「相談したら情報漏洩になる」「通報したらどうなるか分かっているな」──こうした発言を上司や会社から受けたなら、それ自体がすでに犯罪行為です。多くの被害者がこの言葉に萎縮し、泣き寝入りを強いられていますが、法律はあなたの側に立っています。本記事では、「相談窓口への相談は情報漏洩」という脅しがなぜ違法なのか、その法的根拠を明示したうえで、証拠保全・外部通報・刑事告訴の手順を優先順位付きで解説します。今すぐ動き出すための実務ガイドとして活用してください。
「相談窓口への相談は情報漏洩」は違法か?法的根拠を確認する
この発言が該当する犯罪と違反行為
「相談したら情報漏洩になる」「黙っていないと何が起こるか分かるよな」──こうした言動は、感情的な脅し文句に聞こえるかもしれません。しかし法律の観点では、複数の犯罪・違反行為が同時に成立し得る、極めて深刻な違法行為です。
| 違反区分 | 根拠法令 | 具体的な行為内容 |
|---|---|---|
| 脅迫罪 | 刑法222条 | 「通報したらどうなるか分かっているな」など、恐怖心を生じさせて相談を抑止する発言 |
| 強要罪 | 刑法223条 | 「相談窓口には絶対に行くな」と命令し、相談という正当な行為を強制的にやめさせる行為 |
| パワーハラスメント | 労働施策総合推進法30条の2 | 職場内での優越的地位を利用した精神的な攻撃・行動制限 |
| 通報権の侵害 | 労働基準法104条・公益通報者保護法3条 | 相談窓口への相談や行政機関への申告を禁止・妨害する行為 |
| 不利益取扱いの禁止違反 | 労働施策総合推進法30条の2第2項 | 相談したことを理由とした解雇・降格・配置転換 |
| 民法上の不法行為 | 民法709条 | 相談の自由を侵害し精神的損害を与えた場合の慰謝料請求根拠 |
「情報漏洩」という言い訳が成立しない理由
会社が「相談内容は社外秘だ」「相談すれば秘密保持義務に違反する」と主張することがありますが、これは法律上まったく成立しません。理由は以下の3点です。
① ハラスメント被害は「業務上の秘密」ではない
秘密保持義務(NDA・就業規則上の守秘義務)が保護する対象は、技術情報・顧客情報・経営情報など、企業の正当な利益を守るために必要な情報です。自分が受けたパワハラ被害の事実は、企業が守秘義務で封じ込められる「業務上の秘密」には該当しません。
② 相談窓口の設置目的そのものへの背反
パワハラ防止法は事業者に対し、「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備する義務」(労働施策総合推進法30条の2第1項)を課しています。さらに、厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は「相談者のプライバシー保護」と「相談したことを理由とした不利益取扱いの禁止」を事業者の義務として明示しています。相談窓口への相談を「情報漏洩」と呼ぶことは、法が命じた制度の存在を真っ向から否定する行為です。
③ 労基署への申告権は法律上保障されている
労働基準法104条1項は「事業場に法令違反がある場合、労働者は行政官庁または労働基準監督官に申告できる」と定め、同条2項では「申告を理由とした解雇その他不利益な取扱いを禁止」しています。この申告権は会社の就業規則や誓約書によっても剥奪できません。
今すぐ動く:証拠保全の手順(24時間以内にやること)
証拠保全が最優先である理由
法的手段(刑事告訴・労働局への申告・民事訴訟)のいずれを選ぶとしても、すべての根拠となるのが証拠です。脅迫を受けた直後は記憶が鮮明で、相手方もまだ証拠隐滅に動いていない可能性が高いため、受けた当日中に以下の手順を実行してください。
記録すべき情報のチェックリスト
【今日中に記録する内容】
├─ 脅迫・禁止発言の日時(年月日・曜日・時刻)
├─ 場所(上司の個室・会議室・廊下など)
├─ 発言者の氏名・役職
├─ 具体的な発言内容(一字一句、記憶している限り正確に)
├─ その場にいた目撃者の氏名・役職
├─ 自分の反応・状況(その場で何と答えたか)
├─ 発言後の体調・精神状態(動悸・頭痛・眠れないなど)
└─ 医師の受診歴(心療内科・精神科)がある場合は診断書を取得
デジタル証拠の保存方法
音声録音
会議室や上司の個室でのやり取りは、スマートフォンのボイスレコーダー機能で録音できます。日本では「一方当事者録音」(会話の当事者の一人が録音する)は違法ではなく、民事・刑事の証拠として採用された判例も多数あります。録音する際の注意点は以下のとおりです。
- スマートフォンをポケットや鞄の中に入れた状態で録音しても証拠能力は認められます
