派遣期間が終わるころに「このまま直接雇用するから」と言われたのに、いざ終了が近づくと話が曖昧になっている——そんな状況に陥かられている方は少なくありません。このガイドでは、証拠収集・法的根拠の確認・相談窓口への申告まで、今すぐ取れる具体的なアクションを網羅的に解説します。
派遣期間終了後の直接雇用「約束」は法的に有効か?
「直接雇用するよ」という言葉を信じて仕事を続けてきたのに、契約終了直前になって話が変わる——これは深刻な問題です。しかし法的な保護を受けられるかどうかは、約束の内容・形式・タイミングによって大きく変わります。まずは自分のケースがどのパターンに当てはまるかを確認しましょう。
「直接雇用される」という口約束の法的効力
口約束だけでは、企業側が「そんな約束はしていない」「採用を決定した事実はない」と主張した場合に反論するための証拠が乏しくなります。
民法上の契約が成立するには「申し込み」と「承諾」という意思の合致(民法522条・526条)が必要です。「直接雇用を検討する」「期間終了後に考える」といった言葉は、申し込みにも承諾にも該当しない単なる意向表明にとどまると裁判所に判断される可能性が高いです。
📌 今すぐできるアクション
上司や担当者から「直接雇用する」と言われた日時・場所・発言内容を今日中にメモ帳やスマートフォンのメモアプリに記録してください。記憶が新鮮なうちに残すことが重要です。
書面(雇用契約書・内定通知書)がない場合のリスク
労働契約法第4条は、使用者が労働契約の内容を書面で明示することを求めています。書面がない状態では以下のリスクが生じます。
| リスク | 具体的な内容 |
|---|---|
| 採用義務の否定 | 「申し込みを受けた事実はない」と言われる |
| 条件の食い違い | 給与・勤務形態などで後から不利な条件を提示される |
| 内定取り消し | 書面がないため「内定」自体を否定される |
| 雇用期間の不明確化 | 有期か無期かが曖昧なまま不利な扱いを受ける |
書面がない段階で安心してはいけません。雇用契約書または内定通知書の交付を企業側に求めることが、あなた自身を守る最初のステップです。
📌 今すぐできるアクション
派遣先企業の人事担当者または上司に対して、「直接雇用の条件を書面で確認させてください」とメールで依頼してください。口頭でなくメールで依頼することで、依頼した事実自体が証拠になります。
「面接がある」「期間終了後に検討」という説明の意味
「まず面接を受けてもらう」「期間終了後に正式に手続きをする」という説明は、採用決定とはまったく異なります。
判例において「採用内定」が成立すると認められる基準は、採用通知書の交付・誓約書の提出・業務開始日の明示など、雇用関係が実質的に始まったと判断できる事実が揃っている場合です(大日本印刷事件・最高裁1979年判決)。「面接を予定している」段階では採用内定は成立せず、企業側に採用義務は発生していないのが原則です。
派遣法と直接雇用ルール【無期転換権・紹介禁止期間】
派遣社員を守るために派遣法にはいくつかの重要なルールが定められています。あなたの状況がこれらのルールに当てはまる場合、企業側に法的義務が生じることを知っておいてください。
派遣法・直接雇用申し込み義務(通算3年)とは
労働者派遣法第40条の2は、同一の派遣先事業所で同一の派遣労働者が通算3年を超えて働いた場合、派遣先企業は直接雇用の申し込みをしなければならないと定めています。
【通算3年ルールのチェックリスト】
✅ 同じ派遣先企業(同一事業所)で働いている
✅ 同じポジション(組織単位)で通算3年が経過
✅ 途中で派遣会社が変わっていても同一ポジションであれば通算
→ 上記3点に当てはまる場合、派遣先に直接雇用申し込み義務が発生
この義務を無視して「派遣期間が終わりだから関係ない」と扱われた場合、派遣法違反として都道府県労働局への申告が可能です。
📌 今すぐできるアクション
派遣会社から交付された「就業条件明示書」を探し、派遣開始日・派遣先・ポジション名を確認してください。通算3年に近い場合は、計算結果を記録しておきましょう。
「紹介手数料を払わないと直接雇用できない」は違法か?
