「解雇に納得できず異議を伝えたら、”訴えるなら給料は出さない”と言われた」——この発言は複数の法律に違反する可能性があります。泣き寝入りする必要はありません。今すぐ取るべき行動を、証拠収集・申告手順・損害賠償請求まで順を追って解説します。
目次
「訴えるなら給与を払わない」は何が違法なのか
結論から先に述べます。「訴えるなら給与は出さない」という発言は、少なくとも3つの法律に同時に違反する可能性があります。 会社側の発言は単なる脅し文句ではなく、刑事責任・民事責任を問われる違法行為です。焦る気持ちはわかりますが、まずこの事実を確認することが最初のステップです。
違法性の3層構造(報復禁止・脅迫罪・不法行為)
① 報復禁止違反:労働基準法104条
労働基準法104条2項は、次のように定めています。
「使用者は、労働者が前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」
——労働基準法第104条第2項
「前項の申告」とは、労働基準監督署などへの申告行為を指します。ただし、申告の「予告」や「権利行使の示唆」に対して給与支払いを拒絶する脅迫も、同条の趣旨に照らして報復行為と評価されます。
解雇通告後に「訴えたら給料を出さない」と言われた場合、これは「法的手段に訴えることを示唆した労働者」への報復的脅迫であり、本条違反の問題が生じます。違反した使用者には30万円以下の罰金(労働基準法120条)が科せられる可能性があります。
② 脅迫罪:刑法222条
刑法222条1項は「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者」を処罰すると規定しています。
「訴えるなら給与を払わない」という発言は、生計の維持という財産上の重大な利益を「害する」と告知する行為に該当し得ます。給与は労働者の生活を支える根幹であるため、これを人質にした脅しは脅迫罪(2年以下の懲役または30万円以下の罰金)の構成要件を満たす可能性があります。
刑事告訴が可能であるという事実は、交渉上の大きな切り札になります。
③ 不法行為責任:民法709条・710条
民法709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。
脅迫発言によって、あなたが受けた精神的苦痛・生活上の不安は「損害」として認定される可能性があります。民法710条は財産以外の損害(精神的損害)に対する賠償——いわゆる慰謝料——も認めています。
④ 賃金支払い義務違反:労働基準法24条・25条
仮に「給与を払わない」という脅しが実行に移された場合、労働基準法24条(賃金の直接・全額・毎月・一定期日払いの原則)および25条(非常時払い義務)に違反します。賃金の一方的不払いは、それ自体で6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法120条)の刑事罰の対象です。
違法性の整理表
| 法令 | 条項 | 違反行為の内容 | 制裁 |
|---|---|---|---|
| 労働基準法 | 104条2項 | 申告・訴訟予告への報復 | 罰金30万円以下 |
| 刑法 | 222条 | 財産上の害を告知する脅迫 | 懲役2年以下・罰金30万円以下 |
| 民法 | 709条・710条 | 違法な脅迫による損害・慰謝料 | 損害賠償義務 |
| 労働基準法 | 24条・25条 | 賃金の一方的不払い | 懲役6か月以下・罰金30万円以下 |
| 労働契約法 | 16条 | 合理的理由のない解雇(解雇権濫用) | 解雇無効 |
今すぐできるアクション①
この表をスクリーンショットして保存してください。相談先に持参する際の「違法性の根拠資料」として使えます。
今すぐやるべき証拠収集の手順
法的手続きの成否は「証拠の質と量」で決まります。脅迫発言があった直後から、以下の手順で証拠を確保してください。
STEP 1:脅迫発言の記録化(最優先)
脅迫発言があった場面の記録が最も重要です。
録音について
– 自分が当事者として参加している会話の録音は合法です(同意なく第三者の会話を録音する場合とは異なります)
– スマートフォンの録音アプリを常時起動しておく
– 発言者の名前・日時・場所が確認できる文脈も記録する(「○○部長が応接室で述べた」等)
発言のメモ化
– 録音できなかった場合は、発言直後に一字一句をメモする
– メモは日時・場所・発言者・立会人を明記する
– Googleドキュメントなどクラウド保存を活用し、改ざん防止を図る
メール・書面の保全
