「給与口座がないから、あなたには給料を払えない。だから解雇する」
そう言われて仕事を失った外国人労働者は、今まさに二重の苦しみを抱えています。働いた賃金を受け取れないという経済的な痛みと、「自分が悪いのかもしれない」という孤独な不安です。
はっきり伝えます。その解雇は違法です。給与を払わなくていい理由にはなりません。
日本の法律はあなたを守っています。国籍・在留資格・言語の違いは関係なく、日本で働くすべての労働者に同じ権利があります。本記事では、今まさに給与未払いで解雇された外国人労働者が、証拠の集め方から労働基準監督署(労基署)への申告、多言語の無料相談窓口まで、具体的な行動手順を順を追って解説します。
「給与口座がない外国人は解雇できる」は完全な違法行為
日本の法律が定める賃金支払いの原則
日本の労働基準法第24条は、「賃金全額払いの原則」を定めています。使用者(雇用主)は、労働者が働いた対価を全額・直接・毎月決まった日に・通貨で支払う義務があります。
銀行口座への振込は最もよく使われる支払い方法ですが、法律上の唯一の方法ではありません。現金での手渡しも合法ですし、労働者が口座を持っていない場合は、会社が現金で支払う義務があります。「口座がないから払えない」は法律的にまったく成立しない言い訳です。
さらに重要なのは、給与の銀行口座振込は、労働者本人の同意がある場合にのみ認められることです。つまり、口座への振込は会社側の「権利」ではなく、あくまで労働者の同意を得た「方法のひとつ」に過ぎません。
外国人であることを理由にした解雇は差別
「外国人だから」「口座がない外国人だから」という理由で解雇することは、男女雇用機会均等法第3条および労働施策総合推進法が禁じる国籍による不合理な差別に該当します。
また、労働契約法第16条は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない解雇は無効」と定めています。「給与口座がない」は客観的合理的理由にまったく当たらないため、この解雇は法律上最初から無効です。
解雇が無効であれば、雇用関係は継続していることになり、解雇後の期間の賃金(バックペイ)も請求できます。
解雇予告がなければさらに違法
労働基準法第20条は、解雇する場合は少なくとも30日前に予告するか、予告しない場合は30日分以上の解雇予告手当を支払うことを義務付けています。突然「今日で解雇」と言われた場合、賃金の未払いに加えて解雇予告手当も請求できます。
| 違反している法律 | 内容 | 重大性 |
|---|---|---|
| 労働基準法第24条 | 賃金全額払い原則違反 | 違法・無効 |
| 労働基準法第20条 | 解雇予告・予告手当の不払い | 違法 |
| 労働基準法第15条 | 労働条件の明示義務違反 | 重大 |
| 労働契約法第16条 | 客観的合理性のない解雇 | 無効 |
| 男女雇用機会均等法第3条 | 国籍を理由とした差別 | 違法 |
まず48時間以内にやること
時間が経つほど証拠は消えます。会社は記録を削除・改ざんするかもしれません。言語の壁があっても、今日できることから始めてください。
解雇を「書面」にさせる
会社に「解雇理由証明書」の交付を求めてください。労働基準法第22条により、労働者が請求した場合、会社は遅滞なく解雇理由を書面で交付する義務があります。
口頭で解雇を告げられた場合は、その場でメモをとり、日時・場所・発言した人の名前・言われた言葉を記録してください。スマートフォンのメモアプリで構いません。可能であれば会話を録音することも有効です(日本では、会話の当事者が録音することは合法です)。
もし会社がメールやメッセージアプリで解雇を通知してきた場合は、すぐにスクリーンショットを撮ってクラウドやメール等に保存してください。
証拠を今すぐ保全する
以下のものを即日コピー・スクリーンショット・写真撮影で保存してください。
- 雇用契約書(Employment Contract):給与額・労働時間・解雇条件が書かれている
- 給与明細(Pay Slip):これまで受け取ったすべての給与明細
- タイムカード・シフト表:実際の労働時間を証明する記録
- 業務日報・作業記録:働いていた事実を示すもの
- 会社からのメール・チャット:業務指示・やりとりの記録すべて
- 同僚の連絡先:解雇の様子を見ていた人の名前・連絡先
特に注意が必要なのは、会社が使っている勤怠管理システムやクラウドサービスへのアクセス権です。解雇された瞬間にアカウントを停止される場合があります。ログイン前に保存できるものはすぐに保存してください。
