この記事を読むべき人: 会社にストレスチェックの結果を見せてもらえない、隠されている疑いがある、または精神的不調で労災申請を検討している労働者
はじめに:あなたの「証拠」は今すぐ保全が必要です
| 対応段階 | 具体的な手続き | 実施期限 | 主な証拠・書類 |
|---|---|---|---|
| 証拠保全 | 医学的証拠の確保+デジタル証拠の固定化 | 発覚後24時間~1週間以内 | 医師の診断書、メール、チャット履歴のスクリーンショット |
| 情報開示請求 | 会社への内容証明郵便送付 | 速やかに(応答期限14日程度が目安) | 内容証明郵便、会社の返送文書 |
| 行政申告 | 労働基準監督署への申告・相談 | 並行実施可能 | 申告書、証拠資料一式、相談記録 |
| 労災申請 | 労災保険給付請求(様式第5号など) | 発症から2年以内(時効) | 診断書、ストレス状況報告書、勤務記録 |
ストレスチェックの結果を会社が開示しない、あるいは「記録がない」と言う。
これは単なる不誠実な対応ではなく、複数の法律違反に該当する可能性があります。
さらに深刻なのは、時間が経つほど証拠が失われるということです。
メールは削除され、記録は「廃棄」され、関係者の記憶は薄れていきます。
この記事では、今まさに問題に直面しているあなたが今日から動ける手順を、法的根拠とともに実務レベルで解説します。
ストレスチェック隠匿が違法である理由(3つの根拠法令)
労働契約法5条「安全配慮義務」違反とは
労働契約法第5条(抜粋):
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
この「安全配慮義務」は、メンタルヘルスにも完全に適用されます。
具体的には、会社は以下を行う義務があります。
| 義務の内容 | 具体例 |
|---|---|
| 危険の察知と除去 | 高ストレス者への面接指導の実施 |
| 情報の収集と活用 | ストレスチェック結果を適切に管理・対応 |
| 措置の実施 | 業務軽減・異動・休職対応の検討 |
ストレスチェック結果を隠匿することは、「危険を知りながら放置した」という安全配慮義務違反の有力な証拠になります。
労災認定後の民事損害賠償請求においても、この義務違反は使用者責任を問う核心的根拠となります。
労働安全衛生法66条の10「実施義務」「開示義務」の内容
労働安全衛生法第66条の10(要旨):
常時50人以上の労働者を使用する事業者は、年1回ストレスチェックを実施し、その結果を当該労働者に通知しなければならない。
この条文と関連規則から、会社には3段階の義務が生じます。
【義務の3段階構造】
STEP 1:実施義務
└ 年1回、全従業員を対象に実施(50名以上の事業場)
└ 根拠:労働安全衛生法66条の10第1項
STEP 2:結果通知義務(本人への開示)
└ 結果は「本人に直接通知」が原則(会社経由は不可)
└ 根拠:労働安全衛生規則52条の12
STEP 3:高ストレス者への面接指導実施義務
└ 本人申出があれば医師による面接指導を実施
└ 根拠:労働安全衛生法66条の10第3項
違反した場合の制裁:
– 実施義務違反:50万円以下の罰金(労働安全衛生法120条)
– 虚偽記録・記録改ざん:不法行為(民法709条)および行政処分
⚠️ 重要: 記録廃棄・隠匿に関しては、民事上の不法行為(民法709条)として損害賠償請求の対象になるほか、労基法違反として行政指導を受ける可能性があります。刑法104条の証拠隠滅罪は「他人の刑事事件に関する証拠」が対象となるため、労働問題への直接適用は限定的ですが、故意の記録廃棄は民事訴訟での心証に大きく影響します。
記録廃棄・隠匿が「不法行為」に問われる3つのパターン
| 隠匿パターン | 法的評価 | 申告先 |
|---|---|---|
| 本人への開示拒否 | 労働安全衛生規則52条の12違反 | 労働基準監督署 |
| 記録の廃棄・改ざん | 不法行為+労基法違反 | 労基署・民事訴訟 |
| 集団分析結果の非開示 | 安全配慮義務違反 | 労働局あっせん・民事 |
| 高ストレス者対応の意図的遅延 | 労基法・安衛法複合違反 | 労働基準監督署 |
今すぐ動く:証拠保全の実務手順(優先度順)
【優先度1】医学的証拠の確保(発覚後24時間以内)
最初にやること:今日、医療機関を受診する
初診記録は労災申請において「発症時期の特定」に使われる最重要証拠です。
受診が遅れると、「業務との因果関係が薄い」と判断されるリスクが上がります。
【受診時に医師へ伝えるべき3点】
① 職場でのストレス状況(業務量・ハラスメントの具体的内容)
② ストレスチェックで高ストレス判定が出たとみられること
③ 会社から結果を開示してもらえていないこと
→ これらを口頭+メモで渡し、診断書に反映してもらえるよう依頼する
症状記録ノートの書き方(毎日記入):
