パワハラで出勤停止を命じられたときの給与補償と不当性判断【労基法26条】

パワハラで出勤停止を命じられたときの給与補償と不当性判断【労基法26条】 パワーハラスメント

突然「明日から来なくていい」と告げられた——。パワハラを訴えたら逆に出勤停止になった——。このような状況に直面しているなら、まず知っておくべき重要な事実があります。

パワハラを理由にした出勤停止は、違法・無効である可能性が極めて高いのです。

この記事では、出勤停止の法的性質から給与補償の権利、不当性の判断基準、今すぐ取るべき具体的な行動まで、実務的な観点から解説します。


パワハラによる出勤停止とは?法的性質を理解する

出勤停止は懲戒処分の一種

出勤停止とは、使用者(会社)が労働者に対して「一定期間、職場への出勤を禁止する」懲戒処分の一形態です。

懲戒処分には段階があり、軽い順に以下のように分類されます。

懲戒の種類 内容 給与への影響
戒告・けん責 口頭または文書による注意 なし
減給 給与の一部をカット 上限規制あり(労基法91条)
出勤停止 一定期間の就労禁止 原則として補償義務あり
降格・降職 役職や職位の引き下げ あり
諭旨解雇・懲戒解雇 雇用契約の終了

出勤停止は懲戒処分の中でも解雇の手前に位置する重い処分です。だからこそ、その発動には厳格な手続きと法的根拠が必要になります。

📌 今すぐできるアクション

出勤停止を命じられたら、口頭でも書面でもその内容を即座にメモしてください。「いつ・誰から・どんな理由で・何日間」の出勤停止かを記録することが証拠保全の第一歩です。


パワハラが原因の出勤停止が違法になる理由

パワハラによる出勤停止が違法・不当になりやすい主な理由は以下の2点です。

① 報復行為の禁止(パワハラ防止法)

2020年6月に施行された「労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」第30条の2第2項では、パワハラの相談や申告を行った労働者に対して不利益な取り扱いをすることを禁止しています。

つまり、パワハラを訴えたことを理由に出勤停止を命じる行為は、法律に直接違反する報復行為に当たります。

② 同一事由による二重懲戒の禁止

法律上の大原則として「一つの行為に対して二度懲戒を科してはならない(一事不再理の原則)」があります。すでにパワハラを理由に何らかの対応が取られているにもかかわらず、再度同じ事由で出勤停止を科すことは、この原則に反する違法行為となります。


自宅待機・懲戒休職との違い

「出勤停止」「自宅待機」「懲戒休職」は混同されやすいですが、法的性質と給与補償の義務が異なります。

種類 法的性質 給与補償 主な目的
出勤停止(懲戒) 懲戒処分 平均賃金60%以上(労基法26条) 制裁
自宅待機(調査中) 業務命令 賃金全額(使用者都合) 調査・隔離
懲戒休職 懲戒処分 就業規則による(無給の場合も) 調査・制裁

会社が「自宅待機」と呼んでいても、実態が懲戒処分であれば出勤停止として扱われます。名称ではなく実態で判断することが重要です。

📌 今すぐできるアクション

会社から受け取った書類(通知書・メール等)に「自宅待機」「出勤停止」「休職」のどれが使われているか確認してください。名称によって請求できる給与補償の根拠が変わります。


出勤停止中の給与補償義務【労働基準法26条の適用】

労働基準法26条の要件:「責任のない事由」の判断

労働基準法26条は以下のように定めています。

「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」

ここで重要なのは「使用者の責に帰すべき事由」の解釈です。最高裁判所の解釈によれば、これは「使用者側の故意・過失に限らず、使用者の支配領域内の問題」を広く含みます。

パワハラを理由にした出勤停止のケースでは、以下のいずれかに該当する場合に労基法26条が適用される可能性が高くなります。

  • 会社がパワハラの申告を受けながら適切な調査をしなかった
  • 加害者の一方的な報告だけで出勤停止を決定した
  • 就業規則に根拠のない出勤停止を命じた
  • 報復目的で出勤停止を利用した

給与補償の計算方法:平均賃金の60%以上

給与補償の基準となる「平均賃金」は、以下の方法で計算します。

平均賃金の計算式

平均賃金 = 過去3ヶ月間の賃金総額 ÷ 過去3ヶ月間の総日数(暦日数)

実務的な計算例(月給30万円の場合)

計算項目 金額・日数
過去3ヶ月の賃金総額 90万円
過去3ヶ月の総暦日数 92日(例:4〜6月)
1日あたりの平均賃金 約9,782円
休業手当(60%) 約5,869円/日
出勤停止10日間の補償額 約58,696円

