雇用契約書と実際が違う場合の対応と損害賠償請求の完全ガイド

雇用契約書と実際が違う場合の対応と損害賠償請求の完全ガイド 労働条件

この記事でわかること:給与・業務内容が雇用契約書と異なると気づいた日から、証拠保全・社内交渉・労基署申告・損害賠償請求までの全ステップを、法的根拠とともに実践的に解説します。


雇用契約書と実際が違う場合の法的問題

「契約書に書いてある給与より少ない」「全然違う仕事をさせられている」——こうした状況は、単なるトラブルではなく労働基準法や民法の複数条文に違反する可能性がある法的問題です。まず、あなたが持つ法的根拠を整理しておきましょう。

給与減額は「給与全額支払い義務」違反

労働基準法第24条第1項は、賃金を「全額払い」することを使用者に義務付けています。雇用契約書に記載された金額より低い賃金しか支払わない行為は、この条文への違反となります。

具体例:雇用契約書に「月給25万円」と明記されているにもかかわらず、実際の支給額が月20万円の場合、差額5万円は未払い賃金として請求できます。

業務内容の大幅変更は「労働条件明示義務」違反

労働基準法第15条第1項は、使用者が労働契約締結時に業務内容・就業場所・賃金・労働時間などを書面で明示する義務を定めています。

明示された条件と実態が著しく異なる場合、労働者は即時に労働契約を解除できる権利を持ちます(労働基準法第15条第2項)。

違反の種類 根拠法令 具体的内容
給与減額 労基法第24条 約定給与より低い支払いは違法
業務・勤務地の変更 労基法第15条 契約時の条件明示が必須
就業規則との乖離 労基法第89条 就業規則未整備や周知義務違反
損害賠償(契約違反) 民法第415条 債務不履行による損害賠償請求
詐欺的採用 民法第95・96条 意思表示の無効・取消請求

試用期間の濫用は「信義則」違反

試用期間を本来の目的を超えて長期間継続させたり、試用期間中の低賃金を不当に固定したりする行為は、民法第1条第2項(信義誠実の原則)に違反します。

具体例:「試用期間3か月・月給16万円」と記載された契約書のまま2年以上が経過している場合、試用期間の濫用として正規雇用相当の賃金差額を請求できる可能性があります。

詐欺的採用は民法第95条・第96条に該当

「実際とは全く異なる労働条件を提示して入社させた」ケースは、錯誤(民法第95条)または詐欺(民法第96条)として労働契約そのものの取消しや無効を主張できます。この場合、被った損害の全額を損害賠償として請求できます。


相違を発見した直後にやるべき証拠保全(優先順位1)

証拠は時間とともに消えるものです。相違に気づいた当日から動き始めてください。「あとで集めよう」では取り返しのつかないケースが多発しています。

給与明細書をすべて保管(消滅時効対策)

未払い賃金の消滅時効は、2020年4月の労基法改正により5年(当面は3年の請求期間)に延長されています(労基法第115条)。過去3年分の給与明細をすべて手元に確保してください。

今すぐできるアクション
– 紙の給与明細はスキャンまたはスマートフォンで撮影
– 給与明細のPDFがメールで届いている場合は、個人のメールやクラウドストレージに転送・保存
– 保存場所:会社のPCや会社メールには保存しない(アクセス遮断リスクあり)

勤務日数・時間を手帳・アプリで記録開始

今日から勤務実態を記録します。手書きの手帳でも構いませんが、タイムスタンプが自動記録されるスマートフォンアプリがより証拠能力が高くなります。

記録すべき項目:
– 出退勤時刻(実際に業務を開始・終了した時刻)
– 実際に行った業務の内容
– 指示を出した上司の名前
– 残業・休日出勤の有無

雇用契約書原本と業務指示書をコピー保管

会社が後から契約書を差し替えたり「そんな書類はない」と主張するケースがあります。雇用契約書の原本は手元に必ず1部確保し、自宅で保管してください。また、採用時に渡された求人票・労働条件通知書も重要な証拠です。

今すぐできるアクション
– 雇用契約書・労働条件通知書をスキャンまたは撮影
– 求人票(ハローワーク票・求人サイトのキャプチャ)を保存
– 業務指示が記載された社内マニュアル、業務命令書もコピー

メール・LINE・チャットでの給与減額指示を保存

給与減額や業務変更の指示がメール・LINE・Slackなどに残っている場合、それは強力な証拠になります。

今すぐできるアクション
– メール:該当メールをPDF出力または転送して個人アドレスに保存
– LINE・チャットツール:スクリーンショットを撮影しクラウドに保存
– 口頭指示があった場合:日時・場所・発言内容・同席者をその日のうちにメモ

