内定取消と解雇の対応|損害賠償請求の徹底解説

内定取消と解雇の対応|損害賠償請求の徹底解説 不当解雇

内定をもらったのに突然取り消された——そんな状況に直面したとき、多くの人は「どこに相談すればいいのか」「本当に違法なのか」と戸惑います。結論から言えば、内定取消は法的に「解雇」と同等の扱いを受ける可能性が高く、違法な取消であれば30日分の平均賃金を請求できます。この記事では、法的根拠・証拠の集め方・損害賠償の計算方法・申告先を実務的に解説します。


目次

  1. 「内定取消」は本当に解雇なのか?法的性質の整理
  2. 違法な内定取消の「特別な事情」判断フレームワーク
  3. 入社前に「内定取消」と言われたときの即日対応フロー
  4. 損害賠償請求の計算式と請求額の相場
  5. 申告先と相談窓口の選び方
  6. よくある質問(FAQ)

「内定取消」は本当に解雇なのか?法的性質の整理

内定通知時点で労働契約は「完成」しているのか

労働契約がいつ成立するかについては、主に2つの学説があります。

学説 契約成立時期 実務上の扱い
始期付労働契約成立説 内定通知時点 内定承諾書の署名時点で有効な契約が成立
労働契約準成立説(判例主流) 入社予定日時点 入社日を始期とした労働契約が成立

現在の裁判所が採用している主流の立場は「労働契約準成立説」です。 最高裁判所は1979年の「大日本印刷事件」において、採用内定通知によって「解約権を留保した労働契約」が成立すると判示しました。つまり、内定通知+内定承諾の時点で労働契約はすでに「成立」しており、これを取り消す行為は法的には解雇に該当します。

時間軸で見る契約の成立と取消の違い:

内定通知
  ↓(ここで労働契約が準成立)
内定承諾書の署名・提出
  ↓
    ← ここで取り消されると「解雇」と同等
入社予定日(就労開始)
  ↓
    ← ここ以降の解雇は通常の不当解雇
実際の業務開始

解雇予告規定が適用される法的根拠

労働基準法第20条は、使用者は労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前に予告しなければならないと定めています。30日前に予告しない場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません

内定取消が「解雇」と同等とみなされた場合、この規定が直接適用されます。

📌 適用法令:労働基準法第20条第1項
「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」

内定取消と未払い賃金請求権の関係

違法な内定取消が認定された場合、以下の請求権が発生します。

  • 解雇予告手当(労働基準法第20条):30日分の平均賃金
  • 債務不履行に基づく損害賠償(民法第415条):転職活動にかかった費用・機会損失など
  • 不法行為に基づく損害賠償(民法第709条):精神的苦痛(慰謝料)

また、労働契約法第16条が定める「解雇権濫用法理」も適用され、合理的理由のない内定取消は無効と判断される可能性があります。


違法な内定取消の「特別な事情」判断フレームワーク

認められない取消理由TOP10(経営理由・採用計画変更など)

1969年の東芝事件(東京地裁)は、内定取消の合法・違法を判断する基準を示したリーディングケースです。この判決では、内定取消が合法となるのは「特別な事情」が存在する場合に限られると明示しました。

以下の理由は「特別な事情」に該当せず、違法な内定取消とみなされます。

# 違法な取消理由 補足
1 採用予定数の削減 採用計画は企業内部の都合
2 景気悪化・業績悪化 内定者に責任なし
3 人員整理・リストラ方針 整理解雇の4要件を満たさない限り無効
4 採用担当者のミス(過剰内定) 企業側の過失
5 配属部署の廃止 他部署への配置転換が先
6 採用基準の事後的変更 遡及適用は不当
7 他の候補者との比較による格下げ 差別的扱い
8 内定者の「印象」変化 主観的判断は根拠にならない
9 試用期間中の評価前の取消 評価の機会を与えるべき
10 SNS投稿・過去のツイート 原則として業務との関連性が必要

認められた「特別な事情」の判例6選

# 認められた理由 代表判例
1 学歴・職歴の詐称 炭研精工事件(1993年)
2 入社前の犯罪行為(立件済み) 損保ジャパン事件
3 健康診断で就業不可能と診断された疾患 大日本印刷事件(1979年)
4 反社会的勢力との関係が判明 複数の地裁判例
5 採用の前提となる資格の喪失 医師・弁護士資格取消など
6 重大な信義則違反行為 個別判断が必要

