給与に残業代が含まれると言われたら?内訳開示と差分請求の手順

給与に残業代が含まれると言われたら?内訳開示と差分請求の手順 未払い残業代

「残業代は給与に含まれているから」と会社に言われ、給与明細を見ても残業代の欄がどこにもない——そんな状況に直面している方は少なくありません。しかし、この説明だけでは法律上の要件を満たさず、計算が合わなければ違法な未払いにあたる可能性が高いです。

この記事では、労働基準法の根拠条文・最高裁判例をもとに、なぜその説明が問題なのかを明らかにしたうえで、証拠保全・内訳開示要求・差分請求書の書き方・労基署への申告まで、今日から動ける実務的な手順を解説します。


「給与に残業代が含まれている」はなぜ違法になるのか

賃金形態 法的要件 違法リスク 対応方法
「給与に含まれている」(明記なし) 内訳明記なし
計算根拠不明
違法性が高い
未払い請求対象
内訳開示要求
差分計算・請求
固定残業代(明記あり) 契約書に記載
額が明確
超過分を支払い
超過分未払いなら違法 超過分のみ請求
みなし残業(法定時間あり) 契約時に合意
計算基準を明示
超過分を支払い
不明確なら違法 合意内容確認
超過分請求
割増賃金の正規支払い 給与明細に区別表記
算定根拠を計算式で明示
なし 継続確認

割増賃金の支払いに必要な3つの法的条件

労働基準法37条は、時間外労働に対して通常の賃金の1.25倍以上の割増賃金を支払うことを使用者に義務づけています。この義務は会社の給与体系や内部規定に関係なく、法律によって強制されるものです。

さらに、労働基準法108条は使用者に対して「賃金台帳」の作成・保管を義務づけており、勤務時間数・支払い額・計算根拠の記載が必要です。

割増賃金が適法に支払われたと認められるには、以下の3条件をすべて満たす必要があります。

条件 内容 「給与に含む」説明の問題点
① 金額の特定 残業代として支払われた金額が給与の中で特定できること 「含まれている」では金額が不明
② 計算根拠の明示 時給×時間数×割増率など計算式が示されていること 計算根拠の提示なし
③ 労働者が確認可能 労働者が自身の受け取り額を検証できること 検証する手段がない

最高裁判所も、「割増賃金として支払われた金額が特定できなければ適法な支払いとはいえない」という趣旨の判断(最高裁平成6年6月13日判決など)を示しており、曖昧な説明だけでは法的な支払い義務を果たしたことにはなりません。

今すぐできる確認アクション: 自分の給与明細を開き、「残業代」「時間外手当」「固定残業代」「みなし残業手当」のいずれかの記載があるか確認してください。記載がなく口頭で「含まれている」と言われているだけなら、3条件のいずれも満たしていない可能性があります。


「固定残業代」「みなし残業」との違いと合法・違法の境界線

「残業代が給与に含まれている」という説明の中には、固定残業代(みなし残業)制度を意図している場合があります。固定残業代制度自体は、一定の条件を満たせば適法ですが、「含まれている」と口頭で言うだけでは要件を満たしません。

比較項目 適法な固定残業代 「含まれている」だけの説明
雇用契約書への明記 ✅ 必須(金額・対象時間数を明示) ❌ 記載なし・曖昧
給与明細への記載 ✅ 必須(手当として分離記載) ❌ 記載なし
超過分の追加払い ✅ 固定時間を超えたら追加で支払い ❌ 不明・行われていない
最低賃金との整合 ✅ 基本給と明確に分離 ❌ 検証不能

雇用契約書に「時間外手当として○○円(○時間分)を含む」と明記されており、かつ実際の残業時間がその範囲内に収まっているなら適法です。しかし、契約書への記載がない・記載はあるが実際の残業時間が超過している・金額の計算が合わない——この3パターンのいずれかに当てはまる場合は、未払いが発生しています。

確認ポイント: 雇用契約書または労働条件通知書を取り出し、「固定残業代」「みなし残業」「時間外手当を含む」などの記載があるか確認してください。記載がある場合も、金額と時間数の両方が明示されているかをチェックします。


まず今日やること|証拠保全の優先手順(1〜2日以内)

法的手続きに入る前に、証拠の確保が最優先です。会社側が記録を改ざん・削除するリスクがあるため、できる限り早く着手してください。

今すぐ集める5種類の証拠

① 給与明細(過去2年分)

