「試用期間中だから、理由なく辞めさせられても仕方がない」――これは法的に誤りです。試用期間中であっても、労働者には解雇に対する法的保護が与えられています。突然の解雇通告を受けたとき、何をすべきか・何を主張できるか、この記事で具体的な手順とともに解説します。
試用期間中の解雇は「何でもあり」ではない|法律が定める基本ルール
会社側から「試用期間中だから、いつでも解雇できる」と言われたとき、多くの労働者はそれを信じて泣き寝入りしてしまいます。しかし、その認識は法律上、根本から誤っています。
試用期間とは何か|法律に定義はない
まず押さえておくべき重要な事実があります。「試用期間」は、労働基準法にも労働契約法にも明確な定義が存在しません。 試用期間とは、会社が独自のルールとして任意に設けている期間に過ぎず、法律が特別に認めた「解雇自由期間」ではないのです。
試用期間中であっても、雇用契約は法的に成立しています。会社との間に労働契約が締結されている以上、労働者としての権利は試用期間の初日から発生しており、解雇に対する保護も同様に適用されます。
会社が試用期間を設ける本来の目的は、「採用選考の補充・延長」です。つまり、労働者の能力・適性・勤務態度を実際の業務を通じて評価し、正式採用(本採用)の可否を判断するための期間です。この目的から逸脱した解雇、たとえば試用期間であることを口実にした恣意的な解雇は、法的に認められません。
労働契約法16条と解雇権濫用法理
解雇に関する最重要の法的根拠が、労働契約法第16条です。
(解雇)第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
この条文は、試用期間中の解雇にも適用されます。「試用期間だから」という理由だけでは、「客観的に合理的な理由」には一切なりません。会社が解雇を有効とするためには、具体的かつ合理的な事実に基づく理由が必要です。
さらに、労働基準法第20条は試用期間中の解雇にも原則として適用されます(例外は後述)。
| 法律 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 労働契約法 | 第16条 | 客観的・合理的な理由のない解雇は無効 |
| 労働基準法 | 第20条 | 解雇は30日前予告または平均賃金30日分の支払いが必要 |
| 民法 | 第627条 | 雇用契約の終了に関する基本規定 |
三菱樹脂事件|最高裁が示した判断基準
試用期間中の解雇に関する最重要判例が、三菱樹脂事件(最高裁大法廷・1973年12月12日)です。
この事件では、試用期間中の本採用拒否が争われ、最高裁は次のような判断を示しました。
- 試用期間中の雇用契約は「解約権留保付き労働契約」である
- 留保された解約権の行使(本採用拒否・試用期間中の解雇)は、通常の解雇より広い範囲で認められる
- ただし、「客観的に合理的な理由」がなければ解雇は許されない
重要なのは、「通常より広い範囲」とはいっても、あくまで合理的な理由が必要という点です。「試用期間だから何でもあり」ではなく、「能力・適性の評価に関連した合理的な理由が必要」ということです。
試用期間中の解雇が有効・無効になる条件
試用期間中の解雇が法的に有効と認められるかどうかは、解雇理由の「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」によって判断されます。
解雇が有効になりうるケース
以下のような場合は、試用期間中の解雇が有効と認められる可能性があります。
- 重大な経歴詐称:学歴・職歴・資格などを虚偽申告していた
- 業務に著しく支障をきたす能力不足:繰り返し指導しても改善がみられない具体的な状況
- 重大な規律違反:無断欠勤の繰り返し、職場秩序を著しく乱す行為
- 業務遂行に支障をきたす心身の不調:医師の診断に基づく客観的な判断
- 採用条件に関わる重大な不適格事由:採用時に前提とされた条件が明らかに欠如している
ただし、これらのケースであっても、会社側が指導・改善機会を与えたかどうか、理由が客観的事実に基づいているかが問われます。
解雇が無効になるケース
以下のような場合、試用期間中の解雇は無効となる可能性が高いです。
- 「試用期間だから」という理由だけの解雇:合理的根拠のない解雇
- 漠然とした「能力不足」の主張:具体的な事実の裏付けがない
- 指導・改善機会を与えなかった:一度も改善指示をしないまま解雇
- 差別的・報復的な理由:性別・妊娠・組合活動・内部告発などを理由とした解雇
- 口頭のみの解雇通告:書面による手続きを踏んでいない(後述の予告手当問題も含む)
解雇通知を受けたら即座に動く|48時間以内の緊急対応
解雇を通告されたとき、多くの人は動揺して何もできなくなります。しかし、最初の48時間の行動が、その後の対応に大きく影響します。以下の手順を順番に実行してください。
解雇通知書を必ず書面で入手する
口頭で解雇を言い渡された場合、必ず書面(解雇通知書)の交付を求めてください。これは労働基準法第22条に基づく「退職時の証明書」請求権とも関連する重要な権利です。
今すぐできるアクション:
■ 会社のメール・チャットツールで以下の文言を送付する
「本日、口頭にて解雇を通告いただきましたが、
解雇理由を明記した解雇通知書を書面にてご交付ください。
労働基準法の規定に基づき、書面による解雇理由の明示を求めます。」
書面での請求記録が残れば、後の労働基準監督署への申告・労働審判・訴訟において有力な証拠となります。会社が書面交付を拒否した場合も、その事実自体が「合理的理由のない解雇」の証拠になりえます。
解雇予告手当を確認・請求する
労働基準法第20条により、会社は解雇する場合、30日以上前に予告するか、30日分以上の平均賃金を「解雇予告手当」として支払う義務があります。
試用期間中の特例(重要):
試用期間開始から14日以内であれば、解雇予告・解雇予告手当の義務が免除されます(労働基準法第21条)。しかし、14日を超えた試用期間中の解雇には、30日前予告または解雇予告手当が必要です。
今すぐできるアクション:
■ 以下を確認する
□ 解雇日はいつか?(即日解雇か、期日を定めた解雇か)
□ 試用期間の開始日から何日経過しているか?
