「明日から来るな」——突然メッセージで送りつけられた一方的な就業禁止。「これって解雇?」「給料はもらえるの?」と頭が真っ白になっている方へ。その指示、法的に無効である可能性が高く、給与請求もできます。この記事では違法性の判断基準から、今すぐやるべき証拠保全・給与請求・内容証明の書き方・労基署への申告手順まで、実務レベルで解説します。
「明日から来るな」は違法か?まず法的な位置づけを確認する
その指示は「解雇」「懲戒」「自宅待機」のどれか
上司から「明日から来るな」と言われた場合、法的にはいくつかの可能性が考えられます。どれに該当するかによって、あなたが取れる対応が変わってくるため、まず正確に整理することが重要です。
| 指示の実態 | 法的性質 | 違法リスク |
|---|---|---|
| 雇用関係を終わらせる意図がある | 解雇(労働基準法第20条) | 解雇予告・30日分の予告手当なしは即違法 |
| 懲戒処分として出社を禁じる | 懲戒処分(労働契約法第15条) | 就業規則の根拠・手続きなしは権利濫用で無効 |
| 調査期間中などとして一時的に禁じる | 自宅待機命令(民法第536条第2項) | 会社都合の場合は賃金の全額支払い義務あり |
「明日から来るな」というメッセージ一文だけで出された指示は、そのどれであっても、単独では法的に有効な処分にはなりません。理由は以下のとおりです。
一方的な就業禁止が違法になる法的根拠
懲戒権の濫用禁止(労働契約法第15条)
労働契約法第15条は、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と定めています。
メッセージ一本で理由も手続きも示さずに就業を禁じることは、客観的な合理的理由を欠き、社会通念上相当とは到底言えないため、懲戒権の濫用として無効となります。
解雇の要件違反(労働基準法第20条)
仮にその指示が解雇であるとしても、労働基準法第20条は「少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならない」と定めています。「明日から来るな」は予告期間ゼロであり、予告手当の支払いもない場合はこの条文に直接違反します。
パワーハラスメント防止義務違反(労働施策総合推進法第30条の2)
上司が職場における優越的な地位を利用して、業務上の必要性や相当性のない形で部下に精神的・職業的苦痛を与える行為は、パワーハラスメントに該当します。一方的な就業禁止命令はその典型例であり、会社にはハラスメントを防止する法的義務があります。2022年4月から、中小企業を含めすべての企業にパワーハラスメント防止措置が義務化されています。
不法行為による損害賠償(民法第709条)
上司個人の行為によって精神的損害を受けた場合、不法行為として慰謝料を請求できます。会社も使用者責任(民法第715条)を問われる可能性があります。
「就業禁止中も給与はもらえる」は本当か
結論から言えば、会社都合による就業禁止であれば、賃金の全額を請求できます。
民法第536条第2項は「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由によって債務(労働)を履行できなかった場合、債務者(労働者)は反対給付(賃金)を請求できる」と定めています。また、労働基準法第26条は使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、平均賃金の60%以上の休業手当の支払いを義務付けています。
あなたが「会社に行けない」のは自分の意思ではなく、上司の指示によるものです。この場合、賃金の請求権は消滅しません。むしろ、給与支払いの法的義務は強化されます。
今すぐやること:24時間以内の証拠保全手順
なぜ証拠保全が最優先なのか
後から「そんな指示はしていない」「あれは冗談だった」と言い逃れされるケースは珍しくありません。証拠がなければ労基署への申告も、弁護士への相談も、すべてが不利になります。メッセージを受け取ったその日のうちに、以下の手順を完了させてください。
スクリーンショットの正しい保存手順
【スクリーンショット保存チェックリスト】
☑ 送信者名(上司の名前・アカウント名)が見える状態で撮影
☑ 送信日時が明確に確認できる状態で撮影
☑ メッセージの全文が収まるように複数枚に分けて撮影
☑ スマートフォンの画面であれば端末の日付・時刻も映り込ませる
☑ 撮影後すぐにクラウドストレージ(Google Drive・iCloud等)に自動バックアップ
