「解雇予告手当は給与から差し引く」と会社に言われた方へ。その行為は、2つの法律に同時に違反する重大な違法行為です。驚くかもしれませんが、会社が「通告しているから問題ない」「合意書にサインしてもらった」と言っても、法律上は一切通用しません。この記事では、違法性の法的根拠・正確な計算方法・今すぐ取れる返金請求の手順を、条文に沿って具体的に解説します。
「給与から引く」は2重違法――法律が禁止する理由
会社が「解雇予告手当を給与から差し引く」と言う行為は、1つの違法ではなく、2つの法律に同時に違反しています。まずはこの大前提をしっかり確認しましょう。
労働基準法20条:解雇予告手当の支払いは使用者の絶対的義務
労働基準法20条第1項には、次のように定められています。
「使用者が労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日間前にその予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」
「30日前の予告」か「解雇予告手当の支払い」か、どちらか一方を必ず行うことが使用者の絶対的義務です。即日解雇(当日解雇)の場合は、例外なく解雇予告手当を支払わなければなりません。
重要なのは、この義務は会社と労働者の合意によって免除できないという点です。「払わないことに同意した」「サインした」という事実があっても、法律上の支払い義務は消えません。同意自体が無効とみなされます。
✅ 今すぐできるアクション:解雇通告を受けた日時・方法(口頭か書面か)をメモし、予告期間が30日あったかどうかを確認してください。
労働基準法24条:給与からの無断控除が禁じられる理由
労働基準法24条第1項には、次のように定められています。
「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」
これを「賃金全額払いの原則」といいます。会社が労働者の賃金から何かを差し引くには、法令に定めがあるか、労働者の書面による合意(労使協定)がある場合に限られます。
解雇予告手当は「補償的給与」であり、通常の給与と同等の法的保護を受けます。会社が一方的に「これを給与から引く」と通告しても、労働者の個別の同意なしには認められません。そして、たとえ「同意書」にサインさせられたとしても、その内容が労働基準法に違反している場合は無効です(労基法13条)。
✅ 今すぐできるアクション:給与明細を手元に保管してください。控除欄に不明な項目がある場合は、すぐに写真を撮って保存しましょう。
「通告したから合法」という言い訳は通用しない
会社側がよく使う言い訳のパターンと、その違法性をまとめます。
| 会社の言い訳 | 違法性 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 予告手当を支払わない | 直接的・重大違法 | 労基法20条 |
| 給与から無断で控除する | 二重違法 | 労基法20条+24条 |
| 「控除する旨を通告した」だけ | 違法(通告は同意ではない) | 労基法24条 |
| 退職金と相殺する | 違法(退職金も同等保護) | 労基法24条 |
| 分割払いを強要する | 違法(解雇時一括払いが原則) | 労基法20条 |
「会社が通告した」という事実は、労働者が同意したことを意味しません。これらはいずれも労働基準法違反であり、違反した使用者には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます(労基法119条)。
解雇予告手当の正確な計算方法
返金請求をするには、まず自分が受け取るべき金額を正確に把握することが重要です。
平均賃金の計算式
解雇予告手当は「平均賃金×30日分以上」で計算します。労働基準法12条に定められた平均賃金の計算式は以下のとおりです。
平均賃金 = 解雇予告日前3か月間の賃金総額 ÷ その期間の総暦日数
計算例:
- 直近3か月の賃金合計:90万円
- 直近3か月の暦日数:92日(例:4月・5月・6月)
- 平均賃金:900,000円 ÷ 92日 = 9,782円(1円未満切り捨て)