□ 14日超の場合:「解雇予告手当として平均賃金30日分の
お支払いをお願いします」とメールで請求記録を残す
解雇予告手当を支払わずに即日解雇した場合、会社は労働基準法違反となり、労働基準監督署への申告対象となります。
継続就労の意思を明確に示す
不当解雇に異議を唱える場合、「解雇を受け入れていない」「勤務継続を希望する」という意思を、証拠に残る形で表明することが非常に重要です。
今すぐできるアクション:
■ メール・内容証明郵便で以下の意思を会社に送付する
「本日通告された解雇は、合理的な理由を欠くものと考えており、
不当解雇と認識しております。引き続き勤務を継続させてください。
解雇の撤回をお求めします。」
この意思表示がないまま退職手続きを進めてしまうと、「解雇に合意した」と見なされる恐れがあります。自分から退職届を書くことは絶対に避けてください。
72時間以内に進める証拠保全の手順
解雇後は、会社のシステムへのアクセスが遮断される場合があります。解雇通告直後から証拠の収集・保全を急いでください。
収集すべき証拠の種類
| 証拠の種類 | 具体例 | 保存方法 |
|---|---|---|
| 書面・メール | 解雇通知書、雇用契約書、就業規則、業務指示メール | スクリーンショット・印刷 |
| 評価・指導記録 | 業務評価シート、指導記録、改善指示の有無 | 写真撮影・コピー |
| 勤怠記録 | タイムカード、シフト表、出退勤記録 | 写真・データ保存 |
| コミュニケーション記録 | LINE・チャット・メール | スクリーンショット |
| 音声記録 | 解雇を告げた会話の録音 | スマートフォンで録音 |
録音について: 自分が会話の当事者である場合、秘密録音は原則として違法ではありません(会話への参加者が録音する行為は、日本では違法にはならないと解されています)。ただし、録音の目的・使用方法については後で法律専門家に確認を取ることをお勧めします。
内容証明郵便を活用する
会社が書面での対応を拒む場合や、証拠を残した正式な通知を送りたい場合は、内容証明郵便を利用してください。
内容証明郵便は、「いつ・どのような内容の文書を・誰が誰に送ったか」を郵便局が証明する郵便制度です。法的効力はありませんが、後のトラブルで「送った・送っていない」の水掛け論を防ぐ強力な証拠になります。
送付できる内容:
– 解雇通知書の交付請求
– 解雇予告手当の支払い請求
– 不当解雇の異議申し立て
– 復職要求
会社への反論方法|伝えるべき法的主張
解雇を通告した担当者(上司・人事担当者)に対して、以下の法的根拠を示して反論することができます。口頭での主張の際も、後でメールで記録を残すようにしてください。
反論の基本フレーム
会社の主張:「試用期間中だから解雇できる」
あなたの反論:
-
労働契約法第16条に基づく主張
「試用期間中であっても、労働契約法16条により、客観的に合理的な理由を欠く解雇は無効です。単に試用期間であるという事実は、解雇の理由にはなりません。」 -
三菱樹脂判決に基づく主張
「最高裁の三菱樹脂事件判決(1973年)においても、試用期間中の解雇には客観的に合理的な理由が必要とされています。解雇理由を具体的にご説明ください。」 -
解雇理由の開示請求
「解雇の具体的な理由を、書面にて明示してください。合理的な理由が示されない場合、不当解雇として法的手続きを検討します。」
会社が示す「理由」への反論ポイント
「能力が足りない」と言われた場合:
– 具体的にどの業務のどの点が不足しているのかを問い返す
– 改善指導を受けたかどうかを確認(指導なしの解雇は不当)
– 評価基準が明確に示されていたかを確認
「勤務態度が悪い」と言われた場合:
– 具体的な事実(日時・状況)の説明を求める
– 注意・指導の記録があるかを確認
– 他の従業員との公平性を確認
「会社の方針が変わった」と言われた場合:
– 整理解雇の4要件(人員整理の必要性・解雇回避努力・人選の合理性・手続きの妥当性)を満たしているかを問い返す
相談窓口と申告手順|利用できる公的機関
一人で会社に対応するには限界があります。以下の公的機関・専門家に早急に相談してください。費用がかからない窓口から順に活用するのが効果的です。
労働基準監督署(無料)
