この記事を読んでほしい方:「あの人は売上トップだから」「優秀な社員だから大目に見て」と会社に言われ、セクハラ被害を訴えても取り合ってもらえない——そんな理不尽な状況に直面している方へ。法律はあなたの味方です。本記事では、セクハラ加害者が庇護される場合の具体的な対抗手順と法的根拠を、実務レベルで解説します。
「成績がいいから大目に見て」——その言葉は法的に無効です
あなたが感じる「おかしさ」は正しい
被害を訴えたとき、こんな言葉を返されたことはありませんか。
- 「彼は会社の稼ぎ頭だから、もう少し様子を見よう」
- 「あなたも少し誤解しているだけじゃないか」
- 「あの人がいなくなったら困るのはわかるだろう?」
その瞬間、被害者は二重の傷を負います。ひとつはセクハラ行為そのもの。もうひとつは「会社に守ってもらえない」という絶望です。そして多くの被害者が「自分の気のせいだったのかもしれない」「大げさだったのかもしれない」と自己否定の罠に落ちていきます。
はっきり言います。あなたが感じている「おかしさ」は、正しい感覚です。
法律の世界では、加害者の成績・売上・役職・会社への貢献度は、セクシャルハラスメントに対する処分を軽減する理由には一切なりません。どれほど優秀な営業パーソンであっても、法律の前ではただの「ハラスメント加害者」です。
実際によくある「加害者庇護」の言葉パターン
職場でよく使われる庇護の言葉を把握しておくことで、「これは正当な判断ではなく、会社側の違法な放置だ」と気づくことができます。
| よくある言葉 | 隠れた意図 | 法的評価 |
|---|---|---|
| 「彼は売上トップだから慎重に対応したい」 | 利益保護のため被害を軽視 | 会社の措置義務違反 |
| 「あなたも少し誤解しているのでは?」 | 被害の矮小化・二次被害 | 相談窓口としての機能不全 |
| 「本人に直接話せばいい話では?」 | 対応を被害者に転嫁 | 雇用管理措置の不履行 |
| 「社内の問題として内々に解決したい」 | 外部通報の阻止 | 不利益取扱いの前触れ |
| 「異動させるから我慢してほしい」 | 被害者を動かす本末転倒 | 二次的な不利益取扱い |
これらの言葉を言われた場合、会社はすでに「雇用管理上の措置義務」に違反している可能性があります。
セクハラは成績・業績では免責されない——法的根拠を理解する
男女雇用機会均等法第11条が守るもの
セクシャルハラスメントに関する最も重要な法律が、男女雇用機会均等法(均等法)第11条です。
【男女雇用機会均等法 第11条】
事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその
雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件に
つき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者
の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの
相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その
他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
ポイントは「事業主の義務」です。 加害者の成績がどれほど優秀であっても、事業主(会社)は適切な措置を講じる義務を免れません。この条文には「ただし、業績優秀者については除く」という例外は一切存在しません。
「成績優秀」による庇護が認められない4つの法的根拠
| 根拠 | 具体的な説明 |
|---|---|
| ①法の平等性 | 法律は社内の地位・貢献度・成績によって適用対象を変えない。全労働者に均等に適用される |
| ②均等法の趣旨 | すべての労働者が尊厳を保ち、安全な職場環境を享受する権利を保障している |
| ③公序良俗違反 | 業績を理由に法令違反行為を容認・黙認することは、民法90条の公序良俗に反し無効 |
| ④会社の使用者責任 | 民法715条により、会社は従業員の加害行為について使用者責任を負う。庇護することでこの責任がより重くなる |
厚生労働省指針が明確に示していること
厚生労働省が定める「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(セクハラ指針)では、次のことが明記されています。
「行為者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則等の文書に規定し、周知・啓発すること」
「厳正に対処」とは、業績・貢献度を加味せず規定どおり対処することを意味します。成績を理由に対処を緩和することは、この指針に反します。
今すぐできる確認アクション:
自社の就業規則または社内ハラスメント防止規程を取り寄せ、「セクハラ加害者への処分規定」を確認しましょう。規定が存在するのに適用されない場合、それ自体が会社の違反の証拠になります。
証拠収集の実務手順——「言った言わない」にさせない
