「解雇を告げられたのに、残りの期間は席に座っているだけで仕事を一切もらえない」
そんな状況に置かれていませんか?
実はこれ、労働基準法違反の可能性がある「違法な就労妨害」です。
この記事では、あなたが今すぐ取れる行動を、法的根拠・証拠収集・申告先の順に解説します。
目次
- 解雇予告期間中に仕事を与えられないのは違法なのか?
- あなたには「就労請求権」がある:法律が守る3つの権利
- 今すぐ動く:証拠収集の具体的手順
- 会社への異議申し立て:内容証明郵便の書き方と文例
- 申告先と相談窓口:どこに・何を持って行くか
- 給与保障を実現するための法的手続き
- よくある質問(FAQ)
① 解雇予告期間中に仕事を与えられないのは違法なのか?
結論:違法になり得ます。
解雇予告期間とは、会社が「〇月〇日で解雇します」と通知してから実際に解雇される日までの期間(原則30日以上)です。この期間中、あなたはまだ正規の従業員であり、労働契約は存続しています。
にもかかわらず、会社が意図的に業務を与えなかったり、「席に座っているだけでいい」「何もしなくていい」と指示したりする行為は、労働基準法・民法・労働契約法の複数の条文に抵触する可能性があります。
使用者が業務を意図的に与えない行為の法的位置づけ
この問題には、主に以下の3つの法令が関係します。
■ 労働基準法第26条(休業手当)
「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」
会社が仕事を与えないことは「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当します。したがって、少なくとも平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務が発生します。ただし、これは最低限の保障であり、後述する民法の規定ではさらに手厚い保護が受けられます。
■ 民法第536条2項(危険負担・反対給付請求権)
「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。」
「債権者(=会社)の責任で労働者が働けなくなった場合、労働者は賃金全額を請求できる」という規定です。つまり、会社が業務を与えなかったことが原因で働けないのであれば、労働者は給与の100%を請求できます。
労基法26条の60%より有利なため、民法536条2項を根拠とした請求が実務上は重要です。
■ 労働契約法第17条(解雇予告中の給与義務)
解雇予告はあくまでも「〇日後に解雇する」という通知であり、予告期間中の労働契約は有効に存続します。よって、会社は予告期間中も雇用契約上の義務(賃金支払い・業務提供)を継続して負います。
違法性が認められる3つの条件
以下の3条件がそろうと、違法性が強く認められます。
| 条件 | 具体例 |
|---|---|
| ① 業務が意図的にゼロにされている | 「何もしなくていい」「席にいるだけでいい」と指示される |
| ② 労働者側に就労意欲がある | 業務を求めても断られる・無視される |
| ③ 給与が削減・未払いになっている、またはそのリスクがある | 実際に減額された、または減額を示唆された |
3条件すべてを満たす場合はもちろん、①と②だけでも就労妨害として問題になります。
関連判例:裁判所はどう判断しているか
【山田電機事件(労判589号)】
使用者が意図的に業務を与えずアイドリング状態にさせた事案において、裁判所は「使用者の責に帰すべき事由」に該当すると認定し、給与全額の支払い義務を認めました。
【日本勧業銀行事件】
配転と給与削減を同時に行った事案で違法性を認定。解雇予告期間中は「同一労働同一給与」の原則が適用され、一方的な給与削減は認められないとされました。
② あなたには「就労請求権」がある:法律が守る3つの権利
解雇予告期間中の労働者には、以下の3つの権利が法律上認められています。これらを正確に理解することが、適切な対応の第一歩です。
権利① 就労請求権(業務を与えるよう求める権利)
労働者は、有効な雇用契約が存続する限り、使用者に対して「業務を提供してほしい」と求めることができます。これを就労請求権といいます。
ただし、判例上は「一般的な就労請求権は必ずしも認められない」とされてきた経緯もあるため、就労請求権の主張と並行して、給与全額の請求(民法536条2項)を行うことが実務的には有効です。
今すぐできるアクション
上司または人事部宛に「業務を希望します。何か割り当ててください」とメールで送付する。この記録が後の請求で「就労意欲があった」証拠になります。
権利② 賃金全額請求権(給与を満額もらえる権利)
民法536条2項により、会社の都合で働けない状態にさせられた場合、労働者は給与全額を請求できます。
「給与は払うけど仕事は与えない」という場合はともかく、「仕事も給与も削減する」「残業代を計算に入れない」「みなし残業代を減らす」といった対応は違法となる可能性があります。