- 解雇予告手当:9,782円 × 30日 = 293,460円
計算時の注意点
| 項目 | 扱い方 |
|---|---|
| 通勤手当・各種手当 | 含める(実費弁済の通勤費等を除く) |
| 賞与(ボーナス) | 含めない(臨時的賃金のため) |
| 時間外手当・休日手当 | 含める |
| 欠勤控除があった月 | 計算期間に含めて計算 |
| 予告日が1か月未満のとき | 不足日数分だけ支払い |
✅ 今すぐできるアクション:過去3か月分の給与明細を用意し、賃金総額と暦日数を書き出してください。計算結果は返金請求書の根拠金額になります。
返金請求の手順――今すぐ動くための4ステップ
ステップ1:証拠を確保する(解雇通告~3日以内に実施)
まず行うべきは証拠の保全です。後から「言った・言わない」の水掛け論にならないよう、以下を揃えてください。
【確保すべき証拠チェックリスト】
□ 解雇通告書・解雇通知書(書面がない場合は状況をメモ)
□ 「予告手当を給与から引く」と伝えられた記録
(メール・LINE・書面・録音など)
□ 直近3か月分の給与明細
□ 雇用契約書・就業規則
□ 給与振込通帳・振込明細(控除後の入金記録)
□ 会話の録音(本人が参加している会話なら録音可能)
✅ 今すぐできるアクション:スマートフォンで書類を撮影し、クラウドストレージ(Googleドライブ等)にバックアップしてください。会社支給のPCやメールには証拠を残さないよう注意。
ステップ2:会社に書面で返金請求する(1週間以内)
まずは会社に対して、書面(メール可)で正式に返金を請求します。書面で請求することで、後の法的手続きで有利になります。
請求書に記載すべき内容:
1. 解雇通告日と解雇日
2. 解雇予告手当の計算根拠と金額
(平均賃金の計算式を明示)
3. 支払期限の指定(例:本書到達後7日以内)
4. 振込先口座
5. 給与からの控除に対する明確な異議・反対意思
6. 未払いの場合は法的手続きを取る旨の予告
メールで送る場合は送信記録を必ず保存してください。会社が無視する・口頭で誤魔化す場合は、次のステップに進みます。
ステップ3:内容証明郵便で正式請求する
会社が書面請求を無視した場合や、交渉が難航した場合は内容証明郵便で請求します。内容証明郵便は、いつ・どんな内容の文書を送ったかを郵便局が証明するため、法的手続きで強力な証拠になります。
内容証明郵便の書き方(テンプレート):
【解雇予告手当返金請求書】
私は、令和○年○月○日に貴社より即日解雇の通告を受けました。
しかし、貴社は労働基準法20条に定める解雇予告手当(金○○○円)を
支払わず、同手当を給与から控除する旨を通告しました。
この行為は、労働基準法20条(解雇予告手当支払い義務)および
同法24条(賃金全額払いの原則)に違反する重大な違法行為です。
つきましては、本書到達後7日以内に、下記口座へ全額をお振込み
いただくよう請求いたします。期限までにお支払いなき場合は、労働
基準監督署への申告および法的手続きを検討いたします。
金額:○○○,○○○円
振込先:○○銀行 ○○支店 普通 ○○○○○○○
氏名:○○ ○○
令和○年○月○日
○○ ○○ (署名・押印)
○○株式会社 代表取締役 ○○ ○○ 殿
✅ 今すぐできるアクション:内容証明郵便はコンビニや郵便局の窓口から送付できます。「内容証明郵便」「電子内容証明(e内容証明)」を検索し、最寄りの郵便局を確認してください。
ステップ4:労働基準監督署に申告する
会社が支払いに応じない場合、労働基準監督署(労基署)への申告が最も有効な手段です。労基署は労働基準法違反を調査・指導する行政機関で、申告は無料です。
申告の流れ:
1. 最寄りの労働基準監督署に電話または来署
(全国どこでも受け付けてもらえます)
2. 持参するもの:
□ 解雇通知書(または解雇の状況をまとめたメモ)
□ 給与明細(控除が記載されたもの)
□ 内容証明の写し(送付済みの場合)
□ 雇用契約書・就業規則
3. 申告後の流れ:
└ 労基署が会社を調査・指導
└ 是正勧告が発せられると、会社は支払いに応じることが多い
└ 悪質な場合は送検(刑事手続き)も
時効に注意: 解雇予告手当の請求権の消滅時効は2年です(労基法115条)。解雇日から2年以内に請求手続きを行ってください。
