パワハラで「給与払えない」は脅迫罪?給与支払義務と対処法

パワハラで「給与払えない」は脅迫罪?給与支払義務と対処法 パワーハラスメント

「体調が悪いなら給与は払えない」「このままじゃ給与を出せない」——上司にそう言われた経験はありませんか?この記事では、そのような発言が脅迫罪・パワーハラスメント・労働基準法違反に該当するかどうかを法的根拠とともに解説します。あわせて、今すぐ動ける証拠収集の手順・労基署への申告方法・刑事告訴の流れを順番に説明します。一人で抱え込まず、正しい手順で動くことが解決への第一歩です。


「給与払えない」発言はパワハラ・脅迫罪になるか?

脅迫罪(刑法222条)の成立要件と本件への当てはめ

まず前提として、「脅迫罪」とは刑法222条に定められた犯罪です。条文の柱となるのは「害悪の告知」——つまり「相手が恐怖を覚えるような不利益を通知する行為」です。

脅迫罪が成立するためには、以下の4要件が揃う必要があります。

要件 内容
① 害悪の告知 相手に不利益が生じることを伝える
② 生命・身体・自由・名誉・財産への危害 本人またはその親族に対するもの
③ 相手方が恐怖を覚える現実的な危険性 客観的に見て恐怖を感じさせるもの
④ 故意(わかっていてやった) 害悪を告知する意図があること

「給与を払えない」という発言は、財産への危害の告知に該当し得ます。最高裁昭和29年7月20日判決は、脅迫の対象は生命・身体への危害に限定されず、経済的利益も含まれると判断しています。体調不良という本人にとって避けられない状況を盾に「給与を出さない」と告げる行為は、財産上の不利益を告知する害悪の告知として脅迫罪の構成要件を充たす可能性があります。

また、上司と部下という支配・従属関係が存在する職場環境では、同じ発言でも部下が受ける恐怖・圧力は一般より著しく大きくなります。この点も法的評価において重要な考慮要素です。

今すぐできるアクション①
上司から「給与を払えない」と言われた場面を、日時・場所・発言内容・同席者の有無とともにメモ帳やスマートフォンのメモアプリに記録してください。記憶が鮮明なうちの記録が証拠として最も有効です。


パワーハラスメントとしての法的位置づけ

上司の「給与払えない」発言は、脅迫罪に加えて職場パワーハラスメント(パワハラ)にも該当します。

パワハラは労働施策総合推進法(パワハラ防止法)30条の2に基づき、事業主に防止措置義務が課せられています。厚生労働省が定めるパワハラの3要素はすべて本件に当てはまります。

  • 優位的地位に基づく言動:上司という職位を利用している
  • 業務の適正範囲を超えている:給与支払義務の放棄を示唆することは業務指示の範囲外
  • 労働者の就業環境を害する:体調不良の部下に対して経済的脅威を与え、精神的苦痛を増大させる

さらに労働契約法5条は、使用者に「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をする」安全配慮義務を課しています。体調不良の部下に対して脅迫的発言を行うことは、この義務に真っ向から違反します。

今すぐできるアクション②
会社のハラスメント相談窓口(設置義務あり)に相談したい場合は、口頭ではなくメールや書面で行い、送信・提出記録を手元に残してください。「言った・言わない」を防ぐために記録の残る手段を選ぶことが重要です。


体調不良でも給与支払義務は消えない——法的根拠を徹底解説

労働基準法24条「全額払いの原則」とは

労働基準法24条は、賃金は①毎月1回以上、②一定期日に、③通貨で、④直接労働者に、⑤全額を支払わなければならないと定めています(全額払いの原則)。

使用者が合法的に給与を控除・減額できるのは、以下の場合に限られます。

  • 法令に定める控除(社会保険料・所得税・住民税など)
  • 労使協定に基づく控除(財形貯蓄・組合費など)
  • 懲戒処分としての減給(ただし上限あり:1回の額が平均賃金1日分の半額以下、総額が月給の10分の1以下)