今すぐできるアクション
解雇予告前後の給与明細を必ず保存する。デジタルデータ(PDFや写真)と印刷物の両方で保管してください。
権利③ 休業手当請求権(最低60%の保障)
仮に民法536条2項の全額請求が認められなくても、労基法26条に基づく平均賃金の60%以上の休業手当は必ず請求できます。
この休業手当は「会社の都合で働けなかった」事実さえあれば認められるため、就労意欲の有無や業務の有無に関わらず請求できる強力な権利です。
今すぐできるアクション
「業務を与えられなかった日」の記録をつけ始める。日付・時刻・状況・指示した人物名をメモに残しておく。
③ 今すぐ動く:証拠収集の具体的手順
法的対応で最も重要なのが証拠です。後から収集しようとしても、データが消えたり、会社が口頭発言を否定したりするリスクがあります。今日から以下の手順で証拠を確保してください。
STEP 1:業務指示・就労妨害の記録化(即日・最優先)
| 収集すべき証拠 | 具体的な方法 |
|---|---|
| 業務を与えない旨の指示 | メール・チャットのスクリーンショット、音声メモ |
| 口頭による指示の内容 | 指示直後にスマホのメモアプリに日時・発言内容・発言者を記録 |
| 「何もしなくていい」という指示 | 可能であればICレコーダーで録音(違法ではありません) |
ポイント:録音について
自分が参加している会話を本人が録音することは、日本の法律上違法ではありません(不正競争防止法・盗聴法は第三者の会話が対象)。ただし録音データは証拠として提出するまで慎重に管理してください。
STEP 2:就労意欲を「見える化」する(3日以内)
後の手続きで「自分から働こうとしていたのに拒否された」という事実を証明するために、書面またはメールで業務を求める記録を残します。
メール文例
件名:業務割り当てのお願い
○○部長 お世話になっております。
解雇予告をいただいて以降、業務を割り当てていただけていない状況が
続いております。解雇予定日まで在籍期間中は引き続き業務に従事した
いと考えております。
何かご担当できる業務があればご指示いただけますか。
よろしくお願いいたします。
(氏名)(日時)
このメールを送ることで、「使用者の責に帰すべき事由」の証明が格段に容易になります。
STEP 3:給与関連書類の保全(1週間以内)
以下の書類はすべてPDF化・写真撮影・印刷の3段階で保管してください。
- [ ] 解雇予告通知書(または口頭予告の録音・メモ)
- [ ] 解雇前3〜6ヶ月分の給与明細
- [ ] 解雇予告後に支給された給与明細(支給された場合)
- [ ] 雇用契約書・就業規則
- [ ] タイムカード・出勤簿のコピー
- [ ] 業務日報・作業記録
STEP 4:日誌の継続的な記録
毎日、以下の内容を記録し続けてください。これが労働審判・裁判での重要な証拠になります。
【日誌記録フォーマット】
日付:20XX年XX月XX日(○曜日)
出勤時刻:
退勤時刻:
業務指示の有無:有 / 無
指示があった場合の内容:
業務を求めた場合の回答:
特記事項(発言内容・状況など):
④ 会社への異議申し立て:内容証明郵便の書き方と文例
証拠が集まったら、次は会社に対して正式に異議を申し立てます。内容証明郵便は「いつ、誰が、誰に、何を送ったか」が郵便局に記録されるため、法的手続きにおいて強力な証拠になります。
内容証明郵便を送るタイミング
- 業務を与えられない状態が3営業日以上続いた場合
- 給与削減・未払いが発生した、または示唆された場合
- 口頭での申し出を無視または拒否された場合
異議申立書の文例
○○年○月○日
○○株式会社
代表取締役 ○○ ○○ 殿
(氏名)
(住所)
(連絡先)
解雇予告期間中の就労妨害および給与保障に関する異議申立書
拝啓
貴社は、○年○月○日付にて私に対し解雇予告を行いました。
しかしながら、同日以降、貴社は私に対し業務を一切割り当てず、
就労を実質的に妨害しております。
以下の通り、貴社の対応は労働基準法・民法に違反する可能性が
あると考えられます。
【事実関係】
1. 解雇予告日時:○年○月○日
2. 業務を与えられなくなった日時:○年○月○日
3. 業務を求めた事実:○年○月○日、○○部長へのメール
4. 業務割り当てを拒否された事実:○年○月○日、○○部長より口頭で拒否
【法的根拠】
・労働基準法第26条(休業手当:平均賃金60%以上の支払い義務)
・民法第536条2項(使用者の責に帰すべき事由による全額賃金請求権)
・労働契約法第17条(解雇予告期間中の雇用契約の継続)
【要求事項】
1. 解雇予告期間中の通常業務の割り当て
2. 業務が提供できない場合は、民法536条2項に基づく給与全額の支払い
3. 本書面到達より5営業日以内に書面にて回答すること
上記要求に応じない場合、労働基準監督署への申告、
