受理は検察への送致義務を生じさせるため、被害届よりも刑事手続きを前進させる効果があります。


Q5. 会社を辞めた後でも刑事告訴・損害賠償請求はできますか?

A. できます。刑事告訴は被害者が在職中か否かを問いません。民事の損害賠償請求は不法行為を知った時から3年(民法724条)、または損害発生から20年以内であれば提起可能です。退職後でも証拠さえあれば請求できるため、今すぐ証拠を保全しておくことが重要です。


まとめ|今日からできる行動チェックリスト

【今日・明日中にやること】
□ ステップ1: 身の安全を確保し、加害者から距離を置く
□ ステップ2: 医療機関を受診し、診断書を取得する(48時間以内)
□ ステップ3: 怪我・現場の写真を日付入りで撮影・保存する
□ ステップ4: 被害の経緯を時系列でメモに残す

【今週中にやること】
□ ステップ5: 防犯カメラ映像の保全を申請する(上書きされる前に)
□ ステップ6: 会社のハラスメント窓口または人事部にメールで報告する
□ ステップ7: 法テラスまたは弁護士に無料相談を申し込む

【状況に応じて進める】
□ 警察に被害届を提出する(#9110で相談から始めてもOK)
□ 弁護士と告訴状を作成・提出する
□ 労働基準監督署に労災申請を行う
□ 民事損害賠償請求を弁護士と検討する

最後に:あなたが受けた暴力は、あなたの責任ではありません

「また怒らせてしまった」「自分の対応が悪かった」と自分を責める必要はまったくありません。職場での暴力は犯罪です。一人で解決しようとせず、法テラス(0570-078374)や警察相談窓口(#9110)に今すぐ連絡してください。あなたの権利を守るための制度が必ず存在しています。

よくある質問(FAQ)

Q. 職場で殴られた場合、すぐに警察に通報すべきですか?
A. はい、暴力は刑事事件です。重傷なら即110番、軽傷でも医療機関受診後に警察に被害届を提出してください。証拠保全のため48時間以内の対応が重要です。

Q. 暴力パワハラで取得すべき診断書は何枚必要ですか?
A. 2~3枚の取得をお勧めします。警察用・労基署用・会社用などで使い分けられ、複数部取得すれば後から追加申請の手間が省けます。

Q. 暴力パワハラは何罪に問われますか?
A. 怪我がなければ暴行罪(刑法208条)、怪我があれば傷害罪(刑法204条)です。15年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

Q. 会社にも慰謝料を請求できますか?
A. はい、民法715条の使用者責任で加害者だけでなく会社にも請求可能です。さらに労災申請と並行して進めることで、より高額な賠償を得られます。

Q. 証拠写真はいつまでに撮影すべきですか?
A. 受傷直後~48時間以内の撮影が最適です。時間経過で傷の状態が変化し、暴力との因果関係が証明しにくくなるため、できるだけ早い撮影が重要です。

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