是正勧告を会社が無視したら?再申告・送検の流れ

是正勧告を会社が無視したら?再申告・送検の流れ 労基署申告

労基署が是正勧告を出してくれた。でも会社は完全に無視している——そんな状況の方へ。是正勧告には法的強制力がないのは事実ですが、次の手段は必ず存在します。 再申告・送検・労働局申し立ての具体的なルートを、順を追って解説します。

「是正勧告が出たのに会社が従わない」という状況は、残念ながら珍しくありません。しかし、これで終わりではありません。適切な再申告・追加申立によって、会社に実際的なプレッシャーをかけ、刑事罰につながる送検まで進むケースもあります。この記事では、是正勧告を無視した会社に対して労働者が取れる具体的な手順を、法的根拠とともに一つひとつ解説します。


是正勧告とは何か、なぜ強制力がないのか

対応ルート 実施機関 法的強制力 期待される効果
再申告・監督官追跡要請 労基署 弱い 是正報告書の提出催促、改善確認
是正報告書虚偽・不提出の追及 労基署・労働局 中程度 行政指導強化、法定期限内の是正圧力
労働局長への申立て 労働局 中程度 監督官の勧告内容見直し、是正期限設定
送検(刑事告発) 労基署→検察 強い 刑事罰、会社の刑事責任追及

まず前提として、是正勧告の法的性質を正確に理解しておくことが重要です。

是正勧告とは、労働基準監督署(労基署)の監督官が事業所の調査を行った結果、労働基準法等の違反を認めた場合に発出する「行政指導」の一種です。是正勧告書には、違反の内容と是正期限が記載されており、会社はその期限内に改善内容を「是正報告書」として提出するよう求められます。

しかし、是正勧告はあくまで行政指導であり、法的強制力を持つ「行政処分」ではありません。この区別が重要です。

区分 性質 強制力 根拠
是正勧告 行政指導 なし 労働基準法101条(監督権限)
行政命令(使用停止命令等) 行政処分 あり 労働基準法96条の3等
書類送検 刑事手続き あり 労働基準法119条〜121条

つまり、是正勧告を無視しても「行政指導を無視した」という事実が残るだけで、即座に罰金や差押えが発生するわけではありません。ただし、この「無視した事実」こそが、次のステップで重要な武器になります。

是正勧告を無視した会社は、監督官から見て「悪質性が高い」と判断されます。労働基準法違反自体は刑事罰の対象(同法119条:6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)であり、行政指導への不対応が重なると、送検に踏み切る根拠が強まるのです。


是正勧告を無視された場合に使える4つのルート

是正勧告を無視された場合、労働者には以下の4つのルートが存在します。これらは排他的ではなく、並行して進めることが最も効果的です。

是正勧告を無視された
        ↓
┌────────────────────────────────────┐
│ ルート①:労基署への再申告・追跡要請    │
│ ルート②:労働局への紛争解決援助申立   │
│ ルート③:労働基準法104条申告の活用    │
│ ルート④:弁護士を通じた民事・労働審判 │
└────────────────────────────────────┘
        ↓
会社への実効的プレッシャー → 送検・是正

ルート①:労基署への再申告と監督官への追跡要請

再申告のタイミングと方法

是正勧告が発出された後、是正期限(通常2週間〜1ヶ月)が過ぎても会社が対応していないことを確認したら、速やかに労基署へ再相談・再申告に臨みましょう。

再申告のポイントは「継続的な違反の証拠」を持参することです。是正勧告後も違反が続いていることを証明できれば、監督官は追跡調査を行う強い根拠を得られます。

持参すべき証拠の具体例:

  • 是正期限後の給与明細(未払い残業代が改善されていない場合)
  • 是正期限後のタイムカード・打刻記録のコピー
  • 是正期限後も続く違法行為を示すメール・チャット履歴
  • 自分で記録した労働時間日誌(日付・出退勤時刻・業務内容)

労基署窓口での申告文例:

「○月○日に是正勧告が出されたと聞いていますが、その後も違反が続いています。是正期限を過ぎても改善が見られない旨を正式に申告したいのですが、申告書を提出できますか」

これにより担当監督官は、改めて事業所への立入調査や是正報告書の確認を行う義務が生じます。

是正報告書の不提出・虚偽報告を追及する

是正勧告を受けた会社は、期限内に是正報告書を提出する必要があります。会社が是正報告書を提出していない場合、または虚偽の内容を記載している場合、これ自体が監督官の追加調査の根拠になります。

