「給与口座が凍結」は嘘?給与を止められた時の即時対応と強制請求の手順

「給与口座が凍結」は嘘?給与を止められた時の即時対応と強制請求の手順 不当解雇

給料日なのに振込がない。会社に問い合わせると「あなたの給与口座が凍結されているので振り込めない」と言われた——そんな状況に直面していませんか。

結論から言います。それは違法です。そして多くの場合、嘘です。

口座が凍結されていたとしても、会社には別の手段で給与を支払う義務があります。「口座が凍結されているから払えない」という主張は、労働基準法に真っ向から違反する行為であり、場合によっては事実上の不当解雇にも該当します。

この記事では、給与を止められた労働者がすぐに取れる行動を、24時間以内の即時対応から強制請求の手続きまで、優先順位つきで解説します。


「給与口座が凍結している」と言われても、会社に給与を止める権利はない

給与口座凍結を理由とした給与支払い停止は、労働基準法第24条に定める「賃金全額払いの原則」に違反する違法行為です。会社の言い分がどうであれ、給与支払い義務は消えません。

そもそも「給与口座凍結」とは何か——銀行側の仕組みをわかりやすく説明

銀行口座の「凍結」とは、入出金が制限された状態を指します。凍結が起きる主な原因は以下の3つです。

凍結の種類 原因 誰が主導するか
差し押さえによる凍結 税滞納・借金の強制執行など 裁判所・税務署などの公的機関
本人申請による凍結 紛失・不正利用時の本人届出 口座名義人本人
銀行独自の判断による凍結 詐欺被害口座の疑い・マネーロンダリング対策など 銀行が独自に判断

ここで重要な事実があります。会社(雇用主)が労働者の口座を凍結させることはできません。 会社には給与振込先の口座番号を知っているだけで、その口座の入出金を制限する権限はまったくありません。

つまり「会社の指示で口座が凍結された」という事態は原則として起こり得ないのです。もし会社がそう主張しているなら、それは事実の歪曲である可能性が高いと言えます。

会社が持ち出す「口座凍結」が違法な3つの理由

会社が「口座凍結を理由に給与を払えない」と主張することが違法である理由を、法的根拠とともに明示します。

① 会社には代替手段で支払う義務がある(労働基準法第24条)

労働基準法第24条第1項は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めています。これを「賃金全額払いの原則」と言います。

口座振込は、あくまで労働者の同意を得た上での便宜的な手段です。振込先口座が使えなくなった場合、会社は現金手渡し・別口座への振込など、代替手段で給与を支払う義務を負います。「振り込めないから払わない」は、法律上まったく通用しない言い訳です。

② 虚偽の主張は詐欺的行為に該当しうる

実際には口座が凍結されていないにもかかわらず、「凍結されている」と偽って給与を支払わない行為は、労働者を欺く詐欺的行為です。民法第415条(債務不履行による損害賠償)の適用対象となるほか、悪質性が高い場合は刑事上の問題にも発展する可能性があります。

③ 給与支払い停止は「事実上の解雇」に該当する

給与の支払いを継続的に停止することは、労働者が生活を維持できない状態に追い込み、退職を強制する行為です。これは「退職を余儀なくされた」として、事実上の解雇(不当解雇)と評価されます。

労働基準法第20条は、解雇には30日前の予告または30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)の支払いを義務づけています。正式な解雇手続きを経ずに給与停止で退職に追い込む行為は、この規定にも違反します。


まず24時間以内にやること——銀行への即時確認と記録保存

給与が振り込まれなかった日から行動を始めてください。最初の24時間が、後の請求手続きを左右します。

銀行窓口・電話で確認すべき3つの項目と聞き方の文例

最初にやることは、自分の口座が本当に凍結されているかどうかを銀行に直接確認することです。会社の言葉をそのまま信じてはいけません。

確認する3つの項目

  1. 口座凍結の事実の有無:今現在、自分の口座が凍結状態にあるか
  2. 凍結理由:もし凍結されているなら、その原因は何か
  3. 凍結の申請者:本人申請によるものか、公的機関によるものか

電話での問い合わせスクリプト(そのまま使えます)

