雇用契約書をもらえないまま働き続けることは、あなたにとって大きなリスクです。賃金トラブル・突然の解雇・労働条件の一方的変更など、深刻な被害につながる可能性があります。しかし、多くの労働者が「もしかして違法?」と感じながらも、どう動けばいいか分からず放置してしまっています。
この記事では、雇用契約書が交付されない場合の法的根拠・証拠確保・労基署申告の具体的手順を、今日から実行できるレベルで解説します。
雇用契約書をもらえないのは違法【法的根拠を解説】
労働基準法第15条が定める「書面交付義務」
雇用契約書の交付は、使用者の法的義務です。根拠は以下のとおりです。
| 法令 | 条項 | 内容 |
|---|---|---|
| 労働基準法 | 第15条第1項 | 使用者は労働条件を明示し、書面で交付しなければならない |
| 労働基準法施行規則 | 第5条 | 書面に記載すべき具体的事項を列挙 |
| 労働基準法 | 第120条 | 違反した使用者への罰則規定 |
「口頭で説明したから大丈夫」「後で渡すから」という言い訳は通用しません。雇用(採用)の時点で書面を交付することが義務であり、これを怠った使用者は刑事罰の対象となります。
✅ 今すぐできるアクション
求人票・採用通知メール・LINEなど、労働条件に関するやり取りが残っていれば、今すぐスクリーンショットを撮影・保存してください。これが後の証拠になります。
絶対的必須項目 vs その他明示項目の違い
書面交付が義務づけられている内容には、省略できない「絶対的必須項目」と、就業規則で定めた場合に明示すればよい「相対的必須項目」があります。
【絶対的必須項目(必ず書面に記載・交付)】
- 労働契約の期間
- 有期契約の場合:契約更新の有無・更新の判断基準
- 就業場所・従事する業務内容
- 始業・終業時刻、休憩時間、休日・休暇
- 賃金の計算方法・支払方法・締め日・支払日
- 退職に関する事項(解雇事由を含む)
【相対的必須項目(制度があれば明示が必要)】
- 昇給の基準・有無
- 退職手当の有無・支払条件
- 賞与・臨時手当の有無
- 食費・制服など労働者が負担する費用
- 安全衛生・職業訓練・表彰・懲戒事由・休職に関する事項
特に賃金・労働時間・退職事由は、後のトラブルで最も争点になりやすい項目です。これらが口頭のみで伝えられている場合、証拠として残す工夫が必要です。
違反時の法的責任(刑事罰・民事責任)
使用者が書面交付を怠った場合、以下の法的責任が生じます。
雇用契約書を交付しない
↓
労働基準法第15条・第120条違反(刑事責任)
↓
30万円以下の罰金(使用者・法人)
+
損害賠償請求(民事責任)
└ 実損害(未払い賃金・差額など)
└ 慰謝料(精神的苦痛)
「罰金があっても会社は痛くない」と感じるかもしれませんが、労基署の是正勧告→書面交付の強制→是正を拒否すれば書類送検という流れも現実に起こります。また、書面がないことによる実害(賃金トラブルなど)は、別途民事で損害賠償を請求できます。
雇用契約書をもらえないことによる被害【実損害の類型】
交付されないと、勤務条件の変更、給与トラブル、退職時の紛争が生じやすくなります。また、解雇時に不当解雇の主張が困難になるケースもあります。あらかじめ損害の類型を理解することで、対策が立てやすくなります。
賃金計算・支払い条件が曖昧になるリスク
書面がなければ、使用者は「そういう約束ではなかった」と主張できてしまいます。よくある被害の例を見てみましょう。
| トラブルの例 | 書面がある場合 | 書面がない場合 |
|---|---|---|
| 残業代を払わない | 契約書を根拠に請求可 | 「残業代込みの給与だ」と言い逃れされる |
| 給与を一方的に下げる | 合意なき変更として無効主張可 | 「もともとそういう契約だった」と主張される |
| 手当が突然なくなる | 支給条件を書面で証明可 | 「口頭での説明は誤解だ」と言われる |
✅ 今すぐできるアクション
給与明細・タイムカードの写真・勤怠管理のスクリーンショットを今すぐ保存してください。賃金の実態を示す証拠になります。
勤務地・職務内容の一方的変更への対抗手段喪失