再申告時に「会社が是正報告書を提出したかどうか」を確認するよう監督官に求めてください。申告者本人の立場から直接確認を要求できます(労働基準法104条の申告権に基づく正当な権利行使です)。

担当監督官の変更を求める場合

初回申告から3ヶ月以上が経過しても進展がなく、担当監督官の対応に疑問を感じる場合は、労働基準監督署の署長あてに文書で申し入れることができます。その際の文書には以下の内容を明記してください。

  • 最初の申告日と是正勧告が発出された日
  • 是正期限の日付
  • 是正期限後も違反が継続していること
  • これまでの担当官とのやりとりの経緯
  • 上位の監督官による再調査を求める旨

ルート②:労働局への紛争解決援助・あっせん申立

労基署の動きが遅い、または未払い賃金など民事的な解決も求めたい場合、都道府県労働局の総合労働相談コーナーへの申立が有効です。

個別労働紛争解決制度(あっせん)の概要

項目 内容
根拠法 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(個別労働紛争解決促進法)
申立先 都道府県労働局 総合労働相談コーナー
費用 無料
手続き 非公開・非訴訟(裁判ではない)
強制力 なし(合意を促す仕組み)
所要期間 申立から1〜3ヶ月程度

あっせんは強制力を持たない点では是正勧告と同様ですが、第三者(あっせん委員)を介した公式の場で会社側に対応を迫ることができます。未払い賃金・残業代請求・ハラスメント被害などに特に有効です。

あっせん申立書に書くべき内容

  1. 申立人(労働者)の氏名・連絡先
  2. 相手方(会社)の名称・所在地
  3. 紛争の内容(是正勧告を受けた違反の種類と是正勧告発出日)
  4. 是正勧告後も改善されていないこと
  5. 求める解決内容(未払い賃金の支払い等)

ルート③:労働基準法104条に基づく申告権の徹底活用

労働基準法104条は、労働者が労基署に違反を申告する権利を明確に保障しています。会社が「申告した社員を解雇・不利益取扱いする」ことは、同法104条2項で禁止されており、違反した場合は30万円以下の罰金が科されます(同法120条)。

再申告を行う際に重要なのは、「申告」として正式な記録を残すことです。単なる「相談」として処理されると、監督官の義務的対応につながらない場合があります。

申告として扱われるための手順:

  1. 窓口で「労働基準法104条に基づく申告を行いたい」と明示する
  2. 可能であれば書面(申告書)で提出する
  3. 申告書のコピーを取り、受付印をもらう(または受付番号を控える)
  4. 担当監督官の氏名と申告受付日を記録する

申告後の不利益取扱いへの備え

再申告を会社側が知った場合、報復的な不利益取扱いを受けるリスクもあります。以下の行為は違法です。

  • 申告を理由とした解雇(労働基準法104条2項違反)
  • 申告を理由とした降格・減給・嫌がらせ
  • 申告した事実を職場内で暴露する行為

こうした行為が発生した場合は、その証拠(メール、辞令書、録音等)を保全し、労基署への追加申告または弁護士への相談につなげてください。


送検の仕組みと刑事罰が発動する条件

書類送検とは何か

労基署が「書類送検」を行うとは、監督官が検察庁に犯罪捜査の端緒として事件を送ることを指します。送検された場合、検察が起訴・不起訴を判断し、起訴されれば刑事裁判へと進みます。

労働基準法違反の場合の刑事罰は以下の通りです。

違反類型 条文 刑事罰
労働時間・賃金・休憩等の違反 労働基準法119条 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
各種証明書・記録の偽造等 労働基準法120条 30万円以下の罰金
法人の両罰規定(会社自体への罰) 労働基準法121条 各本条の罰金刑(会社にも科される)

両罰規定(121条)が特に重要です。 代表者個人だけでなく、会社(法人)にも同様の罰金刑が科されるため、会社としての社会的信用・対外的イメージへのダメージが生じます。

送検に至る条件と「悪質性」の判断基準

送検は全件行われるわけではなく、監督官が以下の要素を総合的に判断して決定します。

送検に至りやすいケース:

  • 是正勧告を受けても改善しないまま同一違反が繰り返されている
  • 是正勧告後に故意に虚偽の是正報告書を提出した
  • 複数の労働者が同様の被害を受けている(被害の広がり)
  • 違反金額が大きい(未払い残業代が多額)
  • 過去に同種の是正勧告・指導を受けたことがある
  • 経営者が違反を認識しながら意図的に継続している

