フレックス制で「来月調整」は違法|超過時間の全額支払い義務と対応手順

フレックス制で「来月調整」は違法|超過時間の全額支払い義務と対応手順 未払い残業代

フレックスタイム制を導入している職場で、「清算期間内の超過時間は来月に調整するから」と言われ、給与から一部が控除されていませんか。あるいは、超過した分の残業代が翌月回しにされ続けていませんか。

結論からお伝えします。これは労働基準法違反である可能性が極めて高い行為です。

フレックス制だからといって、超過した労働時間の賃金を翌月以降に繰り越したり、当月の給与から差し引いたりすることは、原則として許されません。本記事では、なぜそれが違法なのかという法的根拠から、証拠の集め方、労働基準監督署への申告手順まで、今すぐ動けるレベルで解説します。


フレックスタイム制で「来月調整」と言われたら——それは違法の可能性が高い

「清算期間内だから調整できる」は会社の誤った論理

フレックスタイム制において、会社側がよく持ち出す言い訳が「清算期間内の時間なので、超過分は翌月に調整します」という説明です。

しかし、この論理には重大な誤りがあります。

フレックスタイム制は、労働者が始業・終業時刻を自分で決められる制度であり、清算期間(最長3か月)内での労働時間の柔軟な配分を認める制度です。確かに、清算期間内で労働時間の過不足を管理する仕組みがあります。

ところが、「時間の管理」と「賃金の支払い義務」はまったく別の話です。

清算期間内で労働時間を調整できる権限があったとしても、すでに働いた時間に対する賃金を翌月に回す権限は、会社にはありません。フレックス制の「調整」とは、労働者がいつ働くかを柔軟に決められるという意味であり、支払いを先延ばしにしてよいという意味では断じてないのです。

さらに混同されがちなのが、変形労働時間制との違いです。変形労働時間制では、あらかじめ設定したスケジュールに基づいて、特定の週・日に長く働かせる代わりに別の日を短くするという設計が認められています。しかしフレックスタイム制は変形労働時間制とは法的に別の制度であり、同じルールを当てはめることはできません。

会社が「フレックスだから調整できる」と主張するとき、その多くはこの2制度を意図的または誤って混同しています。

実際にどんな被害が起きているか——典型的なケース

以下のようなケースは、フレックス制の「来月調整」問題として実際に発生しやすい典型例です。

ケース①:給与明細に「調整控除」と記載されている

清算期間の最終月に「先月超過した時間分を調整します」として、給与明細に「調整控除 ▲20,000円」のように記載される。超過した時間への割増賃金どころか、基本賃金まで削られているケースがある。

ケース②:翌月のコアタイムを強制的に短縮される

「先月40時間超過したから、今月は40時間早退していいですよ」と言われる。しかし問題は、先月の超過時間に対する割増賃金が一切支払われていない点にある。時間を「返してもらう」のと賃金を「支払ってもらう」のはまったく別の権利だ。

ケース③:清算期間を超えても「翌月調整」が続く

本来、清算期間(たとえば1か月)の終了時点で超過時間が確定したら、その月の給与日に割増賃金を支払う義務が生じる。それを「来月、再来月」と先送りし続けるケース。実質的に残業代の踏み倒しになっている。

ケース④:「あなたが好きで長く働いたから」と言われる

フレックス制は労働者が自由に時間を決められる制度であることを利用して、「自分で決めた勤務時間だから残業代は出ない」と主張される。しかし、法定労働時間(週40時間)を超えた部分には、意思に関係なく割増賃金の支払い義務が生じる。


法律で何が定められているか——フレックス制でも守られる2つの原則

労働基準法第24条——賃金は「その月に全額」払う義務がある

労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)は、次のように定めています。

「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」

この「全額払い原則」は、フレックスタイム制であっても例外なく適用されます。

「来月調整する」という名目での当月給与の一部控除は、この第24条に違反します。控除が認められる例外は、①法令に別段の定めがある場合(所得税・社会保険料など)、②労使協定による場合(購買代金の天引き等、限定列挙)に限られており、「超過時間の調整」はどちらにも該当しません。

さらに重要なのは、労働者本人が「了解しました」と言っても無効である点です。労働基準法は強行法規(労使の合意があっても法律が優先される規定)であるため、仮に「翌月調整で構いません」という同意書にサインしていたとしても、その同意自体が法律上の効力を持ちません。会社から「同意書があるから問題ない」と言われても、揺らぐ必要はありません。

