上司が「あいつの給与は出ている」などと同僚に言いふらす行為は、パワハラ・個人情報漏洩・名誉毀損の三重違反に該当しうる深刻な問題です。休職中という精神的に不安定な時期を狙ったこの行為は、あなたの復職環境を意図的に破壊しています。本記事では、法的根拠の確認から証拠収集・申告手順・慰謝料請求まで、今すぐ実行できる対応手順を体系的に解説します。
あなたの状況はパワハラに該当する——法的根拠を整理する
パワハラ防止法が定める「3つの要件」と本ケースへの当てはめ
2020年6月施行の労働施策総合推進法(パワハラ防止法)第30条の2は、職場のパワーハラスメントを次の3要件をすべて満たす行為と定義しています。
| 要件 | 定義 | 本ケースへの当てはめ |
|---|---|---|
| ①優越的関係を背景とした言動 | 上司・先輩など職務上の優位性を背景にした行為 | 上司が職場内の情報管理権限を持つ立場で発言している |
| ②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動 | 業務遂行に全く不要な言動 | 同僚への給与情報の吹聴は業務上の必要性がゼロ |
| ③労働者の就業環境が害される言動 | 心理的苦痛・職場環境の悪化を引き起こす行為 | 休職者への不信感を組織内に広め、復帰後の環境を破壊する |
上司が「あいつの給与は出ている」と同僚に発言する行為は、この3要件をすべて満たします。さらに厚生労働省が定める6類型のうち、「人間関係からの切り離し(孤立化)」に明確に該当します。
今すぐできるアクション: 上記の3要件を自分のケースに照らし合わせ、「①誰が(上司か同等か)」「②その発言は業務に必要だったか」「③自分の就業環境に影響が出ているか」を紙に書き出してください。これが後の申告文書の骨子になります。
給与情報の漏洩は個人情報保護法違反になる
給与は個人情報保護法第2条が定める「個人情報」に該当します。 氏名・生年月日と組み合わせることで特定個人を識別できる情報だからです。
職場における給与情報の取り扱いについては、以下の義務が生じます。
- 利用目的の制限(個人情報保護法第16条):給与情報は給与計算・人事管理の目的でのみ使用可能
- 第三者提供の禁止(同法第23条):本人の同意なく第三者に提供することは原則禁止
- 安全管理措置の義務(同法第20条):企業は給与情報が漏洩しないよう管理体制を整備する義務がある
上司が同僚に「あいつの給与は出ている」と発言することは、会社が管理する給与情報を本人の同意なく第三者(同僚)に開示する行為です。これは企業の個人情報管理体制の問題でもあり、会社は監督責任を問われる立場にあります。
さらに、上司には職務上の秘密保持義務(就業規則・雇用契約に明記されていることが多い)もあります。これは民事上の債務不履行(民法415条)として、別途損害賠償の根拠にもなりえます。
今すぐできるアクション: 自社の就業規則または雇用契約書を確認し、「秘密保持」「個人情報」に関する条項を探してください。スキャンまたは写真で保存しておきます。
名誉毀損・侮辱罪の可能性と民事責任
「給与が出ているのに働いていない」という趣旨の発言は、あなたの社会的評価を低下させる可能性があり、民法・刑法の両面から問題になります。
民事責任(損害賠償):
– 民法第709条(不法行為責任):故意または過失によって他人の権利・法律上の利益を侵害した者は、損害を賠償する責任を負う
– 民法第710条(慰謝料):財産以外の損害(精神的苦痛)についても賠償責任が生じる
– 会社は民法第715条(使用者責任)に基づき、上司の行為について連帯して賠償責任を負う場合がある
刑事責任:
– 刑法第230条(名誉毀損罪):公然と事実を摘示し人の名誉を毀損した場合、3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金
– 刑法第231条(侮辱罪):事実を摘示しなくても公然と人を侮辱した場合、1年以下の懲役・禁錮もしくは30万円以下の罰金(2022年改正により厳罰化)
「同僚への発言」は不特定または多数が知りうる状態(公然性)を満たす可能性が高く、名誉毀損罪の要件に合致しやすいといえます。
今すぐできるアクション: 発言を聞いた同僚の名前・発言日時・場所・内容をできる限り詳細に記録してください。「聞いた人がいる=公然性あり」の証拠になります。
今すぐ始める証拠収集——申告前に押さえるべき4つの記録
被害記録メモの作り方
証拠収集で最も重要なのは、記憶が鮮明なうちに詳細な記録を残すことです。以下の形式で「被害記録メモ」を作成してください。
【被害記録メモ記載事項】
①発言日時:○年○月○日(○曜日)○時頃
②発言場所:○○部署のフロア、休憩室など具体的な場所
③発言者:上司の氏名・役職
④聴衆:発言を聞いた同僚の名前(判明する分)
⑤発言内容:「」でくくって一言一句正確に