☑ USBドライブや自宅のパソコンにも別途コピー
☑ メール形式の場合はPDF化して保存(「印刷→PDFとして保存」で可)
重要:削除されるリスクがあるグループチャットや共有ツールのメッセージは特に急いで保存してください。
被害日誌を今日から書き始める
日誌は法的手続きにおける重要な証拠となります。記録様式は以下を参考にしてください。
【被害日誌の記録様式】
日時:2025年○月△日(○曜日)午後2時30分
場所:(対面の場合)○○会社 △△フロア / (メッセージの場合)LINEグループ「営業チーム」
行為者:上司 ○○部長(氏名・役職)
内容:「明日から来るな」とLINEで一方的に就業禁止を命じられた。
理由の説明は一切なかった。
目撃者:同僚 △△さん(同じLINEグループに参加)
自分の状態:強い不安と動揺を感じた。眠れなかった。
記録は手書きとデジタル双方で残しておくと信頼性が増します。手書き日誌は日付ごとのページを崩さずに保管してください。
関連する過去のハラスメント証拠も集める
今回の就業禁止が突然に見えても、実際には日常的なハラスメントの延長であることがほとんどです。以下のものも合わせて保全してください。
- 上司からの過去のメッセージ・メール(理不尽な指示、暴言、侮辱的な発言)
- 他の同僚への指示内容との比較が分かる資料
- 自分だけが不当に扱われていた証拠(シフト、業務分担表など)
- 医療機関を受診した場合の診断書・領収書
給与を請求するための具体的手順
給与請求の根拠を整理する
就業禁止期間中の給与請求には、法的に2つのルートがあります。
ルート①:民法第536条第2項(全額請求)
会社の責めに帰すべき事由による就業不能であるため、賃金全額を請求できます。この場合、あなたは「働く意思と能力があったが、会社(上司)の指示で働けなかった」という事実を示すことが重要です。
ルート②:労働基準法第26条(休業手当・60%以上)
使用者の責に帰すべき休業として、平均賃金の60%以上の休業手当を請求できます。全額請求が認められない場合でもこのルートで一部請求が可能です。
内容証明郵便で会社に給与支払いを請求する
内容証明郵便は「いつ・誰が・どんな内容を送ったか」を郵便局が証明する郵便です。後の法的手続きで「通知した事実」を証明するために不可欠です。
内容証明郵便の書式ルール(郵便局の要件)
- 1行20字以内、1枚26行以内(縦書きの場合)
- 送付用・謄本用(郵便局保管用)・自分の控え用の3通を用意
- 文字は楷書体で書き間違いのないように
- 郵便局の窓口で「内容証明郵便・配達証明付き」として送付
給与請求・就業禁止撤回を求める内容証明の文例
通 知 書
私は、貴社○○部に所属する従業員○○(以下「申出人」といいます)です。
2025年○月△日、上司である○○部長より、LINEメッセージにて
「明日から来るな」との一方的な指示を受けました。しかし、当該指示には
就業規則に基づく懲戒処分の通知もなく、解雇予告もなされておらず、
理由の説明も一切ありませんでした。
申出人は、就業の意思と能力を有しており、就業できない理由は
専ら貴社(上司の指示)の事由によるものです。
つきましては、以下の事項を要求いたします。
一、2025年○月△日以降の就業禁止期間中の賃金全額
(民法第536条第2項に基づく)
金額:月額○○円×就業禁止日数÷所定労働日数=○○円
一、上記就業禁止措置の撤回と、正常な就業環境の回復
本書面到達後14日以内にご回答いただけない場合は、
労働基準監督署への申告および法的措置を検討いたします。
2025年○月○日
住所:○○県○○市○○町○番地
氏名:○○○○ 印
宛先:○○株式会社
代表取締役 ○○○○ 殿
内容証明郵便は会社の代表者宛に送るのが基本です。上司個人に送るのではなく、会社(法人)を相手方とすることで、組織全体への正式な通知となります。
労働基準監督署への申告手順
労基署に申告できる内容
労働基準監督署(以下「労基署」)は、労働基準法違反について調査・是正勧告を行う国の機関です。以下の内容を申告できます。
- 解雇予告・解雇予告手当の不払い(労働基準法第20条違反)
- 就業禁止期間中の賃金・休業手当の不払い(労働基準法第26条違反)
- 就業規則の手続きを無視した懲戒処分(同法第89条・第91条違反)
パワーハラスメントそのものは労基署の管轄外ですが、未払い賃金・不当解雇という形での申告は可能です。パワハラの申告窓口については後述します。
申告から解決までの流れ
【労基署申告の流れ】