「急に転勤を命じられた」「採用時と違う業務をやらされている」というケースも、書面がなければ対抗が難しくなります。
口頭で「東京勤務」と言われて入社しても、書面がなければ「全国転勤あり」という就業規則が優先される可能性があります。書面による合意があれば、就業規則に定めがあっても個別合意が優先されるケースもあります(労働契約法第7条・第10条)。
退職・解雇時の紛争が長期化する理由
書面がない状態で解雇や退職トラブルが発生すると、双方の主張が対立したまま証拠がないという最悪の状況になります。
- 解雇の理由が書面で明示されていないと、不当解雇の証明が難しくなる
- 有期・無期の区別が不明確なため、雇止め(更新拒否)への対抗が困難
- 退職金・有給残日数の精算で争いになりやすい
✅ 今すぐできるアクション
採用時の求人票・会社からの採用通知・入社案内・研修資料などは今すぐ手元に保管・スキャン・撮影してください。これらも「労働条件を示す証拠」として活用できます。
今すぐやるべき証拠確保【デジタル・書類の保全手順】
証拠は時間が経つほど失われます。会社が気づく前に、今日・今すぐ動くことが重要です。
メール・LINEのスクリーンショット保存
採用時のやり取りには、労働条件のヒントが隠れています。以下を優先して保存してください。
保存対象のリスト
| 証拠の種類 | 保存方法 | 注意点 |
|---|---|---|
| 採用通知メール | スクリーンショット+PDFで保存 | 日時・差出人が見えるように |
| LINEでの条件説明 | スクリーンショット+クラウド保存 | トーク全体を保存(削除される前に) |
| 求人票(印刷・Web) | 写真撮影またはPDF保存 | Webページは変更・削除される場合あり |
| 会社のメール(業務指示) | フォルダに仕分け・バックアップ | 退職後はアクセス不可になる |
保存のポイント:スクリーンショットには必ず日時が映り込むようにしてください。スマートフォンの場合、ステータスバーに時計が表示されます。写真のメタデータ(撮影日時)も証拠として機能します。
✅ 今すぐできるアクション
採用時のメール・LINEを開き、今すぐスクリーンショットを撮影→Googleフォトや個人のクラウドストレージに保存してください。会社のPCや会社メールに頼らず、私用スマートフォン・個人アカウントに保存することが重要です。
書面で「交付を求める」記録を残す
証拠確保と並行して、会社に書面で雇用契約書の交付を求める行動を取りましょう。これにより「会社が知っていたにもかかわらず交付しなかった」という記録が残ります。
ステップ1:まずメールで要請する(最も簡単)
件名:雇用契約書の交付について(確認依頼)
〇〇株式会社
人事部 〇〇様
いつもお世話になっております。〇〇部署の(氏名)です。
入社から(期間)が経過しておりますが、
雇用契約書(労働条件通知書)を受領していない状況です。
労働基準法第15条に基づき、書面による労働条件の明示は
使用者の義務とされておりますので、
速やかにご交付いただけますようお願い申し上げます。
ご確認のほど、よろしくお願いいたします。
(氏名)
(送信日時)
このメールを送信後、スクリーンショットを保存してください。送信日時・宛先・本文がすべて証拠になります。
ステップ2:それでも交付されない場合は内容証明郵便
メールで要請しても無視・拒否された場合は、内容証明郵便で正式に請求します。内容証明郵便は「いつ・何を・誰から誰に送ったか」が郵便局に記録される文書です。
書き方の要点:
– 送付日・宛名(会社の正式名称・代表者名)・差出人名を明記
– 「労働基準法第15条に基づく書面交付を求める」旨を明記
– 「〇日以内に交付がない場合は労働基準監督署に申告する」旨を予告
勤怠記録・給与明細・業務指示の保全
労働条件を示す証拠は雇用契約書だけではありません。以下も確保しておきましょう。
| 保全すべき記録 | なぜ重要か |
|---|---|
| 給与明細(全月分) | 実際の賃金・手当・控除の実態を証明 |
| タイムカード・勤怠記録 | 実際の労働時間・残業実態を証明 |
| 業務指示メール・チャット | 指揮命令関係・業務内容を証明 |