⑥自分が知った経緯:誰から・いつ・どのように情報が入ったか
⑦発言後の状況変化:同僚の態度変化・会話の減少など具体的事実
⑧自分の心身への影響:睡眠障害・食欲不振・症状悪化など
※スマートフォンのメモアプリなら作成日時が自動記録されるため証拠能力が高い
この記録は毎回の出来事ごとに必ず作成してください。複数の日時にわたる継続的な嫌がらせであることを示すことで、パワハラの「継続性・繰り返し」を証明できます。
今すぐできるアクション: 今日中にスマートフォンのメモアプリを開き、思い出せる限りの発言内容・日時・場所を入力してください。あとから修正・追記するよりも、まず大まかでも記録することが最優先です。
録音データの取り扱いと注意点
上司や同僚との会話を録音する場合、以下の点を理解したうえで行ってください。
自分が当事者として参加している会話の録音は、一般的に違法ではありません。 刑法の「通信傍受法」が禁じているのは第三者が無断で傍受する行為であり、自分が参加している会話を記録することは正当な証拠収集行為として認められています。
【録音時のチェックリスト】
□ スマートフォンのボイスレコーダーアプリを事前に準備
□ バッテリー残量を確認(録音は電池を消費する)
□ ファイル名に日時を入れて保存(例:20250115_上司発言)
□ クラウドストレージ(Google Drive等)にも即座にバックアップ
□ 録音後は上書き・削除しないよう注意
□ 録音した事実は当面誰にも言わない
また、上司が同僚に発言した場面の「伝聞証拠」として、発言を聞いた同僚に書面または音声で証言してもらうことも検討してください。ただし、同僚を巻き込む際は相手への配慮と守秘の確認が必要です。
今すぐできるアクション: スマートフォンにボイスレコーダーアプリをインストールし、使い方を確認しておいてください。いざという場面で操作に迷わないよう、事前の練習が重要です。
医療記録の確保——損害賠償の根拠を作る
休職中のパワハラ被害では、医療記録が損害賠償額を大きく左右します。 以下の手順で医療証拠を確保してください。
【医療記録確保の手順】
STEP1:主治医への報告
→ 「上司からの嫌がらせにより症状が悪化した」と具体的に説明する
→ 発言内容・日時を医師に伝え、カルテへの記載を依頼する
STEP2:診断書の取得
→ 「業務上(職場環境)による症状悪化」の記載を求める
→ 今後の症状変化についても継続的に記録してもらう
STEP3:医療費の記録
→ 領収書をすべて保管(交通費含む)
→ 薬局の領収書も含めて時系列でファイリングする
STEP4:症状日記の作成
→ 毎日の心身状態を5段階で記録するだけでもよい
→ 症状悪化と発言があった日の相関関係が後で証明できる
今すぐできるアクション: 次の通院日に「上司の発言により精神的ダメージを受けた」という事実を主治医に必ず伝えてください。受診していない場合は、できるだけ早めに予約を入れてください。
メール・SNS・書類などのデジタル証拠保全
給与情報の漏洩や嫌がらせを示すデジタル証拠は、削除・上書きされる前に保全することが重要です。
【保全すべきデジタル証拠の種類】
□ 社内メール(上司からのCC外し・無視・嫌がらせ的な文面)
□ チャットツールのメッセージ(Slack・Teams等)
□ 人事評価記録・フィードバックメモ
□ 会社から送られてきた書類・通知書
□ 休職前後のやりとりの記録
【保全方法】
• スクリーンショットを撮り、日時が確認できる形で保存
• PDFで書き出し、クラウドに保存
• 社内システムの証拠は退職前・アクセス権失効前に保全する
今すぐできるアクション: 会社のメール・チャットツールを確認し、上司からの問題のある連絡・自分に関する情報のやりとりをスクリーンショットで保存してください。会社システムへのアクセス権限がいつ失われるかわからないため、今日中に実施してください。
申告・相談の具体的手順——どこに何を伝えるか
社内の相談窓口への申告
まず社内の対応ルートを使うことが、迅速な解決への近道になる場合があります。ただし、加害者(上司)と相談窓口の担当者が近い関係にある場合は、後述の社外機関への相談を優先してください。
申告先の優先順位:
- コンプライアンス窓口・ハラスメント相談窓口(設置がある場合)
- 人事部・労務部(直属の上司を飛び越えて)
- 内部通報制度(会社の規模によっては匿名通報も可能)
社内申告時に提出すべき書類:
【社内申告書の記載事項】
①申告日・申告者名・連絡先
②被害の概要(いつ・どこで・誰が・何を・誰に言ったか)
③法的根拠(パワハラ防止法違反・個人情報漏洩・名誉毀損の可能性)
④要求事項(具体的に何をしてほしいか)
例:上司への厳重注意、再発防止策の提示、
職場環境の調査・改善、慰謝料の支払い
⑤証拠リスト(添付する証拠の一覧を記載)
⑥回答期限(例:2週間以内に文書で回答を求める)