未払い残業代の請求権は2年の時効(2020年4月以降の分は当面3年)があるため、2年前までさかのぼって収集します。

  • 紙の明細:スマートフォンで撮影し、クラウドに保存
  • デジタル明細:PDFでダウンロードし複数箇所に保存(会社のシステムから締め出されると取得不能になるため、今すぐ行動)
  • メール受信の場合:個人メールに転送または添付ファイルを保存

② 労働時間の記録(タイムカード・勤務表・入退出記録)

  • 社内で閲覧・印刷できる場合はコピーまたは撮影
  • システムログやICカード記録も含む
  • 取得が難しい場合は、後述の「開示要求」を通じて請求可能

③ 自分自身の勤務記録(今日から開始)

会社の記録とは別に、自分のスマートフォンや手帳で毎日の出退勤時刻を記録し始めてください。これが後の計算根拠になります。

  • 出勤時刻・退勤時刻・休憩時間を毎日メモ
  • メール・チャットの送受信履歴(深夜や休日の業務を示す証拠)
  • 業務日報・作業ログなど

④ 雇用契約書・労働条件通知書・就業規則

  • 雇用契約書:自分に交付された原本を保管
  • 就業規則:従業員が閲覧できる義務があるため、撮影またはコピー(労働基準法106条)
  • 賃金規程:就業規則の付属規程として存在する場合が多い

⑤ 残業の指示・承認を示す記録

  • 上司からの「残業してください」というメール・チャット
  • 業務命令書・プロジェクト資料
  • 深夜・休日に送受信した業務関連のメッセージ

保存先の推奨: Google Drive・OneDrive・Dropboxなど複数のクラウドサービスに分散保存します。自宅PCとスマートフォンにも手元コピーを保持し、紛失や会社からの圧力に備えてください。


未払い残業代の計算方法|自分で差分を算出する

証拠を確保したら、実際にいくら不足しているかを計算します。

1時間あたりの割増賃金の求め方

ステップ1:時給換算の基礎賃金を求める

固定給(月給)の場合、残業単価の計算に使う「基礎時給」を以下の式で求めます。

基礎時給 = 月給額 ÷ 月平均所定労働時間

月平均所定労働時間 = 年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12
(例:240日 × 8時間 ÷ 12 = 160時間)

重要: 月給から除外できる手当があります。家族手当・通勤手当・住宅手当・別居手当・子女教育手当・臨時に支払われた賃金は、労働基準法37条5項により基礎賃金から除外可能です。ただし、職務手当・役付手当・精皆勤手当などは除外できません

ステップ2:割増率を確認する

残業の種類 割増率 適用条件
法定時間外(週40時間・1日8時間超) 1.25倍 通常の残業
深夜(22時〜翌5時) 1.25倍(単独) 深夜のみ残業
時間外+深夜 1.50倍 残業が深夜に及ぶ場合
法定休日労働 1.35倍 法定休日(週1日)の労働
休日+深夜 1.60倍 法定休日の深夜労働
月60時間超の時間外(大企業は2023年4月〜) 1.50倍 月60時間超の部分

ステップ3:不足額を計算する

本来受け取るべき残業代 = 基礎時給 × 割増率 × 残業時間数

差分(未払い額) = 本来受け取るべき残業代 − 実際に支払われた金額

※固定残業代がある場合:
固定残業代として支払われた金額が確認できれば、そこから差し引きます。
確認できない場合は「0円」として請求し、会社側に証明責任を求めます。

計算例:

  • 月給:25万円(家族手当・通勤手当3万円を除く基礎賃金22万円)
  • 所定労働時間:月160時間
  • 基礎時給:220,000 ÷ 160 = 1,375円
  • 法定時間外残業:月30時間
  • 本来の残業代:1,375円 × 1.25 × 30時間 = 51,562円
  • 実際に支払われた残業代:(給与明細に記載なし、会社は「含む」と主張)= 不明
  • 請求根拠:少なくとも51,562円の支払いを示す計算根拠の開示を求める

会社への内訳開示要求|正式な請求手順

内訳開示要求書の書き方

計算根拠の開示要求は、口頭ではなく書面で行います。口頭交渉は「言った・言わない」の水掛け論になるため、記録が残る形式で行うことが重要です。

以下のテンプレートを参考に、内容証明郵便またはメール(送信記録を保存)で送付します。


【内訳開示要求書のテンプレート】

                              ○年○月○日

○○株式会社
代表取締役 ○○ ○○ 殿

                              所属部署:○○部
                              氏  名:○○ ○○

           給与計算根拠に関する書面による開示要求書

 私は、貴社に○年○月から在籍しております。
 毎月支給される給与明細を確認したところ、時間外労働に対する
割増賃金(残業代)の記載が存在しないことに気づきました。
この点について口頭で確認したところ、「給与に含まれている」
との説明を受けましたが、労働基準法37条および108条の要件を
満たすためには、以下の情報の書面による開示が必要です。

