「セクハラを受けてから職場に行けなくなった」「診断書は何科でもらえばいい?」「傷病手当金は本当に出るの?」——そんな疑問に、今日から動ける手順で答えます。この記事では受診→休職申請→傷病手当金→治療費請求の4ステップを順番に解説します。
セクシャルハラスメント(セクハラ)が引き金となって出社できなくなることは、決して珍しいことではありません。心理的なトラウマやPTSD(心的外傷後ストレス障害)、適応障害といった症状が現れ、通勤するだけで体が震える、会社の名前を聞くだけで吐き気がする——そうした状態は「気の持ちよう」ではなく、治療が必要な病態です。
大切なのは、あなたには休む権利があり、その間の収入を守る制度が存在し、治療費を加害者・会社に請求する法的根拠もあるということです。一つひとつのステップを確認しながら、今できることから始めましょう。
セクハラとPTSD・適応障害の関係を理解する
セクハラが心理的トラウマを引き起こすメカニズム
男女雇用機会均等法第11条は、「事業主は、職場においておこなわれる性的な言動により労働者の就業環境が害されることのないよう、雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定めています。この規定が示すとおり、セクハラは個人の問題ではなく、使用者が防止義務を負う職場上の違法行為です。
セクハラを受けた労働者は、単なる不快感にとどまらず、以下のような深刻な精神的影響を受けることがあります。
| 症状・病態 | 主な特徴 | 診断科 |
|---|---|---|
| PTSD(心的外傷後ストレス障害) | フラッシュバック・悪夢・回避行動・過覚醒 | 精神科・心療内科 |
| 適応障害 | 特定のストレス因への反応として抑うつ・不安が生じる | 精神科・心療内科 |
| うつ病 | 持続的な抑うつ気分・意欲低下・睡眠障害 | 精神科・心療内科 |
これらの病態は、労災認定の対象となり得ます。厚生労働省が定める「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和5年改正)では、「セクシュアルハラスメントを受けた」ことは心理的負荷の強度が「強」と評価される出来事として明記されています。
「気のせい」ではない——受診をためらわないために
被害を受けた後、「自分が悪いのかもしれない」「大げさだと思われるのでは」と感じて受診をためらう方は少なくありません。しかし、出社できない状態が続いているなら、それはすでに医療的な介入が必要なサインです。
今すぐできるアクション: 最寄りの精神科または心療内科に電話し、「セクハラを受けて出勤できない状態が続いている」と伝えて、できるだけ早い予約を取りましょう。初診で診断書の発行を依頼することも可能です。
ステップ1:診断書を取得する(受診編)
受診すべき医療機関と伝え方
受診先は精神科または心療内科が適切です。「メンタルクリニック」と名乗っているクリニックも多く、予約の取りやすさや待ち日数を考慮して選びましょう。かかりつけの内科医がいる場合は、まずそちらに相談して紹介状をもらう方法もあります。
初診時に医師へ伝えるべき内容は以下のとおりです。
- セクハラの具体的な内容(いつ・誰に・何をされたか)
- 症状が出始めた時期
- 現在の症状(眠れない、食欲がない、会社のことを考えると動悸がするなど)
- 仕事を休んでいる期間または休まざるを得ない状態であること
診断書に記載してもらうべき内容として、医師に以下を依頼してください。
- 傷病名(PTSD・適応障害・うつ病など)
- 発症時期または症状出現時期
- 就労困難である旨
- 休養を要する期間(休職申請に必要)
- セクハラが原因・誘因であることの記載(可能であれば)
診断書の費用は通常3,000〜5,000円程度です。この費用も後の損害賠償請求の対象となりますので、領収書は必ず保管してください。
診断書の種類と使い分け
セクハラ被害の文脈では、以下の2種類の診断書が必要になる場面があります。
休職用診断書:会社の休職申請に使用。「○ヶ月間の休養が必要」という形式が一般的です。
労災申請用診断書(意見書):労働基準監督署への労災申請に使用。医師に「業務上の疾病」としての意見を求めます。別途費用がかかる場合があります。
今すぐできるアクション: 診断書を受け取ったら、必ずコピーを2〜3部取り、原本と別の場所に保管してください。提出先に応じてコピーを使用します(原本提出を求められる場合は事前確認を)。
ステップ2:休職申請を行う
休職制度の基本と法的根拠