※必ず「コピーを手元に保管」してから提出する
※可能であれば「受領確認書」または「受付番号」を取得する
今すぐできるアクション: 自社にハラスメント相談窓口があるか確認してください。社内イントラ、就業規則の末尾、会社のホームページなどに掲載されていることが多いです。
労働基準監督署・都道府県労働局への申告
社内申告で解決しない場合、または社内申告が難しい場合は、公的機関への申告を行います。
都道府県労働局(総合労働相談コーナー):
- パワハラに関する相談・申告の一次窓口
- 無料・匿名での相談が可能
- 「個別労働紛争解決制度」によるあっせん(調停)の申請が可能
- 電話番号:各都道府県労働局に設置(厚生労働省HPで検索可能)
労働基準監督署(労基署):
- 労働基準法・安全衛生法違反の申告先
- パワハラによる安全配慮義務違反(労基法第5条)の申告に対応
- 会社への立入調査・是正勧告の権限を持つ
【申告時に持参するもの】
□ 被害記録メモ(日時・場所・内容を記載したもの)
□ 医師の診断書
□ 証拠となるメール・チャットのスクリーンショット
□ 就業規則のコピー
□ 雇用契約書のコピー
□ 給与明細(休職中の給与支払いの実態確認用)
□ 会社の住所・代表者名・従業員数がわかる資料
今すぐできるアクション: 厚生労働省の「総合労働相談コーナー」のWebサイトで、最寄りの相談窓口の電話番号と受付時間を確認してください。相談は無料で、今すぐ電話できます。
弁護士への相談——慰謝料請求・訴訟を視野に入れる
損害賠償・慰謝料請求を本格的に検討する場合は、弁護士への相談が必要です。
弁護士への相談が特に有効なケース:
- 会社・上司が申告に対して誠意ある対応をしない場合
- 精神的損害(治療費・通院費・休業損害)が大きい場合
- 退職を余儀なくされた・復職が事実上困難になった場合
- 個人情報漏洩として会社のコンプライアンス責任を追及したい場合
慰謝料の相場(参考):
パワハラの慰謝料は事案の程度によって大きく異なりますが、職場でのハラスメント事案では50万円〜300万円程度が裁判例の目安となっています。休職期間中の嫌がらせ・職場環境破壊が認定されるケースでは、それ以上の認容額になることもあります。
費用を抑えた相談方法:
【費用を抑えた弁護士相談の選択肢】
① 法テラス(日本司法支援センター)
→ 収入・資産が一定基準以下なら無料法律相談・費用立替制度あり
→ 電話:0570-078374(平日9時〜21時、土曜9時〜17時)
② 弁護士会の法律相談センター
→ 30分5,500円程度の有料相談(各都道府県弁護士会)
→ 初回相談無料の弁護士事務所も多数あり
③ 労働問題専門弁護士への相談
→ 「成功報酬型」で初期費用なしで着手できる事務所もある
→ 労働審判(簡易・迅速な紛争解決手続き)も選択肢
今すぐできるアクション: 法テラスの電話番号をスマートフォンに登録してください。収入要件を確認してから、無料相談の予約を入れることができます。
復職前に必ず確認する——職場環境の修復と再発防止
会社の安全配慮義務違反を問う
労働契約法第5条は、会社に対して「労働者の生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする義務」を課しています。この安全配慮義務は、休職中の労働者に対しても適用されます。
上司が休職中の同僚に対して不信感を醸成する発言を繰り返すことを会社が放置している場合、会社は安全配慮義務違反として民法第415条(債務不履行)による損害賠償責任を負います。
復職前に会社に対して以下の事項を確認・要求してください:
【復職前確認・要求事項リスト】
□ 上司への厳重注意・再発防止指導の実施(実施記録の提出を求める)
□ 職場環境調査の実施(同僚への影響範囲の確認)
□ 復職後の部署変更・上司変更の検討
□ 再発した場合の対応方針の文書化
□ 産業医・産業カウンセラーとの面談機会の確保
□ 復職後の合理的配慮の確認(勤務時間・業務内容の調整)
今すぐできるアクション: 復職面談の前に、上記リストを印刷し、会社側に確認事項として提出してください。口頭ではなく書面で要求することで、後のトラブルを防げます。
再発防止のために——会社が取るべき措置を理解する
パワハラ防止法(労働施策総合推進法第30条の2〜第30条の8)は、事業主に対して以下の義務的措置を求めています。
- ハラスメント防止のための方針策定・周知
- 相談窓口の設置・適切な運用
- 被害者へのプライバシー保護
- ハラスメント発生後の迅速な事実確認と再発防止
会社がこれらの措置を講じていない場合、厚生労働大臣による報告徴収・勧告・企業名公表の対象になります。この制度の存在を会社側に明示することは、交渉において一定の圧力になります。
この問題に関してよく受ける質問
Q1. 給与情報を漏らした上司個人を訴えることはできますか?