「お世話になります。私は○○銀行○○支店に口座を持っている
  ○○(氏名)と申します。

  勤務先から『給与口座が凍結されているため振り込みができない』
  と言われましたが、口座の状態を確認させてください。

  ①現在、私の口座(口座番号:○○○○)は凍結状態にありますか?
  ②もし凍結されているなら、その理由を教えていただけますか?
  ③凍結は私本人の申請によるものですか?
   それとも裁判所などの外部機関からの指示によるものですか?」

記録の残し方(必ず実行)

  • 電話の場合:スマートフォンの通話録音機能を使って録音する
  • 窓口の場合:担当者名・確認内容・日時をその場でメモし、可能であれば確認書類の発行を依頼する
  • 銀行から口座状態の通知メールが届いた場合はスクリーンショットで保存する

凍結理由別の対応フロー

銀行への確認結果によって、次の行動が変わります。

パターンA:口座は凍結されていなかった(会社の虚偽の可能性が高い)

最も重要な証拠が手に入った状態です。銀行から「凍結の事実はない」という回答を書面やメールで入手し、保存してください。これは後の労働基準監督署への申告や裁判手続きで強力な証拠になります。

パターンB:差し押さえや公的手続きによる凍結だった場合

この場合、凍結は会社とは無関係に発生した問題です。ただし、会社にはそれでも給与を支払う義務があります。銀行に証明書類(凍結に関する通知書など)の発行を依頼し、それを会社に提示した上で「別口座または現金で支払え」と要求してください。

パターンC:本人申請による凍結だった場合

過去に自分で凍結手続きをしていた場合です。速やかに解除手続きを行い、会社に「解除した別口座への振込」を依頼してください。ただし、会社が最初から別口座での支払いを提案していなかった点は問題として残ります。


会社への書面請求——絶対に口頭だけで終わらせない

銀行への確認と並行して、または翌日までに、会社に対して書面で給与支払いを求めます。

会社へのメール請求文(コピペ可能なテンプレート)

口頭での要求は「言った・言わない」の水掛け論になります。必ずメールや書面で記録を残してください。

件名:○月○日付給与の支払い方法についての確認と代替支払いの要請

○○部長 様

お疲れ様です。○○(自分の氏名)です。

○月○日(給与支払日)時点で、○月分の給与(○○円)が
未払いとなっております。

貴社より「給与口座が凍結されているため振り込みができない」
とご説明を受けましたが、本日○○銀行に直接確認したところ、
口座凍結の事実は確認されませんでした。

つきましては、労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)に基づき、
以下のいずれかの方法による給与の支払いを○日以内に
実施されるよう要請いたします。

① 給与口座(○○銀行)への即時振込
② 現金による直接払い
③ 私が指定する別口座への振込(別途ご連絡いたします)

なお、給与の支払いがなされない場合は、
労働基準監督署への申告を含む法的措置を検討いたします。

ご回答は○月○日(○曜日)までにメールにてお願いいたします。

○○(氏名)

回答期限の設定:3営業日~5営業日を目安に設定してください。長すぎず、短すぎない期間です。

会社のあらゆる言い訳への反論と正しい要求

会社側が持ち出しやすい言い訳と、それに対する適切な返答を整理します。

会社の言い訳 法的な反論
「口座が使えないから払えない」 現金払い・別口座払いが可能。支払い義務は消えない(労基法24条)
「凍結が解除されてから払う」 支払期日(毎月の給与日)を過ぎた時点で未払い違反
「あなたの口座の問題だから」 理由を問わず給与支払いは会社の義務
「もう在籍していないから」 正式な解雇手続きなしの給与停止は不当解雇

動かない会社への強制請求——申告・審判・訴訟の手順

書面を送っても会社が応じない場合、以下の手順で法的手段に進みます。

労働基準監督署への申告

申告先:会社の所在地を管轄する労働基準監督署

申告できる内容
– 給与未払い(労働基準法第24条違反)
– 解雇予告手当の未払い(労働基準法第20条違反)

申告時に持参するもの

  • 給与明細(未払い期間のもの)
  • 銀行通帳のコピー(振込がないことの証明)
  • 銀行から得た「凍結事実なし」の確認記録
  • 会社へのメールとその返信(または無回答の状態)
  • 雇用契約書または労働条件通知書

