セクハラ後の配置転換を会社に要求する方法と給与保障の手順

セクハラ後の配置転換を会社に要求する方法と給与保障の手順 セクシャルハラスメント

セクハラ被害を受けた後、「あの人と同じ職場にいたくない」「毎日出勤するのが怖い」と感じるのは当然の反応です。しかし、配置転換を求めたら給与が下がった転属を申し出たら会社に握りつぶされたというケースは珍しくありません。

この記事では、男女雇用機会均等法に基づいて会社に配置転換を正式に要求する手順、転属後も給与・雇用形態を守る交渉方法、そして会社が動かない場合の外部機関への申告手順を、今日から使える実務レベルで解説します。

目次

  1. セクハラと配置転換要求の法的根拠
  2. 被害後すぐに始める証拠収集と記録方法
  3. 社内での配置転換要求の手順
  4. 給与・雇用形態を守るための交渉ポイント
  5. 会社が転属を拒否したときの対応手順
  6. 外部相談窓口と申告先一覧
  7. よくある質問(FAQ)

1. セクハラと配置転換要求の法的根拠

1-1 セクハラの2つの類型と「職場に居づらい状態」の法的位置づけ

厚生労働省のガイドラインでは、職場のセクハラは以下の2類型に分類されます。

類型 具体例
対価型セクハラ 昇進・昇給を条件に性的関係を要求する、拒否したことで降格・解雇される
環境型セクハラ 性的な冗談・外見への品評・露骨な視線・身体接触により就業環境が悪化する

「職場に居づらい」状態は、環境型セクハラの典型的な帰結です。被害を受けた後に加害者と同じ空間で働き続けることは、それ自体が継続的な被害であると法律上も認識されています。

1-2 事業主に配置転換を義務づける法的根拠

配置転換要求の根拠となる主要法令は以下のとおりです。

法律 条文 内容
男女雇用機会均等法 11条1項 事業主はセクハラ防止のための雇用管理上の措置義務を負う
男女雇用機会均等法 11条2項 被害者が相談・申告したことを理由とする不利益取扱いを禁止
労働安全衛生法 3条・65条 事業主は職場環境の安全確保・健康配慮義務を負う
民法 709条・715条 不法行為・使用者責任に基づく損害賠償請求の根拠
労働契約法 5条 使用者の安全配慮義務(生命・身体・精神の安全)

ポイント:原則は「加害者が動く」
厚生労働省のガイドラインは、「被害者の意向を十分尊重した上で、加害者側を配置転換するのが原則」と定めています。被害者が転属を求めた場合も、給与・役職・雇用形態の不利益変更は禁止されています。

1-3 「不利益取扱い」にあたる行為

会社が申告・配置転換要求を受けた後に行った以下の行為は、男女雇用機会均等法11条2項違反となります。

  • 転属先での給与引き下げ・役職降格
  • 有給取得の拒否
  • 評価の不当な引き下げ
  • 解雇・雇い止め
  • 「大げさだ」「自分にも問題があった」などの言葉による二次被害

2. 被害後すぐに始める証拠収集と記録方法

配置転換要求を会社・外部機関に認めてもらうには、具体的・客観的な記録が不可欠です。感情的な訴えではなく、「いつ・どこで・誰が・何をした」という事実の積み重ねが交渉力になります。

2-1 記録ノートの書き方

手書きのノートでも、スマートフォンのメモアプリでも構いません。以下の項目を毎回記録してください。

【記録フォーマット】
■ 日時:○年○月○日(○曜日)○時ごろ
■ 場所:△△オフィス 会議室B / エレベーター内 など
■ 加害者名(役職):営業部長 ○○氏
■ 目撃者:同僚 △△氏(在席していた)
■ 加害行為の内容:(できるだけ言葉通りに記録)
■ 自分の反応・対応:「やめてください」と言った / 黙って立ち去った
■ 被害後の心身状態:その夜眠れなかった / 翌日出勤が怖かった
■ 記録した日時:○年○月○日○時