| 記録項目 | 具体的内容の例 |
|---|---|
| 日時 | 2024年○月○日(月)午前3時 |
| 睡眠状況 | 入眠できず、午前3時に目が覚めた |
| 体調 | 頭痛・動悸・食欲なし |
| 業務内容 | 残業4時間、上司から「使えない」と発言 |
| 特記事項 | ストレスチェック結果について人事に問い合わせるも「確認中」との返答 |
💡 実践ポイント: スマートフォンのメモアプリ(タイムスタンプが自動記録される)を使い、Google DriveやiCloudへ自動バックアップする設定にしておくと改ざん防止になります。
【優先度2】デジタル証拠の固定化(1週間以内)
保全すべき証拠リスト:
□ ストレスチェック実施の周知メール・社内通知
□ 「高ストレス者は○○に連絡を」などの案内文書
□ 結果通知が来るはずの時期に届かなかった事実(メールログ)
□ 上司・人事へ開示を求めたメール・チャット履歴
□ 人事から「結果はない」「問題ない」と回答されたやり取り
□ 過重労働を示す勤怠記録・タイムカード写真
□ ハラスメントを示すメール・SNS・ボイスレコーダー記録
スクリーンショットの保存方法(法的に有効にするポイント):
- 日時が表示された状態でスクリーンショットを撮影する
- PDFに変換してメタデータ(作成日時)を保持する
- クラウドストレージ(Google Drive・Dropbox等)に即日アップロード
- USB等の物理媒体にも複製を保存する(二重保管)
情報開示請求の実務手順
会社への内容証明郵便の送り方
ストレスチェック結果の開示を会社に求める際は、内容証明郵便を使います。
「口頭で頼んだが断られた」という事実だけでは証拠になりません。
内容証明郵便の3つの役割:
– 送付した事実・日時を郵便局が公証する
– 会社が「知らなかった」と言い逃れできなくなる
– 返答がない場合、それ自体が不誠実な対応の証拠になる
【内容証明郵便 雛形】ストレスチェック結果の開示請求書
令和○年○月○日
株式会社○○○○
代表取締役 ○○ ○○ 殿
〒○○○-○○○○
○○県○○市○○町○-○-○
○○ ○○(氏名)
ストレスチェック結果の開示請求書
私は、貴社において令和○年○月○日から現在まで就労している
者です。
労働安全衛生法第66条の10および労働安全衛生規則第52条の
12の規定に基づき、私に対して実施されたストレスチェックの結果
(令和○年度分)の開示を請求いたします。
同規則において、事業者は検査の結果を遅滞なく当該労働者に通
知しなければならないとされており、貴社はこの義務を履行してい
ません。
本書面到達後、10営業日以内に書面にて結果を開示してくださ
い。期間内に開示がない場合は、労働基準監督署への申告および法
的手続きを検討することをあらかじめ申し添えます。
以上
💡 送付方法: 郵便局の窓口で「内容証明郵便+配達証明」として送付。費用は1,000円前後。コピーを2部取り、1部は自分で保管してください。
労働基準監督署への申告手順
会社が開示を拒否した場合、または返答がない場合は労働基準監督署(労基署)に申告します。
申告の流れ:
STEP 1:管轄の労基署を確認
└ 会社(事業場)所在地を管轄する労基署
└ 厚生労働省ウェブサイト「労基署一覧」で検索可能
STEP 2:申告書を作成(口頭でも受付可能)
└ 持参物:内容証明郵便のコピー・会社の返答(または無回答の証拠)
└ 診断書のコピー・勤務記録
STEP 3:申告後の流れ
└ 労基署が会社を調査(是正勧告・指導)
└ 悪質な場合は刑事告発の検討
STEP 4:平行して労災申請を準備
└ 申告と労災申請は同時並行で進められる
労災申請における「ストレスチェック」の活用戦略
精神障害の労災認定基準とストレスチェックの位置づけ
厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和5年改定)では、以下の3要件すべてを満たす必要があります。
【精神障害の労災認定 3要件】
要件①:対象疾病に該当(うつ病・適応障害等)
→ 医師の診断書で立証
要件②:業務による強い心理的負荷(業務起因性)
→ ストレスチェック記録・勤怠記録・ハラスメント記録で立証
要件③:業務以外の原因がない
→ プライベートの問題ではなく職場要因が主因であること
ストレスチェック結果が「要件②」の立証に使える理由:
| 証拠としての機能 | 具体的内容 |
|---|---|
| 高ストレス状態の客観的記録 | 発症前から心理的負荷が高かったことの証明 |
| 会社の事前認識の証明 | 「会社は知っていた」という重要事実 |
| 安全配慮義務違反の有力根拠 | 知りながら対応しなかった事実 |
| 業務起因性の補強証拠 | 業務環境がストレス源であることの客観的裏付け |
結果が隠匿されていても労災申請できるか?