相談できる内容:
– 解雇予告手当が支払われていない
– 解雇理由が記載された書面を交付してもらえない
– 賃金未払い
相談・申告の手順:
① 管轄の労働基準監督署を確認(就業場所の所在地を管轄する署)
② 証拠資料(雇用契約書・解雇通知書・給与明細など)を持参
③ 「解雇に関する申告」として窓口または電話で相談
④ 是正勧告・立入調査を求める
電話: 各都道府県の労働基準監督署(厚生労働省ウェブサイトで検索可)
総合労働相談コーナー(無料)
全国の労働局に設置されている総合労働相談コーナーでは、解雇・ハラスメント・賃金などあらゆる労働相談を受け付けています。予約不要・秘密厳守・無料で利用でき、都道府県労働局の「個別労働紛争解決制度」へのつなぎ窓口にもなります。
電話: 0120-811-610(平日8:30〜17:15)
都道府県労働局のあっせん制度(無料)
会社との話し合いが決裂した場合、都道府県労働局が仲介する「あっせん」制度を利用できます。費用は無料で、弁護士不要。ただし、強制力はなく、会社が応じない場合は手続きが終了します。
あっせん申請により、労働基準監督署としての権限に基づく行政指導や是正勧告につながる可能性も高まります。
労働審判(費用:申立手数料数千円〜)
会社との合意が困難な場合、労働審判制度を利用して裁判所に解決を求めることができます。
- 申立先:就業場所を管轄する地方裁判所
- 期間:原則3回の期日内(約3か月)で解決
- 内容:解雇無効確認・解雇予告手当請求・バックペイ(解雇期間中の賃金相当額)請求
弁護士への依頼が一般的ですが、本人申立ても可能です。費用については法テラス(0120-078-374)での法律扶助制度の活用も検討してください。
弁護士・社労士への相談
不当解雇の解決には、法律の専門家のサポートが有効です。
- 弁護士: 労働審判・訴訟、内容証明郵便の作成、会社との交渉代理
- 社会保険労務士(社労士): 労働基準監督署への申告サポート、労働問題全般の相談
費用が心配な場合は:
– 法テラス(日本司法支援センター):収入要件を満たせば無料法律相談・費用立替制度あり
– 弁護士会の法律相談センター:初回30分5,500円程度が一般的
試用期間延長と本採用拒否の注意点
解雇ではなく「試用期間を延長する」「本採用しない」という形での通告を受けた場合も、同様の法的保護が適用されます。
試用期間延長の限界
試用期間の延長は、就業規則や雇用契約書に規定がある場合に限り、かつ合理的な理由がある場合にのみ認められます。「試用期間をいつまでも延長する」ことはできません。 根拠のない延長通告には、同様に書面で異議を申し立てることができます。
また、延長期間中の待遇が著しく低い場合(試験的雇用との口実)や、延長を繰り返す場合も、実質的な解雇と同等の法的保護が及ぶ可能性があります。
本採用拒否(試用期間満了時の解雇)
試用期間満了時の本採用拒否は、実質的に「解雇」と同じ法的扱いを受けます。三菱樹脂事件判決の基準が適用され、客観的・合理的な理由なしの本採用拒否は無効となります。
試用期間が終わりに近づいた時点で「本採用しない」と告げられた場合も、以下を実行してください。
- 本採用拒否の理由を書面で請求する
- 理由に不服がある場合は書面で異議を申し立てる
- 解雇予告手当の請求を検討する(14日超の試用期間の場合)
- 総合労働相談コーナーへの相談を検討する
不当解雇が認められたときに請求できること
不当解雇が認められた場合、労働者は以下を請求できます。
| 請求内容 | 内容 |
|---|---|
| 解雇無効確認 | 解雇が無効であることの確認(復職の前提) |
| 復職 | 元の職場への復帰 |
| バックペイ(未払い賃金) | 解雇期間中に受け取れるはずだった賃金相当額 |
| 解雇予告手当 | 30日分の平均賃金(予告なしの解雇の場合) |
| 慰謝料 | 悪質な解雇に対する精神的損害賠償(認められる場合に限る) |
復職を希望しない場合は、会社との和解金交渉(解決金)という形で金銭解決を図ることも現実的な選択肢です。裁判例では、バックペイ相当額と慰謝料を合わせた形での解決金が提案されることが多くあります。
よくある質問
Q1. 試用期間中でも雇用保険は受け取れますか?