「体調不良だから給与を払わない」は、これらのどれにも該当しません。上司の一方的な発言による給与カットは、全額払いの原則に反する労基法24条違反です。


体調不良と民法536条——使用者責任の所在

体調不良で労働が提供できない場合の給与支払義務については、民法536条が基本的な考え方を示しています。

状況 給与支払義務 根拠
労働者の責に帰さない事由による労働不能 支払義務あり 民法536条2項
使用者の安全配慮義務違反(過労・ハラスメント)で発症 支払義務あり(かつ損害賠償も) 労働契約法5条・民法415条
使用者の責に帰さない事由(感染症等)による休業 義務なしだが休業手当(6割)が必要 労基法26条
脅迫を用いて給与を支払わない 支払義務あり+脅迫罪 労基法24条・刑法222条

特に注意が必要なのは、上司・会社側のパワハラが原因で体調不良が生じた場合です。使用者側の安全配慮義務違反が原因で労働者が休業せざるを得なくなったときは、給与支払義務が維持されるだけでなく、損害賠償請求(慰謝料を含む)の根拠にもなります。

今すぐできるアクション③
体調不良が仕事のストレスやパワハラに起因すると感じる場合、必ず医療機関を受診し、「業務上の精神的負荷が原因」と診断書に記載してもらえるか主治医に相談してください。この診断書が給与請求・損害賠償・労災申請のすべての基礎証拠になります。


今すぐ動く!証拠収集の具体的手順

証拠収集はスピードが命です。発言から時間が経つほど記憶が薄れ、関係者が証言を変えるリスクが高まります。以下の手順を今日から実行してください。

録音・記録の取り方

録音は証拠収集の中で最も強力な手段です。日本では、会話の当事者が録音する行為は違法ではありません(相手方の同意は不要)。ただし第三者が無断で行う盗聴は電気通信事業法等に抵触する場合があるため、自分が当事者として参加している会話の録音に限定してください。

  • スマートフォンのボイスレコーダーアプリを常時起動しておく
  • 上司と1対1になる可能性がある場面(面談・呼び出し・電話)では必ず録音
  • 録音データはクラウドストレージ(Google Drive・iCloudなど)にバックアップし、端末の紛失・破損に備える

記録(ハラスメント日誌)は、録音できなかった場面を補う証拠です。

  • 日時・場所(○○会議室、職場のデスク横など具体的に)
  • 発言の内容(できる限りそのままの言葉で)
  • 自分の体の状態・感情(震え・泣きそうになった・恐怖を感じたなど)
  • 同席者の有無と氏名
  • 発言後の自分の行動(その場で何も言えなかった、など)

書面・デジタル証拠の保全方法

口頭の発言以外に、以下の証拠も見落とさず収集・保全してください。

証拠の種類 具体例 保全方法
メール・チャット 「給与支払えない」を示唆する文面 スクリーンショット+印刷保存
給与明細 不当な控除・減額の記録 毎月保管(デジタル・紙両方)
就業規則 会社のルールの確認 会社のイントラ等からコピー
診断書・通院記録 体調不良・精神疾患の証明 原本保管+コピー複数枚
出退勤記録 過重労働・有給取得状況 タイムカードのコピー・スクショ
同僚の証言 発言を聞いていた人の証言 書面で証言をもらうか録音

今すぐできるアクション④
上司との過去のメール・LINEやSlackなどのチャット履歴を今すぐスクリーンショットしてください。アカウント停止・退職後はアクセスできなくなるケースがあります。会社支給端末のデータは退職前に確保することが特に重要です。


労働基準監督署への申告手順

申告できる違反と手続きの流れ

労働基準監督署(労基署)は、労基法違反(給与未払い・違法な減給)の申告窓口です。脅迫罪そのものは刑事告訴の対象ですが、給与不払いは労基署が直接動ける領域です。

申告できる主な内容:
– 給与未払い・不当な減額(労基法24条違反)
– 違法な懲戒減給(法定上限を超えた減給)
– 安全配慮義務違反による健康被害(労働安全衛生法・労働契約法5条)

申告の手順:

  1. 管轄の労基署を確認する
    勤務先の所在地を管轄する労基署に申告します。厚生労働省ウェブサイトの「労働基準監督署の所在地」から検索可能です。

  2. 申告書を作成する
    申告書には、使用者名・違反内容・発生日時・証拠の概要を記載します。窓口でも様式をもらえますが、事前に整理しておくとスムーズです。

  3. 証拠を持参して窓口へ
    録音データ(USBや印刷物)・給与明細・診断書・ハラスメント日誌を持参します。

  4. 申告後の流れを確認する
    労基署は申告を受けると調査を行い、違反が確認されれば使用者に是正勧告を出します。申告人の氏名は原則非公開ですが、申告者保護についても担当者に確認してください。

