解雇予告期間中に「明日から来なくていい」と自宅待機を命じられた——そのとき、給与はどうなるのか。「会社に来ていないから無給でいい」と思い込んでいる労働者は少なくありませんが、それは法的に誤りである可能性が高いです。
解雇予告期間中は労働契約がまだ存続しており、会社が自ら「来なくていい」と指示している以上、給与支払い義務は原則として消えません。この記事では、給与支払い義務の法的根拠・最低60%保証の仕組み・証拠の集め方・労基署への申告手順を、今日から使える実務ガイドとして解説します。
解雇予告期間中の自宅待機とは何か|給与支払い問題の本質
解雇予告期間は「労働契約が継続している期間」
労働基準法第20条は、会社が労働者を解雇する場合、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うよう義務付けています。
労働基準法第20条
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
ここで見落とされがちなのが、予告から実際の解雇日まで労働契約は存続しているという事実です。「○月△日をもって解雇します」と通知されたとしても、その日が来るまであなたは依然として従業員であり、会社との雇用関係は法的に生きています。
✅ 今すぐできるアクション
- 解雇予告通知書の写しを取得し、解雇日(予告期間の終期)を確認する
- 解雇日までの日数を計算し、「自分は今どの期間にいるのか」を明確にする
「自宅待機命令」と「職務提供しない」という矛盾
会社が「明日から来なくていい」「自宅で待機してほしい」と指示するとき、会社自身が労働者の職務提供を拒絶していることになります。
会社はこの状態を「働いていないから給料は出ない」と主張しますが、法律の論理は逆です。
会社が「来なくていい」と命じている=会社の都合で就労できない
→ その責任は会社側が負う
これは「使用者の責に帰すべき事由」に該当し、休業手当(労働基準法第26条)の支払い義務が生じます。働きに行けない原因を作ったのが会社である以上、その経済的リスクを労働者に転嫁することは許されません。
給与支払い義務の法的根拠|4つの法令を整理
根拠①:労働基準法第26条(休業手当)
最低限の給与保護を定めた規定です。
労働基準法第26条
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
自宅待機命令は「使用者の指示による休業」に当たるため、平均賃金の60%以上の支払いが法的に義務付けられます。これは最低ラインです。会社が「給与ゼロ」や「60%未満」を主張してきた場合は、この条文違反を根拠に請求できます。
平均賃金の計算方法
平均賃金 = 算定事由発生日以前3か月間の賃金総額 ÷ その期間の総日数
✅ 今すぐできるアクション
- 直近3か月分の給与明細を手元に集める
- 合計賃金額を3か月の総日数(90日前後)で割り、平均賃金を計算する
- その60%が「最低でも受け取れる金額」になる
根拠②:民法第536条第2項(危険負担)
より踏み込んだ給与請求の根拠となる条文です。
民法第536条第2項
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。
「債権者(会社)の責めに帰すべき事由」によって労働者が働けなくなった場合、労働者は賃金請求権を失わないと定めています。
会社が自宅待機を命じた=会社の判断で就労不能にした→給与(反対給付)は全額受け取れる、というロジックです。
労基法26条との違い
| 根拠条文 | 請求できる金額 |
|---|---|
| 労働基準法第26条 | 平均賃金の60%以上 |
| 民法第536条第2項 | 全額(100%) |
民法の規定は「労基法の最低保証を上回る権利」として機能します。会社が「60%払ったので終わり」と言っても、残り40%を民法に基づき追加請求できます。
✅ 今すぐできるアクション
- 会社から60%しか支払われない場合は、「民法536条2項に基づき全額支払いを求める」旨を書面(内容証明郵便)で通知することを検討する
根拠③:労働基準法第20条(解雇予告)との連動
予告期間中も雇用契約は継続しているため、通常の賃金支払い義務(労働基準法第24条:賃金全額払い原則)も並行して存在します。
会社が「予告期間中だから特別ルール」と主張しても、賃金全額払い原則から逸脱することはできません。
根拠④:判例の立場
裁判所は一貫して「解雇予告期間中の自宅待機=使用者の指示に基づく休業」と判断し、給与支払い義務を認めてきました。
- 東京地方裁判所の複数の判例:自宅待機中の給与請求を認容し、通常給与の支払いを命じた事案が存在します
- 最高裁判所の基本姿勢:予告期間中の自宅待機は給与支払い義務を減免しない(解雇が有効に成立していない限り)
会社側が主張しがちな「職務の提供がないから給与不要」という論理は、自宅待機が使用者の指示によるものである以上、認められないというのが司法の立場です。
給与支払い拒否が起きやすいパターンと会社の言い分
実務では、以下のような会社側の言い分でトラブルになるケースが多発しています。
| 会社の言い分 | 法的評価 |
|---|---|