試用期間中に解雇された場合でも、雇用保険の被保険者期間の要件を満たせば失業給付を受け取ることができます。また、会社都合の解雇(不当解雇を含む)であれば、特定受給資格者として給付制限なし・給付日数の優遇を受けられる可能性があります。ハローワーク(公共職業安定所)に「解雇された」として申告してください。
Q2. 試用期間中の解雇を受け入れた後でも争えますか?
原則として、解雇を承諾する意思表示(退職届への署名・退職金の受領など)をしてしまった場合、後から争うことは難しくなります。ただし、「強迫」「錯誤」など意思表示の瑕疵がある場合は取り消しを求めることができます。まずは弁護士に状況を相談してください。また、会社都合解雇として記録される「解雇理由証明書」の請求(労働基準法第22条)は解雇受諾後も行うことができます。
Q3. 就業規則に「試用期間中は解雇できる」と書かれていても問題ないですか?
就業規則にそのような記載がある場合でも、労働契約法16条は就業規則よりも優先適用されます。労働基準法・労働契約法などの強行法規に反する就業規則の規定は無効です(労働契約法第12条)。就業規則の記載を理由に解雇が正当化されることはありません。
Q4. 試用期間が3日で解雇された場合、解雇予告手当はもらえますか?
試用期間開始から14日以内の解雇は、労働基準法第21条により解雇予告・解雇予告手当の義務が免除されています。ただし、この場合でも解雇の合理的理由は必要です。14日以内でも不当解雇(合理的理由なし)であれば、バックペイや損害賠償を請求できる可能性があります。
Q5. 解雇の翌日から別の会社で働き始めても、元の会社と争えますか?
新しい職場で働き始めた後でも、元の会社の解雇の有効性を争うことは可能です。ただし、労働審判・訴訟では「復職」ではなく「解雇期間中のバックペイ(賃金相当額)」や「解決金」を求める形になることが多いです。新しい職場での収入がある期間は、バックペイの額が調整される場合(「中間収入の控除」)もありますので、弁護士に相談してください。
Q6. 試用期間中の解雇を理由に損害賠償は請求できますか?
不当解雇が認定された場合、名誉毀損や精神的苦痛に対する慰謝料(損害賠償)を請求することは可能です。ただし、慰謝料が認められるためには「著しく不当な解雇」であることが条件となり、単なる不当解雇よりも高い基準が適用されます。実際の裁判例では、解雇予告手当やバックペイに加えて、数十万円から数百万円の慰謝料が認められることもあります。
まとめ|試用期間中の解雇でも諦める必要はない
試用期間中の解雇は、会社が言うほど自由に行えるものではありません。この記事のポイントを最後に整理します。
- 試用期間中でも、解雇には「客観的・合理的な理由」が必要(労働契約法第16条)
- 「試用期間だから」という理由だけでは解雇は無効になりえる
- 14日超の試用期間中の解雇には、解雇予告手当(30日分)が必要(労働基準法第20条・第21条)
- 解雇を告げられたら、書面請求・継続就労意思の表明・証拠保全を即座に行う
- 労働基準監督署・総合労働相談コーナー・労働審判など複数の公的手段がある
突然の解雇通告に戸惑うのは当然ですが、あなたには法律が与えた権利があります。一人で抱え込まず、まず公的相談窓口に連絡を取ることから始めてください。解雇理由の合理性・解雇予告手当の有無・再就職のサポートまで、専門家が一緒に確認してくれます。
今すぐできること:
1. 解雇通知書の書面請求メールを送る
2. 雇用契約書・就業規則のコピーを確保する
3. 総合労働相談コーナー(0120-811-610)に電話する
不当解雇に直面していても、法律はあなたの味方です。行動を起こした労働者の多くが、解決金や職場復帰を勝ち取っています。まずは一歩目を踏み出してください。
本記事の内容は2025年時点の法律・判例に基づく一般的な解説であり、個別の事案への法的アドバイスではありません。具体的な対応については、弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