派遣会社が「うちに紹介手数料を払わなければ直接雇用はできない」と派遣先に要求するケースがあります。労働者派遣法第33条は、派遣先と派遣労働者の間の雇用契約締結を派遣元が妨害することを禁止しています。
ただし派遣会社が有料職業紹介事業の許可を取得していれば、合法的に紹介手数料を請求できる場合もあります。問題となるのは、手数料を名目に直接雇用そのものを阻害している場合です。
📌 今すぐできるアクション
「手数料のせいで直接雇用できない」と言われた場合は、その発言をメールや書面で確認するよう依頼し、派遣元の許可証番号(有料職業紹介事業許可番号)を確認してください。許可がないのに手数料を要求している場合は明確な違反です。
今すぐ始める証拠収集の手順
法的対応を取る際に最も重要なのが証拠です。証拠がなければ、口約束は「言った・言わない」の水掛け論になってしまいます。以下の手順で証拠を体系的に収集してください。
収集すべき証拠の一覧
| 証拠の種類 | 具体例 | 重要度 |
|---|---|---|
| 書面・電子文書 | 雇用契約書(案)、内定通知書、就業条件明示書 | ★★★ |
| メール・チャット | 直接雇用に関するやり取り(LINE・Slackも含む) | ★★★ |
| 音声記録 | 上司・人事担当者との会話(事前告知が望ましい) | ★★☆ |
| 日時記録 | 口頭で約束を受けた日時・場所・同席者 | ★★☆ |
| 勤怠記録 | 通算勤務期間を証明するタイムカード・給与明細 | ★★★ |
| 第三者の証言 | 同席していた同僚・派遣会社の担当者 | ★★☆ |
証拠収集の具体的ステップ
STEP 1:デジタルデータのバックアップ(今日中)
会社のメールや業務チャット(Slack・Teams等)に直接雇用に関する発言が残っている場合、スクリーンショットを撮影してプライベートのクラウドストレージ(GoogleドライブやiCloudなど)に保存してください。
STEP 2:書面での確認依頼(今週中)
派遣先企業と派遣会社の両方に対して、「直接雇用の有無・条件について書面で確認したい」という内容のメールを送付してください。返信の有無・内容そのものが証拠になります。
STEP 3:時系列メモの作成(今週中)
いつ・誰から・どのような言葉で直接雇用の話を受けたか、A4用紙1枚にまとめておきましょう。後から弁護士や労働局に相談する際に、説明が格段にスムーズになります。
STEP 4:給与明細・就業条件明示書の保管(今月中)
派遣会社から受け取った書類はすべてスキャンまたは写真撮影して保存してください。派遣開始日・勤務先・業務内容が記載されており、通算期間の立証に不可欠です。
相談先と申告手順【労働局・弁護士・ユニオン】
証拠が揃ったら、専門機関への相談・申告に進みましょう。費用をかけずに動ける窓口から順に紹介します。
都道府県労働局(無料・行政対応)
最初の相談先として最も推奨される窓口です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 窓口名 | 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室) |
| 対応内容 | 派遣法違反の申告・あっせん・指導 |
| 費用 | 無料 |
| 電話 | 各都道府県労働局(厚生労働省HPで検索可) |
| 申告できる内容 | 派遣法第40条の2違反(3年超え直接雇用義務)、第33条違反(妨害行為)など |
📌 申告時に持参・提出するもの
- 就業条件明示書のコピー
- 直接雇用に関するメール・チャットのスクリーンショット
- 時系列メモ(作成したもの)
- 給与明細(通算期間の証明)
労働基準監督署(解雇予告違反がある場合)
派遣期間終了と同時に実質的な雇用を失い、30日前の予告も予告手当の支払いもなかった場合は、労働基準法第20条(解雇予告義務)違反として労働基準監督署への申告が可能です。
ただし、「派遣契約の終了」はそもそも解雇とは異なる場合が多いため、まず労働局に相談して状況を整理してもらうことを推奨します。
個人加盟ユニオン・合同労組
企業との直接交渉(団体交渉)を希望する場合、個人で加盟できる労働組合(ユニオン) が有効です。組合加入後、団体交渉権に基づき企業に対して書面での回答や条件提示を求めることができます。
- 全国一般労働組合(全労連系・全労協系)
- コミュニティ・ユニオン全国ネットワーク
- ブラック企業ユニオン
組合費は月数百〜数千円程度のところが多く、弁護士費用に比べて低コストで交渉支援を受けられます。
弁護士(法的請求・訴訟を検討する場合)
証拠が揃っており、損害賠償請求・地位確認訴訟を検討する場合は弁護士への相談が必要です。
- 法テラス(日本司法支援センター):収入が一定以下であれば無料法律相談・弁護士費用立替制度あり(Tel: 0570-078374)
- 労働問題専門の弁護士:初回30分〜1時間無料相談を提供している事務所も多い
- 弁護士費用の目安:着手金5〜20万円+成功報酬(回収額の15〜20%程度)
派遣先企業・派遣会社への具体的な交渉文例
交渉の際は口頭ではなく、必ずメールや書面で記録を残してください。
派遣先企業への確認メール文例
件名:直接雇用に関する条件確認のお願い
〇〇株式会社 人事部 △△様
お世話になっております。派遣社員の□□(氏名)です。
先日、〇月〇日に△△様より「派遣期間終了後に直接雇用を検討する」旨の
ご説明をいただきました。つきましては、以下の点について書面にてご確認
させていただきたくお願い申し上げます。
① 直接雇用の有無(採用予定の有無)
② 雇用形態(正社員・契約社員・パート等)
③ 雇用開始予定日
④ 賃金・勤務時間・勤務場所等の労働条件
お忙しいところ恐縮ですが、〇月〇日までにご回答いただけますと幸いです。
何卒よろしくお願い申し上げます。
□□(署名)
返答がなかった場合の次のアクション
メールを送っても1週間以上返答がない場合は、以下の順で対応してください。
- 催促メールを送付(「先日のメールへのご返答をお待ちしております」)
- 派遣会社の担当者に状況を共有し、派遣先への確認を依頼
- 改善がなければ都道府県労働局にあっせん申請
派遣期間終了後の直接雇用トラブルでよくある質問
Q1. 派遣期間中に「直接雇用する」とLINEで言われました。これは証拠になりますか?
