解雇予告中に給与を日給制に変更された場合の無効化と差分請求

解雇予告中に給与を日給制に変更された場合の無効化と差分請求 不当解雇

解雇予告期間中に突然「今日から在宅待機、給与は日給制に変更」と告げられた場合、それは労働法上、無効になる可能性が高い違法行為です。「どうせもうすぐ辞めるから」と諦める必要はありません。差分賃金はしっかり取り戻せます。この記事では、変更を無効化するための法的根拠から、証拠収集・差分計算・申告先まで、今すぐ動けるよう実務的な手順を完全解説します。

解雇予告期間中に「今日から日給制」は違法なのか?

解雇予告期間中とはどういう法的状態か

解雇予告とは、会社が労働者に対して「○○日後に解雇します」と事前に通知することです(労働基準法第20条)。この期間中、あなたはまだ「在籍している労働者」です。

雇用契約は解雇日まで有効に継続しており、それまでの間は締結時の労働条件がそのまま適用されます。つまり、解雇予告を受けたからといって、会社がその翌日から労働条件を自由に変更できる権限は一切生じません。

解雇予告期間中の法的立場を整理すると、以下のとおりです。

項目 内容
雇用契約の状態 解雇日まで有効に継続中
賃金請求権 契約どおりの賃金を受け取る権利あり
就業規則の適用 解雇予告前の条件がそのまま適用
会社の変更権限 一方的な不利益変更は原則禁止

「解雇を予告された=もう保護されない」は完全な誤解です。予告期間は保護が薄くなる期間ではなく、労働者として同等の権利を持ち続ける期間です。

「待機だから仕事がない=減額してよい」は誤り

会社側がよく持ち出す論理として「在宅待機中は業務を提供していないから賃金を減らしてよい」というものがあります。しかしこの主張は、労働法の基本原則から外れた誤りです。

月給制の賃金は、個々の業務の提供量に応じて支払われるものではなく、雇用契約が継続していること自体を根拠に発生します。「労働を提供しないから給与は支払わない」というノーワーク・ノーペイの原則は、労働者が自らの都合で働かない場合に適用されるものです。

在宅待機は会社側の都合による就労停止です。この場合は逆に、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務が会社に生じます。賃金を減らすどころか、賃金保護が働く場面なのです。

💡 今すぐできるアクション
会社から口頭で「仕事がないから日給制にする」と言われた場合、その場で「書面で説明をいただけますか」と返答し、発言の日時・内容・場所をその場でスマートフォンのメモに記録してください。

月給制→日給制への変更で実際にいくら減るのか(試算例)

日給制への変更がいかに大きな賃金減額をもたらすか、具体的な数字で確認しましょう。

【試算例:月収30万円の労働者の場合】

項目 月給制(変更前) 日給制(変更後)
1か月の所定賃金 300,000円 実働日数×日給
1か月の所定労働日数 20日 20日
1日あたりの単価 15,000円 15,000円
月に祝日2日・有給なし 300,000円 270,000円
月に祝日4日・有給なし 300,000円 240,000円

月給制であれば祝日があっても給与は変わりません。しかし日給制の場合、祝日・休業日が増えるほど受取額が減る仕組みになります。解雇予告期間中に在宅待機を指示されると「出勤すべき日がない」という口実で日給の発生日を絞り込まれ、実質的には月収の20〜40%が削られるケースも珍しくありません。

この変更が「無効」になる法的根拠

労働契約法8条と不利益変更禁止の原則

労働条件の変更に関する大原則は労働契約法第8条に定められています。

労働契約法第8条(労働契約の内容の変更)
「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」

一見すると「合意があれば変更できる」と読めますが、これには重要な限定があります。同法第9条・第10条は、就業規則の不利益変更を原則禁止しており、変更が有効となるには「合理的な理由」と「労働者への周知」の両方が必要とされています。

さらに、解雇予告期間中という特殊な状況においては、労働者は圧倒的な心理的・経済的弱者の立場に置かれています。このような状況下での「合意」は、自由な意思に基づかない可能性が高く、裁判例においても強迫・錯誤を理由とした取り消しが認められたケースがあります。

賃金全額払い原則と一方的変更の違法性

労働基準法第24条(賃金の全額払いの原則)は、使用者が労働者の同意なく賃金を減額することを明確に禁止しています。

月給制から日給制への変更は、形式上は「給与体系の変更」に見えますが、実態は月収の減額です。このような変更は次の2つの観点から違法となります。

① 強行法規違反
労働基準法の賃金保護規定は強行法規です。強行法規とは、当事者間の合意があっても排除できない法律上の命令です。仮に労働者が「わかりました」と口頭で同意していたとしても、強行法規に反する内容の合意は法律上の効力を持ちません。