今すぐできるアクション①
過去の被害を思い出せる範囲で、今日中に記録ノートを1件作成してください。記憶が薄れる前に書くことが最重要です。

2-2 収集すべき証拠の種類

証拠の種類 具体的な保存方法
メール・社内チャット スクリーンショット+PDFで保存(私物端末にも保存)
SMS・LINEなどのメッセージ 画面収録または印刷して保管
録音データ IC レコーダーまたはスマートフォンで録音(秘密録音は民事訴訟で証拠能力あり)
診断書 メンタルクリニック・心療内科で「職場ストレスによる○○」と記載してもらう
目撃者の証言メモ 証言してくれる同僚がいれば氏名と内容をメモしておく

今すぐできるアクション②
スマートフォンの受信メッセージ・通話履歴を確認し、証拠になりそうな内容をすべてスクリーンショットで保存してください。会社支給端末の場合は私物端末にメールで転送する、またはプリントアウトして自宅保管することを優先してください。

2-3 証拠保全の注意点

  • 会社支給PC・スマートフォンの内容は、会社に没収されるリスクがあります。必ず私物端末・自宅のストレージにバックアップしてください。
  • 録音については、会話の一方の当事者(本人)が行う録音は違法ではありません
  • 日記・記録ノートは日付入りで継続記録することで、裁判所・労働局での信用度が上がります。

3. 社内での配置転換要求の手順

3-1 社内相談窓口への申告

まず最初のステップは社内のハラスメント相談窓口または人事部門への申告です。口頭だけでなく、必ず書面(メールでも可)で申告することが重要です。

今すぐできるアクション③
会社のイントラネット・就業規則でハラスメント相談窓口の担当者名・連絡先を確認してください。

申告書に含めるべき項目:

【社内申告書の構成例】
1. 申告日
2. 申告者(氏名・所属・連絡先)
3. 被害内容の概要(記録ノートをもとに箇条書きで)
4. 要求事項
   ├─ 加害者との職場分離(加害者または自分の配置転換)
   ├─ 加害行為の調査と加害者への指導・処分
   └─ 転属後の給与・役職・雇用形態の維持
5. 対応期限の明示(「○月○日までに書面で回答をお願いします」)
6. 添付資料(記録ノートのコピー・スクリーンショット等)

3-2 申告書の提出方法

方法 メリット 注意点
メール 送受信記録が残る 会社メールは閲覧されるリスクあり。私用メールで送るか印刷して手渡しを併用
書面手渡し(受領印をもらう) 提出の事実が確定する コピーを自分で保管すること
内容証明郵便 送付日・内容が公証される 深刻なケースや社内手続きが動かない場合に有効

3-3 申告後の会社の対応義務

申告を受けた事業主は、男女雇用機会均等法11条に基づき以下の措置を取る義務があります。

  1. 事実確認のための調査実施(加害者・目撃者へのヒアリング)
  2. 被害者の意向確認(どのような解決を望むか)
  3. 加害者への措置(指導・配置転換・懲戒処分など)
  4. 被害者への配慮措置(配置転換・就業場所の変更・有給取得の支援など)
  5. 再発防止のための研修・規程整備

会社は申告を受けた後、合理的な期間内に書面で回答する義務があります。2〜3週間を目安に書面回答を求めてください。

4. 給与・雇用形態を守るための交渉ポイント

4-1 配置転換要求時に明示すべき条件

配置転換を要求する際は、口頭・書面いずれの場合も以下の条件を明示してください。これを明示しないと、転属後に不利益変更があっても「合意した」とみなされるリスクがあります。

【不利益変更禁止の確認事項】
□ 転属後の基本給・手当の維持
□ 役職・等級の維持
□ 雇用形態の維持(正社員→契約社員への変更禁止)
□ 通勤距離・時間の大幅増加がないこと
□ 業務内容の大幅な格下げがないこと
□ 人事評価への悪影響がないこと