– 「解雇を知らせるメール」「給与不払いを示唆するメール・チャット」はすべてスクリーンショット保存
– 会社のメールアカウントからすぐにアクセスできなくなるリスクがあるため、私用メールへの転送や印刷も今すぐ行う
STEP 2:客観的書類の収集
以下の書類を今すぐ収集・コピーしておいてください。
| 書類 | 入手方法 | 重要性 |
|---|---|---|
| 解雇通知書・解雇理由書 | 会社から受領(書面要求が権利:労働基準法22条) | ★★★ |
| 就業規則(特に懲戒・解雇条項) | 会社に閲覧・コピーを請求 | ★★★ |
| 直近3か月分の給与明細 | 手元の書類を保全 | ★★☆ |
| 雇用契約書 | 手元の書類を保全 | ★★★ |
| タイムカード・勤怠記録 | 会社システムからDL・印刷 | ★★☆ |
| 人事評価記録 | 会社に開示請求 | ★★☆ |
今すぐできるアクション②
会社メールアカウントへのアクセスが遮断される前に、関連するすべてのメール・チャット履歴を私用メールに転送してください。「解雇」「退職」「給与」に関するやり取りを優先します。
STEP 3:証拠の安全な保管
収集した証拠はクラウドストレージ(Google Drive、iCloud等)と物理的なUSBメモリの2か所に分けて保管してください。会社のPCや社内ネットワーク上への保管は避けてください。
労働基準監督署への申告手順
証拠が揃ったら、速やかに労働基準監督署(労基署)へ申告します。申告は無料で、匿名申告も可能です(ただし実名申告のほうが調査が進みやすい)。
申告できる内容
- 給与の未払い・不払い脅迫(労働基準法24条・25条違反)
- 不当な解雇(労働基準法20条:解雇予告なし・解雇予告手当未払い)
- 報復行為(労働基準法104条2項違反)
申告の手順(5ステップ)
STEP A:管轄の労基署を確認する
申告先は「会社の所在地を管轄する労働基準監督署」です。厚生労働省の「全国労働基準監督署の所在案内」で検索できます。
STEP B:申告書類を準備する
| 書類 | 備考 |
|---|---|
| 申告書(労基署の窓口で入手可) | 持参・郵送・電子申請いずれも可 |
| 証拠書類のコピー | 録音データ・メモ・書類すべて |
| 本人確認書類 | 運転免許証・マイナンバーカード等 |
| 会社の基本情報 | 名称・所在地・代表者名・電話番号 |
STEP C:申告書に記載する内容
申告書には以下を明確に記載してください。
①申告者:氏名・住所・連絡先
②被申告人(会社):社名・所在地・代表者名
③申告事由:
「○年○月○日、解雇通告後に○○部長から
"訴えるなら給与を払わない"との発言があった。
これは労働基準法104条・24条に違反する報復行為・
賃金不払い脅迫であると考え申告する」
④添付証拠:録音データ(○月○日)、メモ(写し)ほか
STEP D:申告書を提出する
窓口持参・郵送・電子申請(厚労省e-Gov)のいずれかで提出します。窓口持参の場合は、その場で担当官に口頭で状況を説明できるため最も効果的です。受付番号・提出日時を必ず控えてください。
STEP E:労基署の対応を追う
申告後、労基署は会社への調査・指導を行います。結果は通常2週間〜数か月で通知されます。進捗が見えない場合は、申告番号を持って窓口で進捗確認をしてください。
今すぐできるアクション③
まず「労働基準監督署 [あなたの都市名]」で検索し、電話番号と受付時間を確認してください。今日中に電話予約または訪問の日程を決めましょう。
労基署申告と並行して使える相談窓口
| 機関 | 連絡先 | 特徴 |
|---|---|---|
| 総合労働相談コーナー | 各都道府県労働局内(無料) | 申告前の相談に最適 |
| 労働局あっせん(個別労働紛争解決制度) | 各都道府県労働局(無料) | 会社との話し合いを仲介 |
| 法テラス | 0570-078374(無料) | 弁護士費用の立替制度あり |
| 弁護士会労働相談 | 各都道府県弁護士会(有料・初回無料あり) | 法的見解を即座に確認 |
損害賠償・慰謝料請求の具体的方法
「訴えるなら給与を払わない」という脅迫発言そのものを理由に、民法709条・710条に基づく損害賠償(慰謝料)を請求できます。 さらに不当解雇が認められれば、解雇期間中の賃金相当額(バックペイ)も請求対象です。
請求できる金額の内訳
| 項目 | 法的根拠 | 金額の目安 |
|---|---|---|
| 未払い給与(不払いが実行された場合) | 労基法24条 | 実際の未払い額全額+遅延損害金(年3%) |
| 解雇予告手当(30日前予告なしの場合) | 労基法20条 | 平均賃金の30日分以上 |