会社が動かない場合、最終的には外部機関(労働局・裁判所)に訴えることになります。そのとき最も重要なのが証拠です。証拠は「後から集めよう」では取り返しがつかない場合があるため、被害発生直後から意識的に行動する必要があります。
STEP 1|被害記録ノートの作成(今日から始める)
被害記録ノートは、裁判・労働審判・労働局への申告において最も基本的な証拠のひとつです。紙のノートでも、スマートフォンのメモアプリでも構いません。
【被害記録ノートに記載すべき項目】
□ 日時(年月日・曜日・時間帯)
□ 場所(会議室・オフィス・社用車内・社外など)
□ 加害者の言動(できるだけ一言一句)
□ 自分がどう感じたか(不快感・恐怖・羞恥心など)
□ その場にいた人(名前または特徴)
□ 被害後の心身の状態(眠れない・吐き気・出社困難など)
□ 記録した日時(後から書いた場合はその日付も明記)
記録のコツ: できるだけ「感情」ではなく「事実」を書きます。「〇〇さんに胸を触られた」「△△という言葉をかけられた」という具体的な事実の記述が証拠としての強度を高めます。
今すぐできる確認アクション:
今日中に被害記録ノートを一冊用意し、今まで起きた被害を日付・場所・言動の形式で書き出してください。記憶が薄れる前に書くことが重要です。
STEP 2|デジタル証拠の保全(1〜2日以内)
メール・LINEなどのテキスト系証拠は、加害者や会社が削除する前に保全することが急務です。
【保全すべきデジタル証拠チェックリスト】
□ メール
→ 転送せずスクリーンショット(日時・送信者が見える状態で)
→ プリントアウトして紙でも保存
□ LINE・チャットツール(Slack・Teams等)
→ トーク画面をスクリーンショット
→ 日時・送信者名・既読状態が写るよう撮影
□ SNSのメッセージ・投稿
→ URL含めスクリーンショット
→ Web魚拓(archive.today等)でページを保存
□ 誘いや発言の記録が残るスケジューラー
→ 会社共有カレンダー等のスクリーンショット
重要: スクリーンショットは自分の私物端末に保存してください。会社支給端末は会社が管理権を持つため、証拠を削除・閲覧される可能性があります。
STEP 3|音声・映像証拠(可能な場合)
「一方的な録音は違法ではないか?」と不安に思う方も多いと思います。
結論:被害当事者本人が会話に参加している場合の録音は、日本の法律上違法ではありません。
会話の一方の当事者が録音することは「不正競争防止法」にも「盗聴罪」にも該当しません。民事・刑事を問わず証拠として使用できます(ただし、会話に全く参加していない第三者が隠し録りする場合は別途問題になりうるため注意)。
【録音時の実務ポイント】
□ スマートフォンの録音アプリを事前に起動した状態でポケットへ
□ 「録音していますか?」と確認されたら「はい」と答える義務はない
□ 録音ファイルはすぐに私物クラウドへバックアップ
□ ファイル名に日時を付けて管理
□ 録音内容を文字起こししたテキストも合わせて保存
今すぐできる確認アクション:
スマートフォンにボイスレコーダーアプリをインストールし、起動〜録音〜保存の操作を練習しておきましょう。いざというとき焦らずに操作するための事前準備が重要です。
STEP 4|目撃者・証人の確保
目撃者がいる場合、その人の証言は非常に強い証拠になります。ただし、同じ職場の同僚は「会社から不利益を受けるのでは」と証言をためらう場合もあるため、丁寧に接触することが必要です。
【目撃者への接触方法】
1. 職場外(ランチ・退勤後)で話す機会を作る
2. 「証人になってほしい」とすぐに言わない
3. 「〇月〇日の件、実は困っていて…」と事実確認から始める
4. 相手の証言内容をメモし、日時と共に記録
5. 可能であれば「証言書」(書面)の作成を依頼する
社内申告の実務手順——正しい順序とリスク回避
証拠が揃ったら、社内への申告を行います。ただし、順序を誤ると「言った言わない」のトラブルや二次被害につながります。
社内相談窓口への申告手順
Step 1|申告先の確認
まず、社内のどの窓口に申告すべきかを確認します。
| 申告先 | 適切な状況 | 注意点 |
|---|---|---|
| 人事部・コンプライアンス室 | 一般的な申告先 | 加害者と人事が近い場合は不向き |
| ハラスメント相談窓口 | 専用窓口がある場合 | 第三者機関に委託しているかを確認 |
| 労働組合 | 組合員の場合 | 組合が会社寄りでないか確認 |
| 社外相談窓口 | 社外委託の場合 | 最も中立性が高い |
Step 2|申告書面の作成
口頭ではなく、必ず書面で申告します。口頭のみでは「相談を受けた記録がない」と言い訳される可能性があります。
【申告書面に記載すべき内容】
1. 申告者の氏名・部署・連絡先
2. 被害の概要(被害記録ノートをもとに記載)
3. 加害者の氏名・部署
4. 会社に求める対応(加害者への指導・処分・環境改善など)
5. 申告日時
6. 「書面で回答を求める」旨の一文を必ず追記
申告書面のコピーは必ず手元に保管してください。
Step 3|申告後の対応記録
申告後、会社から何らかの応答があった場合は、その内容を必ず記録します。
【記録すべき申告後の会社の対応】
□ 担当者名・日時・場所・発言内容
