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評価通告から時間が経つほど証拠が消えやすくなります。「自分はパワハラ被害かもしれない」と感じた時点で、まず評価票のコピー取得と記録を行ってください。手順はSection 3で詳しく説明します。
パワハラで人事評価を低くされた場合の法的な定義
人事評価が低い=パワハラ、とは限りません。上司には一定の評価裁量権があり、裁量の範囲内であれば違法性は生じません。問題になるのは、その裁量権を濫用した「意図的低評価」です。
厚生労働省のパワーハラスメント定義(労働施策総合推進法第30条の2)は以下の3要件を掲げています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 優越的な関係 | 上司・職場での立場上の力を利用している |
| ② 業務上の適正範囲を超えている | 合理的な評価基準から逸脱している |
| ③ 就業環境を害している | 精神的苦痛・昇給・昇格への実害がある |
この3要件がそろうとき、意図的低評価はパワーハラスメントとして違法性を帯びます。2022年4月に全面施行されたパワーハラスメント防止法(改正労働施策総合推進法)により、すべての企業規模でこれらの行為防止が義務化されました。
違法な「意図的低評価」になる7つのチェックポイント
以下の項目に2つ以上当てはまれば、違法な意図的低評価の可能性が高いと判断できます。自己診断リストとして活用してください。
- [ ] ① 他の従業員との著しい格差:同等の業務実績を持つ同僚と比較して、不合理に低い評価が繰り返されている
- [ ] ② 実績を無視した評価:達成したノルマ・プロジェクト成果が評価票に反映されていない
- [ ] ③ 意図を示す言動の存在:「お前の評価は下げる」「査定に響くぞ」など上司が明言・示唆した
- [ ] ④ 見せしめ目的の低評価:特定の部下への示しとして低評価を使っていることが会話・メールからうかがえる
- [ ] ⑤ 内部告発・相談後の低評価:ハラスメント相談・内部告発を行った直後に評価が急落した(報復的低評価)
- [ ] ⑥ 評価理由の虚偽・矛盾:フィードバック面談で示された低評価の理由が事実と異なる、または時期によって変わる
- [ ] ⑦ 評価基準の不開示・拒否:評価基準の説明を求めたところ、合理的な説明なく拒否された
法的根拠
裁量権の濫用については「社会通念上妥当性を欠く評価」として不法行為(民法第709条)が成立しうる、と複数の裁判例が示しています。また報復的低評価はパワーハラスメント防止法において、事業主が防止措置を講じる義務を負う行為に該当します。
低評価がもたらす具体的な損害とは
意図的低評価を「気にしすぎ」と放置してはいけません。以下の実害が発生・拡大するからです。
- 昇給・賞与の直接的減額:評価がそのまま賃金テーブルに連動している場合、毎月の給与・賞与で金銭的損害が生じる
- 昇格・昇進の停止:累積評価が昇格基準を下回り続けることでキャリアに取り返しのつかない影響が出る
- 精神的苦痛:不当な評価が継続することによるメンタルヘルス被害(うつ病・適応障害など)
- 解雇・配置転換の口実化:低評価を積み重ねてから「能力不足」を理由とした解雇・降格に発展するケース
証拠収集:被害直後にすべきこと
異議申立・法的手続きのいずれにおいても、証拠の質と量が結果を左右します。評価通告から7日以内に以下の行動を完了させてください。
STEP 1:評価票・評価根拠の記録保全(最優先)
| 取得すべき資料 | 具体的な方法 |
|---|---|
| 評価票のコピー | 人事部または上司に書面でのコピー交付を申請。拒否されたらスマートフォンで写真撮影 |
| フィードバック面談の記録 | 面談直後に内容をメモ(日時・場所・発言内容を一字一句)。ICレコーダーの録音も可 |
| 過去の評価票 | 前年度・前々年度との比較で急落を証明する |
| 目標設定シート | 評価期間開始時に合意した目標と、実際の評価の乖離を証拠にする |
今すぐできるアクション
評価票を手元で確認できる場合は今すぐ写真撮影してください。社内システム上の評価票はアクセス権を剥奪される可能性があります。
STEP 2:業務実績の記録を集める
低評価の不当性を証明するには、「本来ならば高い評価を受けるべき実績があった」ことを示す必要があります。