今すぐできるアクション⑤
「労働条件相談ほっとライン(0120-811-610)」は無料で利用でき、夜間(17時〜22時)・土日祝日も対応しています。匿名で相談できるため、まず現状を話して方針を整理するのに最適です。


刑事告訴の方法——脅迫罪で警察に告訴するには

告訴状の書き方と提出先

脅迫罪(刑法222条)での告訴を行う場合、告訴状を作成し、勤務先の所在地を管轄する警察署に提出します。

告訴状に盛り込むべき必須項目は以下のとおりです。

【告訴状の基本構成】

1. 宛先:○○警察署長 殿
2. 告訴人:住所・氏名・生年月日・連絡先
3. 被告訴人:上司の氏名・勤務先・役職
4. 告訴の趣旨
   (例:被告訴人を脅迫罪で告訴します)
5. 告訴事実(5W1H で具体的に)
   ・いつ(日時)
   ・どこで(場所)
   ・何を言ったか(発言内容をそのまま)
   ・どのような状況で(前後の文脈)
   ・なぜ恐怖を感じたか(具体的に)
6. 証拠の表示(録音データ・日誌等)
7. 告訴年月日・告訴人署名押印

告訴状の提出時の注意点:

  • 告訴状は2部作成し、1部は受付印を押してもらい手元に残す
  • 警察が受理を渋る場合は「告訴状を受け取ってもらえませんか」と明示し、拒否する場合はその理由を書面で求める
  • 受理されない場合は検察庁への告発(第三者による申告)弁護士への相談を検討する

今すぐできるアクション⑥
告訴状の作成は弁護士に依頼すると確実ですが、法テラス(0570-078374)では弁護士費用の立替制度(審査あり)を利用できます。収入が一定以下の場合は無料法律相談(面談)も可能です。


給与を守るための法的手段——未払い請求の進め方

内容証明郵便による給与支払請求

労基署への申告と並行して、内容証明郵便で給与支払いを請求することも有効です。内容証明郵便は郵便局が文書の内容・送付日・送付先を証明するもので、「請求した証拠」として機能します。

内容証明に記載すべき内容:

  • 未払い期間・未払い金額の明示
  • 支払期限(通常は7〜14日以内)
  • 「期限内に支払いがない場合は法的手続きを取る」旨の通知
  • 根拠法令(労基法24条)の明記

労働審判・民事訴訟による回収

内容証明を送っても支払われない場合は、より強力な法的手段に移行します。

手続き 特徴 期間の目安
労働審判 裁判所が調停・審判を行う迅速な制度 申立てから3ヶ月程度
少額訴訟 60万円以下の請求に使える簡易訴訟 1回の期日で完結が多い
通常訴訟 金額が大きい・複雑な事案向け 半年〜1年以上
仮処分(賃金仮払い) 生活に困窮している場合の緊急措置 数週間〜1ヶ月程度

体調不良がパワハラに起因する場合、給与請求に加えて慰謝料(精神的損害賠償)も同時に請求できます。使用者責任(民法715条)に基づき、会社そのものを訴える対象とすることも可能です。

今すぐできるアクション⑦
未払い給与の証拠として、給与明細・銀行口座への振込記録・雇用契約書を今すぐ手元に集めてください。「いくら払われるべきだったか」を証明する書類が未払い請求の核心です。


相談窓口一覧——一人で抱え込まないために

問題に直面したとき、自分一人で判断・行動しようとすると精神的・法的な判断ミスにつながります。以下の窓口を積極的に活用してください。

相談先 電話番号 対応内容 費用
労働条件相談ほっとライン 0120-811-610 給与・労働条件全般 無料
総合労働相談コーナー(各都道府県労働局) 都道府県別 パワハラ・あっせん 無料
法テラス(日本司法支援センター) 0570-078374 弁護士紹介・費用立替 要審査
労働組合(ユニオン) 地域ごとに異なる 団体交渉・代理交渉 組合費のみ
都道府県労働委員会 都道府県別 あっせん・和解 無料
警察署(告訴窓口) 110番または直接来署 脅迫罪の告訴受付 無料

