給与払わないと脅された!脅迫罪の成立と対処法

給与払わないと脅された!脅迫罪の成立と対処法 パワーハラスメント

上司から「言うことを聞かないと給与を払わないぞ」と告げられた経験はありませんか。こうした発言は「単なる言葉のあや」ではなく、脅迫罪・強要罪・労働基準法違反が同時に成立しうる重大な違法行為です。

この記事では、今まさに給与を盾にした脅迫・強要行為に悩まされている方が、今日から取れる具体的な対応手順を、証拠収集・公的機関への相談・刑事告訴・損害賠償請求のステップごとに解説します。一人で抱え込まず、法的手段を使って確実に身を守りましょう。


「給与を払わない」という発言はパワハラか?脅迫罪か?まず整理する

「給与を払わない」という上司の発言を聞いたとき、多くの方が「これはパワハラだろうか、それとも犯罪になるのだろうか」と迷います。結論から言うと、パワハラ・脅迫罪・強要罪・労働基準法違反という4つの法的論点が同時に成立しうるケースがほとんどです。

どれか一つに絞る必要はありません。それぞれの根拠を理解しておくことで、相談先や申告先の選択肢が広がり、より有効な対策が打てるようになります。

脅迫罪が成立する3つの条件

刑法222条は、「生命・身体・自由・名誉・財産に対する害悪の告知」によって人を脅迫した場合に成立します。法定刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。

「給与を払わない」という発言が脅迫罪に該当するためには、次の3つの要件を満たす必要があります。

①害悪の告知

給与は「財産」に直結します。「払わない」という発言は、相手の財産的利益を侵害する内容の告知であり、害悪の告知に該当します。

②相手を恐怖させる故意(意図)

発言した上司が、相手(部下)を心理的に追い詰めることを意図していた場合に認められます。「冗談だった」という言い訳が通用しない理由は、文脈・状況・繰り返し性から故意が推定されるからです。たとえば、残業拒否・特定業務の断りに対して「その態度だと給料が出ないことになるぞ」と言えば、脅迫の意図は明白です。

③現実的・具体的な内容

曖昧な嫌味ではなく、「払わない」「減らす」「カットする」といった具体的な内容が伴っていること。抽象的な不満の吐露であれば脅迫とは認定されにくいですが、業務強要とセットになっている場合は現実的な脅迫と判断されます。

今すぐできるアクション:発言の日時・場所・正確な言葉・その場にいた人物をすぐにメモしてください。記憶が鮮明なうちの記録が後の証拠として最も有効です。

強要罪・恐喝罪との違いと使い分け

「給与を払わない→だからこの仕事をやれ」という構図は、強要罪(刑法223条)にも該当する可能性があります。強要罪は、脅迫または暴行を手段として、相手に義務のないことを行わせた場合に成立します。法定刑は3年以下の懲役です。

以下の表で3つの罪を整理します。

罪名 根拠条文 成立の構図 法定刑
脅迫罪 刑法222条 害悪の告知で恐怖させる 2年以下の懲役または30万円以下の罰金
強要罪 刑法223条 脅迫・暴行で義務なき行為をさせる 3年以下の懲役
恐喝罪 刑法249条 脅迫で財物・利益を交付させる 10年以下の懲役

「給与を払わない」→「残業をしろ・休日出勤をしろ」という構造は強要罪が最も当てはまりやすいケースです。一方、「仕事の失敗の責任として給与から天引きする」という形で実際に金銭を奪う場合は恐喝罪の成立も検討されます。

自分のケースがどれに近いかは、刑事専門の弁護士や警察の相談窓口で確認するのが確実です。

労働基準法違反(賃金全額払いの原則)との二重構造

「給与を払わない」という脅迫は、刑事犯罪であると同時に、労働基準法24条(賃金全額払いの原則)に違反する行為でもあります。

労基法24条は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めており、違反した使用者には30万円以下の罰金が科されます。給与の支払いは使用者の「絶対的義務」であり、「業務命令に従わなかったから」「態度が悪かったから」といった理由で自由に減額・不払いにすることは許されません。

つまり、給与を盾にした脅迫は刑法上の犯罪(脅迫罪・強要罪)と労働法上の違法行為(労基法違反)の二重の違法を構成します。この二重構造を理解しておくことで、警察・労働基準監督署という2つの別々の窓口に同時に申告できることがわかります。


被害に遭ったら最初にすべき「証拠保全」の具体的手順

証拠は鮮度が命です。脅迫発言があった当日のうちに証拠を固めることを最優先にしてください。

音声録音が最強の証拠になる理由と注意点

日本では、会話の当事者が相手の同意なく録音することは適法です(最高裁判例)。上司との会話・電話・会議中の発言を、スマートフォンのボイスレコーダー機能で密かに録音することに法的問題はありません。