□ 「加害者の処分はどうなるか」を確認し回答を記録
□ 「いつまでに回答するか」の期限を確認
□ 「被害者(自分)を異動させる」など不利益な提案があれば記録
今すぐできる確認アクション:
自社のハラスメント相談窓口の連絡先(内線・メールアドレス)を今日中に確認し、申告書面の下書きを作成してください。
会社が動かない場合の外部機関への申告手順
社内申告をしても会社が適切な対応をしない場合、外部機関への申告が有効な手段です。これは「権利」であり、会社が制限することはできません。
都道府県労働局「雇用環境・均等部」への申告
最も重要な外部機関が都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。セクハラに関する行政指導・調停を担当する専門機関であり、無料で対応します。
【申告できる内容】
□ 会社がセクハラ被害の相談を無視・放置した
□ 加害者の成績を理由に適切な措置を取らなかった
□ 申告後に被害者が不利益な取扱いを受けた
□ 会社がセクハラ防止措置を整備していない
申告の手順:
STEP 1|管轄の都道府県労働局を確認
→ 厚生労働省公式サイトで「都道府県労働局 雇用環境・均等部」を検索
→ 勤務地の都道府県を選択
STEP 2|事前に電話で「ハラスメントの相談をしたい」と伝える
→ 予約制の場合あり
→ 匿名での相談も可能(匿名の場合は調査権限に限界あり)
STEP 3|証拠一式を持参して面談
→ 被害記録ノート(コピー)
→ デジタル証拠のプリントアウト
→ 社内申告書面のコピー
→ 会社の回答文書(あれば)
STEP 4|「助言・指導」または「調停」を申請
→ 軽微な段階:助言・指導(行政指導)
→ より深刻な場合:機会均等調停(第三者機関による調停)
重要な権利: 労働局への申告を理由として会社が不利益な取扱いをすることは、均等法第17条で禁止されています。申告したことへの報復は、それ自体が新たな違法行為です。
労働審判・民事訴訟の検討
会社や加害者が一切動かない場合、最終的な手段として労働審判または民事訴訟があります。
| 手段 | 特徴 | 期間の目安 | コスト |
|---|---|---|---|
| 労働審判 | 3回以内の審理で解決を図る迅速な手続き | 約3〜6ヶ月 | 弁護士費用+申立手数料 |
| 民事訴訟 | 損害賠償請求の正式な裁判 | 1〜2年以上 | 弁護士費用+訴訟費用 |
| 刑事告訴 | 強制性があった場合(強制わいせつ等) | 捜査状況による | 費用なし(ただし立証が困難) |
請求できる損害賠償の項目:
【被害者が請求できる可能性がある損害】
□ 慰謝料(精神的苦痛に対する補償:50〜300万円が相場)
□ 治療費(メンタルクリニック等の診療費)
□ 休業損害(セクハラにより働けなくなった期間の収入)
□ 弁護士費用(損害の一部として認定される場合あり)
【加害者個人への請求】
→ 民法709条「不法行為による損害賠償」
【会社への請求】
→ 民法715条「使用者責任」(加害者と会社の両方に請求可能)
→ 均等法違反に基づく損害賠償
今すぐできる確認アクション:
「法テラス(日本司法支援センター)」に電話(0570-078374)し、無料の法律相談を予約してください。費用が心配な方は「審査なし無料相談」から始めることができます。
「不利益取扱い」への対処——申告後の自分を守る
セクハラを申告した後、最も注意すべきが二次被害と不利益取扱いです。
法律が禁止している不利益取扱いの具体例
均等法第11条の2は、ハラスメントの相談・申告を理由とした不利益取扱いを明確に禁止しています。
【禁止されている不利益取扱いの例】
□ 解雇・雇い止め
□ 降格・減給
□ 不利な人事評価
□ 望まない部署への異動
□ 仕事を与えない・仕事を取り上げる
□ 嫌がらせや無視(職場での孤立化)
□ 「あなたも問題があった」という責任転嫁
もし不利益取扱いを受けたら:
STEP 1|不利益取扱いの内容を被害記録ノートに記録
STEP 2|人事通知・メール等の書面証拠を保全
STEP 3|労働局への申告内容に「不利益取扱いの事実」を追加
STEP 4|弁護士への相談を優先的に検討
相談先一覧——迷ったときの連絡先まとめ
| 相談先 | 特徴 | 連絡方法 |
|---|---|---|
| 都道府県労働局 雇用環境・均等部 | セクハラの専門窓口・無料 | 厚生労働省HPで管轄局を検索 |
| 総合労働相談コーナー | 全国の労働局・労働基準監督署に設置 | 0120-811-610(平日9〜17時) |
| 法テラス(日本司法支援センター) | 無料法律相談・弁護士費用立替制度あり | 0570-078374 |
| 女性の人権ホットライン | 法務省運営・プライバシー保護 | 0570-070-810 |
| 労働組合(ユニオン) | 組合員でなくても加入・相談可能なケースあり | 各地域のユニオンを検索 |
| 弁護士(個別相談) | 証拠評価・法的戦略の具体化 | 法テラスまたは地域弁護士会 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 加害者が「冗談だった」と言い張る場合はどうすれば?