未払い賃金の金額を計算する
未払い賃金の金額を自分で計算し、記録しておきましょう。
計算の基本:時給 × 実際に働いた時間 = 受け取るべき賃金
これまでに振り込まれた(または現金で受け取った)金額と比較して、差額がいくらかを算出します。残業代・深夜手当・休日手当も含めて計算してください(日本の法律では、残業は通常賃金の1.25倍、深夜は1.25倍、法定休日は1.35倍です)。
言語の壁を越える:今すぐ使える多言語相談窓口
言語の問題は最大の障壁のひとつです。しかし、無料で多言語対応している相談窓口が複数あります。一人で抱え込まないでください。
外国人労働者向け専門窓口
外国人労働者向け相談ダイヤル(厚生労働省)
– 電話:0570-001-701
– 対応言語:日本語・英語・中国語・ポルトガル語・スペイン語・タガログ語・インドネシア語・ベトナム語・タイ語・韓国語・モンゴル語・ネパール語(計12言語)
– 受付時間:平日 10:00〜17:00(各言語により異なる場合あり)
– 費用:無料
法テラス(日本司法支援センター)
– 電話:0570-078374
– 多言語対応あり・電話通訳サービスを利用した相談が可能
– 収入や資産が一定基準以下の方は、弁護士費用の立替制度(法律扶助)を利用できます
– 初回相談:無料
各都道府県の外国人相談窓口
– 各都道府県の国際交流協会が、多言語での労働相談を提供しています
– 通訳派遣サービスを無料または低額で提供している自治体も多くあります
JNATC(外国人労働者弁護団)・NPO・労働組合
– 外国人労働者を専門に支援するNPOや合同労働組合(ユニオン)は、通訳を同行して労基署への申告に付き添ってくれる場合があります
– 「外国人労働者 支援 NPO +(お住まいの都市名)」で検索してみてください
大使館・領事館への相談
自国の大使館・領事館も相談先のひとつです。ただし、大使館は日本の法律に基づいた直接交渉はできません。しかし、信頼できる弁護士や支援団体への紹介、母国語でのアドバイスを受けられる場合があります。
在留資格への影響:正しく知って不安を解消する
外国人労働者が最も恐れることのひとつが「相談したり申告したりすると在留資格に影響が出るのではないか」という不安です。この点について正確に説明します。
労基署への申告は在留資格に影響しない
労働基準監督署は、在留資格の管理を行う機関ではありません。 労基署は厚生労働省の機関であり、労働法の違反を調査・是正するところです。申告の内容は、出入国在留管理庁(入管)に通報されることはありません。
給与未払いや不当解雇を申告することで、在留資格が取り消されることはありません。 むしろ、権利を主張せずに不法な状態を放置することの方が、生活基盤を失うリスクがあります。
雇用が失われた場合の在留資格への対処
解雇により雇用関係が失われた場合、就労系の在留資格(技術・人文知識・国際業務、技能実習など)には影響が出る可能性があります。
しかし、不当解雇の場合は状況が異なります。
- 解雇が無効(労働契約法第16条)であれば、法律上は雇用関係が継続しているため、在留資格の活動状況に問題は生じません
- 転職・就職活動のための猶予期間:就労系在留資格を持つ方が離職した場合、原則として3か月以内に新たな就労先を探す必要があります。この間は適法に在留できます
- 出入国在留管理庁への届出:離職した場合は、14日以内に出入国在留管理庁への届出が必要です。この届出は、あなたの権利を守るための手続きであり、罰則のためではありません
在留資格への具体的な影響については、入管の窓口または入国管理局の「外国人在留総合インフォメーションセンター」(0570-013904)に相談することができます。
技能実習生・特定技能の方へ
技能実習生や特定技能外国人の場合、監理団体や登録支援機関が関わっています。会社からの不当な扱いを受けた場合は、監理団体・登録支援機関への報告と同時に、外国人技能実習機構(OTIT)(0120-250-168、多言語対応)にも相談してください。技能実習生には特別な保護制度が設けられています。
労基署への申告:具体的な手順
申告前に準備するもの
労基署に申告する前に、以下を準備しておくとスムーズです。
- 雇用契約書(コピー)
- 給与明細(コピー)
- 解雇通知書または解雇理由証明書(ある場合)
- 未払い賃金の計算書(自分で作成)
- 勤務記録(タイムカード・シフト表・業務日報など)
- 自分の在留カード(または旅券)