| 就業規則(閲覧できれば写真撮影) | 会社のルールとの比較に使用 |
| 健康保険証・源泉徴収票 | 雇用関係の存在そのものを証明 |
労基署への申告手順【実務的な進め方】
証拠が揃ったら、労働基準監督署(労基署)への申告を行います。これが最も強力かつ無料で使える手段です。
労基署申告の基本知識
労基署とは:全国に約320か所ある厚生労働省の行政機関です。使用者の労働基準法違反を調査・是正する権限を持っています。
申告の特徴:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 費用 | 無料 |
| 匿名性 | 申告者の情報は使用者に原則非公開 |
| 効果 | 是正勧告→改善命令→書類送検の権限あり |
| 対象 | 雇用契約書不交付(労基法第15条・第120条違反) |
申告の具体的手順(ステップバイステップ)
STEP 1:管轄の労基署を確認する
申告先は勤務先の所在地を管轄する労働基準監督署です。厚生労働省のウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp/)または電話番号「0570-006-006(労働基準関係情報メール窓口)」で確認できます。
STEP 2:相談予約をする(または飛び込み相談)
多くの労基署は予約なしでも相談を受け付けていますが、事前に電話予約すると待ち時間を減らせます。「労働条件の書面不交付について相談したい」と伝えてください。
STEP 3:申告書を作成・提出する
窓口で「申告書」を記載します。事前に以下をまとめておくとスムーズです。
【申告前に準備するメモ】
1. 会社名・所在地・代表者名
2. 自分の氏名・入社日・担当業務
3. 雇用契約書が交付されていない事実(いつから・現在も未交付)
4. 交付を求めた経緯(メール送信日時など)
5. 収集した証拠(スクリーンショット・給与明細など)のコピー
6. 実際に受けた不利益(賃金トラブルなど)があれば具体的に
STEP 4:調査・是正勧告のプロセス
申告を受けた労基署は、必要に応じて会社への立入調査を行います。
申告受理
↓
労基署が会社に調査(任意調査または立入調査)
↓
違反が認められた場合 → 「是正勧告書」を交付
↓
会社が是正勧告に従わない場合 → 「改善命令」
↓
それでも従わない場合 → 「書類送検」(刑事手続き)
申告と並行して使える相談窓口
労基署への申告以外にも、以下の相談先を並行して活用できます。
| 相談先 | 特徴 | 費用 |
|---|---|---|
| 総合労働相談コーナー(各都道府県労働局) | 助言・あっせん制度あり、全国設置 | 無料 |
| 法テラス | 弁護士費用の立替・紹介制度あり | 低所得者は無料 |
| 弁護士会の法律相談 | 個別事案の法的判断・代理交渉 | 初回30分5,500円が多い |
| 労働組合・ユニオン | 個人でも加入可能、団体交渉権あり | 組合により異なる |
| 都道府県の労働相談窓口 | 地域密着型、平日夜間対応の所もあり | 無料 |
損害賠償・是正後の対応【泣き寝入りしないために】
労基署申告後に会社から不利益を受けた場合
労基署への申告を理由とした解雇・降格・減給・嫌がらせは違法です(労働基準法第104条第2項)。申告後にこのような行為があった場合は、その事実もすぐに記録し、労基署または弁護士に報告してください。
民事上の損害賠償請求
雇用契約書不交付によって実際に損害が生じた場合(未払い賃金・不当解雇など)は、民事上の損害賠償請求も可能です。
- 少額訴訟:60万円以下の金銭請求は簡易な手続きで1日で解決
- 労働審判:労働局のあっせんで解決できない場合、3回以内の審理が原則
- 通常訴訟:より大きな損害の場合、弁護士に依頼して請求
よくある質問(FAQ)
Q1. アルバイト・パートでも雇用契約書の交付は義務ですか?
はい、義務です。労働基準法第15条は雇用形態を問わず適用されます。アルバイト・パート・派遣・有期雇用のすべてに適用され、むしろ有期雇用の場合は契約期間・更新条件などの明示がより厳格に求められます(労働基準法施行規則第5条)。
Q2. 「就業規則を見れば分かる」と言われました。これで問題ないですか?