はい、LINEのメッセージも立派な証拠になります。スクリーンショットを撮影して、日時・発言者・内容が確認できる形でクラウドに保存してください。相手のアカウント名・アイコンも画面に含めて撮影するとより確実です。
Q2. 派遣会社が「手数料を払わないと直接雇用できない」と言っています。これは合法ですか?
派遣元が有料職業紹介事業の許可を持っている場合、手数料請求自体は違法ではありません。ただし、手数料を名目に直接雇用を実質的に妨害することは労働者派遣法第33条に違反する可能性があります。派遣会社の許可証番号を確認した上で、都道府県労働局に相談してください。
Q3. 3年以上同じ派遣先で働いているのに、直接雇用の話が出ません。どうすればいいですか?
通算3年を超えて同一事業所・同一ポジションで働いている場合、派遣先には労働者派遣法第40条の2に基づく直接雇用申し込み義務が生じています。まず派遣会社の担当者に確認し、応答がなければ都道府県労働局の雇用環境・均等部に申告してください。
Q4. 派遣期間終了後すぐに次の仕事が見つからない場合、失業給付は受けられますか?
雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上(直近2年間)あれば、失業給付(基本手当) を受給できます。ハローワークに「雇用保険被保険者離職票」を持参して求職申込みを行ってください。直接雇用の約束が反故にされた場合は「会社都合」に近い扱いになる可能性もあるため、離職理由については担当窓口に詳しく説明してください。
Q5. 弁護士に相談するお金がありません。無料で法的アドバイスを受けられますか?
以下の無料窓口を活用してください。
- 法テラス(0570-078374):収入が一定以下であれば無料相談・費用立替あり
- 都道府県の労働相談センター:弁護士や社会保険労務士が無料対応
- 日本弁護士連合会(日弁連)相談センター:初回30分5,500円(法テラス利用で無料になる場合あり)
- よりそいホットライン(0120-279-338):24時間対応・緊急の場合も相談可能
まとめ:「曖昧な約束」を放置しないために
派遣期間終了後の直接雇用トラブルは、早めの行動と証拠保全が解決のカギです。この記事で解説した対応を、優先度の高い順にまとめます。
| 優先度 | アクション | タイミング |
|---|---|---|
| 🔴 最優先 | デジタルデータ(メール・LINE)のバックアップ | 今日中 |
| 🔴 最優先 | 口頭約束の内容を時系列メモに記録 | 今日中 |
| 🟠 高 | 派遣先・派遣会社への書面確認メール送付 | 今週中 |
| 🟠 高 | 給与明細・就業条件明示書のスキャン保存 | 今週中 |
| 🟡 中 | 都道府県労働局または法テラスへの相談予約 | 今月中 |
| 🟡 中 | 3年超え勤務の場合は労働局への申告 | 今月中 |
「言った・言わない」の水掛け論にならないよう、証拠を残すことを最優先に動いてください。一人で抱え込まず、無料の相談窓口を積極的に活用することが、あなたの権利を守る最短ルートです。
本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的なケースについては、弁護士や労働局の専門家にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 派遣期間終了後の直接雇用を口約束されましたが、書面がありません。法的に有効ですか?
A. 口約束だけでは、企業が「約束していない」と主張した場合に反論する証拠が乏しくなります。採用義務を認めさせるには、書面での契約確認が必須です。
Q. 直接雇用の雇用契約書をもらっていません。どう対応すべきですか?
A. 派遣先の人事担当者にメールで「直接雇用の条件を書面で確認させてください」と依頼してください。メール送信した事実自体が重要な証拠となります。
Q. 同じ派遣先で3年以上働いています。直接雇用されない場合はどうなりますか?
A. 派遣法第40条の2により、通算3年を超える場合、派遣先には直接雇用申し込み義務が発生します。応じない場合は労働局に申告できます。
Q. 「面接がある」「期間終了後に検討」と言われました。これは採用内定ですか?
A. いいえ。採用内定と認められるには、通知書交付・業務開始日明示など実質的な確定が必要です。検討段階では採用義務は発生していません。
Q. 派遣会社が「紹介手数料を払わないと直接雇用できない」と言っています。違法ですか?
A. 派遣法第33条は、派遣会社による雇用契約締結の妨害を禁止しています。手数料要求が妨害に該当する場合、労働局への相談をお勧めします。