逆に、以下の場合は送検よりも行政指導の継続にとどまる傾向があります。

  • 違反が会社の認識不足によるもので改善意思がある
  • 被害額が少額で労働者との和解が成立している
  • 是正勧告後に一定の改善措置を講じている

送検を促すために労働者ができること

監督官は職権で送検を判断しますが、労働者側の動きが送検の判断を後押しすることがあります。

具体的な行動:

  1. 悪質性を示す証拠を再申告時に提出する(違反が是正勧告後も継続していることを文書化)
  2. 複数の被害労働者が連名で申告する(被害の広がりを示す)
  3. 弁護士を通じて「刑事告発」を行う(民間人による告発は監督官の送検判断を後押しする場合がある)
  4. 報道機関や労働組合への情報提供(社会的プレッシャーが悪質な会社への対応を加速させることがある)

強制執行が使える条件と限界

労基署による強制執行が認められる例外的ケース

是正勧告には強制力がありませんが、一定の条件下では行政命令(強制力ある処分)が出る場合があります。

行政命令の種類 発動条件 根拠条文
安全衛生上の使用停止命令 危険な作業環境の是正を拒否した場合 労働安全衛生法98条
女性・年少者の就業禁止命令 違法な深夜・危険業務への従事継続 労働基準法96条の3
違法建築・設備の使用禁止命令 危険施設の改善拒否 労働基準法96条の3

ただし、未払い賃金や残業代の不払いに対して、労基署が直接強制執行(差押え等)を行うことはできません。 この点は多くの方が誤解されているポイントです。

未払い賃金の強制回収には民事手続きが必要

未払い残業代や賃金を会社から強制的に回収するには、民事上の手続きが必要です。

未払い賃金の強制回収ルート
         ↓
①労働審判(労働審判法)
 └ 申立から原則3回以内の期日で解決
 └ 申立先:地方裁判所
 └ 費用:収入印紙代(請求額により異なる)
         ↓
②民事訴訟(少額訴訟・通常訴訟)
 └ 60万円以下なら少額訴訟が利用可能
 └ 確定判決を得れば強制執行申立が可能
         ↓
③強制執行(民事執行法)
 └ 確定した債務名義に基づき給与・預金を差押え

未払い賃金立替払制度(独立行政法人 労働者健康安全機構) も確認してください。会社が倒産した場合、一定の要件を満たせば未払い賃金の一部が立替払いされます。


時系列で見る対応フローと実践チェックリスト

是正勧告後の対応タイムライン

【是正勧告発出直後】
  ✅ 是正勧告書の内容を確認・コピー保管
  ✅ 是正期限(勧告書に記載)を把握
  ✅ 違反が継続していることを示す証拠収集開始
  ✅ 労働時間日誌・給与明細の継続保管

【是正期限経過後(通常2週間〜1ヶ月後)】
  ✅ 是正期限後も違反が続いていることを確認
  ✅ 労基署に是正報告書の提出状況を問い合わせ
  ✅ 再申告書を作成・提出(104条申告)
  ✅ 都道府県労働局へのあっせん申立を検討

【再申告後1〜3ヶ月】
  ✅ 監督官からの追跡調査の実施を確認
  ✅ 弁護士への相談(労働審判・民事訴訟の検討)
  ✅ 送検可能性について監督官に問い合わせ
  ✅ 複数の被害者がいれば連名申告を検討

【3ヶ月以上経過・改善なし】
  ✅ 署長あてに上申書(文書)を提出
  ✅ 労働審判・少額訴訟の申立
  ✅ 弁護士を通じた刑事告発の検討
  ✅ 上部機関(都道府県労働局・厚生労働省)への情報提供

申告書・再申告書の書き方と提出のコツ

再申告書に必ず盛り込む6つの要素

  1. 申告者の情報:氏名・住所・連絡先・会社名・役職
  2. 前回申告の情報:申告日・受付番号(あれば)・担当監督官名
  3. 是正勧告の情報:是正勧告書の番号・発出日・是正期限・違反内容
  4. 現在の違反状況:是正期限後も継続している具体的な事実(日付・内容)
  5. 証拠の概要:添付する証拠の一覧(給与明細・タイムカード等)
  6. 求める対応:追跡調査の実施・送検の検討・是正報告書の確認