- 録音ファイルは日付・時刻・相手の氏名を含むファイル名に変更して保存します(例:
20250610_部長名前_脅迫発言.m4a) - 必ずクラウドストレージ(Google Drive・iCloud・OneDrive)にもバックアップしてください。会社のPCや社内ネットワーク上には保存しないこと
メール・チャットのスクリーンショット
SlackやTeams・LINE・メールで「相談は禁止だ」「社外に漏らすな」という内容のメッセージが届いた場合、画面全体のスクリーンショット(日時・送信者が確認できるよう画面上部も含める)を撮影し、クラウドに保存します。
業務日誌・被害記録
ノートまたはクラウド上のメモアプリに、発言があるたびに日記形式で記録します。「いつ・どこで・誰が・何を言った・自分はどう感じた」の5点を毎回書くことで、長期間の被害パターンを可視化できます。これは弁護士相談時にも非常に有効です。
防犯カメラ映像の保全要求
廊下やエレベーター前など防犯カメラのある場所で発言があった場合、映像は通常数日〜数週間で上書きされます。証拠として使いたい場合は、弁護士を通じて「証拠保全の申立て」(民事保全法234条)を裁判所に申請することで、映像の消去を差し止めることが可能です。時間的余裕がない場合は、まず弁護士に電話相談してください。
社内相談窓口と外部通報先の使い分け方
社内相談窓口が機能しない場合の見極め方
パワハラ防止法が定める社内相談窓口は、本来なら被害者の最初の相談先です。しかし次のような状況では、社内窓口への相談は逆効果になる場合があります。
- 相談窓口が人事部・総務部など「会社側」に属している
- 窓口担当者がハラスメント行為者と親しい関係にある
- 過去に相談した同僚が報復を受けた実績がある
- 「相談したら情報漏洩」と脅されている(=本記事のケース)
このような場合は、社内窓口を経由せず、直接外部機関に通報・相談することが最善策です。
外部通報・相談先の一覧と使い方
① 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)
パワハラ・ハラスメントの相談専門窓口です。各都道府県の労働局に設置されており、相談は無料・匿名でも可能です。申告を受けた場合、労働局は事業主に対して「助言・指導・勧告」を行い、それでも改善しない場合には企業名の公表(パワハラ防止法33条)も行われます。
- 問い合わせ先:各都道府県労働局(厚生労働省ウェブサイトで管轄局を検索)
- 電話番号:各局の代表番号(平日9時〜17時)
- オンライン申告:「労働条件相談ほっとライン」0120-811-610(17時〜22時対応)
② 労働基準監督署(労基署)
労基法違反(申告を理由とした不利益取扱いなど)の申告先です。申告書を提出すると、労働基準監督官が事業場の調査を行います。
ポイント:労基法104条2項に基づき、「申告したこと」を理由とした解雇・減給・配置転換は即座に違法となります。申告後に報復があった場合は、その事実もすぐに労基署に追加申告してください。
③ 公益通報者保護法に基づく通報(外部通報)
公益通報者保護法(令和4年改正・令和4年6月施行)は、事業者内部の法令違反について外部機関(行政機関・報道機関など)に通報した労働者を保護します。
| 通報先の種別 | 保護要件 | 具体例 |
|---|---|---|
| 事業者内部 | 不正の目的がないこと | 社内ハラスメント相談窓口 |
| 行政機関 | 法令違反が起きていると信じる合理的理由があること | 労働局・労基署・警察 |
| 外部(報道等) | 証拠隠滅のおそれ等の要件を満たすこと | 報道機関・労働組合 |
令和4年改正により、300人超の事業者には公益通報対応業務従事者の指定が義務付けられ、その者には刑事罰付きの守秘義務が課されています(同法12条・21条)。つまり通報内容を漏らした担当者自身が犯罪者になる仕組みです。
④ 警察への相談・刑事告訴
脅迫罪・強要罪の構成要件を満たす場合は、警察への相談または刑事告訴が可能です。詳細は次のセクションで解説します。
⑤ 弁護士会・法テラス(無料法律相談)
- 法テラス(日本司法支援センター):0570-078374(平日9時〜21時、土9時〜17時)。収入・資産要件を満たす場合、弁護士費用の立替制度が利用できます。
- 弁護士会の法律相談センター:各都道府県弁護士会が実施する30分5,500円程度の初回相談。労働問題専門の弁護士を指名相談できる場合もあります。
- 労働問題専門弁護士:「残業代請求・パワハラ・解雇」を掲げる弁護士事務所の多くは初回相談無料。着手金ゼロ・完全成功報酬型の事務所も増えています。
脅迫罪・強要罪での刑事告訴の手順