今すぐできるアクション④
現在の雇用契約書・給与明細・最新の人事評価書を手元に保管してください。転属後の比較証拠になります。

4-2 転属後に不利益変更があった場合の対応

もし転属後に給与引き下げ・降格があった場合、それは男女雇用機会均等法11条2項違反(申告を理由とする不利益取扱い) に該当します。

対応ステップ:

  1. 不利益変更の事実を書面・メールで会社に確認(「転属前の○○円から○○円に減額された理由を文書で説明してください」)
  2. 回答が不合理または回答がない場合→都道府県労働局への申告(後述)
  3. 弁護士・社会保険労務士への相談

4-3 休職・有給取得中の給与保障

心身への影響でやむなく休職・有給取得が必要な場合:

制度 内容
有給休暇 雇用6か月以上・出勤率80%以上で法定付与。拒否は違法
傷病手当金 健康保険加入者が病気・けがで休業した場合、給与の約3分の2を最大1年6か月支給
労災申請 セクハラによるうつ病等は労働災害として認定されうる(精神障害の労災認定基準に該当する場合)

5. 会社が転属を拒否したときの対応手順

5-1 拒否の事実を記録する

会社が配置転換を拒否した場合、その事実を記録することが次のステップの証拠になります。

  • 口頭での拒否→すぐに記録ノートに記載(日時・担当者名・拒否の理由として述べた内容)
  • メールでの拒否→印刷・スクリーンショットで保存
  • 「検討中」のまま放置→定期的に書面で回答を催促し、その記録も保存

5-2 外部機関への申告ステップ

会社が動かない場合は、以下の順序で外部機関に申告します。

Step 1:都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)へ相談・申告
        ↓(会社が指導に従わない場合)
Step 2:紛争解決援助制度(調停)の申請
        ↓(調停不調の場合)
Step 3:労働審判・民事訴訟(弁護士への依頼を検討)

5-3 都道府県労働局への申告方法

男女雇用機会均等法に基づく申告(均等法18条) により、都道府県労働局長に対して事業主への指導・助言・是正勧告を求めることができます。

申告の流れ:

  1. 最寄りの都道府県労働局「雇用環境・均等部(室)」に電話または来所で相談
  2. 申告書類の作成支援を受ける
  3. 労働局が事業主に対して事実確認・指導
  4. 事業主が是正しない場合、「勧告」「企業名公表」が可能(均等法29条・30条)

今すぐできるアクション⑤
厚生労働省のウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp)で「都道府県労働局 雇用環境・均等部」を検索し、最寄りの窓口の電話番号をメモしてください。

5-4 内容証明郵便による正式要求

社内申告が無視された場合、内容証明郵便で会社代表者宛てに配置転換要求書を送付することで、法的な証拠力を持つ要求記録が残ります。

内容証明に記載する内容:

【内容証明 記載項目例】
・被害事実の概要(日時・行為者・内容)
・これまでの社内申告の経緯と会社の不作為
・具体的な要求(配置転換・給与維持・加害者への処分)
・対応期限(発送日から2週間程度)
・期限内に対応がない場合は労働局への申告・法的手続きを検討する旨

内容証明郵便は郵便局の窓口またはインターネットサービス(e内容証明)から送付できます。弁護士・社会保険労務士に依頼して作成すると、より法的効力が高まります。

6. 外部相談窓口と申告先一覧

機関名 対応内容 費用 連絡先
都道府県労働局 雇用環境・均等部(室) 均等法に基づく申告・指導・調停 無料 各都道府県労働局(厚労省HPで検索)
総合労働相談コーナー 職場のあらゆるトラブルの初期相談 無料 全国の労働基準監督署内に設置
労働局 個別労働紛争解決制度 調停・あっせんによる解決 無料 都道府県労働局
法テラス(日本司法支援センター) 弁護士費用の立替、法律相談 収入要件あり 0570-078374
弁護士・社会保険労務士 交渉・訴訟代理・書類作成 有料(相談料は30分5,000円程度) 各都道府県弁護士会
女性の人権ホットライン 人権侵害の相談 無料 0570-070-810
よりそいホットライン 緊急時の心理的サポート 無料・24時間 0120-279-338

セクハラ被害で心身に影響が生じた場合は、すぐに医療機関の受診をおすすめします。同時に、都道府県労働局や弁護士に相談することで、法的サポートと医学的サポートの両面から問題解決に当たることができます。

7. よくある質問(FAQ)

Q1. 配置転換を求めたら「自分が異動すればいい」と言われました。それは正当ですか?