録音時の実践的ポイントは以下のとおりです。

  • スマートフォンをポケットやバッグに入れたまま録音できるアプリを事前にインストールしておく
  • 録音データはクラウドストレージ(Google Drive・iCloudなど)に即日バックアップする
  • ファイル名に日時を入れて管理する(例:20250601_14時_部長発言.m4a
  • 録音内容は文字起こしして文書化しておく

今すぐできるアクション:録音アプリをスマートフォンにインストールし、録音データの保存先として個人のクラウドアカウントを設定してください。職場のパソコン・サーバーは会社に証拠を消される可能性があるため使わないこと。

デジタル証拠の保存方法(メール・LINE・チャット)

メール・LINE・社内チャットでの脅迫発言は、スクリーンショット+PDF化の二重保存が基本です。

  • スクリーンショットは日時が写るように撮影する
  • 長いスレッドは全体を上から下まで連続して撮影し、抜けがないようにする
  • PDFや画像ファイルとして個人のメールアドレスに転送・保存する
  • 証拠となるメッセージは削除しない(削除されそうな場合は即座に保存する)

書面・紙の証拠と「被害記録ノート」の作り方

音声やデジタルデータに加えて、手書きの被害記録ノートを作成することを強くおすすめします。被害記録ノートは、裁判や労働審判でも補助的な証拠として評価されます。

記録する項目は以下を参考にしてください。

項目 記録内容の例
日時 2025年6月1日(日)午後2時15分ごろ
場所 会社の会議室B
発言者 営業部長・田中○○
発言の正確な内容 「明日の休日出勤を断るなら今月の給与は出ない」
証人 同席していた同僚・鈴木○○
自分の状態 恐怖を感じて返答できなかった
その後の行動 やむなく休日出勤を承諾した

公的機関への相談手順と使い分け

証拠をある程度固めたら、公的機関に相談・申告します。主な相談先は「労働基準監督署」「都道府県労働局」「警察」の3つです。それぞれ役割が異なるため、状況に応じて使い分けましょう。

労働基準監督署への申告(賃金未払い・労基法違反)

給与の未払いが実際に発生している場合、または労基法違反の是正を求める場合は、労働基準監督署(労基署)への申告が最初のステップです。

申告に必要な書類と持参物は以下のとおりです。

  • 雇用契約書または労働条件通知書のコピー
  • 給与明細(直近3〜6カ月分)
  • 被害記録ノート
  • 録音データ・スクリーンショット(印刷したものも可)

労基署に申告すると、監督官が事業所を調査し、違反が認められれば是正勧告が出されます。是正勧告は行政処分ではなく指導ですが、多くの場合これで給与支払いが実現します。悪質なケースでは書類送検(刑事告発)につながることもあります。

今すぐできるアクション:厚生労働省の「全国労働基準監督署の所在案内」で最寄りの労基署を確認し、平日9時〜17時に電話で相談予約を入れてください。来署の前に電話相談だけでも受け付けてもらえます。

都道府県労働局・総合労働相談コーナーへの相談(パワハラ)

パワハラの問題、特にパワハラ防止法(労働施策総合推進法30条の2)に基づく会社の措置義務違反を問う場合は、各都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」が窓口です。

相談は無料で、予約不要で対応している窓口がほとんどです。「あっせん制度」(労使間の話し合いを仲介する制度)を利用すれば、弁護士費用をかけずに解決策を模索することも可能です。

ただし、労働局のあっせんは強制力がなく、会社側が参加を拒否することもあります。その場合は次のステップ(弁護士・労働審判)に進むことを検討してください。

警察への相談・被害届提出(脅迫罪・強要罪)

脅迫罪・強要罪の刑事責任を問う場合、最寄りの警察署の相談窓口(警察安全相談)に相談します。

警察への相談時に準備するものは以下のとおりです。

  • 被害状況をまとめたメモ(日時・発言内容・状況)
  • 録音データ・スクリーンショット
  • 被害記録ノート

相談後、警察が事件性ありと判断すれば被害届の受理→捜査→逮捕・書類送検という流れになります。ただし、警察が慎重な判断をすることも多いため、刑事告訴状を弁護士に作成してもらい、正式に提出する方法が確実です(後述)。