結論:できます。
ストレスチェック結果を会社が隠匿していても、労災申請は可能です。
むしろ、「隠匿された事実」そのものが追加の有力証拠になります。
【隠匿された場合の証拠代替戦略】
① 産業医・保健師への情報開示請求
→ ストレスチェックの実施者(産業医等)は結果を保有している場合がある
② 訴訟前証拠保全手続き(民事訴訟法234条)
→ 裁判所を通じて会社の記録保全を命じることが可能
→ 弁護士に依頼して申立てを行う
③ 労基署の調査権限を活用
→ 申告を受けた労基署が会社に記録提出を命令できる
④ 本人の記憶・日記・同僚証言
→ 「高ストレスと言われた」「面談の案内が来た」などの間接証拠
⑤ 医師の診断書
→ 発症時期・症状・業務との因果関係を記載してもらう
安全配慮義務違反で損害賠償請求する場合の準備
民事訴訟に向けた証拠整理チェックリスト
労災認定と並行して、会社への民事損害賠償請求も検討できます。
(労災認定は民事請求の前提条件ではありませんが、認定されると立証が格段に容易になります)
【民事請求に向けた証拠チェックリスト】
医学的証拠
□ 主治医の診断書(病名・発症時期・業務との因果関係を記載)
□ 通院記録(日時・費用)
□ 薬の処方記録
業務起因性の証拠
□ 勤怠記録・タイムカード(過重労働の証明)
□ メール・チャット(業務量・ハラスメントの証明)
□ 上司からの指示記録(無理な命令等)
会社の義務違反の証拠
□ ストレスチェック未通知の事実(内容証明の返答または無回答)
□ 面接指導未実施の事実
□ 相談窓口への相談記録と会社の対応
損害の証拠
□ 休業期間中の給与明細
□ 治療費の領収書
□ 逸失利益の計算根拠(給与・キャリア)
相談先一覧と使い分け
| 相談先 | 費用 | 得意な分野 | 連絡先 |
|---|---|---|---|
| 労働基準監督署 | 無料 | 法令違反の是正・労災申請 | 厚労省HPで管轄署を検索 |
| 都道府県労働局(総合労働相談コーナー) | 無料 | あっせん・相談全般 | 0120-811-610 |
| 法テラス(日本司法支援センター) | 条件付き無料 | 弁護士紹介・費用立替 | 0120-007-110 |
| 社会保険労務士(SR) | 有料 | 労災申請書類作成サポート | 都道府県社労士会 |
| 弁護士(労働専門) | 有料(成功報酬制も可) | 民事訴訟・証拠保全手続 | 弁護士会・法テラス |
| 精神科・心療内科 | 保険適用 | 医学的証拠の確保・治療 | かかりつけ医に紹介依頼 |
⚠️ 注意: 会社の産業医は「会社が契約している医師」です。中立とは限りません。自分のかかりつけ医または精神科専門医に別途受診することを強く推奨します。
よくある質問
Q1. ストレスチェックを実施していない小規模企業の場合は?