写真撮影・スクリーンショット保存の方法(タイムスタンプが重要)

スクリーンショットにはOSが自動的に撮影日時を記録します。撮影後すぐにクラウドストレージ(Google Drive・iCloudなど)に保存すれば、日時の信頼性がさらに高まります。

⚠️ 注意:会社のPCや業務用スマートフォンのデータを私的に取り出す行為が、就業規則違反とみなされるケースがあります。自分宛にメールを転送する・個人スマートフォンで画面を撮影するなどの方法が現実的かつ安全です。


社内での相違確認と改善交渉(優先順位2)

証拠を確保した上で、まず社内での解決を試みます。この段階での交渉記録自体が、後の申告・訴訟で有利に働きます。

書面で事実確認を求める

口頭ではなく、メールや書面で記録に残る形で会社に確認します。

件名:労働条件の確認について

〇〇部長

お疲れ様です。〇〇と申します。
標題の件について確認させてください。

私の雇用契約書(202X年X月X日締結)には、月給XXX,000円と明記されています。
しかしながら、202X年X月以降の給与支給額がXXX,000円となっており、
契約内容と相違が生じています。

この点について、書面にてご説明いただけますでしょうか。

よろしくお願いいたします。

回答の期限を設ける

「2週間以内に書面でご回答ください」と明記することで、会社の対応・不対応が証拠になります。

人事部門・コンプライアンス窓口へのエスカレーション

上司への申し入れが無視された場合、社内の人事部門やコンプライアンス窓口に書面で申し入れます。

⚠️ 重要:社内交渉は2〜4週間が目安です。誠実な対応が見られない場合は、迷わず次のステップ(行政機関)に進んでください。


労働基準監督署への申告(優先順位3)

社内解決が難しいと判断したら、労働基準監督署(労基署)への申告に進みます。

申告できる内容と根拠法令

申告内容 根拠法令 使用者への行政措置
賃金未払い・減額 労基法第24条 是正勧告・送検
労働条件の相違 労基法第15条 是正勧告
解雇予告手当の不払い 労基法第20条 是正勧告・送検
就業規則の未周知 労基法第89・90条 是正指導

申告の手順

STEP 1:管轄の労働基準監督署を確認

会社(事業所)の所在地を管轄する労基署に申告します。厚生労働省のウェブサイトで最寄りの署を検索できます。

STEP 2:申告に必要な書類を準備

  • 雇用契約書または労働条件通知書のコピー
  • 給与明細書(相違が発生した月以降の全月分)
  • 未払い・減額の計算書(自作可)
  • メール・LINEなどの証拠のプリントアウト
  • 申告書(書式は労基署窓口で入手可)

STEP 3:窓口へ持参または郵送

申告は窓口持参が推奨です。担当の監督官に口頭で状況を説明でき、申告内容の明確化に役立ちます。匿名での相談も可能ですが、是正勧告の効力を得るには実名申告が基本です。

📞 まず電話相談が不安な方へ:各都道府県の「総合労働相談コーナー」(労働局内)では、申告前の無料相談が受けられます。0120-811-610(労働条件相談ほっとライン・夜間休日対応)も活用してください。


損害賠償請求の進め方(優先順位4)

行政申告だけでは回収できなかった賃金や、精神的損害を含む損害賠償を求める場合は法的手段に進みます。

請求できる損害の種類

請求項目 法的根拠 概要
未払い賃金 労基法第24条・民法第415条 契約額と実支給額の差額全額
遅延損害金 民法第419条 未払い賃金に年3%(法定利率)
精神的損害(慰謝料) 民法第709条 不法行為に基づく慰謝料
転職費用等の実損害 民法第415条 求職活動費・引越費用等
付加金 労基法第114条 裁判所が命じる場合、未払い額と同額

法的手段の選択肢

① 内容証明郵便による請求

弁護士に依頼し、会社に対して未払い賃金と損害賠償を請求する内容証明郵便を送付します。費用は比較的低く、会社への心理的プレッシャーになります。

② 労働審判(最短3回の審理で解決)

地方裁判所で行われる制度で、申立てから原則3か月以内に結論が出ます。費用は訴訟より安く、弁護士なしでも申立て可能ですが、弁護士代理を強く推奨します。

③ 民事訴訟

労働審判で解決できなかった場合や、高額請求の場合に選択します。時間・費用がかかりますが、判決に強制執行力があり、給与差押えなどが可能です。

弁護士に相談すべき判断基準

以下に1つでも当てはまる場合は、早急に弁護士への相談を検討してください。

  • [ ] 未払い・差額の合計が30万円以上になる
  • [ ] 会社が書面での回答を拒否または無視している
  • [ ] 解雇や雇い止めを示唆された、または実行された
  • [ ] 身体的・精神的健康被害が出ている
  • [ ] 会社が複数の労働者に対して同様の問題を起こしている