- 会社の名称・住所・電話番号
労基署への連絡・訪問
会社の所在地を管轄する労働基準監督署に連絡します(「○○市 労働基準監督署」で検索可能)。
電話での初回相談が最初のステップです。
電話では以下を伝えてください。
- 外国人労働者であること(日本語が難しい場合はその旨も伝える)
- 給与を支払われずに解雇されたこと
- 解雇された日と未払い賃金の期間
言語に不安がある場合は、日本語が話せる支援者(NPO・労働組合・通訳)に同行をお願いすることを強くお勧めします。労基署によっては通訳を手配してくれる場合もあります。
申告書の提出
実際の申告は、労基署に「申告書」を提出することで行います。申告書の書式は労基署の窓口でもらえます。申告書には以下を記載します。
- 申告する労働者の氏名・住所・連絡先
- 会社の名称・住所
- 違反の内容(給与未払い・不当解雇)と期間
- 証拠として提出する書類のリスト
申告書は日本語で書く必要がありますが、支援者や通訳の助けを借りて作成することができます。「外国人労働者 申告書 書き方」で支援NPOの書き方ガイドも見つかります。
労基署申告後の流れ
申告を受理した労基署は、会社に対して是正勧告を行います。是正勧告に従わない場合は書類送検(刑事罰)の対象になります。未払い賃金については、会社が任意で支払う場合もありますし、応じない場合は次のステップへ進みます。
労基署申告以外の選択肢
労働局のあっせん制度
都道府県労働局が行う「あっせん」制度は、労働者と会社の間に第三者が入って話し合いを仲介する無料の制度です。労基署の申告と並行して利用できます。裁判ほど時間もお金もかかりません。
申請先:各都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」(無料・全国設置)
少額訴訟・民事調停
未払い賃金が60万円以下の場合、少額訴訟を利用することで、弁護士なしでも裁判所に賃金請求できます。裁判手数料は数千円程度です。60万円を超える場合は通常の民事訴訟になりますが、法テラスの弁護士費用立替制度を活用できます。
賃金の時効に注意
2020年4月以降に発生した賃金の未払いは、時効が3年です(以前は2年)。解雇された日から3年以内であれば、法的手続きで賃金を取り戻せます。ただし、時間が経つほど証拠が失われやすく、解決も難しくなります。なるべく早く行動してください。
証拠が残っていない場合でも諦めないで
「雇用契約書をもらっていない」「給与明細がない」という方も少なくありません。そのような場合でも、以下の間接証拠で労働事実を立証できる可能性があります。
代替となる証拠の例:
- 銀行の入出金明細:給与相当額の振込がある場合、雇用関係の証拠になります
- スマートフォンの通話・メッセージ記録:会社・上司とのやりとり
- 職場の写真・動画:仕事をしていた様子
- SNSの投稿記録:勤務地・業務内容を示す投稿
- 同僚・知人の証言:一緒に働いていた人の証言書
- 交通系ICカードの利用記録:通勤の記録
- 制服・作業着・名刺:会社との関係を示す物品
また、会社は労働基準法第107条・108条により賃金台帳と労働者名簿の作成・保存が義務付けられています。労基署が調査に入れば、これらの書類を会社から提出させることができます。
母国の法律との主な違い
日本の労働法は、母国の制度と大きく異なる場合があります。特に外国人労働者が誤解しやすい点を整理します。
| 項目 | 日本のルール | 誤解されやすい点 |
|---|---|---|
| 試用期間の解雇 | 試用期間中でも解雇には正当理由が必要 | 「試用期間中はいつでも解雇できる」は誤り |
| 口頭での合意 | 書面がなくても雇用契約は成立する | 「契約書がないから権利がない」は誤り |
| 有給休暇 | 6か月勤続・8割出勤で10日付与(法定) | 自動的に付与される法的権利 |
| 解雇予告 | 30日前の予告または予告手当が必要 | 「明日から来なくていい」は原則違法 |
| 残業代 | 法定労働時間(週40時間・日8時間)超過分は割増賃金 | 「サービス残業」は違法 |
| 社会保険 | 一定条件を満たせば国籍問わず加入義務 | 外国人も日本人と同じく加入の権利と義務がある |
最も重要な点:日本で働く外国人労働者には、日本人労働者とまったく同じ労働法上の権利があります。国籍・在留資格の種類を問わず、日本で就労した事実があれば保護されます。
よくある質問
Q1. 日本語がほとんど話せなくても労基署に相談できますか?