給与支払いを求める「内容証明郵便」の書き方

口頭や口約束では証拠に残りません。給与の支払いを正式に請求するためには、内容証明郵便を会社宛てに送ることが最も有効な手段です。

内容証明郵便は、「誰が・誰に・いつ・どんな内容の文書を送ったか」を郵便局が証明する制度です。後日、裁判や労働審判で「支払いを請求した事実」を証明できます。

内容証明郵便の基本書式と記載項目

以下の内容を盛り込んだ文書を作成します。

                            令和○年○月○日

株式会社○○○○
代表取締役 ○○ ○○ 様

                            差出人:○○ ○○(住所)

          賃金支払い請求書

私は貴社に○年○月から勤務している者です。
令和○年○月○日、貴社○部門○○(職名・氏名)から
「業務命令に従わなければ給与を支払わない」旨の発言を受けました。

労働基準法第24条は賃金全額払いの原則を定めており、
業務命令への服従を条件に給与を支払わないことは
同法に違反するとともに、刑法第222条の脅迫罪
および同法第223条の強要罪に該当する可能性があります。

つきましては、本書面到達後7日以内に、
未払いとなっている令和○年○月分賃金○○万円を
下記口座に振り込むよう請求いたします。

なお、期限内にご対応いただけない場合は、
労働基準監督署への申告、警察への被害届提出、
および民事上の損害賠償請求を行うことを申し添えます。

振込先:○○銀行 ○○支店 普通 口座番号○○○○○○○○
口座名義:○○ ○○

内容証明郵便は全国の郵便局(一部除く)で差し出せます。「e内容証明」(郵便局のオンラインサービス)を使えば自宅から送付可能です。

今すぐできるアクション:上記の書式を参考に下書きを作成し、弁護士か司法書士に確認を依頼してください。内容証明郵便は送る前にプロのチェックを受けることで、法的効果が大幅に高まります。


刑事告訴状の提出手順と注意点

被害届と刑事告訴は異なります。刑事告訴は「犯人を処罰してほしい」という意思を明示するもので、警察・検察はこれを受理した場合、捜査を行う義務を負います(刑訴法242条)。被害届よりも強い効力を持ちます。

刑事告訴状に書くべき5つの内容

  1. 告訴人の情報:氏名・住所・連絡先
  2. 被告訴人の情報:上司・会社の氏名・住所・役職
  3. 告訴の趣旨:「○○を刑法222条(脅迫罪)および同法223条(強要罪)で告訴する」という明確な意思表示
  4. 犯罪事実:日時・場所・発言内容・状況を具体的かつ時系列で記載
  5. 証拠の一覧:録音データ・スクリーンショット・被害記録ノートなどのリスト

告訴状は警察署または検察庁に提出します。警察が受理しない場合は検察庁に直接提出することも可能です。

告訴状の作成は刑事事件を扱う弁護士に依頼することを強くおすすめします。法的な構成が適切でないと受理されにくくなるためです。


損害賠償請求(民事)の進め方

刑事手続きとは別に、民事訴訟または労働審判で損害賠償を請求することができます。請求できる損害の主な項目は以下のとおりです。

請求できる損害の種類と金額の目安

損害の種類 内容 金額の目安
未払い賃金 実際に払われなかった給与額 実損額の全額
遅延損害金 未払い賃金に対する利息(年3%) 未払額×年3%
付加金 裁判所が命じる制裁的賠償(労基法114条) 未払い額と同額(最大)
慰謝料 精神的苦痛に対する賠償 数十万〜数百万円(状況による)
弁護士費用 訴訟を提起した場合の弁護士費用の一部 認容額の10%程度が相場

会社と上司の両方に請求できる

損害賠償は、直接の加害者である上司個人に対してだけでなく、会社(使用者)に対しても請求可能です。使用者は、業務上の不法行為について「使用者責任」(民法715条)を負います。さらに、会社がパワハラ防止措置を怠っていた場合は、パワハラ防止法違反を根拠とした請求も可能です。

労働審判は申立てから原則3回の期日で解決を目指す迅速な手続きです(労働審判法1条)。弁護士費用を抑えながら早期解決を求める場合に適しています。

今すぐできるアクション:法テラス(0570-078374)に電話して弁護士費用立替制度の対象になるかを確認してください。収入・資産が一定以下であれば、弁護士費用を立て替えてもらい、分割返済することができます。


弁護士・専門家に相談すべきタイミングと探し方

「弁護士に相談するほどの問題か…」と躊躇する方も多いですが、以下のいずれかに当てはまる場合はすぐに弁護士への相談が必要です。

  • 給与が実際に支払われていない
  • 脅迫・強要が繰り返されている
  • 精神的苦痛で業務遂行が困難になっている
  • 会社側から「問題を外部に話すな」と口止めされた
  • 退職を強要されている