日本の労働法には、法律上の「休職権」を直接定めた規定はありませんが、就業規則に休職制度が定められている場合、それは会社と労働者の間の労働条件として効力を持ちます。まず、自社の就業規則を確認し、休職の要件・期間・手続きを把握してください。
就業規則の確認ポイントは以下のとおりです。
- 休職事由(「傷病による欠勤が○日以上続いた場合」など)
- 休職期間の上限
- 休職中の給与・手当の扱い
- 休職申請に必要な書類
- 復職の要件
就業規則がない、または確認できない場合は、総務・人事部門に書面で開示請求することができます。
休職申請書の書き方
休職申請書には決まった書式はありませんが、会社指定の様式がある場合はそれに従います。様式がない場合は以下の内容を記載した書面を作成してください。
【記載例】
休職申請書
申請日:〇〇年〇〇月〇〇日
所属:〇〇部
氏名:〇〇〇〇
この度、医師の診断により、下記のとおり休職を申請いたします。
傷病名:適応障害(担当医:〇〇クリニック 〇〇医師)
休職希望期間:〇〇年〇〇月〇〇日〜〇〇年〇〇月〇〇日(〇ヶ月間)
理由:上記傷病のため、就業が困難な状態にある
添付書類:診断書1通
以上
申請書は必ずコピーを保管したうえで提出してください。可能であれば、提出した事実が記録に残るよう、メールで送付するか、受領印をもらうことを強くお勧めします。
会社がハラスメントの原因開示を求めてきた場合
休職申請の際、「なぜ休むのか詳しく説明せよ」「セクハラがあったなら誰にされたのか言え」と会社側が迫ってくる場合があります。
重要な点として、休職申請の段階では原因の詳細を会社に対して開示する義務はありません。診断書に記載された傷病名と就労困難の事実があれば、休職の申請として十分です。
セクハラの内容については、後の手続き(労災申請・損害賠償請求・労働局への申告)の文脈で、適切な窓口に対して開示するのが適切です。
今すぐできるアクション: 就業規則を確認し、休職申請のフローを把握してください。就業規則が手元にない場合は、人事部門に「就業規則の写しを送ってください」とメールで依頼しましょう。この段階では出社は不要です。
ステップ3:傷病手当金を申請する
傷病手当金とは
傷病手当金は、健康保険法第99条に基づく給付制度で、業務外の病気やケガで働けなくなった場合に、休業中の生活を保障するために支給されます。
セクハラによるPTSDや適応障害は、「業務上の疾病」として労災認定を受ける場合と、「業務外の傷病」として健康保険の傷病手当金を受給する場合の2つのルートがあります。まずは傷病手当金を申請しながら、並行して労災申請を検討するのが一般的な流れです。
傷病手当金の受給条件
以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 被保険者であること | 会社員として健康保険に加入していること(国民健康保険は対象外) |
| 療養のため働けないこと | 医師が就労不能と認めていること(診断書が証明) |
| 連続3日間仕事を休んでいること(待期期間) | 最初の3日間は支給されない(有給休暇・公休日を含む) |
| 給与の支払いがないこと | 休職中に給与が支払われている場合は調整される |
傷病手当金の金額計算
支給額は以下の計算式で求められます。
1日あたりの支給額 = 支給開始日以前12ヶ月の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 2/3
たとえば、月給30万円(標準報酬月額30万円)の場合:
30万円 ÷ 30 × 2/3 = 6,667円/日
支給期間は、支給開始日から通算して最長1年6ヶ月です(2022年1月の法改正により通算制度に変更)。
傷病手当金の申請手順
① 勤務先の人事・総務担当者に「傷病手当金を申請したい」と連絡し、申請書を入手します(書式は加入している健康保険組合または協会けんぽのウェブサイトからもダウンロード可能)。
② 申請書は通常4枚組で構成されています。
– 被保険者記入欄:自身の基本情報・休業期間・給与の支払い状況を記入
– 事業主記入欄:会社が休業期間・給与支払い状況を証明
– 医師記入欄:担当医が就労不能の状態を証明
③ 医師の記入欄を担当医に依頼します。診断書と同様、記入費用がかかる場合があります(これも領収書を保管)。
④ 事業主記入欄を会社に記入してもらいます。会社がセクハラを隠蔽しようとして申請書の記入を拒否するケースもありますが、これは不利益取扱いの禁止(男女雇用機会均等法第11条の3)に違反する可能性があります。拒否された場合は、労働基準監督署または都道府県労働局に相談してください。
⑤ 完成した申請書を健康保険組合または協会けんぽに提出します。郵送で提出可能です。