✅ 今すぐできるアクション:「都道府県名 労働基準監督署」で検索し、管轄の監督署の電話番号・所在地を今すぐメモしてください。
労働基準監督署で解決しない場合の選択肢
労基署の指導で解決しないケースや、早期解決を求める場合には、以下の手段も検討できます。
| 手段 | 特徴 | 費用 | 解決までの期間 |
|---|---|---|---|
| 労働基準監督署への申告 | 無料・行政指導 | 無料 | 1〜3か月 |
| 都道府県労働局のあっせん | 話し合いによる解決 | 無料 | 1〜2か月 |
| 労働審判 | 裁判所が仲裁・迅速 | 数万円〜 | 約3か月 |
| 少額訴訟 | 60万円以下なら1回で判決 | 数千円〜 | 1〜3か月 |
| 通常訴訟 | 全額+遅延損害金請求可 | 数万円〜 | 6か月〜1年 |
少額の未払い(60万円以下)には少額訴訟が特に有効です。簡易裁判所への申立費用は請求額に応じ数千円程度で、弁護士なしでも手続きできます。
また、弁護士や社会保険労務士(社労士)への相談も有効です。法テラス(日本司法支援センター)では、収入要件を満たす場合に無料法律相談・費用立替制度が利用できます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 同意書にサインしてしまったら、もう取り戻せないの?
A. 取り戻せます。労働基準法に違反する内容の合意は、たとえ署名・押印があっても無効です(労基法13条)。「労働者が合意した」という事実は、違法な控除を正当化しません。サインしてしまった後でも、返金請求・労基署への申告は有効に行えます。
Q2. 解雇予告手当を給与から引かれた場合、何円返ってくるの?
A. 引かれた解雇予告手当の全額が返金対象です。また、不当に控除された場合、賃金不払いとして遅延損害金(年3%)も加算して請求できる場合があります。まず平均賃金×30日の計算式で金額を算出し、その全額を請求してください。
Q3. 解雇予告が「14日前」だった場合、手当はどうなるの?
A. 30日に満たない予告の場合は、不足する日数分(30日-予告日数)の平均賃金を支払う義務があります。たとえば14日前に予告された場合、30日-14日=16日分の平均賃金が解雇予告手当として支払われなければなりません。
Q4. 退職後でも請求できるの?
A. できます。解雇予告手当の消滅時効は2年です(労働基準法115条)。退職・解雇から2年以内であれば、会社への請求・労基署への申告・訴訟のいずれの手段も有効に使えます。早めに行動することをお勧めします。
Q5. 会社が「天引きは慣行だ」と言っている。それでも違法?
A. 違法です。「慣行だから」「昔からそうしていた」という理由は、労働基準法違反を正当化しません。個別の労使協定がある場合でも、法律の強行規定(労基法20条・24条)に反する部分は無効です。慣行を主張する会社こそ、労基署への申告が特に有効です。
まとめ:不当な控除を取り戻すために今すぐ動く
「解雇予告手当を給与から引く」という行為は、労働基準法20条と24条の2重違反であり、会社に正当な理由は一切ありません。不当に引かれた手当を取り戻すために、以下のスケジュールで行動してください。
| やるべきこと | 期限の目安 |
|---|---|
| 証拠の確保(給与明細・解雇通知・録音など) | 解雇通告後すぐ |
| 会社への書面・メールによる請求 | 1週間以内 |
| 内容証明郵便の送付 | 会社が無視した場合 |
| 労働基準監督署への申告 | 並行・または次のステップとして |
| 消滅時効の確認 | 解雇日から2年以内に行動 |
一人で悩まず、まずは労働基準監督署か、法テラスの無料相談を活用してください。全国の労働基準監督署は電話・来署での相談を無料で受け付けており、あなたのケースが違法であることを確認してくれます。あなたには、不当に引かれた手当を取り戻す権利があります。
本記事は法律情報の提供を目的としたものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な状況については、社会保険労務士または弁護士にご相談ください。