申告書提出時の注意点

  • 書面で提出し、必ず控えを取る(口頭のみでは記録が残らない)
  • 窓口で「受付印を押してほしい」または「受付番号を教えてほしい」と伝える
  • 感情的な表現は避け、事実のみを客観的に記載する
  • 「労働基準法104条に基づく申告である」と冒頭に明記する

労基署以外の相談先と連携の重要性

是正勧告を無視された状況では、複数の機関を並行して活用する戦略が最も効果的です。

相談先 特徴 費用 連絡先
労働基準監督署 行政指導・送検 無料 各都道府県の労基署
都道府県労働局 あっせん・紛争解決 無料 総合労働相談コーナー
法テラス(日本司法支援センター) 法的支援・弁護士紹介 収入要件により無料〜 0570-078374
弁護士(労働専門) 労働審判・民事訴訟・刑事告発 有料(相談のみ無料の場合も) 弁護士会・労働問題専門事務所
労働組合・ユニオン 団体交渉・会社との直接交渉 無料〜低額 地域ユニオン・産別組合
労働局 雇用環境・均等部 ハラスメント関連の紛争 無料 各都道府県労働局

特に、弁護士への相談は早い段階で行うことを強くお勧めします。 労働審判の時効(未払い賃金は3年、ただし2020年3月以前は2年)が迫っている場合や、会社からの不利益取扱いが発生した場合には、迅速な対応が不可欠です。


よくある質問

Q1. 是正勧告を無視した会社は必ず送検されますか?

いいえ、送検は自動的に行われるわけではありません。監督官が悪質性・違反の継続性・被害の大きさ等を総合的に判断して決定します。ただし、再申告を重ね、証拠を積み上げることで送検の可能性を高めることができます。

Q2. 再申告は何回でもできますか?

はい、労働基準法104条に基づく申告権は労働者の正当な権利であり、回数制限はありません。ただし、毎回新たな証拠や事実を添えて申告することが、監督官に動いてもらうための実践的なポイントです。

Q3. 是正勧告が出たことを会社の同僚に知られると不利ですか?

労基署は原則として申告者の秘密を守る義務があります(労働基準法104条)。ただし、少人数の職場では申告者が特定されるリスクがゼロではありません。申告が理由で不利益取扱いを受けた場合は、それ自体が法律違反(同法104条2項)であり、追加申告の根拠となります。

Q4. 是正勧告の内容(違反の具体的事実)を申告者本人が確認できますか?

是正勧告書は会社あての文書です。申告者が勧告書そのものを受け取ることはできませんが、労基署の窓口で「自分の申告に対してどのような対応をしているか」を問い合わせることは可能です。また、会社から自発的に開示を受けたり、弁護士を通じて情報収集したりする方法もあります。

Q5. 送検されたら会社はどうなりますか?

送検後、検察が起訴・不起訴を判断します。起訴されると刑事裁判となり、有罪の場合は代表者個人に6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法119条)が科されるほか、両罰規定(同121条)により会社(法人)にも罰金刑が科されます。さらに、送検・起訴の事実が公表されれば企業の社会的信用に大きなダメージを与えます。

Q6. 未払い残業代を強制的に取り戻すには何が必要ですか?

労基署の行政指導では直接の強制回収はできません。未払い残業代を強制的に回収するには、①労働審判、②民事訴訟(少額訴訟を含む)を通じて確定した債務名義(判決・決定)を得た上で、民事執行法に基づく強制執行(給与・預金の差押え)を申立てることが必要です。弁護士または司法書士に相談して手続きを進めてください。


まとめ:是正勧告を無視された場合の行動原則

是正勧告を無視された状況は、確かに悔しく、無力感を覚えやすい局面です。しかし、労働者には再申告・送検申告・民事手続きという複数の有効な手段が存在します。

重要なのは以下の3点です。

  1. 証拠を継続的に収集・保全する:是正勧告後も違反が続いていることを示す記録が、次の手続きすべての基盤になります。
  2. 複数の機関を並行して活用する:労基署・労働局・弁護士をそれぞれの役割に応じて使い分けることで、会社へのプレッシャーを最大化できます。
  3. 時効を意識して早期に動く:未払い賃金の請求権には時効(3年)があります。「もう少し様子を見よう」という判断が、後に請求できる金額を減らすことになりかねません。

是正勧告は終わりではなく、次のステップへの出発点です。今すぐ証拠を確認し、労基署への再申告と弁護士への相談を始めてください。

弁護士への相談は無料相談窓口や法テラスで対応可能です。時効を逃さないためにも、今この瞬間から行動を開始することが、最も実効的な選択となります。

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