今すぐできるアクション: 協会けんぽに加入しているかどうか健康保険証で確認し、都道府県支部のウェブサイトから傷病手当金支給申請書をダウンロードしておきましょう。
ステップ4:治療費・慰謝料を会社・加害者に請求する
請求できる損害の種類
セクハラによって生じた損害は、法的に以下のカテゴリに整理できます。
| 損害の種類 | 具体的な内容 | 請求先 |
|---|---|---|
| 治療費 | 通院費・診断書費用・薬代 | 加害者・会社(連帯) |
| 休業損害 | 休職中の減収分 | 加害者・会社(連帯) |
| 慰謝料 | 精神的苦痛に対する損害賠償 | 加害者・会社(連帯) |
| その他実費 | 相談のための交通費・弁護士費用など | 加害者・会社(連帯) |
会社の法的責任の根拠
会社は以下の2つの根拠から損害賠償責任を負います。
使用者責任(民法第715条):加害者(従業員)が業務の執行中にセクハラをおこなった場合、会社はその使用者として被害者に対して損害賠償責任を負います。
職場環境配慮義務違反(民法第415条・労働契約法第5条):会社はセクハラが生じないよう環境を整備する義務があります。この義務を怠った場合、債務不履行による損害賠償責任が発生します。男女雇用機会均等法第11条の措置義務違反も、この責任の根拠を補強します。
労災申請と民事請求の違い
| 項目 | 労災申請 | 民事損害賠償請求 |
|---|---|---|
| 窓口 | 労働基準監督署 | 裁判所(または交渉) |
| 給付内容 | 療養補償・休業補償・障害補償など | 治療費・休業損害・慰謝料など |
| 費用 | 無料 | 弁護士費用が発生する場合あり |
| 過失の立証 | 不要(認定基準を満たせばよい) | 必要(因果関係の立証) |
| 時効 | 原則2年(療養・休業補償) | 原則3年(不法行為の損害賠償) |
労災認定を受けることは、民事上の損害賠償請求においても因果関係の証明として有力な証拠になります。両方の手続きを並行して進めることが得策です。
会社への請求の進め方
まず内容証明郵便で通知を送る
弁護士に依頼する前段階として、または依頼とともに、内容証明郵便で会社・加害者に損害賠償を請求することができます。内容証明郵便は「いつ・何を・誰に送ったか」が郵便局に記録され、法的な証拠として機能します。
記載内容の例:
– セクハラの事実(日時・内容)
– それによって生じた精神的・身体的被害
– 診断名と治療状況
– 請求する損害の内訳と合計額
– 回答期限(2週間程度が一般的)
弁護士への依頼を検討する
請求額が大きい場合・会社が無視または否定してくる場合・証拠を整理したい場合は、労働問題・ハラスメント専門の弁護士への相談を強くお勧めします。初回相談が無料の法律事務所も多くあります。
今すぐできるアクション: 治療費の領収書、通院した日付の記録、休職によって減少した給与の明細をすべて一か所にまとめ始めましょう。損害額の計算の基礎になります。
証拠保全:休職前・休職中にやっておくべきこと
セクハラの被害を証明し、休職・治療費請求・労災申請を有利に進めるために、証拠の収集と保全は非常に重要です。
保全すべき証拠の種類
書面・デジタル証拠
– セクハラにあたるメール・LINEのスクリーンショット(日時が分かる形で保存)
– 加害者から受け取ったメッセージや手紙
– 社内のグループチャットの記録
– 人事部門や上司に相談した際のメール
記録・日記
– セクハラが発生した日時・場所・具体的言動・目撃者を日付つきで記録したノート
– 症状の変化(眠れない、動悸がするなど)を日付つきで記録
– 医療機関を受診した日・医師の発言・処方内容の記録
医療関係書類
– 診断書のコピー(複数部)
– 通院記録・処方箋・薬代の領収書
– カルテ開示請求(医師や医療機関に請求可能)
証拠の保管方法の注意点
– 社内PCや会社の携帯に保存したデータは、休職中または退職後にアクセスできなくなる可能性があります。私物のデバイスにコピーを保存し、クラウドストレージにもバックアップしておきましょう。
– 紙の記録は自宅の安全な場所に保管します。
相談先一覧:一人で抱え込まないために
| 相談先 | 対応内容 | 費用 |
|---|---|---|
| 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室) | セクハラに関する事業主への行政指導・紛争解決援助(調停) | 無料 |
| 労働基準監督署 | 労災申請の相談・受付 | 無料 |
| 労働局総合労働相談コーナー | 労働問題全般の相談(予約不要) | 無料 |
| 法テラス(日本司法支援センター) | 弁護士費用の立替制度・法的情報提供 | 収入要件あり・一部無料 |