はい、可能です。上司個人を民法第709条(不法行為)に基づく損害賠償請求の被告とすることができます。同時に、会社も民法第715条(使用者責任)で連帯して責任を負う場合があります。実務的には会社・上司の両方を被告とするケースが多く、示談交渉の段階で会社が対応することも少なくありません。
Q2. 休職中に証拠収集しても、復職後に不利な扱いを受けませんか?
証拠収集・相談・申告を理由とする不利益取り扱いは、パワハラ防止法第30条の2第2項で明確に禁止されています。申告したことを理由に解雇・降格・減給などを行った場合、それ自体が新たな違法行為となり、損害賠償請求の対象が広がります。申告と不利益取り扱いの時系列を記録しておくことで、不当報復の証拠にできます。
Q3. 同僚が「上司からそう聞いた」と証言してくれれば証拠になりますか?
強力な証拠になります。同僚の証言は伝聞証拠ですが、民事訴訟では証拠能力が認められています。可能であれば、同僚に陳述書(出来事を時系列で記した書面)を作成してもらい、署名・押印してもらうことで証拠能力が高まります。ただし同僚への配慮を忘れず、証言を強要しないようにしてください。
Q4. パワハラ被害の時効はいつまでですか?
民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害を知った時から3年(民法第724条)です。ただし「知った時」の起算点は解釈によって異なります。できるだけ早く専門家に相談し、時効中断(更新)のための手続き(内容証明郵便の送付・訴訟提起など)を検討してください。
Q5. 会社の対応が遅い・誠実でない場合はどうすればよいですか?
申告から2週間以上回答がない、または「対応中」との連絡のみで進展がない場合は、都道府県労働局への「行政指導申立て」または「あっせん申請」を行ってください。行政機関が介入することで、会社の対応速度は著しく改善する傾向があります。並行して弁護士に相談し、労働審判・民事訴訟などの法的手続きの準備を進めることをお勧めします。
まとめ——今日から始める5つのステップ
上司による休職中の給与情報漏洩・人格攻撃は、パワハラ防止法・個人情報保護法・民法の三重の違反です。あなたには法律に基づいた保護を受ける権利があります。
【今日から始める5つのステップ】
STEP 1:被害記録メモを作成する
→ スマートフォンのメモアプリに日時・場所・内容・証人を記録
STEP 2:主治医に状況を報告し、診断書の取得を依頼する
→ 「上司の言動により症状が悪化した」と具体的に伝える
STEP 3:就業規則・雇用契約書をコピーして保管する
→ 秘密保持・ハラスメント対応条項を確認する
STEP 4:都道府県労働局(総合労働相談コーナー)に電話する
→ 無料・匿名で相談可能。今すぐ電話できる
STEP 5:法テラスまたは弁護士事務所に相談予約を入れる
→ 慰謝料請求・労働審判の可否を専門家に確認する
休職中という最も脆弱な時期を狙った嫌がらせを、あなたが一人で抱え込む必要はありません。証拠を残し、適切な機関に相談することが、自分を守り・職場環境を変える最初の一歩です。 本記事で紹介した法的根拠・証拠収集方法・相談先を活用し、今日からアクションを開始してください。
本記事の情報は2025年1月時点の法令に基づいています。個別のケースへの対応は、労働問題を専門とする弁護士または社会保険労務士にご相談ください。