 つきましては、下記事項について書面にてご回答いただきますよう、
正式に要求いたします。

【開示を求める事項】
1. 当職の給与における時間外割増賃金の計算方法(計算式)
2. 毎月の給与のうち、時間外割増賃金として支払われている金額の内訳
3. 上記計算の基礎となった毎月の時間外労働時間数の記録
4. 時間外割増賃金の根拠となる賃金規程・就業規則の該当箇所

 回答期限は本書到達後14日以内とし、書面にてご回答ください。
 なお、本要求は労働基準法108条(賃金台帳)および
労働契約法4条(労働契約の内容の理解)に基づくものです。

                              以上

会社の反応別・次の対応フロー

会社の反応 次に取るべき行動
開示に応じ、計算が合っていた 問題なし(念のため記録は保管)
開示に応じたが、計算が不足 差分請求書を送付(次のステップへ)
開示を拒否・無視 2週間後に労基署へ申告
嫌がらせ・報復的な対応 証拠を追加保全し、弁護士または労基署に相談

差分請求書の作成と送付

内訳開示を求めたあと、または計算上明らかに不足が確認された場合は、差分請求書(未払い残業代請求書) を送付します。

差分請求書に盛り込む必須項目

  1. 請求対象期間(例:○年○月〜○年○月)
  2. 計算根拠(時給・割増率・時間数の一覧表)
  3. 請求金額の合計(月別内訳と総計)
  4. 支払い期限(通常14〜30日以内)
  5. 振込先口座情報
  6. 不払いの場合の対応方針(「労働基準監督署への申告を検討する」旨を明記)

差分請求書は内容証明郵便で送付することを強く推奨します。内容証明は「いつ・どんな内容で・誰が誰に送ったか」を郵便局が証明するため、後の法的手続きで決定的な証拠になります。

付加金について: 裁判手続きでは、未払い残業代に加えて同額の付加金(労働基準法114条)を請求できる場合があります。未払い金額が大きい場合は、この点も念頭に置いておきましょう。


労働基準監督署への申告手順

会社が開示を拒否・無視した場合、または差分請求に応じない場合は、労働基準監督署(労基署) への申告に進みます。

申告の準備物

申告前に以下を整理・準備します。

  • 申告書(労基署窓口で入手可能、または事前に相談)
  • 給与明細のコピー(2年分)
  • 勤務時間の記録(タイムカード・自作の記録・メール等)
  • 雇用契約書・労働条件通知書のコピー
  • 内訳開示要求書と会社の返答(または無回答の記録)
  • 差分の計算書(自分で作成したもの)
  • 就業規則・賃金規程(入手できた場合)

申告の流れ

Step 1:管轄の労基署を確認する

勤務地(会社の所在地)を管轄する労基署に申告します。厚生労働省ウェブサイトの「労働基準監督署の所在地」から検索可能です。

Step 2:事前相談(推奨)

申告前に電話または来署して、担当者に状況を説明し、必要書類を確認します。「申告したい」と明確に伝えることで、相談ではなく申告として扱われます。

Step 3:申告書を提出する

準備した証拠を一式持参し、申告書を提出します。匿名申告も可能ですが、実名申告の方が調査が動きやすい傾向があります。申告後は受理番号や担当者名を控えてください。

Step 4:労基署の調査・是正勧告

労基署が会社を調査し、違反が認められれば是正勧告書を発行します。これにより多くのケースで会社が支払いに応じます。


労働審判・民事訴訟という選択肢

労基署の対応で解決しない場合、または迅速に金銭解決を目指したい場合は、労働審判が有効です。

手続き 特徴 目安期間 コスト
労基署申告 行政による指導・勧告 数週間〜数ヶ月 無料
労働審判 裁判所が関与する調停・審判 3回の期日(約2〜3ヶ月) 弁護士費用+申立費用
民事訴訟 判決による強制執行可能 6ヶ月〜1年以上 弁護士費用+裁判費用
弁護士交渉(示談) 裁判外で交渉 数週間〜数ヶ月 弁護士費用(成功報酬型が多い)