A. 厚生労働省のガイドラインは「加害者側の配置転換が原則」と定めています。被害者が異動を強いられることは、二次的な不利益取扱いにあたる可能性があります。ただし、被害者自身が転属を希望する場合はこの限りではありません。被害者の希望を無視して一方的に被害者を移動させることは問題です。納得できない場合は、その旨を書面で申告の上、労働局に相談してください。

Q2. 派遣社員・パートタイムでもセクハラの申告・配置転換要求はできますか?

A. できます。男女雇用機会均等法は、雇用形態を問わずすべての労働者に適用されます。派遣社員の場合は、派遣元・派遣先の双方が措置義務を負います。派遣先でセクハラを受けた場合は、派遣元の相談窓口にも同時に申告してください。

Q3. 加害者が上司や役員の場合、社内申告は意味がありますか?

A. 小規模企業や加害者が組織の上位に位置する場合は、社内申告が握りつぶされるリスクがあります。その場合は社内申告と並行して、または社内申告をスキップして直接、都道府県労働局への申告に進むことを検討してください。申告は匿名でも受け付けています(ただし匿名の場合は対応の範囲が限られることがあります)。

Q4. セクハラの被害を申告したら、会社に居づらくなりませんか?

A. 申告後の不利益取扱いは男女雇用機会均等法11条2項で明示的に禁止されています。申告したことを理由とした嫌がらせ・降格・解雇は違法です。もし申告後に職場の環境が悪化した場合は、その状況も記録した上で「申告後の不利益取扱い」として追加で申告してください。

Q5. セクハラ被害で精神科・心療内科を受診しています。通院費や休業期間の補償は受けられますか?

A. セクハラによる精神疾患(うつ病・適応障害など)は、労災(精神障害の労災認定基準)の対象になり得ます。労働基準監督署に労災申請を行い、認定されれば療養補償給付・休業補償給付が受けられます。また、加害者個人および使用者(会社)に対して民事上の損害賠償請求も可能です。弁護士への相談を検討してください。

Q6. 転属後に給与が下がりました。元に戻す方法はありますか?

A. 申告・配置転換要求を理由とした給与引き下げは男女雇用機会均等法11条2項違反です。まず会社に書面で「減額の理由」の説明を求め、回答内容を証拠保全してください。回答が不合理・不回答の場合は、都道府県労働局への申告または弁護士への相談の上、未払い賃金の請求・損害賠償請求の手続きに進むことが可能です。

まとめ:今日から動くための7つのアクション

この記事で解説した内容を、行動チェックリストとして整理します。

今日から始めるアクションリスト

□ 1. 被害内容を記録ノートに記録する(日時・場所・加害者・内容)
□ 2. メール・メッセージ・録音などの証拠を私物端末に保存する
□ 3. 雇用契約書・給与明細・人事評価書を手元に保管する
□ 4. 社内ハラスメント相談窓口の連絡先を確認する
□ 5. 配置転換要求書を作成し、書面(メール+印刷)で申告する
□ 6. 都道府県労働局 雇用環境・均等部の連絡先をメモする
□ 7. メンタルヘルスの不調があれば、今週中に医療機関を受診する

セクハラ被害を受けた後、「自分が我慢すればいい」「申告して状況が悪くなったらどうしよう」と思う方は多いです。しかし、法律はあなたの側に立っています。配置転換要求は正当な権利であり、申告後の不利益取扱いは違法です。一人で抱え込まず、この記事のステップを一つずつ進めてください。状況が動かないと感じたら、すぐに外部の相談窓口に連絡することをためらわないでください。

本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律相談ではありません。具体的な状況に応じたアドバイスは、弁護士・社会保険労務士・労働局の専門家にご相談ください。

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