- メール・チャット履歴:業務指示への対応・顧客への対応・プロジェクト完了報告など、実績を示すものをPDF化・プリントアウト
- 顧客・取引先からの評価:感謝メール・アンケート結果・口頭評価をもらった場合のメモ
- 数値実績:売上数字・件数・進捗率など客観的に確認できるデータ
- 同僚の証言:可能であれば、同じ状況を見ていた同僚に協力を依頼(ただし、相手に不利益が生じないよう慎重に)
STEP 3:パワハラ言動の記録
意図的低評価の「意図」を示す証拠は特に重要です。
- 録音:業務上の会話の録音は原則として適法(相手に告知しなくても証拠として使用できます)。スマートフォンのボイスメモ機能を活用してください
- 日記・ログ:毎日の業務終了後に、その日の上司の言動を日時・場所・発言内容・目撃者の形式で記録
- メール・メッセージ:「評価を下げる」「査定に影響する」などの文言が含まれるやり取りを保存
- 証人の特定:その場にいた第三者の氏名・連絡先をメモしておく
評価基準の開示請求:あなたにはこの権利がある
低評価を受けた従業員には、評価基準の説明を求める正当な権利があります。パワーハラスメント防止法のもと、事業主は評価の透明性を確保することが法的に求められています。
開示請求の手順
① 口頭での確認(まず上司・人事部に問い合わせ)
「今回の評価結果について、どの評価基準に基づいてどのように判断されたか、
書面で説明していただけますか」
② 書面による正式請求(口頭で拒否された場合)
人事部・労務部に対して以下の内容を含む書面を提出します。
評価基準開示請求書
提出日:○年○月○日
所属:○○部 氏名:○○○○
【請求内容】
1. ○年○月期人事考課において適用された評価基準・評価項目の書面交付
2. 私の評価結果について各評価項目における採点根拠の書面説明
3. 回答期限:本書到達後14日以内
【根拠】
会社は従業員に対して労働契約上の説明義務を負い、また
パワーハラスメント防止法(労働施策総合推進法第30条の2)に基づく
適切な職場環境確保の観点からも情報開示が求められます。
③ 拒否・無視された場合
開示を拒否された事実そのものが、後の労働局への申告・労働審判において不利な証拠となります。拒否された日時・対応者名を必ず記録してください。
社内手続き:評価異議申立の進め方
多くの企業には評価への異議申立制度が存在します。まず社内手続きで解決を試みることが重要です(後の法的手続きで「社内解決の努力をした」ことが有利に働くためです)。
評価異議申立書の書き方
以下の構成で作成してください。A4用紙2〜3枚が目安です。
評価異議申立書
提出日:○年○月○日
所属・氏名:○○部 ○○○○
提出先:人事部長 殿(または、ハラスメント相談窓口)
【申立の趣旨】
○年○月期の人事考課において、S〜Dの5段階評価でDと評価されましたが、
当該評価は不当であると考え、再評価を求めます。
【申立の理由】
1.評価結果と実績の乖離
・○月○日〜○月○日にかけて○○プロジェクトを担当し、目標比△△%を達成した
(証拠:業務報告書、メール添付)
・○件の顧客対応を行い、顧客満足度調査で○○点を取得した
(証拠:アンケート結果)
2.評価基準からの逸脱
・評価期間開始時に○○を目標として合意していた(証拠:目標設定シート)
・当該目標は達成したにもかかわらず、「未達」と評価された
3.パワーハラスメントの疑い
・○月○日のフィードバック面談において、上司○○より
「お前の評価は特別に下げておいた」との発言があった(録音あり)
【求める措置】
1.評価の再審査と適正な評価への修正
2.評価基準に関する書面での説明
3.上司の行為についてのハラスメント調査の実施
【添付資料】
証拠資料一覧(別紙)
社外への申告・相談先と手順
社内手続きで解決しない場合、または社内申告に安全性がない場合は、速やかに社外機関を活用してください。
相談先一覧と特徴
| 機関 | 特徴 | 費用 | 連絡先 |
|---|---|---|---|
| 都道府県労働局(総合労働相談コーナー) | 無料・匿名相談可。まず最初に相談すべき窓口 | 無料 | 各都道府県の労働局 |
| 個別労働紛争解決制度(あっせん) | 労働局のあっせん委員が仲介。弁護士不要で申請可 | 無料 | 労働局に申請書提出 |
| 労働基準監督署 | 賃金・労働条件の明確な違反がある場合に申告 | 無料 | 各地の労基署 |