未払い残業代が数十万円以上になる場合は、弁護士への相談を強くお勧めします。多くの弁護士事務所が成功報酬型(回収額から費用を差し引く形式)を採用しているため、初期費用ゼロで着手できます。

また、時効の問題に注意が必要です。未払い残業代の請求権は原則として3年(2020年4月以前発生分は2年) で時効を迎えます。時効が近い分については、内容証明郵便による請求書の送付によって6ヶ月間時効を中断できます(民法150条)。


無料で使える相談窓口

自分一人で対応するのが不安な場合や、まず専門家に確認したい場合は、以下の窓口を活用してください。いずれも無料で相談できます。

相談窓口 電話番号 特徴
労働基準監督署 0570-006031(労働条件相談ほっとライン) 夜間・土日も対応
総合労働相談コーナー 都道府県労働局に設置 紛争解決援助制度あり
法テラス(日本司法支援センター) 0570-078374 弁護士紹介・費用立替制度
労働組合(ユニオン) 地域合同労組など 組合加入で交渉代行
弁護士会の法律相談 各都道府県弁護士会 30分5,500円程度(初回無料も多い)

🚪 職場の問題をプロが解決

ハラスメント・不当解雇・残業未払い、退職代行が安心サポート

退職代行サービス

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即日対応・会社への連絡不要。安心して退職できます

退職代行サービス

よくある質問

Q1. 「残業代は基本給に含まれている」と雇用契約書に書いてあります。これは有効ですか?

雇用契約書に「残業代を含む」と記載されているだけでは不十分です。最高裁判例(最高裁平成29年7月7日・テックジャパン事件など)の趣旨から、適法な固定残業代として認められるには「① 残業代として支払われる金額が特定されていること」「② 何時間分の残業代に相当するかが明確であること」「③ 実際の残業時間が固定時間を超えた場合に追加払いがされること」の3要件が必要です。これらが不明確な場合は、差分を請求できます。

Q2. タイムカードがなく、残業時間を証明する会社の記録がありません。どうすれば?

会社の公式記録がなくても、自分が記録した出退勤メモ・深夜のメール送受信履歴・業務チャットのタイムスタンプ・入退館記録・同僚の証言などが証拠になります。労基署への申告においても、これらの間接証拠が採用された事例は多くあります。今日から記録を開始し、過去分についてはメール等で可能な限り再構成してください。

Q3. 内訳開示を要求したら報復(降格・解雇など)されそうで怖いです。

法的権利の行使(残業代請求・労基署申告)を理由とした不利益取扱いは、労働基準法104条2項・労働契約法16条などにより禁止されています。もし報復的な対応があった場合は、それ自体が新たな違法行為となり、別途損害賠償請求の対象になります。開示要求をした日時・内容・その後の会社の対応をすべて記録に残しておくことが重要です。

Q4. 会社を辞めた後でも残業代を請求できますか?

請求できます。退職後も3年(2020年4月以前の分は2年) の時効が消滅するまでは請求権が存続します。退職済みの場合も、過去の給与明細・タイムカードの記録を保有していれば申告・請求が可能です。なお、退職時に「一切の請求権を放棄する」旨の書面に署名した場合でも、労働基準法を下回る合意は無効となるため、あきらめる前に専門家に確認してください。

Q5. 固定残業代として月20時間分が支払われていると言われています。実際の残業が30時間なら差分の10時間分だけ請求できますか?

その理解で正しいです。固定残業代制度が適法な要件を満たしている場合、固定時間(20時間)を超えた部分(10時間分)については追加で割増賃金を請求できます。ただし、固定残業代の適法性(上述の3要件)自体に疑問がある場合は、全額の計算根拠から見直す必要があります。


まとめ|今日から動く5ステップ

「給与に残業代が含まれている」という説明だけでは、法律上の支払い義務を果たしたことにはなりません。計算が合わない場合は、明確な法的根拠をもって請求できます。

  1. 今日中: 給与明細・タイムカード・雇用契約書をすべて撮影・クラウド保存
  2. 2〜3日以内: 自分で残業代を計算し、差分を把握する
  3. 1週間以内: 書面で内訳開示要求書を会社に送付(内容証明が理想)
  4. 2週間以内: 開示結果をもとに差分請求書を送付、または労基署に相談
  5. 応じない場合: 労基署への申告・弁護士への相談を進める

時効は進行しています。 毎月未払いが積み重なっているなら、今日動き始めることが最も大切です。一人で抱え込まず、無料の相談窓口や専門家を積極的に活用してください。

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