問題あります。就業規則の存在は、個別の書面交付義務を免除しません。就業規則は職場全体のルールであり、個々の労働者の具体的な条件(賃金額・労働時間など)を個別に明示する書面とは別物です。個別の書面交付は使用者の義務として残ります。
Q3. 申告したら会社に知られて、報復されますか?
労基署は申告者の情報を使用者に開示しません(申告者の秘密保持)。また、申告を理由とした不利益取扱いは労働基準法第104条第2項で明確に禁止されており、違反した使用者も処罰対象です。ただし、小規模な職場では申告の推測がなされることもあるため、不安な場合は事前に労働相談窓口で対策を相談してください。
Q4. 雇用契約書がないと、退職時に有給休暇の残りを請求できませんか?
有給休暇の権利は法律(労働基準法第39条)に基づいて発生するもので、雇用契約書の有無に関係なく認められます。ただし、残日数・消化の記録を確認・保存しておくことが重要です。タイムカードや勤怠システムの記録を保全してください。
Q5. 内容証明郵便はどこで出せますか?費用はかかりますか?
全国のほぼすべての郵便局で差し出せます(一部の小規模局を除く)。費用は文書の枚数・重量によりますが、一般的な1枚の内容証明郵便(普通郵便+内容証明料+配達証明料)でおおよそ1,300円前後です。書き方のひな形は法テラスや労働局のウェブサイトにも掲載されています。
まとめ:雇用契約書をもらえない場合の対応チェックリスト
最後に、この記事で解説した対応手順を確認チェックリストとして整理します。
【今日すぐ実行】
– [ ] 採用時のメール・LINEのスクリーンショットを個人デバイスに保存
– [ ] 求人票・採用通知のコピーを保管
– [ ] 給与明細・タイムカードの記録を確保
【1週間以内に実行】
– [ ] 会社にメールで雇用契約書の交付を書面で要請
– [ ] 要請メールのスクリーンショット・送信記録を保存
– [ ] 管轄の労働基準監督署を確認・連絡
【会社が応じない場合】
– [ ] 内容証明郵便で正式に交付要請
– [ ] 労働基準監督署へ申告(証拠書類のコピーを持参)
– [ ] 総合労働相談コーナーまたは法テラスに並行相談
雇用契約書の交付は労働者の権利であり、使用者の義務です。「まあ仕方ない」と諦める必要はありません。法律はあなたを守るためにあります。一人で抱え込まず、今日から行動を始めてください。
参考法令・リンク
- 労働基準法第15条・第104条・第120条
- 労働基準法施行規則第5条
- 労働契約法第7条・第10条
- 厚生労働省「労働基準監督署の所在地一覧」:https://www.mhlw.go.jp/
- 法テラス(日本司法支援センター):https://www.houterasu.or.jp/
- 総合労働相談コーナー(厚生労働省):https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html
よくある質問(FAQ)
Q. 雇用契約書をもらえないまま働くことは違法ですか?
A. はい。労働基準法第15条により、使用者は雇用時に書面で労働条件を交付する義務があります。違反した場合、30万円以下の罰金に処せられます。
Q. 雇用契約書がない場合、どんな証拠を残すべきですか?
A. 求人票・採用通知メール・給与明細・タイムカード・LINEでのやり取りなど、労働条件に関するあらゆる記録をスクリーンショットで保存してください。
Q. 雇用契約書がないと解雇トラブルで不利になりますか?
A. はい。契約内容が明確でないため、不当解雇の主張が困難になる可能性があります。早急に書面交付を求めるか、証拠を確保する必要があります。
Q. 給与が書面と異なる場合、どう対応すればよいですか?
A. 書面がない場合、使用者に「そういう約束ではなかった」と言い逃れされやすいです。給与明細と実労働時間の記録を証拠として保存し、労基署に申告してください。
Q. 雇用契約書交付を拒否する企業に対して、どう対応できますか?
A. 労働基準監督署に申告することができます。是正勧告が出ても改善しない場合、書類送検される可能性があります。同時に民事で損害賠償請求も可能です。