刑事告訴が有効なケースの見極め
すべてのパワハラ事案で刑事告訴が最善というわけではありません。以下の条件を満たす場合に、刑事告訴は特に有効な手段となります。
- 「通報したらどうなるか分かっているな」「家族にも影響が出るぞ」など、具体的な害悪の告知がある
- 発言が録音・メール・目撃者によって証拠化されている
- 脅迫・強要の結果、実際に相談を断念させられた(行動を強制された)
- 脅した相手が特定できている(氏名・役職が明確)
刑事告訴状の作成と提出手順
ステップ1:弁護士に相談して告訴状を作成する
刑事告訴状は個人でも作成・提出できますが、警察が受理しやすい形式・内容にするためには弁護士のサポートが実務上有効です。告訴状には以下を記載します。
【告訴状の記載事項】
├─ 告訴人の氏名・住所・連絡先
├─ 被告訴人の氏名・役職・勤務先
├─ 告訴の趣旨(〇〇を脅迫罪/強要罪で告訴する)
├─ 犯罪事実(日時・場所・具体的な発言内容)
├─ 証拠の一覧(録音ファイル・メール等)
└─ 告訴年月日・告訴人署名
ステップ2:管轄警察署に告訴状を提出する
犯罪が発生した場所(会社の所在地または発言があった場所)を管轄する警察署の「刑事課」に提出します。警察は合理的な理由がある限り告訴状を受理する義務があります(刑事訴訟法242条)。口頭での相談を先に行い、担当者を確認してから書面を提出する流れが一般的です。
ステップ3:受理後の流れ
告訴が受理されると、警察が捜査を開始します(任意捜査→必要に応じて強制捜査)。捜査結果は検察に送致され、起訴・不起訴が決定されます。
重要:刑事告訴を行った事実(または行う意思を示した事実)を会社が知った後に、解雇・降格・配置転換などの不利益取扱いを行った場合、それは労働基準法104条2項違反と報復行為に該当し、新たな違法行為として追加で申告・訴追できます。
報復(不利益取扱い)を受けたときの対応
典型的な報復パターンと対処法
相談・申告後に行われる報復は、以下のような形で現れることが多いです。
| 報復の形態 | 法的根拠(違法性) | 即時対応 |
|---|---|---|
| 解雇・雇い止め | 労働基準法104条2項・労働契約法16条 | 解雇通知書を受け取り保存→労基署へ申告→地位確認請求の検討 |
| 降格・減給 | 労働施策総合推進法30条の2第2項 | 辞令書・給与明細を保存→労働局に相談 |
| 不当な配置転換 | 同上・権利濫用法理 | 辞令書を保存→配転命令の有効性を弁護士に確認 |
| 職場内孤立・無視 | パワハラ防止法(人間関係からの切り離し) | 状況を日記に記録→産業医・外部医師に相談 |
| 過大な業務・嫌がらせ的業務命令 | パワハラ防止法(過大な要求) | 業務記録を保存→労働局に追加申告 |
解雇された場合の「解雇無効」の主張
申告を理由とした解雇は労働基準法104条2項により絶対的に無効です(合理的理由を欠く解雇として労働契約法16条も適用)。解雇通知を受けた場合は、以下の順序で対応します。
- 解雇通知書(解雇理由書)を書面で請求(労働基準法22条)
- 解雇通知書・給与明細・雇用契約書を証拠として保存
- 労働基準監督署に申告(申告記録が証拠になる)
- 弁護士に相談し、地位確認・未払賃金請求訴訟を検討
- 必要に応じて労働審判(申立てから原則3回以内で解決)を活用
民事損害賠償請求(慰謝料請求)の手順
誰に対して何を請求できるか
脅迫・相談禁止行為によって精神的損害を受けた場合、以下の相手に対して損害賠償を請求できます。
行為者個人(上司・管理職)に対して
民法709条(不法行為)に基づき、精神的損害(慰謝料)・治療費・休業損害などを請求できます。
会社(使用者)に対して
民法715条(使用者責任)により、従業員の不法行為について会社も責任を負います。また、パワハラ防止措置義務(労働施策総合推進法30条の2)の不履行を根拠とした債務不履行責任(民法415条)も成立し得ます。
慰謝料の相場(参考)
パワハラ・脅迫を含む事案の慰謝料認容額は事案の程度・期間・証拠の質によって大きく異なりますが、裁判例では概ね以下の範囲が参考になります。
- 比較的軽微なケース:10万〜50万円程度
- 精神疾患(適応障害・うつ病等)が生じたケース:50万〜200万円程度
- 長期・悪質・組織的なケース:200万円以上の認容例あり
実務的アドバイス:慰謝料請求を検討するなら、精神科・心療内科への受診と診断書の取得が最大の証拠補強になります。受診を迷っている場合でも、「職場環境による精神的不調」を理由に受診することに何ら問題はありません。
よくある質問
Q1. 「相談は情報漏洩」と言われただけで、まだ実害はありません。それでも脅迫罪になりますか?
