試用期間中に「適性なし」と告げられ、給与も払われないまま突然解雇された——そんな理不尽な状況に今まさに直面しているなら、まずこれだけは知っておいてください。あなたには法律上の権利があり、会社は給与を支払う義務を負っています。
試用期間は「お試し」期間ではなく、労働契約が正式に成立している期間です。その間に働いた分の給与が支払われないのは重大な法律違反であり、解雇の方法によっては別途「解雇予告手当」も請求できます。
この記事では、未払い給与の請求方法・試用期間中の解雇が違法になる条件・労働基準監督署(労基署)への申告手順を、今すぐ行動できる形で解説します。難しい法律用語も噛み砕いて説明しますので、最後まで読んで自分のケースに当てはめてみてください。
試用期間中でも給与は必ず支払われる——会社の「支払い義務」を理解する
| 項目 | 試用期間中 | 正社員期間 |
|---|---|---|
| 給与支払い義務 | あり(必須) | あり(必須) |
| 最低賃金適用 | 適用される | 適用される |
| 解雇制限 | 30日前予告または手当が必要 | 30日前予告または手当が必要 |
| 解雇の正当事由 | 適性判定の名目でも「合理性」が必須 | 客観的に合理的理由が必須 |
| 未払い給与請求権 | 2年以内なら請求可能 | 2年以内なら請求可能 |
「試用中は無給でいい」は完全な誤りである
会社側が「まだ試用期間だから給与は出ない」「仮採用中だから待遇は後で決める」といった説明をすることがあります。しかしこれは労働基準法に明確に違反する、誤った主張です。
労働基準法第24条第1項は、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めています。さらに同条は「毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」とも規定しています。これが「全額払いの原則」と「定期払いの原則」です。
この条文には「正社員に限る」「試用期間を除く」といった例外は存在しません。試用期間中であっても、労働契約が締結されて実際に働いている以上、給与を受け取る権利は完全に保障されています。
違反した場合の罰則も明確で、労働基準法第119条は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」を規定しています。これは会社として刑事罰を受けうる重大な違法行為です。
試用期間の法的な性質を正しく把握する
試用期間とは、会社が採用した労働者の適性・能力・勤務態度などを観察・評価するための期間です。しかし法的には「雇用契約が成立していない仮の状態」ではなく、「解約権留保付き労働契約」として雇用契約はすでに成立しています。
つまり試用期間の初日から、労働者は会社に対して賃金を請求する権利(賃金請求権)を持っています。働いた時間や日数に応じた給与を受け取ることは権利であり、会社の好意でも特別な取り決めでもありません。
今すぐできるアクション①
雇用契約書や労働条件通知書を確認し、月給または時給の金額・支払日を確認してください。書面がない場合は、採用時の口頭説明・メール・LINEなど、金額について言及されたやり取りをすべてスクリーンショットで保存してください。
未払い給与の時効は3年——急いで動く理由
賃金請求権には時効があります。2020年4月以降に採用された場合の時効は3年です(民法改正による。それ以前の採用は2年)。
3年という猶予があるとはいえ、証拠は時間が経つにつれて失われます。タイムカードの記録が消える、メールが削除される、会社の担当者が変わるといったリスクを考えると、気づいた時点で即座に動くことが最善策です。
試用期間中の解雇が「違法」になる条件——「適性なし」という理由は免罪符ではない
最高裁判例が示す「試用期間解雇の壁」
「試用期間中だから自由に解雇できる」という認識は、法的に誤っています。この点を明確にした最重要判例が三菱樹脂事件(最高裁大法廷昭和48年12月12日判決)です。
この判決は、試用期間中の解雇について次の原則を確立しました。
「留保解約権の行使は、…採用決定の当初からその者を雇用しておくことが適当でないと判断されるような事実が認められる場合に限って許される」
要するに、「普通の解雇」よりはやや広い裁量が認められるものの、どんな理由でも解雇していいわけではないというのが判例の立場です。「適性なし」と会社が言うだけでは不十分であり、その判断を客観的・合理的に裏付ける具体的な事実が必要です。
「解雇権の濫用」に当たる典型パターン
労働契約法第16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。これが解雇権濫用法理です。