この金額が、会社が最低限支払わなければならない休業手当の額です。これを下回る場合、労働基準法違反となります。

📌 今すぐできるアクション

直近3ヶ月分の給与明細を取り出し、上記の計算式で自分の平均賃金と休業手当の最低額を計算しておいてください。会社への請求や労基署申告の際に必要になります。


完全給与カットは違法

出勤停止中に給与を一切支払わないことは、労働基準法26条に違反する違法行為です。

過去の裁判例においても、「懲戒としての出勤停止であっても、使用者の都合による休業に当たる部分については休業手当の支払いを免れない」とする判断が示されています(東京地裁平成21年判決等)。

また、労基法91条は減給の制裁について以下の上限を定めています。

「制裁規定の制限:1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」

つまり、完全給与カットはこの上限を大幅に超えるものであり、それ自体が違法です。


出勤停止中の有給休暇・賞与の扱い

有給休暇について

出勤停止中に有給休暇を取得したいと申し出ることは、理論的には可能です。ただし、懲戒処分としての出勤停止中に有給休暇を認めるかどうかは、就業規則の規定や会社の判断によります。

重要な点:会社が有給休暇を認めない場合でも、休業手当(平均賃金の60%以上)の支払い義務は消えません。

賞与について

出勤停止が査定期間中に発生した場合、出勤率や勤務評価に影響する可能性があります。ただし、不当な出勤停止を理由に賞与を大幅に減額することは、損害賠償請求の対象となり得ます

📌 今すぐできるアクション

会社の就業規則(特に「懲戒」「出勤停止」「休業手当」の項目)を確認してください。就業規則は労働者が請求すれば会社は開示する義務があります(労基法106条)。


出勤停止の不当性を判断する5つの基準

出勤停止が違法・不当かどうかは、以下の5つの観点から総合的に判断します。

就業規則への記載の有無

労働基準法91条は、懲戒処分は就業規則に定められた事由に基づかなければならないと定めています。

  • ✅ 就業規則に明記された事由に該当する → 形式的要件を満たす
  • ❌ 就業規則に記載がない、または該当しない → 無効

適正手続(デュープロセス)の有無

懲戒処分を下す前に、以下の手続きが行われていたかを確認してください。

  • [ ] 本人(被処分者)からの事情聴取が行われたか
  • [ ] 弁明の機会が与えられたか
  • [ ] 懲戒委員会等の公正な審査が実施されたか
  • [ ] 処分理由が書面で通知されたか

これらが欠如している場合、手続的瑕疵による無効を主張できます。


懲戒の相当性(比例原則)

処分の重さが「行為の悪質性・影響」と釣り合っているかが問われます。軽微な問題行動に対して出勤停止という重い処分を科した場合、相当性を欠くとして無効となり得ます。


報復行為に当たるかどうか

パワハラの申告・相談をした後に出勤停止が命じられた場合、報復行為として労働施策総合推進法違反に当たる可能性が高くなります。特に時系列(申告→出勤停止の間隔)が近い場合は、報復目的であることを疑うべきです。


二重懲戒の禁止

同一の事由(同じパワハラ行為)に対して、すでに別の懲戒処分(口頭注意、減給等)が科されていた場合、追加の出勤停止は二重懲戒として無効です。


証拠収集の実務:今すぐ始める記録術

必ず収集すべき証拠一覧

証拠の種類 収集方法 重要度
出勤停止通知書 原本を保管・写真撮影 ⭐⭐⭐
パワハラの記録(日時・場所・発言) メモ帳・ボイスレコーダー ⭐⭐⭐
メール・チャット履歴 スクリーンショット・PDF保存 ⭐⭐⭐
会社からの書面・通達 写真撮影・コピー ⭐⭐⭐
給与明細(直近3ヶ月) コピー・スキャン ⭐⭐
就業規則(懲戒規定) コピー請求(労基法106条) ⭐⭐
目撃者の証言 書面またはメモ ⭐⭐

記録の残し方:具体的な方法

日時記録の書き方(例)

【記録日】2024年○月○日(○曜日)
【時刻】午前10時15分
【場所】○○部長の執務室
【発言者】○○部長(加害者)
【内容】「お前みたいなやつは必要ない。明日から来なくていい」
【状況】他の社員(○○さん)が同席していた
【自分の反応】驚いて何も言えなかった
【直後の行動】すぐにトイレでこの内容をスマホにメモした

📌 今すぐできるアクション

スマートフォンのメモアプリに今日の日付から記録を開始してください。記憶が新鮮なうちに、できるだけ具体的に書くことが重要です。証拠は後から揃えることが難しいため、即日対応が原則です。