申告の効果:労働基準監督官が会社に対して「是正勧告」を行います。是正勧告に強制力はありませんが、多くの場合、会社は支払いに応じます。勧告を無視した場合は刑事告発(労働基準法第120条:30万円以下の罰金)に進むこともあります。

申告は無料です。弁護士なしで一人でできます。

支払督促(簡易裁判所)

未払い賃金が明確な金額に確定している場合、簡易裁判所に「支払督促」を申し立てることができます。

  • 費用:申立手数料は請求額の0.5%程度(例:50万円請求なら約2,500円)
  • メリット:相手方が異議を申し立てなければ、裁判なしに強制執行(給与差し押さえなど)が可能
  • 申請場所:相手方(会社)所在地の簡易裁判所

少額訴訟(60万円以下の場合)

請求額が60万円以下であれば、少額訴訟が利用できます。

  • 特徴:原則1回の審理で判決が出る。弁護士なしでも対応可能
  • 費用:申立手数料は数千円程度
  • 期間:概ね1〜2ヶ月で解決することが多い

労働審判(60万円超・複雑な案件)

解雇の有効性を争う場合や請求額が大きい場合は、労働審判が効果的です。

  • 特徴:裁判官1名・労働審判員2名で構成。原則3回以内の期日で審判
  • 費用:申立手数料(請求額に応じて異なる)+弁護士費用(依頼する場合)
  • 期間:平均3ヶ月程度

賃金請求権の時効に注意

未払い賃金の請求権は3年で時効を迎えます(労働基準法第115条・改正後)。給与を止められた直後から時効は進行します。「いつかまとめて請求しよう」と先延ばしにせず、早めに行動することが重要です。


証拠収集——今すぐ保存すべきものリスト

法的手段を取る際に証拠が不十分だと、請求が認められにくくなります。以下のリストを今すぐ確認し、保存を進めてください。

必須の証拠(今すぐ保存)

雇用関係の証明
– [ ] 雇用契約書または労働条件通知書
– [ ] 給与明細(過去6ヶ月分以上)
– [ ] 会社の就業規則(入手できる場合)
– [ ] 社員証・名刺・業務上のメール

未払いの証明
– [ ] 銀行通帳またはインターネットバンキングの明細(振込なしの記録)
– [ ] 給与日前後のATM残高照会レシート

会社とのやり取りの記録
– [ ] 「口座が凍結されている」と言われた際の録音・メモ(日時・発言者・内容)
– [ ] 会社へのメールとその返信(または既読スルーの記録)
– [ ] 上司・人事との会話の録音(自分が参加している会話の録音は合法)

銀行からの確認記録
– [ ] 「口座凍結の事実はない」という銀行の回答(書面・メール・録音)

録音・証拠収集の法的根拠

自分が参加している会話を録音することは合法です。会社との交渉を録音する際、事前に相手の許可を得る必要はありません。スマートフォンのボイスメモやレコーダーアプリを積極的に活用してください。


内容証明郵便による最終通告

メールでの要求に会社が応じない場合、内容証明郵便で給与支払いを正式に請求します。

内容証明郵便は「いつ・何を・誰が・誰に送ったか」を郵便局が証明するもので、裁判での証拠として高い効力を持ちます。

内容証明郵便の送り方

  1. 文書を3通作成(会社用・自分の控え用・郵便局保管用)
  2. 郵便局の窓口(内容証明を扱う局)に持参
  3. 費用:1,300〜1,500円程度

記載すべき内容
– 未払い賃金の金額・期間
– 法的根拠(労働基準法第24条)
– 支払期限(「○日以内に下記口座へ支払え」と明記)
– 支払いがない場合の措置(労基署申告・法的手続き)


「事実上の解雇」として争う——解雇予告手当の請求

給与停止によって退職を余儀なくされた場合、それは「解雇」として扱えます。

解雇予告手当とは

労働基準法第20条により、会社が労働者を解雇する場合には、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません

給与停止による事実上の解雇は、この手続きを経ていないため、解雇予告手当を請求できます。

計算式:直近3ヶ月の賃金合計 ÷ 稼働日数 × 30日分

不当解雇として争う場合の追加請求

解雇そのものが不当だと判断された場合(合理的な理由のない解雇)、以下を請求できます。

  • 地位確認請求:解雇を無効として、引き続き従業員としての地位を確認させる
  • バックペイ:解雇日以降に支払われるべきだった給与の全額
  • 損害賠償:精神的損害等に対する慰謝料