グレーゾーン事例の判定ポイント

SNS炎上や軽微な虚偽申告、健康上の問題など、白黒つけにくい事案は「その事情が採用の意思決定に重大な影響を与えるか」という観点で判断されます。判断が難しい場合は、後述する労働局や弁護士への相談を優先してください。

⚠️ 今すぐできるアクション
まず、内定取消の理由を文書(メール・書面)で会社に求めてください。口頭の場合は録音し、理由が文書化されていれば証拠として活用できます。


入社前に「内定取消」と言われたときの即日対応フロー

通知方法による証拠価値の違い(書面>メール>電話)

証拠として使える価値は、通知方法によって異なります。

証拠価値:高
  ┌─ 書面(内定取消通知書・内容証明郵便)
  │    → 日付・署名があり法的に最も有力
  ├─ メール・チャット履歴
  │    → スクリーンショット+転送で保全
  ├─ 電話・口頭
  │    → 録音が必須(スマートフォンのボイスメモ活用)
  └─ 口頭のみ(録音なし)
証拠価値:低(相手が否認すると難航)

📌 重要:録音は事前に伝えなくても合法です(日本では一方当事者が同意していれば違法にならない)。

当日にやるべき3ステップ(記録・相談予約・書類保全)

ステップ1:すべての記録を保全する(当日)

  • 内定通知書・雇用契約書のコピーを保存
  • メール・チャット・SMSをスクリーンショット+転送
  • 電話での通知は直後にメモを作成(日時・担当者名・発言内容)
  • 内定承諾書のコピーを手元に残す

ステップ2:会社に書面での説明を求める(当日〜翌日)

以下のような文面でメールを送りましょう。

件名:内定取消に関する書面説明のお願い

○○株式会社 人事部 ご担当者様

本日、お電話にて内定を取り消す旨のご連絡をいただきました。
つきましては、取消の具体的な理由と根拠を
書面にてお知らせいただけますでしょうか。
労働契約の成否に関わる重要事項のため、文書での回答をお願いいたします。

氏名:○○

ステップ3:相談機関へ連絡する(当日〜3日以内)

相談先 連絡先 特徴
労働基準監督署 最寄りの監督署 解雇予告手当の申告・是正勧告
都道府県労働局(総合労働相談コーナー) 0120-811-610(無料) 無料相談・あっせん手続き
法テラス 0570-078374 弁護士費用の立替制度あり
弁護士(労働専門) 各弁護士会 損害賠償請求・交渉代理

企業への「配置転換・再検討」交渉の有効性

内定取消の理由が「業績悪化」や「部署廃止」である場合、配置転換や入社時期の変更を申し入れることで内定取消を撤回させられる可能性があります。これは使用者に配転の検討義務があるためです(整理解雇の4要件のひとつ)。交渉の申し入れは証拠として残るため、必ずメールで行いましょう。


損害賠償請求の計算式と請求額の相場

基本となる「30日分の平均賃金」計算式

解雇予告手当(労働基準法第20条)の計算:

【基本計算式】
平均賃金 × 30日 = 請求できる最低額

平均賃金の算出:
  過去3ヶ月の賃金総額 ÷ その期間の暦日数 = 平均賃金(日額)

【例】月給25万円の場合
  25万円 × 3ヶ月 ÷ 91日(3ヶ月の暦日数目安)≒ 8,242円/日
  8,242円 × 30日 ≒ 247,260円

内定段階では「過去3ヶ月の賃金」がないため、内定通知に記載された月給を基に計算します。

損害賠償の追加請求項目

請求項目 法的根拠 具体例
解雇予告手当 労働基準法第20条 月給×30日分
転職活動費用 民法第415条(債務不履行) 交通費・資料代・スーツ代など
内定辞退した他社への機会損失 民法第415条 証明が必要
引っ越し費用(転居準備済みの場合) 民法第415条 領収書保存必須
慰謝料 民法第709条(不法行為) 精神的苦痛

実際の和解相場

弁護士を通じた交渉・和解では、月給の2〜6ヶ月分が目安とされることが多いです。悪質性が高い場合(直前取消・反復的嫌がらせなど)は慰謝料が加算されます。

⚠️ 時効に注意:
解雇予告手当の請求権は2年(労働基準法第115条)、損害賠償(不法行為)は3年で時効を迎えます。早めの行動が重要です。


申告先と相談窓口の選び方

状況別・最適な相談先フローチャート

内定取消を通知された
  ↓
【解雇予告手当を求める場合】
  → 労働基準監督署へ申告(無料・行政対応)