| バックペイ(解雇無効時の賃金) | 労働契約法16条 | 解雇日〜復職/和解日までの給与相当額 |
| 慰謝料(脅迫・精神的苦痛) | 民法709条・710条 | 数十万〜100万円程度(事案による) |
| 弁護士費用 | 民法709条 | 損害額の約10%が認められることが多い |
請求の3つのルート
ルート①:内容証明郵便による直接請求
弁護士に依頼して「内容証明郵便」を会社宛に送付します。記載内容は以下のとおりです。
・脅迫発言の事実と日時
・具体的な請求項目と金額
・支払い期限(通常2週間〜1か月)
・応じない場合は法的手続きに移行する旨
内容証明は「発信した証拠」が残るため、後の訴訟で証拠として活用できます。費用は弁護士費用込みで3万〜10万円程度が目安です。
ルート②:労働審判(最短3回の期日で解決)
労働審判は裁判所が行う調停・審判手続きで、申立てから解決まで平均3〜6か月と訴訟より大幅に短期間です。費用も訴訟より抑えられます。
- 申立て先:会社所在地を管轄する地方裁判所
- 申立て費用:収入印紙代(請求額に応じて数千〜数万円)+弁護士費用
- 解決率:約75%が審判前の調停で解決
ルート③:民事訴訟(地方裁判所)
最も強力な法的手段です。解雇無効確認と損害賠償を同時に請求できます。
- 所要期間:6か月〜2年程度
- 費用:弁護士費用10万〜50万円程度(成功報酬型も多い)
- 不当解雇の地裁認定率:約40〜50%
今すぐできるアクション④
弁護士費用が心配な方は、まず加入中の自動車保険・火災保険の「弁護士費用特約」を確認してください。労働問題にも適用できる場合があり、弁護士費用300万円まで保険適用されることがあります。
内容証明郵便の作成例(テンプレート)
通知書
○年○月○日
株式会社○○
代表取締役 ○○ 殿
○○(あなたの氏名)
記
1. 貴社は○年○月○日、○○部長を通じて、
私に対し「訴えるなら給与を払わない」と発言しました。
この発言は労働基準法第104条第2項、
刑法第222条および民法第709条に違反します。
2. 上記発言による精神的苦痛に対する慰謝料として
金○○万円の支払いを請求します。
3. ○年○月○日までにご連絡がない場合は、
労働審判および刑事告訴を含む法的手続きに
移行することをお知らせします。
以上
弁護士・外部機関への相談フロー
以下のフローチャートを参考に、あなたの状況に合った相談先を選んでください。
状況別・相談先の選び方
【今日・明日中に動く必要がある場合】
→ まず「労働局総合労働相談コーナー」へ電話(無料)
平日 8:30〜17:15(各都道府県労働局)
【給与が実際に未払いになった場合】
→ 労働基準監督署に「賃金不払い」として即時申告
【解雇を無効にして職場復帰または和解金が欲しい場合】
→ 弁護士に依頼して「労働審判」申立て(最短3か月)
【脅迫罪での刑事告訴を検討している場合】
→ 弁護士相談のうえ、証拠を揃えて警察・検察へ告訴状提出
【費用をかけずに解決したい場合】
→ 法テラス(0570-078374)で「審査なし無料法律相談」を予約
弁護士選びの3つのポイント
- 「労働問題専門」または「労働事件の取扱い実績豊富」を確認する
-
弁護士ドットコムや法テラスの弁護士検索機能を活用
-
初回相談が無料かどうかを確認する
-
多くの労働専門弁護士は初回30分〜60分を無料で対応
-
成功報酬型かどうかを確認する
- 着手金0円・成功報酬型(回収額の15〜30%)の弁護士も多い
- 費用倒れリスクを回避できる
申告・請求の時系列チェックリスト
| タイミング | やること | 期限 |
|---|---|---|
| 脅迫発言直後 | 録音・メモ・書類収集 | 今日中 |
| 翌日〜3日以内 | 労働局または労基署へ相談の電話 | 今週中 |
| 1週間以内 | 弁護士への初回相談 | 今月中 |
| 2週間以内 | 内容証明郵便の送付(弁護士と協議) | 今月中 |
| 1か月以内 | 労働審判申立て(状況による) | 2か月以内 |
| 随時 | 証拠の追加収集・記録の更新 | 継続的に |
重要:時効に注意してください
– 賃金請求権の消滅時効:3年(労働基準法115条)
– 不法行為(慰謝料)の消滅時効:損害と加害者を知った時から3年(民法724条)
– 時効が完成すると請求権が消滅しますが、まず弁護士に相談すれば時効を止める手段(催告・訴訟提起等)を講じてもらえます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 録音なしで脅迫発言を証明できますか?