総合労働相談コーナーは全国の都道府県労働局・労働基準監督署・ハローワーク内に設置されており、予約不要で相談できます。パワハラ問題については、労働局の「個別労働紛争解決制度」を利用したあっせん(双方の話し合いによる解決)を申請することも可能です。


やってはいけないNG行動

証拠を集めて申告・告訴に動く前に、以下の行動が状況を悪化させることを覚えておいてください。

  • 自分で給与を天引きする・口座から引き出す:横領と誤解される可能性があります
  • SNSに実名・会社名を晒す:名誉毀損・プライバシー侵害で逆に訴えられるリスクがあります
  • 感情的に上司と口論する:録音されると自分の発言が不利な証拠になる場合があります
  • 会社の了解なく就業規則・社内文書を大量に持ち出す:業務上横領・不正競争と見なされる場合があります
  • 医療機関の受診を後回しにする:体調不良の証拠が残らず、損害賠償請求が困難になります
  • 相談・申告を「もう少し様子を見てから」と先延ばしにする:未払い給与の請求権には3年の時効(労基法115条)があります

よくある質問(FAQ)

Q1. 「給与払えない」と言われましたが実際には未払いはまだ発生していません。それでも告訴できますか?

はい、脅迫罪は「実際に害悪が加えられたこと」ではなく「害悪を告知したこと」で成立します。つまり給与が実際にカットされる前でも、「払えない」という発言自体が脅迫罪の構成要件を充たす可能性があります。ただし告訴の判断は個別の発言内容・状況によるため、弁護士か警察の告訴相談窓口に録音・日誌を持参して確認することをお勧めします。

Q2. 上司ではなく会社(法人)を訴えることはできますか?

できます。会社は上司のパワハラ行為について使用者責任(民法715条)を負います。また、パワハラ防止措置義務(労働施策総合推進法30条の2)に基づく会社の法的義務違反を根拠に、法人を被告とした損害賠償請求訴訟を提起することが可能です。

Q3. 体調不良の原因がパワハラかどうか証明できるか不安です。

証明のためには医療機関の診断書が最も重要です。主治医に職場環境・ストレス状況を詳しく伝え、診断書に「業務上の精神的負荷との関連が疑われる」旨を記載してもらうよう相談してください。また、労働基準監督署を通じた労働災害(精神障害)の認定申請も可能で、認定されれば業務起因性が公的に認められます。

Q4. 録音を証拠として法的手続きで使えますか?

会話の当事者による録音は証拠として法的手続き(裁判・労働審判など)で使用できます。民事訴訟法上、証拠能力自体は否定されません。ただし、録音の信頼性(編集がないか、前後の文脈を含んでいるか)が問われる場合があるため、会話全体を録音し、不連続な編集をしないことが重要です。

Q5. 相談したら会社に報復されそうで怖いです。

パワハラ防止法は、相談・申告を理由とした不利益取扱いを明確に禁止しています(労働施策総合推進法30条の2第2項)。解雇・降格・減給などの報復行為は違法であり、それ自体が新たな法的手続きの根拠となります。相談・申告前後に身の回りの変化を記録しておき、報復が疑われる場合はすぐに労働局・弁護士に相談してください。


まとめ——今日から動くための5つのポイント

この記事で解説した内容を整理します。

  1. 「給与払えない」発言は脅迫罪(刑法222条)の成立可能性がある——財産への害悪告知として構成要件を充たし得る
  2. 体調不良でも給与支払義務は原則として消えない——労基法24条の全額払い原則と民法536条2項が根拠
  3. 証拠収集は今日から——録音・ハラスメント日誌・給与明細・診断書を組み合わせる
  4. 労基署への申告と警察への告訴は並行して動ける——給与未払いは労基署、脅迫罪は警察・検察
  5. 一人で判断しない——法テラス・ユニオン・総合労働相談コーナーを積極活用する

体調が悪い中で問題に向き合うことは本当につらいことです。しかし、あなたには法律で守られた権利があります。「給与払えない」という発言は、法的に許されない行為です。記録を残し、専門家の力を借りながら、一歩ずつ動いてください。

法テラス(0570-078374)労働条件相談ほっとライン(0120-811-610)など、無料の相談窓口が24時間体制で動いています。一人で判断せず、今すぐ相談することをお勧めします。


免責事項: 本記事は一般的な法律知識の提供を目的としており、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な判断・手続きについては弁護士または各専門機関に相談してください。

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