| 弁護士(労働専門) | 損害賠償請求・労働審判を検討する場合は必須 | 有料(法テラス利用可) | 各弁護士会 |
| 労働組合(ユニオン) | 会社との団体交渉を行う。個人でも加入可 | 組合による | 地域合同労組など |
労働局への申告手順
- 総合労働相談コーナーへ相談(予約不要・匿名可)
- 相談員と面談し、事実関係を整理
- 必要に応じて都道府県労働局長による助言・指導を申請
- 解決しない場合は紛争調整委員会によるあっせんを申請
今すぐできるアクション
厚生労働省の「総合労働相談コーナー」は全国379か所に設置されています。電話相談も可能です。各都道府県の労働局代表番号へ「パワハラによる不当評価について相談したい」と申し出てください。
損害賠償請求:法的手段の検討
社内外の手続きで解決しない場合、または昇給・昇格への実害が明確な場合は損害賠償請求を検討してください。
請求できる損害の種類
| 損害の種類 | 根拠法令 | 内容 |
|---|---|---|
| 財産的損害 | 民法第709条(不法行為) | 不当低評価による賞与・昇給の差額 |
| 慰謝料 | 民法第709条・第710条 | 精神的苦痛に対する賠償 |
| 会社への使用者責任 | 民法第715条 | 上司の行為について会社も連帯責任を負う |
手続きの流れ
① 内容証明郵便による請求(弁護士作成が望ましい)
↓
② 労働審判(申立から平均3か月・費用が低い・非公開)
↓
③ 民事訴訟(労働審判で解決しない場合)
重要
不法行為の損害賠償請求権の消滅時効は損害および加害者を知った時から3年(民法第724条)です。証拠収集が終わったら速やかに専門家に相談してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 証拠がなくても異議申立はできますか?
A1. 申立自体は証拠がなくても行えます。ただし、会社や労働局が判断する際の説得力が大きく異なります。まず記憶をもとに時系列メモを作成し、その後証拠を揃えていく方法でも間に合います。
Q2. 録音は証拠として使えますか?
A2. 業務上の会話・面談の録音は、あなた自身が会話の当事者であれば、相手の同意なく行っても違法にはなりません(最高裁判例)。録音した事実を隠す必要もなく、証拠として提出できます。
Q3. 相談したことが上司にバレませんか?
A3. 総合労働相談コーナーへの相談は匿名で行えます。社内のハラスメント相談窓口については、窓口担当者が調査に入る時点で上司が察知する可能性があります。社内申告の前に、外部機関で手順を相談してから動くと安全です。
Q4. 会社を辞めてからでも請求できますか?
A4. できます。退職後も不法行為の損害賠償請求権は3年間(民法第724条)有効です。ただし、証拠は退職前に確保しておくことが強く推奨されます。退職後は社内資料へのアクセスができなくなるためです。
Q5. 中小企業でもパワハラ防止法は適用されますか?
A5. 2022年4月から中小企業にも義務として適用されています(改正労働施策総合推進法)。規模に関係なく、すべての事業主がハラスメント防止措置を講じる法的義務を負います。
まとめ:行動の優先順位チェックリスト
パワハラによる意図的低評価への対応は、スピードと記録の正確さが鍵です。以下のチェックリストで、今日中に着手できるものから始めてください。
- [ ] 今日中:評価票・目標設定シートの写真撮影・コピー保全
- [ ] 今日中:フィードバック面談の内容を記憶が新鮮なうちにメモ
- [ ] 3日以内:業務実績を示すメール・データのPDF保存
- [ ] 7日以内:評価基準開示請求書の提出
- [ ] 7日以内:総合労働相談コーナーへの相談予約
- [ ] 14日以内:評価異議申立書の作成・提出
- [ ] 必要に応じて:弁護士への相談・法的手続きの検討
最後に:あなたの評価は守られる権利がある
意図的な低評価は単なる「職場のトラブル」ではなく、法律が禁止するハラスメントです。一人で抱え込まず、この記事で紹介した機関・手続きを積極的に活用してください。あなたの評価の透明性と適正さは、パワーハラスメント防止法で保護される基本的な労働環境です。
本記事は情報提供を目的としており、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な対応については、労働問題専門の弁護士または労働局にご相談ください。