A. 録音がなくても証明は可能です。ポイントは「複数の証拠を組み合わせること」です。あなたが脅迫発言直後に書いたメモ・日記(日付入り)、当日のメール・チャットのやり取り、目撃した同僚の証言(後日文書で取得)、発言後の会社の態度(給与の実際の不払い等)が複合的に証明力を持ちます。労働事件では「証拠の総合的評価」が行われるため、録音がないことは致命的ではありません。
Q2. 解雇通知書をもらっていませんが、口頭解雇は有効ですか?
A. 法的には口頭でも解雇は成立し得ますが、労働基準法22条に基づき「解雇理由証明書」を請求する権利があります。書面交付を拒否する会社は、後の訴訟で著しく不利な立場に置かれます。「解雇理由を書面で交付してください」と書面(メール可)で要求し、その送信記録を保存してください。
Q3. 会社から「自己都合退職にしてほしい」と言われましたが、応じるべきですか?
A. 絶対に応じてはいけません。 自己都合退職と会社都合退職では、雇用保険(失業給付)の給付開始時期・給付日数が大きく異なります。自己都合では給付制限期間が2か月(5年内2回目以降は3か月)発生します。また、退職合意書にサインすると「不当解雇を争う権利を放棄した」と解釈されるリスクがあります。サインを求められたら「弁護士に確認してから」と伝え、その場でのサインを拒否してください。
Q4. 解雇後に離職票を発行してもらえない場合はどうしますか?
A. 離職票の発行は会社の法的義務です(雇用保険法76条)。発行を拒否・遅延した場合は、ハローワーク(公共職業安定所)に直接相談してください。ハローワークが会社に対して離職票の発行を指導・命令できます。また、離職票がなくても「解雇を証明する書類(解雇通知書等)」があれば、ハローワークで仮手続きができる場合があります。
Q5. 会社が「損害賠償請求するぞ」と逆に脅してきた場合は?
A. 労働者が適法な権利行使(申告・訴訟・組合活動)をしたことを理由に使用者が損害賠償を請求しても、そのような請求は権利の濫用(民法1条3項)または不法行為として無効・違法とされるのが裁判実務の傾向です。「報復的訴訟(SLAPP)」と呼ばれるこのような行為は、むしろ会社側の違法性を強める証拠になります。ただし、冷静に弁護士に相談し、不用意に会社資産を持ち出したり業務妨害を行ったりしないよう注意してください。
Q6. 費用なしで対応する方法はありますか?
A. 以下の無料・低費用の手段を組み合わせてください。
| 手段 | 費用 | 概要 |
|---|---|---|
| 労基署への申告 | 無料 | 賃金不払い・報復行為の調査・指導 |
| 総合労働相談コーナー | 無料 | 労働局での相談・あっせん申請 |
| 法テラスの審査なし相談 | 無料 | 弁護士による法律相談(収入要件なし) |
| 法テラスの審査あり立替制度 | 実質無料 | 弁護士費用の立替(分割返済) |
| 弁護士費用特約(保険) | 保険適用 | 自動車保険・火災保険の付帯特約 |
まとめ:今日から動くための3つの最重要行動
本記事で解説した内容を、最後に3点に絞って確認します。
① 「証拠を今すぐ確保する」
脅迫発言の録音・メモ・関連書類のコピー。これが一番大切です。後から集めようとしても手遅れになることがあります。
② 「労基署または労働局に今週中に連絡する」
無料で相談でき、会社への調査・指導を求められます。申告者は法律で守られており、申告を理由とした追加の報復は新たな違法行為となります。
③ 「1人で抱え込まず弁護士に相談する」
初回無料の弁護士相談・法テラスを活用してください。「費用がかかる」と思い込んで動かないことが最も損です。法的に守られた権利を行使することは、あなたの正当な行動です。
「訴えるなら給与を払わない」という発言に怯える必要はありません。法律はあなたの側にあります。 本記事で解説した違法性の根拠・具体的な申告手順・損害賠償請求の方法を手がかりに、まずは最寄りの労働基準監督署または労働局に相談してください。専門家のサポートを得ることで、適切な解決への道が必ず開けます。
免責事項
本記事は一般的な労働法の情報提供を目的としており、個別の法律相談ではありません。具体的な対応については、必ず弁護士または労働専門機関にご相談ください。法令の解釈・適用は個別事情によって異なる場合があります。