【取消撤回・復職を求める場合】
  → 都道府県労働局のあっせん手続き(無料・迅速)

【損害賠償を本格的に請求する場合】
  → 弁護士(労働専門)に依頼 → 交渉または訴訟
  → 費用が心配な場合は法テラスへ

【即時に会社に圧力をかけたい場合】
  → 労働組合(個人加盟可能な「合同労組」)への加入

労働基準監督署への申告手順

  1. 申告書を作成:解雇の経緯・取消通知の内容を時系列で記載
  2. 証拠を添付:内定通知書・雇用契約書・メール履歴・録音データ
  3. 最寄りの労働基準監督署へ持参または郵送
  4. 是正勧告:監督官が会社に対して是正を勧告(行政指導)
  5. 支払い命令:応じない場合は司法処理へ

よくある質問(FAQ)

Q1. 内定承諾書を出していなくても内定取消は違法になりますか?

A. 内定承諾書がなくても、企業から内定通知を受け取り、それを口頭または書面で承諾した事実があれば労働契約は成立していると判断される可能性があります。メールや電話での承諾記録を保全してください。


Q2. 内定取消を口頭でしか言われていないのですが、証拠として弱いですか?

A. 口頭のみでは証拠として弱いのは事実です。ただし、その後に会社からのメールや書類(入社手続き中止の通知など)があれば補強できます。また、上記の方法で書面での説明を求めることで証拠を作ることができます。


Q3. 会社が「試用期間中に判断する」と言いながら事実上入社させない場合はどうなりますか?

A. これは実質的な内定取消と判断されます。就労を申し出たにもかかわらず拒否されたことを記録し(メールで申し出ると証拠になります)、労働局または弁護士に相談してください。


Q4. 内定取消通知書に「異議なし」のサインを求められた場合、応じてよいですか?

A. 絶対にサインしてはいけません。 異議放棄の合意書に署名すると、後の損害賠償請求が著しく困難になります。「持ち帰って検討します」と伝え、すぐに弁護士に相談してください。


Q5. 内定取消後に失業給付は受けられますか?

A. 雇用保険の被保険者期間がない場合、通常の失業給付は受けられません。ただし、未就職の新卒者が内定取消にあった場合は「特例一時金」等の支援制度がある場合があります。最寄りのハローワークに相談してください。


まとめ:今日からできる3つのアクション

優先度 アクション 手段
🔴 最優先 証拠をすべて保全する スクリーンショット・転送・録音
🟡 翌日まで 会社に書面での説明を求める メール送付
🟢 3日以内 専門家に相談する 労働局(無料)または弁護士

内定取消は、あなたの責任ではありません。法律はあなたの側にあります。一人で抱え込まず、まず記録を残し、相談窓口に連絡することが最初の一歩です。

📞 主要相談先一覧
– 総合労働相談コーナー(無料):0120-811-610
– 法テラス(費用支援あり):0570-078374
– 最寄りの弁護士会の労働相談:各都道府県弁護士会HPで確認

よくある質問(FAQ)

Q. 内定取消は本当に解雇と同じ扱いになるのですか?
A. はい。裁判所は内定承諾時点で労働契約が成立すると判断しており、その後の取消は「解約権留保付き労働契約」の解除として解雇と同等に扱われます。

Q. 違法な内定取消の場合、いくら請求できますか?
A. 最低でも30日分の平均賃金(解雇予告手当)が請求できます。加えて、転職活動費用や精神的苦痛に対する損害賠償も請求可能です。

Q. 内定取消の理由が「採用計画の誤り」と言われました。違法ですか?
A. 違法です。採用計画の変更は企業の都合であり、「特別な事情」には該当しません。取消は無効と判断される可能性が高いです。

Q. 内定取消されたとき、どこに相談すべきですか?
A. 労働基準監督署・都道府県労働委員会・弁護士・労働相談窓口などが相談先です。証拠を揃えた上で相談することが重要です。

Q. SNS投稿を理由に内定取消されました。違法ですか?
A. 原則として違法です。SNS投稿が業務に直結する関連性がない限り、取消理由としての正当性は認められません。

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