💡 費用の心配がある方へ:弁護士費用は成功報酬型(回収額の15〜20%が相場)の事務所が多く、着手金ゼロのところもあります。法テラス(0570-078374)の審査を通れば費用立替制度も利用可能です。


相談先一覧と活用タイミング

相談先 費用 向いているケース
総合労働相談コーナー 無料 まず状況を整理したい
労働基準監督署 無料 給与未払い・労基法違反の申告
労働局あっせん 無料 話し合いでの解決を希望
法テラス 無料〜立替 費用が心配で弁護士に相談したい
労働組合(ユニオン) 低額〜 団体交渉で会社に圧力をかけたい
弁護士(労働専門) 成功報酬制等 損害賠償請求・労働審判・訴訟

よくある質問(FAQ)でケース別対応を確認

Q1. 口頭で業務内容の変更を告げられただけで、書面がありません。それでも請求できますか?

A. できます。労働基準法第15条は書面による明示を使用者の義務としているため、書面がないこと自体が使用者の違反です。口頭指示の日時・内容・指示者をメモに残し、その後に変化した業務実態(日報・業務指示メールなど)を証拠として補強してください。

Q2. 試用期間が終わっているのに試用期間の給与のままです。いつから満額請求できますか?

A. 試用期間満了日の翌日から契約書に記載された正規の賃金を請求できます。消滅時効は3年(労基法改正後の請求可能期間)ですので、過去3年分の差額を計算し、内容証明または労働審判で請求しましょう。

Q3. 会社から「就業規則に減額規定がある」と言われました。給与減額は合法ですか?

A. 就業規則による賃金減額は、労働者の同意なしには原則として認められません(労働契約法第9条・第10条)。変更に「合理性」と「労働者への周知」の両方が必要とされており、一方的な不利益変更は無効です。減額前の給与水準で未払い賃金として請求できる可能性があります。

Q4. 損害賠償請求をすると、会社から報復的な解雇をされないですか?

A. 申告や請求を理由とした解雇は不当解雇として無効になります(労働契約法第16条)。また、労基署への申告を理由とした解雇は刑事罰の対象(労基法第104条第2項)です。解雇された場合は解雇予告手当の請求と地位確認訴訟を同時に進めることが可能です。

Q5. 証拠を集めるために会社のメールを個人へ転送するのは問題ありませんか?

A. 自分自身の業務に関するメールを、自分の個人アドレスに転送する行為は一般的に許容されるケースが多いですが、就業規則に「社外への情報持ち出し禁止」条項がある場合はリスクがあります。個人スマートフォンで画面を撮影する方法が最も安全です。不安な場合は弁護士に事前に確認してください。


まとめ:今日から動く3ステップ

  1. 今日中に:雇用契約書・給与明細・関連メール・チャットのコピーと撮影を完了させる
  2. 今週中に:会社に書面(メール)で事実確認を求める
  3. 2週間以内に:社内対応が不誠実なら労基署または弁護士へ相談予約を入れる

雇用契約書と実際の労働条件の相違は、あなたが泣き寝入りする必要のない明確な法的違反です。証拠さえ確保できれば、行政申告・労働審判・訴訟のいずれの手段も有効に機能します。まず1つ目の行動として、今日中に手元の書類を写真撮影することから始めてください。


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よくある質問(FAQ)

Q. 雇用契約書の給与と実際の給与が異なる場合、差額を請求できますか?
A. はい。労働基準法第24条により、使用者は約定給与を全額支払う義務があります。差額は未払い賃金として請求でき、消滅時効は3年です。

Q. 契約書と異なる業務をさせられた場合、どのような権利がありますか?
A. 労働基準法第15条に基づき、著しく異なる条件下では即座に労働契約を解除できます。損害賠償請求も可能です。

Q. 証拠として何を保管すべきですか?
A. 給与明細書(3年分以上)、雇用契約書原本、勤務記録(出退勤時刻・業務内容)、給与減額指示のメール・チャットなどを保管してください。

Q. 試用期間中の低賃金は法的問題になりますか?
A. 試用期間を本来の目的以上に濫用したり、不当に低賃金を固定したりする行為は民法の信義則違反となり、賃金差額請求が可能です。

Q. 相違に気づいた場合、最初に何をすべきですか?
A. 証拠保全が最優先です。給与明細・契約書をスキャン保存し、本日から勤務実績を記録開始してください。時間経過で証拠が消失するリスクがあります。

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