A. セクシャルハラスメントの成立要件は「被害者が不快に感じたかどうか」であり、加害者の「冗談のつもりだった」という主観は法的に関係ありません。厚生労働省指針も「被害者の主観的な不快感・就業環境への悪影響」を基準としています。証拠と被害記録をもとに事実を積み上げることが重要です。
Q2. 社内申告したら加害者に知られてしまいますか?
A. 会社側は調査のために加害者にある程度の事実を告知する必要がある場合がありますが、「誰が申告したか」を加害者に伝えることは慎重に扱われるべきです。申告書面に「私の氏名を加害者に直接開示しないよう要請する」と明記することができます。また、外部相談窓口では匿名相談も可能です。
Q3. 証拠がほとんどない場合でも申告できますか?
A. 申告自体は証拠がなくても行えます。被害記録ノートの記述は証拠として認められます。また、労働局の調査官が会社・加害者へのヒアリングを行うことで事実関係が明らかになるケースも多くあります。「証拠がないから諦める」必要はありません。まず相談先に連絡することから始めてください。
Q4. 会社が「内部で解決するから外部に言わないで」と言ってきました。応じる義務はありますか?
A. ありません。外部機関(労働局・弁護士・ユニオン等)への相談・申告は被害者の権利です。「外部に言わないで」という会社の要求は、均等法上の申告権を妨害するものであり、場合によっては新たな違法行為(不利益取扱い)に該当します。会社のそのような発言も記録しておいてください。
Q5. 加害者が懲戒処分にならなかった場合、次にできることは?
A. ①都道府県労働局への申告(会社の措置義務違反として)、②労働審判による損害賠償請求(加害者個人・会社の両方を対象)、③弁護士を通じた内容証明郵便による示談交渉、の3つが主な選択肢です。懲戒処分は会社の判断ですが、民事上の損害賠償請求は会社の判断とは無関係に行えます。
まとめ|成績は「免罪符」にならない——あなたには行動する権利がある
セクシャルハラスメントに対し「業績が高いから」「会社の稼ぎ頭だから」という理由で庇護することは、男女雇用機会均等法に違反する会社の義務不履行であり、加害者の行為を法的に正当化しません。
この記事で解説してきた対応手順を改めて整理します。
【対応の全体フロー】
1. 被害記録ノートの作成(今日から)
↓
2. デジタル証拠・音声証拠の保全(1〜2日以内)
↓
3. 信頼できる人・外部相談窓口への初期相談
↓
4. 社内申告(書面で・コピー保管・回答期限を確認)
↓
5. 会社が動かない場合→都道府県労働局へ申告
↓
6. 必要に応じて弁護士相談・労働審判・民事訴訟
どの段階でも「もう遅い」ということはありません。 ただし、証拠は時間が経つほど集めにくくなるため、今日できることから始めることが最も重要です。
あなたが尊厳をもって働く権利は、誰かの業績によって奪われるものではありません。セクハラ加害者の庇護に直面しても、法律はあなたの側にあります。一人で抱え込まず、信頼できる人・専門家に相談することから始めてください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談ではありません。具体的な対応については、弁護士・労働局等の専門家に相談することをお勧めします。