② 解雇を背景とした同意の無効
解雇予告という状況下で「変更に同意しなければ解雇を即時執行する」という暗黙の圧力がある場合、その同意は強迫による意思表示(民法第96条)として取り消せる可能性があります。

就業規則を変更したと言われた場合の反論

「就業規則を変更したから適法だ」と会社が主張してきた場合の反論を準備しておきましょう。

労働契約法第10条は、就業規則の変更が個々の労働者に不利益をもたらす場合、その変更が有効となるためには以下の要件すべてを満たす必要があると定めています。

  1. 変更に合理的な理由があること
  2. 変更内容が労働者に周知されていること
  3. 変更の必要性・内容の相当性・労使交渉の経緯などを総合的に判断して合理的であること

解雇予告期間中の日給制変更について、これらの要件が満たされることはほぼありません。特定の労働者(あなた)だけを標的にした就業規則変更は、実質的に個別の労働条件変更であり、就業規則変更の外形を借りた脱法行為として無効とされます。

💡 今すぐできるアクション
就業規則の最新版を会社に請求してください(労働者には閲覧・交付を求める権利があります)。変更日付、変更前後の給与規定のページを撮影・保存し、変更通知の有無を確認してください。

証拠収集:今日から始める記録化の手順

解雇予告期間中に収集すべき証拠リスト

証拠は「変更を告げられたその日」から収集を始めてください。時間が経てば経つほど、会社側は証拠を隠蔽・廃棄する可能性があります。

【第1優先:当日中に確保すべき証拠】

□ メール・チャット(Slack、Teams等)のスクリーンショットをPDF化
□ 「日給制への変更」を告げるLINEやSMSの保存
□ 変更前の給与明細(直近3〜6か月分)の写真撮影・スキャン
□ 雇用契約書または労働条件通知書のコピー取得
□ 口頭での指示があった場合:日時・場所・発言内容・同席者をメモ化

【第2優先:1週間以内に確保すべき証拠】

□ 就業規則(特に賃金規定・変更履歴のページ)のコピーまたは写真
□ 出勤簿・タイムカード(変更前後の勤怠記録)のコピー
□ 変更後に支払われた給与明細(日給制で計算された明細)
□ 上司・人事部とのやり取り(議事録・メモ・音声)

【第3優先:書面での質問状送付】

会社に対して以下の内容を書面(内容証明郵便が理想、メールでも可)で質問することで、企業の回答文書を証拠化できます。

件名:解雇予告期間中の労働条件変更に関する確認

下記事項について文書による回答を求めます。

1. 月給制から日給制への変更日はいつか
2. 変更の法的根拠(就業規則の変更条項・変更日を含む)
3. 変更後の月収見込み額
4. 在宅待機期間中の出勤扱いの日数

以上の回答を○月○日までに書面でご提供ください。

この質問状に対する会社の回答(あるいは無回答)そのものが、後の申告・交渉で強力な証拠になります。

差分計算のための数字を正確に記録する

差分請求を行うには、「本来受け取るべき金額」と「実際に受け取った金額」の差を正確に計算する必要があります。以下の数字を記録してください。

記録すべき項目 確認先
変更前の月額基本給 雇用契約書・給与明細
変更前の所定労働日数・時間 就業規則・労働条件通知書
変更後に実際に支払われた金額 変更後の給与明細
在宅待機期間の日数 カレンダー・日誌
変更後の日給単価と計算根拠 会社からの通知・明細

差分賃金の計算方法と請求額の算出

月給制と日給制の差額を正確に算出する方法

差分計算のステップを順番に解説します。

ステップ1:本来受け取るべき金額を確認する

月給制での契約であれば、在宅待機中も含めて月額基本給が全額支払われるべきです。ただし、在宅待機が「使用者都合の休業」に該当する場合は、少なくとも平均賃金の60%(休業手当)を受け取る権利があります(労働基準法第26条)。

【本来受け取るべき金額の計算】

① 月給制を維持した場合:月額基本給+諸手当
② 最低限の法的保護:平均賃金×60%×休業日数
   (平均賃金=直近3か月の賃金総額÷その期間の総暦日数)

① > ② のため、①を基準に請求する

ステップ2:実際に支払われた金額を確認する

変更後の給与明細から、実際に支払われた合計金額を確認します。

ステップ3:差額を計算する

【差分請求額の計算式】

差分請求額 = 本来受け取るべき月収 − 実際に支払われた月収

例:月給30万円の労働者が、日給制変更後に22万円しか受け取れなかった場合
差分 = 300,000円 − 220,000円 = 80,000円/月

解雇予告期間が2か月の場合:
総差分 = 80,000円 × 2か月 = 160,000円

ステップ4:遅延損害金も加算して請求する

未払い賃金には年利3%(民法第404条の法定利率)の遅延損害金が発生します(退職後は年利14.6%に増加、賃金の支払確保等に関する法律第6条)。長期化するほど会社の不利になるため、交渉では必ずこの点を指摘してください。