労基署への申告手順と異議申し立て

労働基準監督署への申告手順

申告の流れ

① 申告書の準備
   └─ 会社名・住所・代表者名・自分の氏名・連絡先・申告内容

② 証拠書類の整理
   └─ 出勤停止通知書・給与明細・就業規則・記録メモ等

③ 管轄の労基署に来署・電話・郵送で申告
   └─ 管轄:会社所在地の労働基準監督署

④ 監督官による調査・是正勧告
   └─ 会社への立ち入り調査・是正命令が行われる

⑤ 是正確認
   └─ 未払い給与の支払い命令等

労基署への申告で対応できる事項
– 休業手当の未払い(労基法26条違反)
– 就業規則に根拠のない懲戒(労基法91条違反)
– 給与の全額不払い(労基法24条違反)


会社への異議申し立て書の書き方

出勤停止を通知された際は、速やかに書面で異議を申し立てることが重要です。以下は基本的な雛形です。

【出勤停止処分に対する異議申し立て書】

○年○月○日

○○株式会社
代表取締役 ○○○○ 殿

所属:○○部
氏名:○○○○

標記の件につき、以下のとおり異議を申し立てます。

1. ○年○月○日付で通知された出勤停止処分について、
   処分の理由・根拠が就業規則○条に該当しないと考えます。

2. 本処分は、私がパワーハラスメントの被害を申告した
   直後に行われており、報復行為に当たる可能性があります。

3. 出勤停止期間中の給与については、労働基準法26条に
   基づき、平均賃金の60%以上の支払いを求めます。

4. 本申し立てに対する回答を○年○月○日までに
   書面にてご提示いただくようお願いします。

以上

📌 今すぐできるアクション

上記の雛形を参考に、出勤停止を受けた当日か翌日中に異議申し立て書を作成し、配達証明付き内容証明郵便で会社に送付してください。送付記録が後の証拠になります。


専門機関への相談先一覧

相談機関 対応内容 費用 連絡先
労働基準監督署 労基法違反の申告・是正勧告 無料 厚労省HPで管轄確認
都道府県労働局(総合労働相談コーナー) あっせん・調停・パワハラ相談 無料 各都道府県労働局
法テラス(日本司法支援センター) 弁護士費用の立替・紹介 収入に応じて 0570-078374
弁護士(労働専門) 訴訟・交渉・書類作成 有料(相談は初回無料が多い) 各弁護士会
社会保険労務士 書類作成・会社交渉 有料 各都道府県社労士会
労働組合・ユニオン 団体交渉・支援 組合により異なる 地域ユニオン等

よくある質問(FAQ)

Q1. 出勤停止中にアルバイトをしてもいいですか?

A. 就業規則の副業禁止規定を確認してください。多くの会社では出勤停止中の他社就労を禁止しており、違反すると処分が重くなる可能性があります。ただし、生活費確保のために緊急性がある場合は、弁護士に相談のうえ判断することをお勧めします。


Q2. 出勤停止の通知書に署名するよう求められました。どうすればいいですか?

A. 内容に納得できない場合は、すぐに署名しないでください。「内容を確認したうえで対応します」と伝え、書面のコピーを入手してから弁護士・社労士に相談することを強くお勧めします。署名は処分内容への同意と解釈される場合があります。


Q3. パワハラの被害者なのに出勤停止にされました。これは違法ですか?

A. 高い確率で違法・不当の可能性があります。特に①パワハラを申告した直後の出勤停止、②就業規則に根拠のない出勤停止、③適正な調査なしの出勤停止は、労働施策総合推進法や労基法に違反する可能性があります。速やかに労基署または弁護士に相談してください。


Q4. 出勤停止が終わった後、会社に戻りにくい場合はどうすればいいですか?

A. 職場環境が改善されていない場合、復帰後も継続的なパワハラや不利益取り扱いが予想されます。この場合、①労働局への申告で職場環境の是正を求める、②会社との交渉で配置転換・テレワーク等を要求する、③退職と損害賠償請求を弁護士と検討する、といった選択肢があります。


Q5. 弁護士費用が払えません。それでも相談できますか?

A. はい、できます。法テラス(0570-078374)では、収入が一定額以下の方に弁護士費用の立替制度があります。また、多くの弁護士事務所が初回相談無料で、成功報酬型(費用は後払い)の契約形態を採用しています。まず電話一本で相談してみてください。


まとめ:パワハラによる出勤停止で最優先すべき5つのアクション

  1. 出勤停止通知書を入手・写真撮影し、署名は急がない
  2. パワハラと出勤停止の事実を時系列で記録し、証拠を保全する
  3. 就業規則の懲戒規定を確認し、手続き・根拠の適法性をチェックする
  4. 異議申し立て書を内容証明郵便で送付し、意思表示を記録に残す
  5. 労基署または弁護士・法テラスに相談し、専門家のサポートを受ける

出勤停止は重大な処分であり、不当な処分には法的に対抗する権利があります。一人で抱え込まず、専門機関に相談することが問題解決への最短ルートです。


本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法的アドバイスに代わるものではありません。具体的なケースについては、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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