費用を抑えて弁護士に相談する方法

相談先 費用 特徴
法テラス(日本司法支援センター) 無料(収入制限あり) 弁護士費用立替制度あり
弁護士会の法律相談 30分5,500円が目安 専門的なアドバイスが得られる
労働問題専門の弁護士(初回無料) 初回無料〜 成功報酬型の事務所も多い
都道府県労働局の個別労働紛争あっせん 無料 強制力はないが費用ゼロ

弁護士を探す際は「日本弁護士連合会(日弁連)」のひまわりサーチや、各都道府県弁護士会のウェブサイトを活用してください。「労働問題」「解雇・未払い賃金」を得意とする弁護士を選ぶことが重要です。


退職を考える前に確認すべきこと

「こんな職場を辞めてしまいたい」と思うのは当然の感情です。しかし、退職前に以下の点を必ず確認してください。

  • 退職すると未払い賃金の請求権はなくなるか? → なりません。退職後も2年間(民法改正後の事案は3年間)は未払い賃金を請求できます(労基法115条)。
  • 脅迫を理由にした「やむを得ない退職」は会社都合退職になるか? → 認定されれば雇用保険の給付を会社都合退職と同様に受けられる可能性があります。
  • 在職中の方が証拠を集めやすいか? → はい。退職後はメール・チャット履歴へのアクセスが失われることが多いため、在職中に証拠を確保することが重要です。

退職自体を否定するわけではありませんが、退職前に証拠を固め、内容証明郵便で請求し、相談先に連絡を入れておくことで、退職後も法的な保護を受けやすくなります。


よくある質問(FAQ)

Q1. 上司が「冗談で言っただけ」と言い訳した場合、脅迫罪は成立しますか?

「冗談だった」という弁解は、脅迫罪の成否に大きな影響を与えません。重要なのは発言の文脈・状況・受け手が感じた恐怖の客観的合理性です。業務強要の場面で「給与を払わない」と発言すれば、社会通念上、相手が恐怖を感じるのは当然と判断される可能性が高く、「冗談」という弁解はほとんど通りません。証拠(録音・記録)があればなおさらです。

Q2. 実際に給与が払われなかった場合、いくらまで取り戻せますか?

未払い賃金の全額(元本)に加え、年3%の遅延損害金、裁判所が命じた場合は付加金(未払い額と同額)も請求できます。さらに精神的苦痛に対する慰謝料も別途請求可能です。付加金が認められれば、未払い賃金の最大2倍に近い金額を回収できるケースもあります。

Q3. 証拠が録音データしかない場合でも告訴できますか?

できます。録音データは非常に強力な証拠です。告訴状には「証拠として録音データを提出する」と明記し、データを添付(または提出の意思を示す)することで捜査の端緒になります。録音データと被害記録ノートを組み合わせれば、告訴受理の可能性は高まります。

Q4. 労働基準監督署に申告すると会社に報復されませんか?

労働基準法104条2項は、「労基署に申告したことを理由とした解雇その他不利益取扱いを禁止」しています。もし申告後に報復的な解雇や降格などを受けた場合、それ自体が新たな違法行為となり、追加の損害賠償請求の根拠になります。申告したことを伏せることも選択肢ですが、報復があった場合はすぐに弁護士に相談してください。

Q5. 一人で動くのが不安です。誰かに同席してもらえますか?

労働組合(社内・社外問わず)のユニオンに加入すれば、組合の担当者が労基署への申告・会社との交渉に同席・支援してくれます。「ユニオン」や「合同労組」で検索すると地域ごとの相談先が見つかります。弁護士への相談時も同伴者の同席は可能です。


まとめ:今日から動くための5つのステップ

給与を盾にした脅迫・強要は、刑法上の犯罪と労働法上の違法行為が重なる深刻な問題です。「自分だけの問題だから」と抱え込まず、今日から以下のステップで行動を始めてください。

ステップ 行動 タイミング
①証拠保全 録音・スクリーンショット・被害記録ノートの作成 今すぐ
②相談先の確認 法テラス(0570-078374)・最寄りの労基署に連絡 今日〜明日
③内容証明郵便 給与支払い請求書を弁護士に確認してもらい送付 1週間以内
④公的機関への申告 労基署・都道府県労働局・警察に相談・被害届提出 2週間以内
⑤法的手続き 弁護士と相談して刑事告訴・損害賠償請求の方針を決定 並行して進める

どのステップも、一人でやる必要はありません。公的機関・弁護士・労働組合という強力なサポートを活用して、確実に権利を回復してください。あなたには正当な給与を受け取る権利があり、それを守るための法律は整備されています。

脅迫・強要による給与支払い拒否は、決して「職場の人間関係の問題」ではなく、警察が対応すべき犯罪です。一人で我慢せず、今日から行動を起こしましょう。

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