労働審判の申し立てを含む法的手段を検討いたします。
敬具
内容証明郵便の送り方
- 上記文書をA4用紙に作成し、3部印刷する(郵便局2部+自分の控え1部)
- 最寄りの郵便局の窓口で「内容証明郵便で送りたい」と伝える
- 「配達証明」も同時に依頼すると、相手が受け取った記録も残せる
- 費用の目安:約1,200〜1,500円程度
⑤ 申告先と相談窓口:どこに・何を持って行くか
証拠を集め、異議申立書を送っても会社が応じない場合は、外部機関に相談・申告します。
相談先①:労働基準監督署(無料・最初の窓口)
何を相談できるか
– 労基法26条違反(休業手当の不払い)
– 給与の不当削減・未払い
– 解雇予告手当の未払い
持参するもの
| 書類 | 入手方法 |
|---|---|
| 解雇予告通知書 | 会社からの通知文書 |
| 給与明細(3〜6ヶ月分) | 自分で保管していたもの |
| 就労妨害を示す証拠 | メール・録音・日誌 |
| 異議申立書のコピーと配達証明 | 自分で送付した控え |
| 雇用契約書 | 入社時に受け取ったもの |
申告の流れ
1. 最寄りの労働基準監督署に電話またはWeb予約で相談日程を決める
2. 上記書類を持参し「申告」として受理してもらう(「相談」ではなく「申告」と明示する)
3. 監督官が事業者に是正勧告を行う
労働基準監督署は全国各地にあります。厚生労働省のWebサイト(https://www.mhlw.go.jp)で最寄りの署を検索できます。
相談先②:都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」(無料)
個別労働紛争解決促進法に基づくあっせん制度が利用できます。労使双方が合意すれば、弁護士費用をかけずに紛争解決が可能です。
- 費用:無料
- 処理期間:概ね1〜2ヶ月
- 拘束力:あっせん案への合意は任意
相談先③:労働審判(費用をかけて解決を求める場合)
労働審判は、地方裁判所が行う簡易・迅速な労働紛争解決手続きです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立先 | 地方裁判所 |
| 期間 | 原則3回以内の期日で審理(概ね3ヶ月) |
| 費用 | 申立手数料(争う金額による)+弁護士費用 |
| 効力 | 調停または審判(異議申立がなければ確定) |
相談先④:弁護士・社会保険労務士
弁護士への相談が特に有効な場合
– 給与未払い額が大きい(50万円以上)
– 会社が法的手続きを無視している
– 不当解雇の無効を同時に争いたい
費用の目安
– 初回相談:無料〜5,500円(30分)
– 着手金:10〜30万円程度
– 成功報酬:回収額の15〜20%程度
無料相談窓口
– 法テラス(日本司法支援センター):0570-078374
– 弁護士会の無料労働相談
– 各都道府県の弁護士会館
⑥ 給与保障を実現するための法的手続き
ここでは、実際に未払い給与を回収するための法的手続きを段階的に解説します。
段階①:内容証明郵便による請求(費用:約1,500円)
前述の異議申立書を送付し、5営業日以内の回答を求めます。多くの場合、この段階で会社が対応を改めることがあります。
段階②:労働基準監督署への申告(費用:無料)
会社が応じない場合、労基署に申告します。監督官が「是正勧告」を行うと、多くの中小企業はこの段階で未払い分を支払います。
段階③:労働審判の申し立て(費用:申立手数料+弁護士費用)
労基署の是正勧告も無視された場合や、大企業相手の場合は労働審判が有効です。
平均賃金の計算方法(請求額の基礎)
平均賃金 = 直近3ヶ月の賃金総額 ÷ その期間の暦日数
例)
・3ヶ月の賃金合計:900,000円
・暦日数:92日
・平均賃金:900,000 ÷ 92 ≒ 9,782円/日
休業手当(最低保障額):9,782円 × 60% × 休業日数
民法536条2項請求額:9,782円 × 休業日数(100%)
段階④:通常訴訟(少額訴訟含む)
未払い額が60万円以下であれば、少額訴訟を本人申立で行うことができます。弁護士なしでも対応可能な手続きです。
- 申立先:簡易裁判所
- 費用:申立手数料(数千円〜)
- 期間:原則1回の審理で判決
時効に注意:賃金請求権は3年
労働基準法第115条改正(2020年4月施行)により、賃金請求権の時効は3年(改正前は2年)に延長されました。ただし時効を中断するためにも、早期の申告・請求が重要です。
⚠️ 専門家への相談をお勧めします
給与保障の実現には複数の法的手段があり、ケースに応じた最適な対応が必要です。特に未払い額が大きい場合や会社が強固に対抗する場合は、弁護士への相談が極めて有効です。法テラスなどの無料相談窓口を活用し、専門家のアドバイスを受けることで、回収成功率が大きく向上します。
⑦ よくある質問(FAQ)
Q1. 解雇予告期間中に「自宅待機を命じる」と言われました。これは合法ですか?