今すぐできる確認: 直近の給与明細を取り出して、「調整控除」「超過時間調整」「フレックス控除」などの名目で金額が差し引かれていないか確認してください。記載があれば、違法控除の証拠になります。

労働基準法第37条——超過時間には125%以上の割増賃金が必要

労働基準法第37条(割増賃金)は、時間外労働に対する割増賃金の支払いを義務づけています。フレックスタイム制での清算期間における割増賃金の発生ルールは以下の通りです。

フレックス制における割増賃金の発生基準

対象となる時間 支払い義務
清算期間の法定労働時間の総枠を超えた時間 25%以上の割増賃金
1日8時間・週40時間を超えた時間(法定外残業) 25%以上の割増賃金
深夜労働(22時〜翌5時) 25%以上の割増賃金(深夜割増)
法定休日労働 35%以上の割増賃金

清算期間が1か月の場合、その月の法定労働時間の総枠(例:31日の月なら約177時間)を超えた時間については、その月の給与支払日に125%以上の単価で割増賃金を支払う義務があります。

「来月に時間を返す」という対応では、この割増賃金の支払い義務を果たしたことにはなりません。時間の返還と金銭の支払いは別の義務だからです。

清算期間が3か月の場合の注意点

2019年の法改正により、清算期間を最長3か月に延長することが可能になりました。この場合、3か月の法定労働時間総枠を超えた分について、3か月目の給与日に支払う義務が生じます。ただし、各月の週平均労働時間が50時間を超えた部分については、その月ごとに割増賃金を支払う義務があります(労基法第32条の3の2)。3か月清算を理由に「3か月分まとめて後払い」を主張する会社もいますが、月50時間超の部分は各月精算が必要です。

今すぐできる確認: 自分の雇用契約書または就業規則を確認し、清算期間が何か月かを確認してください。清算期間の終了月の給与明細に割増賃金の記載があるか照合しましょう。


証拠収集——申告・請求に必要な書類を今すぐ揃える

未払い賃金を回収するには、証拠が命です。会社が後から記録を改ざん・削除する可能性もあるため、気づいた時点で即日、手元にある書類を保全してください。

必ず集めるべき証拠の一覧

① 給与明細(直近2〜3年分)

  • 控除欄に「調整控除」「フレックス調整」などの記載がある場合、これが最重要証拠
  • 超過時間数・控除金額・支払われた残業代の有無を記録する
  • 電子給与明細の場合はスクリーンショット+PDFで保存(ログインできなくなる前に)

② 労働時間の記録

  • タイムカード、入退室記録、ICカードの記録(コピーまたは写真撮影)
  • 勤怠管理システムのマイページ画面(スクリーンショット)
  • PCのログイン・ログオフ履歴
  • 業務メール・チャット履歴(時刻付きのもの)
  • 手帳・メモ帳に記録した出退勤時刻

③ 就業規則・雇用契約書

  • フレックスタイム制に関する条項、清算期間の定め、コアタイムの設定
  • 残業代の計算方法に関する記載
  • 賃金規程・給与規程(別冊の場合がある)

④ 「来月調整します」という会社側の意思表示の記録

  • 上司からのメール・チャットメッセージ(スクリーンショット)
  • 口頭で言われた場合は、日時・発言者・内容を手帳にメモ(直後に記録する)
  • 「翌月調整」の同意書にサインさせられた場合、そのコピーを保管

⑤ 計算の根拠となる情報

  • 時給・月給・所定労働時間数
  • 超過時間数の実績記録
  • 未払い期間(いつからいつまで)

証拠保全で注意すること

  • 社内PCのデータは会社に所有権があるため、業務外の目的での大量コピーは問題になる場合がある。自分の個人的な勤務記録(自分の労働時間記録)の取得は問題ない。
  • 紙の書類は原本のコピーを取り、写真も撮っておく。紛失リスクを下げるため、クラウドストレージ(個人のGoogleドライブ等)にも保存する。
  • 上司や同僚との会話を録音することは、自分が会話に参加している場合は一方的録音として法的に問題ない(ただし、これを第三者に公開する際には注意が必要)。