| 「来ていないから無給」 | ❌ 違法。会社が来なくていいと命じている |
| 「有給休暇扱いにした」 | ❌ 本人の同意なく有給を充当することは原則不可 |
| 「60%は払う。残りは出ない」 | ⚠️ 労基法は満たすが、民法上は全額請求可能 |
| 「退職届を書けばまとめて払う」 | ❌ 退職届は解雇を認めたことになりかねない。出さないこと |
| 「会社の業績悪化はやむを得ない事由」 | ❌ 経営判断による休業は「使用者の責」に該当する |
⚠️ 特に重要:「退職届を出してほしい」と言われても、絶対に応じないでください。退職届を提出すると、解雇ではなく自己都合退職になり、解雇予告期間の給与請求が著しく困難になります。
証拠の集め方|証拠なければ権利なし
法的請求を実現するには、「自宅待機を命じられた事実」と「給与が支払われなかった事実」を証明する証拠が不可欠です。
絶対に保存すべき証拠一覧
【書類・文書系】
✓ 解雇予告通知書(原本または写真)
✓ 自宅待機命令書(書面があれば)
✓ 雇用契約書・就業規則
✓ 給与明細(直近6か月分)
【電子データ系】
✓ メール(自宅待機を指示するもの)
✓ LINE・Slack・社内チャット(スクリーンショット)
✓ 電話での指示(日時・指示内容を直後にメモ)
【記録系】
✓ 日記・ノート(毎日:日付・時刻・誰から・何を言われたか)
✓ タイムカード・出退勤記録(在職中のもの)
✓ 給与振込明細・通帳記録
✅ 今すぐできるアクション
- スマートフォンで解雇予告通知書を今日中に撮影する
- メール・LINEのスクリーンショットをクラウドストレージ(Google Drive等)にバックアップする
- 会社支給のPCやスマートフォンがある場合は、返却前に必要なデータを個人機器にバックアップする
労基署への申告手順|ステップバイステップ
ステップ1:管轄の労働基準監督署を確認する
会社の所在地を管轄する労働基準監督署に申告します(自宅近くではなく会社所在地が基準)。
- 検索方法:「[都市名] 労働基準監督署」でGoogle検索
- または厚生労働省の「労働基準監督署の所在地一覧」(公式サイト)を参照
ステップ2:申告前に「申告書」を準備する
労基署への申告(正式名称:申告書の提出)は、窓口で申告書用紙に記載するか、事前に書面を作成して持参する方法があります。
申告書に記載する内容
1. 申告者(労働者)の氏名・住所・連絡先
2. 会社名・代表者名・所在地
3. 申告の趣旨(例:「解雇予告期間中の自宅待機に対する給与未払い」)
4. 違反している法令(例:「労働基準法第26条違反」)
5. 事実の経緯(時系列で)
6. 証拠の有無・内容
7. 求めること(是正勧告・調査)
ステップ3:窓口に相談・申告する
労基署窓口では、まず「相談」として状況を説明し、担当官の判断で「申告」手続きに移行します。
- 持参物:解雇予告通知書・自宅待機命令の証拠・給与明細・雇用契約書・筆記用具・印鑑
- 所要時間:初回相談は30~60分が目安
- 費用:無料
💡 ポイント:「給与が支払われていない期間と金額」を具体的な数字で伝えると、担当官が動きやすくなります。
ステップ4:是正勧告・調査の流れ
申告受理
↓
労基署が会社に調査(立入検査・書類提出要求)
↓
違反が認められた場合 → 会社に「是正勧告書」交付
↓
会社が是正(給与支払い)
↓
是正不履行の場合 → 検察への告発も可能
労基署による是正勧告は法的強制力を持ちませんが、9割以上の事業者が是正勧告に従うとされており、実務的に非常に有効な手段です。
並行して使える相談窓口
労基署の申告と並行して、以下の窓口も活用できます。
| 相談先 | 特徴 | 費用 |
|---|---|---|
| 総合労働相談コーナー(厚労省) | 都道府県の労働局内。あっせん手続きも可能 | 無料 |
| 法テラス | 弁護士費用の立替制度あり。低所得者向け | 無料相談あり |
| 弁護士(労働専門) | 未払い給与の法的請求・交渉を代理 | 有料 |
| 社会保険労務士 | 書類作成・労基署申告のサポート | 有料 |
| 労働組合・ユニオン | 会社との団体交渉権あり。即時加入可能 | 組合費のみ |
💡 ユニオン(合同労組)は特に有効です。個人でも加入できるユニオンに所属すると、団体交渉権に基づいて会社と直接交渉でき、会社は正当な理由なく交渉を拒否できません。
弁護士・法的手続きへの移行タイミング
以下の状況に該当する場合は、早急に弁護士に相談することを強く推奨します。
- 労基署の是正勧告後も会社が給与を支払わない
- 給与未払い額が数十万円以上になっている
- 会社が解雇自体の有効性を争い、雇用継続も求めたい
- 会社からハラスメントや不利益な扱いを受けている
- 解雇が無効だと判断し、職場復帰を求めたい
弁護士に依頼した場合、労働審判(申立てから約3か月で解決)や地方裁判所への訴訟提起が可能になります。未払い賃金には年3%の遅延損害金(民法所定利率)が加算されるため、交渉が長引くほど会社の支払い総額は増加します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 自宅待機中に「有給休暇として処理した」と会社から言われた場合は?