A. 常時50人未満の事業場はストレスチェックの実施が努力義務(義務ではない)です。
ただし、安全配慮義務(労働契約法5条)は企業規模に関係なく適用されます。
実施していない場合でも、過重労働・ハラスメント等の証拠があれば労災申請・損害賠償請求は可能です。
Q2. すでに退職してしまった場合、申請できますか?
A. できます。労災申請に時効は原則2年(療養補償・休業補償)または5年(後遺障害等)です。
退職後でも「在職中に発症した」ことが立証できれば申請可能です。退職前の医療記録・勤怠記録を今すぐ確保してください。
Q3. 会社から「ストレスチェックは実施していない」と言われた場合は?
A. 50名以上の事業場であれば、これ自体が労働安全衛生法66条の10違反です。
「実施していない」という回答をメール等で取得し、労基署に申告してください。
実施記録がなければ、その不存在そのものが安全配慮義務違反の証拠になります。
Q4. 記録廃棄は本当に罰せられますか?
A. 民事上の不法行為(民法709条)として損害賠償請求の対象になります。
刑法104条の証拠隠滅罪は「他人の刑事事件に関する証拠」が対象のため、労働問題への直接適用は限定的ですが、故意の記録廃棄は以下の点で重要です:
- 民事訴訟での心証が著しく悪くなる
- 労基署の行政指導対象になる
- 不法行為として損害賠償請求できる
- 隠匿の事実が追加の有力証拠となる
Q5. 弁護士費用が払えない場合はどうすればよいですか?
A. 以下の制度を活用してください。
- 法テラス(無料法律相談・弁護士費用立替制度): 収入基準を満たせば費用立替が可能(0120-007-110)
- 弁護士会の無料相談: 各都道府県弁護士会が月数回開催
- 成功報酬型の弁護士: 着手金ゼロで、勝訴・和解額から報酬を取る形式。初期費用なしで依頼可能
まとめ:今日からできる5つのアクション
✅ アクション1(今日中)
心身に不調があれば医療機関を受診し、職場ストレスを医師に伝える
✅ アクション2(今日中)
メール・チャット・業務記録のスクリーンショットをクラウドに保存
✅ アクション3(今週中)
内容証明郵便でストレスチェック結果の開示を会社に請求
✅ アクション4(来週中)
労働基準監督署に相談・申告(開示拒否の事実を持参)
✅ アクション5(並行して)
法テラスまたは弁護士会の無料相談で労災申請・民事請求の方針を確認
ストレスチェック結果を隠した会社は、あなたの健康を守る義務を放棄しています。
法律はあなたの側にあります。一人で抱え込まず、今日の一歩から始めてください。
参考法令
- 労働契約法第5条(安全配慮義務)
- 労働安全衛生法第66条の10(ストレスチェック実施義務)
- 労働安全衛生規則第52条の12(結果通知義務)
- 民法第709条(不法行為による損害賠償)
- 労働安全衛生法第120条(罰則規定)
本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律相談ではありません。具体的な対応については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. ストレスチェック結果を会社が開示してくれない場合、どうすればいいですか?
A. 医療機関の受診記録を作成し、その上で労働基準監督署に違反を申告するか、情報開示請求を行います。証拠保全が重要なため、メールや手紙で開示を求める記録を残すことも効果的です。
Q. ストレスチェック結果の隠匿は違法ですか?
A. はい、違法です。労働安全衛生法66条の10で結果通知義務があり、違反すると50万円以下の罰金対象になります。また民法709条の不法行為として損害賠償請求も可能です。
Q. 精神疾患の労災申請で、ストレスチェック結果はどう活用できますか?
A. ストレスチェックの高ストレス判定は、業務とメンタルヘルス不調の因果関係を証明する有力な証拠になります。隠匿されている場合、その事実自体が会社の安全配慮義務違反を示します。
Q. ストレスチェック結果を開示請求できますか?
A. 行政機関に対する情報開示請求や、民事訴訟での証拠開示請求が可能です。労働基準監督署への申告を通じて指導を受けさせることもできます。
Q. 会社がストレスチェック記録を廃棄した場合はどうなりますか?
A. 記録廃棄は民事上の不法行為に該当し、損害賠償請求の対象になります。意図的な廃棄は労基法違反として行政指導も受ける可能性があります。