はい、できます。厚生労働省の「外国人労働者向け相談ダイヤル」(0570-001-701)は12言語に対応しており、電話で母国語のまま相談できます。また、労基署に訪問する際も、支援NPOや労働組合に通訳を依頼して同行してもらうことができます。言語の壁は解決できます。一人で諦めないでください。
Q2. 解雇は口頭で言われただけです。証拠になりますか?
口頭での解雇発言も証拠になります。言われた日時・場所・発言者・内容をすぐにメモし、できれば録音してください(会話当事者による録音は日本では合法です)。また、労働基準法第22条に基づき、会社に「解雇理由証明書」の発行を書面で請求することができます。会社がこれを拒否した場合、それ自体が法律違反になります。
Q3. すでに帰国してしまいましたが、未払い賃金は請求できますか?
請求できます。時効は3年です。帰国後でも、日本の弁護士に委任状を送ることで代理請求が可能です。法テラスは海外在住者の利用に制限がある場合がありますが、弁護士への個別依頼や、支援NPOへの相談をメールで行うことは可能です。まずは日本の支援団体にメールで相談してみてください。
Q4. 会社が「無断欠勤」を理由に解雇したと言っています。どうすればいいですか?
給与未払いを理由に出勤を止めた場合、それは「正当な理由」のある欠勤として扱われる可能性があります。また、給与を支払わないこと自体が会社側の債務不履行であり、解雇の正当理由を主張できる立場にあるのは労働者側です。解雇に至った経緯を時系列でまとめ、支援者・弁護士に相談してください。
Q5. 会社が倒産・閉業してしまいました。未払い賃金は取り戻せますか?
「未払賃金立替払制度」を利用できる場合があります。これは、会社が倒産して賃金を払えない状態になった場合に、国(労働者健康安全機構)が一定範囲の未払い賃金を立て替えて支払う制度です。申請には条件があります(会社が法律上または事実上の倒産状態であること等)が、外国人労働者も対象です。最寄りの労基署に確認してください。
Q6. 解雇された後、新しい仕事が見つかりました。それでも未払い賃金は請求できますか?
はい、請求できます。新しい仕事が見つかったことと、過去の未払い賃金を請求する権利は別の問題です。時効(3年)内であれば、いつでも請求を開始できます。
実際の相談事例:解決までの流れ
ケース:ベトナム国籍の技能実習生が給与2か月分未払いで解雇された場合
- 相談(相談ダイヤル):外国人労働者向け相談ダイヤル(0570-001-701)にベトナム語で電話相談。給与明細と雇用契約書の保存を指示される。
- 支援団体への相談:NPOが通訳を派遣し、勤務記録・銀行明細などを整理。未払い額が約50万円と算出される。
- 労基署への申告:労基署の窓口で支援者同行のもと申告書を提出。給与未払いと解雇理由書の不交付が法律違反と指摘される。
- 会社への是正勧告:労基署が会社を調査。賃金台帳から明らかに未払いであることが判明。是正勧告を発出。
- 賃金の支払い:会社が期限内に未払い賃金を支払う。同時に労働者は在留資格の転換手続きを進め、新たな雇用先に就職。
このようなケースでも、正しい手順を踏めば解決は可能です。
まとめ:今すぐできる3つのアクション
どんな状況にあっても、今日からできることがあります。
アクション①:証拠を保全する
雇用契約書・給与明細・勤務記録・会社とのやりとりをすべてコピー・スクリーンショットで保存する。スマートフォンだけで始められます。
アクション②:母国語で相談する
「外国人労働者向け相談ダイヤル 0570-001-701」に電話する。無料・12言語対応・今日から使えます。
アクション③:申告を先送りにしない
時効は3年ですが、証拠は時間とともに消えます。相談ダイヤルや支援NPOと連絡を取りながら、労基署への申告に向けて動き出してください。
あなたには権利があります。言語や国籍の壁があっても、日本の法律はあなたを守っています。一人で抱え込まず、今日の一歩を踏み出してください。
関連する相談先の一覧をお手元に保存し、信頼できる支援者に相談することが、問題解決への最短経路です。
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的なケースについては、弁護士・社会保険労務士・労基署に相談してください。法律は改正される場合があります。