A. 自宅待機命令自体は、業務上の必要性がある場合に認められることがありますが、給与の削減・カットを伴う場合は違法です。 自宅待機中も、民法536条2項に基づき給与全額の請求が可能であり、少なくとも労基法26条の休業手当(平均賃金の60%以上)は確実に受け取れます。
Q2. 「解雇予告期間中は給与を払わない」と言われました。どう対応すればいいですか?
A. これは明確な違法行為です。賃金全額払いの原則(労基法第24条)に違反します。すぐに労働基準監督署に申告してください。また、内容証明郵便で「賃金不払いに対する異議申立書」を会社宛に送付し、証拠を確保することが重要です。
Q3. 解雇予告手当(30日分)はもらいましたが、予告期間中の給与が減りました。問題ありますか?
A. 問題あります。解雇予告手当(労基法第20条)と予告期間中の通常給与は別物です。予告手当を受け取っていても、予告期間中に実際に就労した(または就労しようとしたが妨げられた)場合の給与は、別途全額支払われなければなりません。
Q4. 「残り期間は有給消化してください」と言われました。これは合法ですか?
A. 会社側が一方的に有給休暇の取得を命じること(時季変更権の逆の問題)は、原則として認められません。有給休暇の取得は労働者の権利であり、会社が強制することはできません。ただし、労使間の合意があれば有給消化は可能です。一方的に命令された場合は、「有給休暇取得の強制に対する異議」を書面で申し立ててください。
Q5. 解雇そのものが不当だと思います。就労請求と解雇無効を同時に争えますか?
A. 争えます。むしろ、解雇が無効であれば予告期間の問題も含めてすべての給与が請求対象になります。解雇無効の主張は労働審判または通常訴訟で行いますが、弁護士への相談を強くお勧めします。解雇無効と未払い賃金請求は同時に行えるため、弁護士に一括して依頼するのが効率的です。
Q6. 会社が「業務がないのだから仕事を与えられない」と主張しています。どうなりますか?
A. 「業務がない」という主張が通るかどうかは、業務がなくなった理由が使用者の経営判断によるものか否かで判断されます。整理解雇や事業縮小に伴う場合でも、「使用者の責に帰すべき事由」として扱われることが多く、労基法26条の休業手当は支払われます。「業務がない」という理由だけで給与支払義務が消えることはありません。
まとめ:今日から取れる5つのアクション
解雇予告期間中に仕事を与えられない状況は、労働基準法・民法に基づきあなたには給与全額を請求する権利があります。以下の5ステップを今日から実行してください。
| 優先順位 | アクション | 期限の目安 |
|---|---|---|
| ★★★★★ | 業務を求めるメールを上司・人事に送付する | 今日中 |
| ★★★★★ | 給与明細・解雇予告通知書を保存・PDF化する | 今日中 |
| ★★★★ | 就労妨害の日誌記録を開始する | 今日中 |
| ★★★ | 内容証明郵便で異議申立書を送付する | 3営業日以内 |
| ★★★ | 労働基準監督署または弁護士に相談する | 1週間以内 |
⚠️ 注意事項
本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律相談ではありません。具体的な対応については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
参考法令:労働基準法第20条・第24条・第26条・第27条・第115条、民法第536条2項、労働契約法第17条