A. 有給休暇は労働者が取得を申請するものであり、会社が一方的に充当することは原則として認められません(労働基準法第39条)。ただし、計画年休制度(就業規則に規定がある場合)の場合は例外があります。身に覚えのない有給充当には「同意していない」旨を書面で会社に伝えましょう。
Q2. 解雇予告期間が30日に満たない場合はどうなりますか?
A. 30日未満の予告しか行われなかった場合、会社は不足日数分の平均賃金(解雇予告手当)を支払う義務があります。例えば20日前の予告なら、10日分の平均賃金を請求できます。これも労働基準法第20条の定めです。
Q3. 自宅待機中に転職活動・副業をしてもいいですか?
A. 就業規則に副業禁止・競業避止義務の規定がある場合は注意が必要です。ただし、解雇予告期間中であれば就業規則の効力が将来的に及ばなくなることも考慮し、弁護士や社労士に個別相談することをお勧めします。転職活動自体は通常問題ありません。
Q4. 「給与を払うから退職届を出してほしい」と言われたらどうすれば?
A. 退職届を出すと自己都合退職になり、①解雇予告期間の給与請求権が曖昧になる、②失業給付の給付制限期間が発生する(最大3か月)、③不当解雇の主張ができなくなる——といった重大な不利益が生じます。絶対に応じないでください。給与の支払いと退職届は切り離して、まず給与を受け取った上で、解雇の効力を争うことが正しい対処です。
Q5. 労基署に申告すると、会社に報復されないか心配です。
A. 労働基準法第104条第2項は、申告を理由とする解雇・不利益取扱いを明示的に禁止しています。申告を理由とした報復行為があった場合、それ自体が法違反となり、追加の申告対象になります。また、匿名での相談も受け付けています(ただし、正式申告には記名が必要です)。
まとめ|解雇予告期間の自宅待機で知るべき3つのこと
解雇予告期間中の自宅待機問題で、必ず押さえておきたいポイントを整理します。
1. 法的根拠を理解する
→ 労基法26条で「平均賃金の60%以上」が保証
→ 民法536条2項で「全額請求」も可能
→ 予告期間中は契約存続。無給は原則違法
2. 証拠を今日から集める
→ 解雇予告通知書・自宅待機の指示・給与明細
→ 退職届は絶対に出さない
3. 相談先に早期にアクセスする
→ 労基署への申告(無料・会社所在地管轄)
→ ユニオン加入で団体交渉権を確保
→ 未払い額が大きければ弁護士へ
「来なくていい」と言われたあなたの給与請求権は、法律によって守られています。一人で悩まず、今日から行動を始めましょう。
免責事項:本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な対応については、弁護士・社会保険労務士・労働基準監督署にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 解雇予告期間中に自宅待機を命じられた場合、給与は支払われないのですか?
A. いいえ。労働基準法第26条により、会社の指示による自宅待機は「使用者の責に帰すべき事由」に該当し、平均賃金の60%以上の支払いが義務付けられます。
Q. 平均賃金の60%とは、具体的にいくら支払われることになりますか?
A. 直近3か月間の賃金総額を総日数で割った平均賃金の60%です。給与明細から計算できます。例えば月30万円なら約18万円が最低額になります。
Q. 会社が「自宅待機中は給与ゼロ」と言ってきた場合、どう対応すればよいですか?
A. それは法違反です。労働基準法第26条に基づき異議を唱え、書面で給与支払いを請求してください。応じない場合は労基署に申告できます。
Q. 解雇予告期間中に給与が支払われないまま解雇日を迎えたら、どこに相談すればよいですか?
A. 労働基準監督署への申告が効果的です。また弁護士相談や労働審判の申し立ても検討できます。証拠(通知書・給与明細)は保管してください。
Q. 自宅待機中でも会社から「全額給与を支払う」と言われた場合、それで問題ありませんか?
A. 問題ありません。むしろ法的な最低義務(60%)を上回る対応です。ただし支払い条件や期限を書面で確認しておくことをお勧めします。