試用期間中の「適性なし」解雇が違法(解雇権濫用)と判断されやすいのは、以下のようなケースです。
指導・改善機会を与えなかった場合
業務上の課題があったとしても、会社が具体的な指導をせず、改善の機会も与えないまま突然解雇するのは、解雇権の濫用とみなされる可能性が高いです。
評価根拠が主観的・曖昧な場合
「なんとなく合わない」「雰囲気が違う」「態度が気に入らない」といった主観的理由は、客観的合理性を欠きます。遅刻回数・業務ミスの内容・具体的な問題行動など、客観的事実に基づいていなければなりません。
試用期間が不当に短すぎる場合
試用期間の長さに法律上の上限規定はありませんが、採用後数日~1週間程度で「適性なし」と判断するのは、合理的な適性評価ができた期間とはいえず、違法と判断されやすくなります。
本当の解雇理由が別にある場合
「適性なし」は表向きの理由で、実際には組合活動・妊娠・国籍・信条など、法律が禁止する理由による差別的解雇であれば、解雇は明確に違法です。
今すぐできるアクション②
会社から「なぜ解雇するのか」の具体的な説明を書面で求めてください。これを解雇理由証明書と呼び、労働基準法第22条により、会社には発行義務があります。「口頭で十分」と言われても、「書面でください」と繰り返し求め、そのやり取りをメモや録音で記録してください。
解雇の「手続き的な違法性」も見逃さない
解雇の理由だけでなく、解雇の手続きにも厳格な法的要件があります。
労働基準法第20条は、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない」と定めています。30日前の予告ができない場合、会社は30日分以上の平均賃金を「解雇予告手当」として支払わなければなりません。
ただし、試用期間に関して一点注意が必要です。試用開始から14日以内の解雇であれば、解雇予告・解雇予告手当は不要と定められています(労働基準法第21条)。しかし14日を超えた試用期間中の解雇には、この規定は適用されず、解雇予告手当が必要です。
【解雇予告手当の計算例】
月給25万円の場合:
平均賃金 = 250,000円 ÷ 30日 ≒ 8,333円/日
解雇予告手当 = 8,333円 × 30日 ≒ 249,990円(約25万円)
未払い給与と合算すると請求額は相当な金額になります。
証拠収集の完全チェックリスト——これだけ揃えれば戦える
請求や申告を成功させる最大の鍵は証拠です。「言った・言わない」の水掛け論を防ぐために、以下を網羅的に収集・保存してください。
雇用関係を証明する証拠
- 雇用契約書または労働条件通知書(給与額・試用期間の定め・支払日が記載されたもの)
- 採用通知書・内定通知書(メールでも可)
- 就業規則(会社から交付されている場合)
- 給与明細(支給された月がある場合)
- 社員証・名刺・制服の写真(雇用関係の存在を示す間接証拠)
実際に働いた事実を証明する証拠
- タイムカードの記録(スマートフォンで写真撮影またはスクリーンショット)
- 業務で使用したメール・チャット(Slack、LINE等)のやり取り(業務指示・報告が記録されたもの)
- シフト表・勤務スケジュール(PDFや画像として保存)
- 自分で作成した業務日報・議事録
解雇に関する証拠
- 解雇通知書または解雇理由証明書(書面があれば必ずコピーを保存)
- 口頭解雇の場合:解雇を告げられた日時・場所・発言内容のメモ(その場で録音できれば最善)
- 「適性なし」と判断した根拠として会社が提示した内容
今すぐできるアクション③
会社のシステムにアクセスできるうちに、タイムカード・業務メール・チャット履歴を今すぐ保存してください。解雇後はシステムへのアクセスを切られることが多く、後から取得できなくなります。
未払い給与の請求手順——会社への直接請求から法的手続きまで
ステップ1:会社への内容証明郵便による請求
まず会社に対して、内容証明郵便で未払い給与と解雇予告手当の支払いを請求します。内容証明郵便は「いつ・どんな内容の書類を送ったか」を郵便局が証明するもので、後の法的手続きで重要な証拠になります。
内容証明に記載すべき事項
1. 雇用期間(いつからいつまで働いたか)
2. 未払い給与の金額と計算根拠
(月給○円 × ○ヶ月分 + 日割り計算など)
3. 解雇予告手当の金額と計算根拠
(平均賃金○円 × 30日分)
4. 支払い期限(通常は到達後2週間以内を設定)
5. 振込先口座情報
6. 支払いがない場合は法的手続きを取る旨
内容証明郵便は全国の郵便局で作成できます。書き方がわからない場合は、後述する相談機関(労働基準監督署・法テラスなど)で支援を受けることができます。
ステップ2:労働基準監督署への申告