STEP 1:管轄の労働基準監督署を確認する
→ 会社の所在地を管轄する労基署に申告(自分の自宅ではなく会社所在地)
→ 厚生労働省ウェブサイトで検索可能
STEP 2:申告書類を準備する
→ 申告書(労基署の窓口でもらえる、またはウェブからDL可)
→ 証拠資料一式(スクリーンショット・日誌・給与明細・雇用契約書)
→ 就業規則の写し(会社に開示を求める権利あり)
STEP 3:労基署の窓口に相談・申告する
→ 「申告したい」と明確に伝えることが重要
→ 「相談」扱いでは調査が入らない場合がある
STEP 4:労基署が事業所に対して調査を行う
→ 事業主に対して是正勧告・指導が入る
→ 重大な違反の場合は送検(刑事罰)もあり得る
STEP 5:是正報告・問題解決
→ 賃金支払い・就業禁止の撤回など
申告時に持参するものリスト
【持参物チェックリスト】
☑ 就業禁止メッセージのスクリーンショット(印刷したもの+データ)
☑ 雇用契約書または労働条件通知書
☑ 直近3ヶ月分の給与明細
☑ 就業規則の写し(会社から取得しておく)
☑ 被害日誌(経緯をまとめたもの)
☑ 内容証明郵便の控え(送付済みの場合)
☑ 本人確認書類(運転免許証など)
パワーハラスメントとして申告・相談できる窓口
総合労働相談コーナー(都道府県労働局)
都道府県労働局に設置されている「総合労働相談コーナー」は、パワーハラスメントを含む職場のあらゆる問題についての相談窓口です。
- 相談無料・予約不要(一部予約が必要な場合あり)
- 調停(あっせん)の申請もここから行える
- 全国各地の労働局・ハローワーク内に設置
あっせん制度とは:労働局の調停委員が間に入り、会社と労働者の話し合いを仲介する制度です。費用がかからず、比較的短期間(数ヶ月)で解決できる場合があります。ただし会社が参加を拒否することもある点が課題です。
法テラス(日本司法支援センター)
収入要件を満たす場合、弁護士費用を立て替えてもらえる「民事法律扶助制度」を利用できます。
- 電話番号:0570-078374(平日9時〜21時・土曜9時〜17時)
- 初回無料の弁護士相談を紹介してもらえる
弁護士・社労士への相談
内容証明の送付・労働審判・損害賠償請求は、専門家のサポートがあると格段に有利になります。
- 弁護士会の「労働問題無料相談」を活用する
- 社会保険労務士(社労士)に相談する(労基署への対応支援が得意)
- 成功報酬型の弁護士に依頼する(着手金不要で未払い賃金の一定割合が報酬になる)
未払い賃金の時効と早期行動の重要性
消滅時効は3年
未払い賃金の請求権は発生から3年で消滅します(労働基準法第143条第2項。なお2020年4月以前に発生した賃金は2年)。3年以内であれば、在職中・退職後を問わず請求できます。
ただし、時効の期限が迫っている場合は「時効の中断(更新)」の手続きが必要です。内容証明郵便を送ることで6ヶ月間の時効猶予が生じます(民法第150条)。
請求できる金額の計算例
【未払い賃金の計算例】
月給:250,000円
所定労働日数(月):20日
就業禁止日数:10日
全額請求(民法第536条第2項)の場合:
250,000円 ÷ 20日 × 10日 = 125,000円
休業手当(労働基準法第26条)の場合:
平均賃金(日額)× 60% × 10日
※平均賃金は直近3ヶ月の賃金総額 ÷ 総暦日数で計算
遅延損害金(年3%)も請求できる場合があります。
会社・上司が「そんな指示はしていない」と言い張った場合
言い逃れへの対処
「冗談だった」「そういう意味ではなかった」「一時的な感情的発言だった」——こうした言い逃れに対しては、スクリーンショットという客観的証拠が決定的な力を持ちます。
加えて、以下の事実を記録しておくと有効です。
- 就業禁止命令後、実際に出社しようとした日付と、それを阻止された事実
- 出社の意思表示をメッセージや電話で行い、その記録を保存する
- 同僚や他の上司に「出社してよいか確認した」事実とその記録
出社の意思表示は、必ずメッセージ等の記録が残る形で行ってください。 口頭だけでは「言った・言わない」になります。
労働審判という選択肢
内容証明や労基署申告でも解決しない場合は、労働審判を活用することができます。
- 裁判所(地方裁判所)に申し立てる手続き
- 原則3回以内の期日で解決(平均審理期間は約3ヶ月)
- 弁護士なしでも申立て可能だが、専門家のサポートが推奨される
- 審判に異議がある場合は通常訴訟に移行する
よくある質問(FAQ)
Q1. 上司の指示であっても、会社の命令として扱われますか?