休業手当との関係を整理する

在宅待機中の給与請求については、以下の優先順位で考えます。

  1. 月給制維持を求める(最優先):変更は無効のため、月額全額を請求
  2. 月給が認められない場合の最低ライン:休業手当(平均賃金の60%以上)を請求
  3. どちらも拒否された場合:労働基準監督署への申告へ移行

💡 今すぐできるアクション
直近6か月分の給与明細を手元に揃え、月ごとの支給額・控除額・手取り額を一覧表にまとめてください。この記録が差分計算の根拠資料になります。

変更無効化・差分請求のための申告手順

労働基準監督署への申告

申告先:所轄の労働基準監督署(会社の所在地を管轄するもの)

労働基準監督署(労基署)は、労働基準法違反を調査・是正指導する国の機関です。費用は一切かかりません。

申告の手順

  1. 事前準備:証拠書類一式(給与明細・契約書・メモ・就業規則)を揃える
  2. 申告書の作成:窓口で「申告したい」と伝えると申告書の書式を渡してもらえる
  3. 申告内容の説明:時系列で事実を説明(メモを見ながらでOK)
  4. 調査・是正指導:監督官が会社へ調査に入り、法違反があれば是正指導

申告書に記載すべき主な内容

① 申告者の氏名・住所・連絡先
② 会社名・所在地・代表者名
③ 違反事実の具体的内容(日時・経緯・金額)
④ 根拠法令(労働基準法第24条・第26条等)
⑤ 求める対応(差分賃金の支払い)
⑥ 添付証拠の一覧

申告後は匿名性が保護されます(労働基準法第104条第2項)。申告を理由とした解雇は別途「不利益取り扱い」として違法になります。

労働局のあっせん制度の活用

労基署への申告と並行して、都道府県労働局の「個別労働紛争解決制度(あっせん)」の利用も有効です。

あっせんは、労使双方の間に第三者(あっせん委員)が入り、話し合いによる解決を促す行政サービスです。

項目 内容
費用 無料
期間 申請から1〜2か月程度
拘束力 なし(合意すれば解決)
メリット 裁判より迅速・低コスト
申請先 各都道府県労働局の総合労働相談コーナー

あっせんを申請すると会社側にも出席が求められますが、会社があっせんを拒否した場合は次の手段(裁判等)への移行が現実的になります。

内容証明郵便による差分賃金請求書の送付

申告と並行して、会社宛に内容証明郵便で差分賃金の請求書を送付することを強くお勧めします。理由は以下の3つです。

  1. 請求の意思と日付を法的に証明できる
  2. 時効の中断(未払い賃金の消滅時効は3年:労働基準法第115条)
  3. 会社に対するプレッシャーとして機能する

内容証明に記載する基本事項

件名:未払い賃金の請求について

私は○年○月○日に解雇予告を受け、同日より在宅待機を命じられました。
同日付で月給制から日給制への変更を一方的に通告されましたが、
この変更は労働契約法第8条・労働基準法第24条に違反し無効です。

つきましては、差分賃金として以下の金額を請求します。

・請求金額:金○○万円(○年○月○日〜○年○月○日分)
・支払期限:本書到達後14日以内
・支払方法:振込

上記期限内に支払いがない場合は、労働基準監督署への申告および
法的手続きを取ることをここに通知します。

💡 今すぐできるアクション
最寄りの労働基準監督署の電話番号を今すぐ検索し、「相談したいことがある」と電話するだけで、担当者が手続きを案内してくれます。事前予約なしで窓口相談も可能です。

弁護士・専門家への相談が必要なケース

労基署・あっせんだけでは解決しない場面

以下のケースに該当する場合は、早期に弁護士への相談をお勧めします。

  • 差分賃金の総額が50万円を超える
  • 会社があっせんを拒否・無視した
  • 不当解雇と給与変更が重なって複合的な問題になっている
  • 会社が「同意した証拠がある」として対抗してきた
  • 解雇無効の訴えも並行して検討している

費用を抑えて専門家に相談する方法

相談先 特徴 費用
法テラス(日本司法支援センター) 収入要件を満たせば無料法律相談・弁護士費用立替制度あり 相談は無料(要件あり)
弁護士会の労働相談 各都道府県弁護士会が運営 30分5,500円前後
社会保険労務士(SR) 未払い賃金請求・申告代行に対応 事務所による
労働組合(ユニオン) 合同労組に加入することで団体交渉が可能 月会費1,000〜2,000円程度

労働審判(簡易な裁判手続き)も、弁護士費用と時間を抑えながら差分賃金を回収できる有力な手段です。原則3回の期日で終結するため、通常訴訟よりも大幅に短期間で解決できます。

よくある質問

Q1. 解雇予告後に「自分から退職届を書いてほしい」と言われました。書いてしまったら請求できなくなりますか?