会社が応じない場合や、まず公的機関に動いてほしい場合は、労働基準監督署(労基署)への申告が効果的です。
申告できる内容
– 給与未払い(労働基準法第24条違反)
– 解雇予告手当の未払い(労働基準法第20条違反)
– 解雇理由証明書の不交付(労働基準法第22条違反)
申告の流れ
1. 最寄りの労働基準監督署に電話または窓口で相談
→ 「申告したい」と明確に伝える
(「相談」では調査が始まらない場合があります)
2. 申告書を作成・提出
(窓口で記入用紙を渡してもらえます)
3. 労基署が会社に対して調査・是正勧告
→ 会社は指導に従う義務があります
4. 悪質な場合は送検(刑事事件化)
申告は無料で行えます。また労基署への申告を理由に会社が報復的な行為をした場合、それ自体が労働基準法第104条第2項違反(申告者への不利益取り扱いの禁止)となります。
今すぐできるアクション④
「労働基準監督署 ○○(お住まいの市区町村)」で検索し、最寄りの労基署の電話番号を調べてください。平日の昼間に電話して「給与未払いと解雇について申告したい」と伝えれば、具体的な案内を受けられます。
ステップ3:労働審判・少額訴訟
労基署の対応が遅い、または民事的な解決(お金の回収)を急ぎたい場合は、裁判所を活用する方法があります。
労働審判
地方裁判所に申し立てる手続きで、原則として3回以内の期日で解決します(通常2〜3ヶ月)。弁護士なしでも申し立て可能ですが、弁護士・社会保険労務士のサポートがあると心強いです。
少額訴訟
請求額が60万円以下の場合に利用できる簡易裁判所の手続きで、原則として1回の審理で終了します。弁護士なしで本人申立てが一般的で、費用は数千円程度です。
仮処分(賃金仮払い)
生活に困窮している場合、裁判所に「緊急の賃金仮払い仮処分」を申し立てることで、本訴の前に給与の一部を受け取れる可能性があります。
労基署への申告で押さえておくべき実務ポイント
申告前に準備するもの
労基署に持参・提示すると申告がスムーズに進む書類をリストアップします。
| 書類・資料 | 目的 |
|---|---|
| 雇用契約書・労働条件通知書 | 雇用関係と給与額の証明 |
| タイムカードのコピー・写真 | 就業実態の証明 |
| 解雇通知書 | 解雇の事実と日付の証明 |
| 給与明細(あれば) | 一部支払いの確認 |
| 会社とのメール・LINE履歴 | 雇用関係・解雇理由の補強 |
| 解雇理由証明書(入手できていれば) | 解雇理由の確認 |
| 自分で計算した未払い給与の一覧表 | 請求内容の明確化 |
申告時の効果的な伝え方
労基署の担当者に対しては、事実を時系列で簡潔に説明することが重要です。
【説明の骨格】
「私は○年○月○日から○○会社で試用期間中の社員として採用され、
○年○月○日に口頭(または書面)で解雇されました。
○月分と○月分の給与(合計○円)が支払われておらず、
解雇予告も30日前になされなかったため、
解雇予告手当(○円)も請求できると考えています。
労基法24条・20条違反として申告したいと思います。」
「相談」ではなく「申告」という言葉を明確に使うことが大切です。「相談」扱いになると、労基署は指導権限を積極的に使わない場合があります。
申告後の注意事項
- 労基署の調査結果や是正勧告の内容は、申告者に通知されない場合があります。進捗が気になる場合は定期的に問い合わせましょう。
- 労基署は刑事罰の問題を扱う機関であり、未払い給与の直接回収(民事上の債権回収)は行いません。お金を取り戻すためには、民事手続き(労働審判・訴訟等)が別途必要です。
- 労基署申告と並行して、弁護士・社会保険労務士への相談も検討してください。
相談先・支援機関の一覧——一人で抱え込まないために
| 機関名 | 費用 | 対応内容 | 連絡先 |
|---|---|---|---|
| 労働基準監督署 | 無料 | 給与未払い・解雇予告手当の申告・是正勧告 | 各都道府県に設置。「労基署」+地名で検索 |
| 総合労働相談コーナー | 無料 | あっせん・相談対応 | ハローワーク内に設置 |
| 法テラス(日本司法支援センター) | 条件次第で無料 | 弁護士紹介・費用立替 | 0570-078374 |
| 弁護士会の労働問題相談窓口 | 有料(30分5,500円程度) | 法的アドバイス・代理交渉 | 各都道府県弁護士会 |
| 社会保険労務士(SR) | 有料 | 労基署申告代行・書類作成 | 都道府県社会保険労務士会 |
| 労働組合(合同労組・ユニオン) | 加入費あり(低額) | 団体交渉・会社への直接交渉 | 地域ユニオン・個人加盟労組 |
未払い賃金立替払制度も活用できる場合がある