未払い額の計算方法——自分でいくら請求できるか確認する

請求前に、未払い残業代の概算額を計算しておくと、相談や交渉がスムーズになります。

基本的な計算式

ステップ1:1時間あたりの賃金単価を求める

月給制の場合:
1時間単価 = 月額基本給 ÷ 月所定労働時間数

例)月給25万円、所定労働時間160時間の場合
1時間単価 = 250,000 ÷ 160 = 1,562円

※月所定労働時間数は就業規則または雇用契約書に記載されている。

ステップ2:割増賃金の単価を求める

通常残業(法定時間外):1時間単価 × 1.25
深夜残業(22時〜翌5時):1時間単価 × 1.25(または通常残業と重複する場合は1.50)
休日労働(法定休日):1時間単価 × 1.35

ステップ3:未払い超過時間数に割増単価を掛ける

未払い残業代(月額)= 割増単価 × 未払い超過時間数

例)月40時間超過、単価1,562円の場合
1,562円 × 1.25 × 40時間 = 78,100円(1か月分)

ステップ4:遡及できる期間を確認する

労働基準法の改正(2020年4月施行)により、賃金の時効は以下の通りです。

発生時期 時効(請求できる期間)
2020年4月1日以降に支払い日が到来した賃金 3年(当面の措置)
2020年3月31日以前に支払い日が到来した賃金 2年

過去3年分(2020年4月以降)の未払い残業代を請求できる可能性があります。


会社への対応——まず内部で解決を試みる

会社への請求書の作成と提出

労基署に申告する前に、会社に対して内容証明郵便で未払い残業代の支払いを求めることが有効な場合があります。

請求書に記載すべき内容

  1. 差出人(自分)と宛先(会社名・代表者名)
  2. 請求の根拠(労働基準法第24条・第37条違反)
  3. 未払い期間と未払い時間数
  4. 請求金額(計算式を明示)
  5. 支払い期限(例:「本書面到達後14日以内」)
  6. 支払い方法(口座情報)
  7. 「応答がない場合は労働基準監督署への申告および法的手続きを検討する」旨

内容証明郵便は、「いつ・何を・誰に送ったか」を郵便局が証明してくれるため、後の証拠として有効です。

会社が「同意書がある」「就業規則に書いてある」と反論してきたら

前述の通り、労働基準法は強行法規です。たとえ就業規則に「超過時間は翌月に繰り越す」と書いてあっても、労働基準法第37条の割増賃金支払い義務を免除する効力はありません。「就業規則に書いてあるから合法」という主張は成立しないことを毅然として伝えましょう。


労働基準監督署への申告手順——実際の流れ

会社が応じない場合、または直接申告したい場合は、労働基準監督署(労基署)に申告します。

申告の流れ

ステップ1:管轄の労基署を確認する

申告先は、会社の所在地を管轄する労働基準監督署です。厚生労働省のウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp)または「全国労働基準監督署の所在案内」で検索できます。

ステップ2:申告書を作成する

労基署に備え付けの「申告書」に記入するか、口頭で申告することも可能です。ただし、事前に以下をまとめておくと手続きがスムーズです。

  • 会社の名称・所在地・代表者名
  • 自分の氏名・住所・連絡先・入社年月日
  • 問題の概要(フレックス制での超過時間を翌月調整と称して控除されている旨)
  • 具体的な未払い期間・金額
  • 証拠書類のコピー一式

ステップ3:申告・相談窓口を利用する

労基署の「総合労働相談コーナー」でまず相談し、申告の手続きを案内してもらうことができます。相談は無料です。

ステップ4:申告後の流れ

申告を受けた労基署は、会社に対して調査・是正勧告を行います。会社が是正勧告に応じない場合は、送検・罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金:労基法第120条・第119条)の対象となります。

申告者の保護

労働基準法第104条は、申告を理由とする解雇その他の不利益取扱いを禁止しています。「申告したら報復される」という不安を持つ方もいますが、申告を理由とした解雇は無効です。万が一報復があった場合は、それ自体が新たな労基法違反として申告できます。


専門家・相談窓口の活用——一人で抱え込まないために

主な相談先一覧

相談窓口 特徴 費用
労働基準監督署 行政機関・申告窓口・是正勧告権限あり 無料
総合労働相談コーナー(都道府県労働局内) 相談・あっせん手続き 無料
弁護士(労働専門) 未払い残業代の交渉・訴訟代理 成功報酬型あり
社会保険労務士 労基署申告の補助・書類作成支援 有料(相談のみ無料の場合も)
労働組合・ユニオン 会社との団体交渉・即日加入可能 月会費程度
法テラス(日本司法支援センター) 収入が低い方向けの無料法律相談 収入基準あり(無料〜低廉)

弁護士・社労士に依頼するメリット

未払い残業代が多額になる場合(目安として50万円以上)は、弁護士に依頼して労働審判や訴訟を起こす選択肢が現実的です。弁護士費用は成功報酬型が多く、「回収額の20〜30%程度」という設定が一般的です。

また、弁護士に依頼すると付加金請求(労基法第114条)も可能になります。付加金とは、裁判所が会社に対し、未払い残業代と同額の追加支払いを命じられる制度です。つまり、最大で未払い残業代の2倍を回収できる可能性があります。


よくある質問と回答

Q1. フレックス制でも残業代は発生するのですか?