書いてしまっても、状況によって取り消せる可能性があります。解雇を予告された状況での「退職届への署名」は、心理的強迫下での意思表示として強迫による取り消し(民法第96条)を主張できるケースがあります。署名してしまった場合でも、速やかに弁護士または労働局に相談してください。なお、退職届を書くよう求められた時点で、すでに会社側の不当な意図がある可能性がありますので、会社の求めには慎重に対応してください。

Q2. 変更に「口頭で同意した」と会社が言い張っています。どうすればよいですか?

口頭での同意は、録音や目撃者がなければ「言った・言わない」の水掛け論になりやすいですが、強行法規(労働基準法)に反する同意はそもそも法的効力を持ちません。月給制から日給制への不利益変更に対する同意は、強行法規違反のため無効です。会社が「同意した」と主張してきた場合は、「強行法規違反の同意であるため無効である」と明確に反論し、労基署や弁護士に相談してください。

Q3. 解雇予告期間が30日に満たない場合、どうなりますか?

労働基準法第20条は、解雇する場合は少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の解雇予告手当を支払うよう義務づけています。予告期間が30日に満たない場合は、不足する日数分の平均賃金が解雇予告手当として支払われなければなりません。予告期間中の給与減額問題と解雇予告手当不足の問題は、同時に請求することが可能です。

Q4. 未払い賃金にはいつまで請求できますか?

未払い賃金の消滅時効は3年です(労働基準法第115条。2020年4月以降に発生した賃金から適用)。ただし、内容証明郵便での請求・労基署への申告・裁判上の請求等を行うことで時効の進行を止める(完成猶予)ことができます。時効を確実に中断させるためにも、早めの行動が重要です。

Q5. 在宅待機を命じられ、一切出勤していない期間の給与は請求できますか?

請求できます。在宅待機は会社都合による就労停止であるため、労働基準法第26条の休業手当(平均賃金の60%以上)の支払い義務が会社に生じます。月給制を維持している場合はさらに手厚く、月額全額を請求できます。「働いていないから給与は不要」という会社の主張は法的根拠を欠いており、認められません。

チェックリスト:今日から動くための行動計画

状況を整理し、今日から取るべき行動を優先順位順にまとめます。

【今日中にやること】
– [ ] 給与変更の通知(メール・LINE・書面)をスクリーンショットで保存する
– [ ] 変更前3〜6か月分の給与明細を手元に確保する
– [ ] 雇用契約書・労働条件通知書の有無を確認しコピーする
– [ ] 口頭で告げられた内容を日時・場所・発言内容・同席者とともにメモする

【今週中にやること】
– [ ] 就業規則のコピーを会社に請求する
– [ ] 差分賃金の試算を行い、請求金額を算出する
– [ ] 会社に書面での変更理由・根拠の説明を要求する
– [ ] 最寄りの労働基準監督署に電話相談する

【来週以降にやること】
– [ ] 労働局あっせんの申請を検討・手続きする
– [ ] 差分賃金請求の内容証明郵便を送付する
– [ ] 弁護士・法テラスへの相談を予約する
– [ ] 証拠書類一式をファイルにまとめて整理する

まとめ:解雇予告中の不利益変更は「諦める必要がない」

解雇予告期間中に日給制へ変更された場合の対応を整理すると、次のとおりです。

  1. 変更は無効:労働契約法第8条・労働基準法第24条に基づき、一方的な不利益変更は法的効力を持たない
  2. 差分賃金は請求できる:月給制で支払われるべき金額と実際の支払額の差額は、未払い賃金として請求可能
  3. 休業手当は最低限の保護:仮に月給制が認められなくても、平均賃金の60%の休業手当を受け取る権利がある
  4. 申告先は労基署・労働局:無料で相談・申告できる公的機関が複数存在する
  5. 時効は3年だが早めが有利:証拠保全と内容証明郵便を早期に対処することで交渉を有利に進められる

「解雇予告を受けたのだから仕方ない」という諦めは不要です。解雇が確定していても、解雇日までは正当な賃金を受け取る権利が完全に保護されています。まず今日、給与明細と雇用契約書を手元に揃え、最寄りの労働基準監督署に電話することから始めてください。


本記事は情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスを構成するものではありません。具体的な対応については、労働基準監督署・法テラス・弁護士等の専門家にご相談ください。

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