脅迫罪(刑法222条)は、「害悪の告知」によって相手に恐怖心が生じれば成立します。「実際に不利益を受けた」という結果は要件ではありません。「通報したらどうなるか分かっているな」という発言は、それ自体が「害悪の告知」に該当し得ます。ただし、告訴の実効性は証拠の質に大きく依存するため、まず弁護士に相談して見通しを確認することを強くお勧めします。
Q2. 会社の秘密保持誓約書にサインしています。相談すると本当に違法になりますか?
なりません。秘密保持誓約書(NDA)が保護する対象は、企業の正当な事業上の秘密(技術情報・顧客リストなど)です。自分が受けたハラスメント被害の事実は、法的にその対象外です。また、仮に誓約書の文言が広範であっても、公序良俗に反する条項は無効(民法90条)であり、行政機関への申告権(労基法104条)を事前に封じることは法律上できません。
Q3. 社内の相談窓口に相談したら、相談内容が行為者に筒抜けになりました。これは違法ですか?
違法です。パワハラ防止法に基づく厚生労働省の指針は、相談者のプライバシー保護を事業者に義務付けています。相談担当者が相談内容を行為者に漏らした場合、事業者はパワハラ防止指針違反となります。また、漏洩した担当者が「公益通報対応業務従事者」として指定されていた場合は、公益通報者保護法21条の刑事罰(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)が適用されます。証拠を保存し、労働局に申告してください。
Q4. 録音を証拠にしたいのですが、「盗撮・盗聴で違法だ」と言われそうです。大丈夫ですか?
問題ありません。会話の当事者の一方が録音する「一方当事者録音」は、日本の法律(不正競争防止法・刑法)において違法とされていません。民事・刑事の証拠として裁判所でも広く採用されています。ただし、自分が会話に参加していない第三者間の会話を隠し録りすることは問題になり得るため、あくまで「自分が当事者として参加している会話」の録音にとどめてください。
Q5. 一人で動くのが怖いです。会社に知られずに動く方法はありますか?
法テラス・弁護士会の法律相談センターは、相談内容について守秘義務を負っています。相談したことが会社に伝わることは一切ありません。また、都道府県労働局・労働基準監督署への申告も匿名で可能です(匿名申告の場合、調査の限界があることは事前に担当者に確認してください)。まず一人で抱え込まず、無料相談から始めることを強くお勧めします。
Q6. 外部に相談・申告したら、報復として解雇されました。どうすればいいですか?
労働基準法104条2項により、申告を理由とした解雇は違法・無効です。解雇通知書を必ず受け取り(または交付を要求し)、解雇理由書を書面で請求してください(労基法22条)。その後、労働基準監督署に申告し、同時に弁護士に相談して「地位確認・未払賃金請求」の労働審判または訴訟を検討してください。労働審判は原則3回以内の期日で解決できる迅速な手続きです。
まとめ:今日から始める5つのアクション
職場で「相談したら情報漏洩になる」「通報したらどうなるか分かっているな」と脅された場合、法律はあなたの通報権・相談権を明確に保護しています。会社の主張は法的根拠のない脅しであり、それ自体が脅迫罪・強要罪・パワハラ防止法違反に該当し得ます。
今日から始めるべき5つのアクションを最後にまとめます。
- 証拠を保全する:録音・メール・被害日記をクラウドに保存する(今日中)
- 外部相談窓口に連絡する:法テラス(0570-078374)または都道府県労働局に電話する
- 医療機関を受診する:精神的不調があれば心療内科・精神科で診断書を取得する
- 申告または告訴を検討する:弁護士と相談のうえ、労働局申告または刑事告訴の方針を決める
- 報復に備える:申告後の不利益取扱いを記録し、発生した場合は即座に追加申告する
一人で抱え込む必要はありません。法律という武器を手に、まず最初の一歩を踏み出してください。
本記事は2025年6月時点の法令・行政指針に基づいています。個別の事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