はい、発生します。フレックスタイム制は始業・終業時刻の自由度を与える制度であって、残業代が発生しない制度ではありません。清算期間内の法定労働時間の総枠(1か月の場合、暦日数に応じて約160〜177時間)を超えた時間については、25%以上の割増賃金が発生します。

Q2. 「自分でフレックスを使って長く働いたんだから残業代は出ない」と言われました。

これは誤りです。確かにフレックス制では労働者が自分で勤務時間を決めますが、法定労働時間を超えた部分には、その経緯を問わず割増賃金の支払い義務が生じます。「自分で選んで長く働いた」という事実は、割増賃金の発生を免除しません。

Q3. 清算期間が3か月のフレックス制ですが、超過時間への支払いはいつですか?

3か月の清算期間の場合、清算期間終了月(3か月目)の給与日に、3か月分の超過時間(法定総枠超過分)について割増賃金を支払う義務があります。ただし、各月の週平均50時間超の部分は月ごとに精算が必要です(労基法第32条の3の2)。「3か月目まで全部後払い」が許されるのは、月50時間以内に収まっている超過部分に限られます。

Q4. 会社が「就業規則に翌月繰り越しと書いてある」と言っています。

就業規則の記載は、法律の強行規定を上回ることができません。労働基準法第37条の割増賃金支払い義務は強行法規であり、就業規則にいかなる規定があっても免除されません。「就業規則があるから合法」という主張は法的に成立しません。

Q5. 過去分の未払い残業代はどれくらい遡って請求できますか?

2020年4月1日以降に支払い日が到来した賃金については、3年間遡って請求できます(労基法第115条・改正附則)。それ以前の分は2年です。時効が迫っているケースでは、内容証明郵便の送付や労基署への申告で時効を中断(更新)させることが重要です。早めに行動してください。

Q6. 申告したら会社に知られて報復されませんか?

労働基準法第104条第2項は、申告を理由とした解雇・降格・減給などの不利益取扱いを禁じています。申告を理由とした解雇は無効であり、その行為自体が新たな労基法違反として扱われます。もし実際に報復があった場合は、すぐに労基署または弁護士に相談してください。

Q7. 会社に「来月調整」の同意書を書かされましたが、無効ですか?

はい、無効です。労働基準法は強行法規であり、労働者の同意があっても法律上の権利(割増賃金の請求権)を放棄させることはできません。仮にサインしていたとしても、未払い賃金の請求権は失われていません。


まとめ——今すぐ取るべき行動

フレックスタイム制における「来月調整」は、労働基準法第24条(全額払い原則)および第37条(割増賃金)に違反する可能性が極めて高い行為です。「フレックス制だから」「本人が同意したから」「就業規則に書いてあるから」という会社側の主張は、いずれも法的に成立しません。

今日から始めるべき行動をまとめます。

  1. 即日:証拠保全——給与明細・タイムカード・就業規則・上司のメッセージを保存する
  2. 1週間以内:未払い額の概算計算——期間・時間数・金額を整理する
  3. 2週間以内:相談窓口に連絡——労基署・弁護士・ユニオンのいずれかに相談する
  4. 必要に応じて:会社への内容証明送付または労基署への申告

過去3年分の未払い残業代を取り戻す権利が、あなたにはあります。時効が迫っているケースでは一日でも早い行動が重要です。

相談窓口の活用は無料です。以下の機関に連絡してみてください。

  • 労働基準監督署: 厚生労働省ウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp)で管轄署を確認し、電話相談が可能
  • 総合労働相談コーナー: 都道府県労働局内で無料相談・あっせんを実施
  • 法テラス: 0570-000-556(全国共通)、収入基準以下の方は無料
  • 弁護士会: 各都道府県弁護士会の相談窓口で初回30分程度の無料相談あり

一人で悩まず、まずは無料の相談窓口を活用してください。

タイトルとURLをコピーしました