はい。上司が職務権限の範囲内で行った指示は、原則として会社の行為として扱われます。会社は使用者責任(民法第715条)を負い、損害賠償の責任主体となります。ただし、上司の行為が明らかに職務の範囲を逸脱していると判断される場合は、上司個人の不法行為責任(民法第709条)が問われることもあります。
Q2. 就業禁止期間中に転職活動をしても問題ありませんか?
法的には問題ありません。ただし、就業禁止期間中に別の会社で就労した場合、元の会社との賃金請求に影響する可能性があります(中間収入の控除)。この点は弁護士に個別相談することをお勧めします。
Q3. メッセージではなく口頭で言われた場合はどうすればよいですか?
証拠を作ることが最重要です。言われた直後に、記録が残る形(メールや社内チャット)で「先ほど○○部長から明日から来るなと指示を受けましたが、その理由と根拠を教えてください」と確認のメッセージを送ってください。相手の返答がどうであれ、あなたが確認した事実が記録に残ります。また、聞いていた目撃者がいれば名前と連絡先を控えておきましょう。
Q4. 就業禁止を命じた上司を刑事告訴することはできますか?
解雇予告手当の不払いは、労働基準法第120条により「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰の対象です。労基署への申告から送検に至るケースもあります。ただし、パワーハラスメント行為そのものは現時点で直接の刑事罰規定がないため、民事上の損害賠償請求が主な手段となります。
Q5. 会社が中小企業でパワハラ防止法の対象外と言われました。
2022年4月から、中小企業もパワーハラスメント防止措置が義務化されています(労働施策総合推進法第30条の2)。「中小企業は対象外」というのは2022年3月以前の経過措置であり、現在は規模に関係なく義務が適用されます。
Q6. 就業禁止命令から1ヶ月が経過してしまいました。今からでも請求できますか?
できます。未払い賃金の消滅時効は発生から3年(労働基準法第143条第2項)ですので、1ヶ月程度の経過では時効の問題は生じません。ただし、証拠が散逸しないうちに早急に行動することをお勧めします。内容証明郵便を送付し、労基署への申告・弁護士相談を進めてください。
まとめ:今日から動き出すための行動チェックリスト
【今日中に実施する】
☑ 就業禁止メッセージのスクリーンショットをクラウドにバックアップ
☑ 被害日誌を開始する(今日の出来事から記録)
☑ 関連する過去のメッセージ・メールを保存
【今週中に実施する】
☑ 雇用契約書・就業規則・給与明細を手元に準備
☑ 会社代表者宛に内容証明郵便(給与請求・撤回要求)を送付
☑ 就業の意思表示をメッセージで書面化して上司・会社に送付
☑ 総合労働相談コーナーまたは法テラスに電話相談
【必要に応じて実施する】
☑ 管轄の労働基準監督署に申告書を提出
☑ 弁護士・社労士に法律相談(無料相談を活用)
☑ 労働審判の申立てを検討
「明日から来るな」というメッセージは、法的にはほぼ無効な命令です。しかし、あなたが何もしなければ状況は改善しません。まず証拠を保全し、記録を作り、然るべき窓口に申告する——この3ステップが、あなたの権利を守るための最も確実な道です。一人で抱え込まず、専門家や公的機関を積極的に活用してください。
本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な対応については、弁護士・社会保険労務士など専門家へのご相談をお勧めします。