| 地域の弁護士会(法律相談センター) | 法律相談(初回30分無料が多い) | 有料(相談料30分5,500円程度) |
| 産業カウンセラー・EAP | メンタルヘルス相談 | 会社提供の場合は無料 |
| よりそいホットライン | 24時間・365日の電話相談(0120-279-338) | 無料 |
男女雇用機会均等法第18条に基づき、都道府県労働局長は、調停という形で会社と被害者の間の紛争解決を援助することができます。弁護士費用をかけずに公的機関が介入する手段として有効です。
職場復帰に向けて:焦らないためのポイント
休職中の最優先事項は回復です。職場復帰は焦らず、主治医・産業医と連携しながら進めましょう。
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、復職プロセスを5つのステップで整理しています(病気休業開始・主治医による判断・職場復帰支援プランの作成・試し出勤・本格復帰)。
なお、同じ職場環境への復帰に心理的抵抗がある場合は、加害者の配置転換・異動を会社に申し出ることができます。会社はセクハラ被害者の就業環境改善措置を講じる義務(男女雇用機会均等法第11条の指針)を負っており、加害者と被害者を同じ職場に置き続けることは、その義務違反となり得ます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 休職中に傷病手当金の申請を会社に拒否された場合はどうすればよいですか?
傷病手当金は健康保険から給付されるため、会社が「出さない」という権限はありません。ただし、申請書の「事業主記入欄」の記入を会社が拒否するケースがあります。その場合は、加入している健康保険組合または協会けんぽに直接事情を説明し、対応方法を相談してください。都道府県労働局への申告も有効な対抗手段です。
Q2. パート・アルバイトでも傷病手当金はもらえますか?
健康保険(協会けんぽ・組合健保)に加入していれば、雇用形態がパートやアルバイトであっても傷病手当金の受給対象になります。ただし、国民健康保険には傷病手当金制度がありません(一部自治体を除く)。まず自分が加入している保険の種類を健康保険証で確認しましょう。
Q3. 診断書にセクハラが原因と書いてもらえなかった場合、労災申請はできませんか?
診断書に原因が明記されていなくても、労災申請は可能です。労災認定の判断は、診断書だけでなく、日記・証言・会社の記録など複数の証拠を総合的に評価して労働基準監督署がおこないます。診断書はあくまで「傷病の事実」を証明するものです。因果関係の証明は労災申請書および添付資料で補います。
Q4. セクハラをした加害者個人に請求することはできますか?
はい、加害者個人に対して不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償請求が可能です。会社に対する使用者責任(民法第715条)と併せて、加害者と会社の両方を連帯被告として訴訟を提起することが一般的です。弁護士に相談し、請求先と戦略を検討してください。
Q5. 休職を申請したら会社に解雇されるのではないかと不安です。
セクハラ被害を理由とした解雇や、休職申請に対する報復的な解雇は、男女雇用機会均等法第11条の3(不利益取扱いの禁止)および労働契約法第16条(解雇権濫用の法理)に違反する可能性が高く、無効と判断されます。万が一不当解雇を示唆された場合は、直ちに労働局または弁護士に相談してください。
まとめ:今日から始める4つのアクション
セクハラによってPTSD・適応障害などを発症し、出社できない状態になることは、あなたの弱さではありません。それは、違法な行為によって引き起こされた傷であり、社会制度と法律があなたを守るために存在しています。
今日から始める4つのアクションを改めて整理します。
- 精神科・心療内科を受診し、診断書を取得する(セクハラとの因果関係の記録を依頼)
- 就業規則を確認し、休職申請書を提出する(書面・メールで記録を残す)
- 傷病手当金の申請書を入手し、医師・会社の記入を進める(待期期間3日を経てから支給開始)
- 証拠を整理し、労働局または弁護士に相談の予約を入れる(一人で抱え込まない)
一度に全部できなくても構いません。まず1番だけ、今日中に電話することから始めてください。あなたが一歩踏み出す準備ができたとき、この記事が実際の行動の指針になれば幸いです。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。具体的な手続きや請求内容については、労働局・弁護士などの専門家にご相談ください。