これらを争う場合は、弁護士への相談を強くお勧めします。


相談窓口一覧

一人で抱え込まず、専門機関に相談してください。いずれも無料または低コストで利用できます。

機関名 相談内容 費用 連絡先
労働基準監督署 未払い賃金・解雇予告手当 無料 各都道府県に設置。「労働基準監督署 ○○(地名)」で検索
総合労働相談コーナー 職場トラブル全般の相談 無料 各都道府県労働局・ハローワーク内に設置
法テラス(日本司法支援センター) 弁護士費用の立替・法律相談 低所得者は無料 0570-078374
労働組合(ユニオン) 会社との団体交渉 組合による 「地域ユニオン ○○(地名)」で検索
弁護士会の法律相談 個別案件の法的判断 30分5,500円程度 各都道府県弁護士会に問い合わせ

給与未払い問題は労働者の基本的な権利が侵害される深刻な事態です。躊躇なく、複数の機関に相談することをお勧めします。


よくある質問

Q1. 会社に「口座が凍結されているから証明しろ」と言ってよいですか?

はい、むしろ積極的に求めてください。会社には給与を支払えない理由を説明する義務があります。「どの銀行から、いつ、どういう理由で凍結の通知があったか、書面で示してほしい」と要求してください。会社が証明できない場合、虚偽の主張であることが明らかになります。

Q2. 給与が止まってすぐに申告しないといけませんか?

早ければ早いほど有利です。ただし、賃金請求権の時効は3年あるため、法的には3年以内であれば申告・請求できます。ただし、証拠の劣化・消失を防ぐため、可能な限り速やかに行動することを強くお勧めします。

Q3. 会社に内容証明を送ったら、すぐ解雇されませんか?

内容証明の送付を理由とした解雇は「不利益取扱い」として違法です(労働基準法第104条第2項)。むしろ、内容証明を送ることで会社側が法的リスクを認識し、支払いに応じるケースが多くあります。

Q4. 弁護士に依頼するとどのくらい費用がかかりますか?

案件によって異なりますが、労働問題では「成功報酬型」を採用している弁護士事務所も多く、着手金ゼロ・回収額の20〜30%を成功報酬とするケースが一般的です。法テラスを利用すれば費用の立替制度も使えます。まず無料相談を活用してください。

Q5. 給与が止まった期間中の生活費が心配です。何か使える制度はありますか?

未払い賃金立替払制度(労働者健康安全機構が運営)があります。会社が倒産状態にある場合、未払い賃金の一部(最大370万円)を立替払いしてもらえます。また、ハローワークでは雇用保険の特例受給について相談できます。生活費に困窮する場合は、お住まいの市区町村の福祉窓口で緊急小口資金の相談も可能です。

Q6. 会社が「退職届を出せば未払い給与を払う」と言ってきました。応じてよいですか?

慎重に対応してください。退職届を出すと、自己都合退職となり、解雇予告手当や不当解雇としての損害賠償を請求しにくくなります。未払い給与は退職の有無にかかわらず支払い義務があるため、「退職届を出さずに未払い給与のみ先払いすること」を条件に交渉してください。合意書を作成し、支払い完了を確認してから退職に応じることが安全です。


まとめ——給与を止められたら、この順番で動く

今直面している状況を整理し、すべきことを優先順位順にまとめます。

今すぐ(24時間以内)
1. 銀行に直接電話・来店し、口座凍結の事実を確認する
2. 確認内容を録音・メモで記録する
3. 会社へのメールを作成・送信する(給与の支払いを書面で要求)

数日以内
4. 銀行の確認記録・メール・給与明細など証拠を整理・保存する
5. 会社が回答しない・拒否する場合は内容証明郵便を送付する

1〜2週間以内
6. 労働基準監督署に申告する
7. 法テラス・弁護士会の無料相談を利用する

解決しない場合
8. 支払督促・少額訴訟・労働審判に進む

給与は働いた対価として労働者に支払われる法的権利です。「口座が凍結されているから」という理由で会社がその支払いを拒むことは、どんな状況でも許されません。一人で抱え込まず、今日から行動を始めてください。

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