会社が倒産・廃業した場合など、会社自体が支払い不能の状態にある場合は、未払い賃金立替払制度を利用できます。これは独立行政法人「労働者健康安全機構」が、未払い賃金の最大80%を立替払いする制度です(上限額あり)。
- 対象:労災保険適用事業の労働者
- 条件:法律上の倒産(破産・特別清算等)または「事実上の倒産」として労基署長が認定した場合
- 請求窓口:最寄りの労働基準監督署
解雇が無効となった場合——職場復帰か補償金か
試用期間中の解雇が違法・無効と判断された場合、法的には解雇なし・雇用継続の状態が認められます。これにより、以下の請求が可能になります。
バックペイ(解雇後の賃金)
解雇が無効なのに働けなかった期間の給与を、会社に対して請求できます。これを「バックペイ」または「解雇期間中の賃金」といい、解雇後の全期間分が対象になります。
慰謝料・損害賠償
解雇が違法であることによる精神的苦痛・生活への打撃については、慰謝料・損害賠償の請求も検討できます。金額は状況により異なりますが、弁護士に相談して判断することをお勧めします。
職場復帰
法的には復職を求めることができますが、実際には労働審判での和解金支払いによる解決が多いのが実態です。「職場に戻りたい」か「きちんとした補償を受けて関係を終わらせたい」かを自分の中で整理しておきましょう。
今すぐできるアクション⑤
解雇を受けた今の状況を、日付・時刻入りで詳細にメモしてください。誰から(役職・氏名)、どこで(場所)、何と言われたか(できるだけ正確な言葉で)を記録します。このメモが後の法的手続きで重要な証拠になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 試用期間中は雇用保険に加入していないと思うのですが、申告できますか?
試用期間中でも一定の労働時間があれば雇用保険への加入は義務です(週20時間以上・31日以上の雇用見込み)。ただし、雇用保険への加入有無に関わらず、給与未払いや不当解雇の申告は労働基準監督署に対して行えます。雇用保険未加入であること自体も法律違反として申告対象になりえます。
Q2. 雇用契約書を渡してもらっていません。この場合、請求は難しいですか?
雇用契約書がなくても、メール・LINE・シフト表・業務日報など、雇用関係の存在を示す証拠があれば請求は可能です。また、会社は労働基準法第15条により労働条件を明示する義務を負っており、書面を交付しなかった会社側に落ち度があります。むしろ書面を交付しなかった事実が、会社の違法性を強める要素になることがあります。
Q3. 解雇されたのは2週間前ですが、今からでも手続きできますか?
もちろんできます。前述の通り賃金請求権の時効は3年ですので、2週間前であれば十分に間に合います。ただし、証拠の保全(タイムカード・メール等)が急がれますので、今すぐ対応してください。
Q4. 「適性なし」と言われましたが、具体的な理由を教えてもらえません。どうすれば?
労働基準法第22条に基づき、解雇理由証明書の交付を書面で請求してください。会社はこれを拒否できません。拒否した場合は、その事実自体が労基署への申告理由になります。証明書に記載された理由が曖昧・主観的であれば、解雇権濫用の主張を強化する材料になります。
Q5. 少額訴訟と労働審判、どちらを選ぶべきですか?
請求額が60万円以下であれば少額訴訟が手軽ですが、会社が通常訴訟への移行を求めた場合は手続きが長引くリスクがあります。給与未払い+解雇予告手当の合計が60万円を超える場合や、解雇無効の主張も含む場合は労働審判が適しています。まず弁護士や法テラスに相談して、ケースに合った手続きを選ぶことをお勧めします。
Q6. 会社に請求したら報復されそうで怖いのですが。
労働基準法第104条第2項は、労基署への申告を理由とした不利益取り扱いを明確に禁止しています。すでに解雇されている場合は、報復手段は事実上限られますが、万一脅迫・嫌がらせがあった場合はすぐに記録して労基署・弁護士・警察に相談してください。一人で抱え込まないことが最も重要です。
まとめ——今日から始める3つのアクション
試用期間中の給与未払い解雇は、法律上は明確な違法行為です。「試用中だから仕方ない」「小さい会社相手に戦っても無駄」と諦める必要はありません。
今日中にやること
- 証拠を保全する:タイムカード・メール・チャット履歴・解雇通知書を今すぐ写真・スクショで保存する
- 解雇理由証明書を請求する:会社に書面で交付を求め、そのやり取りを記録する
- 労基署に電話する:「給与未払いと解雇について申告したい」と伝え、窓口相談の予約を取る
法律はあなたの側にあります。正しい手順を踏んで、受け取るべき給与を取り戻してください。一人では難しいと感じた場合は、法テラス(0570-078374)や地域の労働組合に連絡すれば、費用をかけずにサポートを受けることができます。

