月給に残業代含むは嘘?金額不足の内訳確認と追加請求の手順

月給に残業代含むは嘘?金額不足の内訳確認と追加請求の手順 未払い残業代

「うちは月給に残業代が全部含まれているから」——そう会社に説明されて、残業が続いても追加の支払いがない。でも、どう計算しても金額が少ない気がする。そんな状況に置かれていませんか?

結論からお伝えします。「月給に含まれている」という説明だけでは、法的に無効になる場合があります。会社がそう言い張っていても、一定の条件を満たしていなければ、未払い残業代として請求できるのです。

実は、最高裁判所も「口頭の説明や契約書の記載があるだけでは足りない。固定残業代として有効とされるには、基本給との区別・時間数の明示・超過分の精算が不可欠」と判示しています。つまり、あなたの感じている「おかしい」には、強固な法的根拠があるのです。

この記事では、今まさにその状況にある方が、内訳を確認し、不足分を取り戻すために必要な手順をステップごとに解説します。


「月給に残業代は含まれている」──その説明、実は違法かもしれません

「月給に残業代は込みです」という会社の説明。一見もっともらしく聞こえますが、労働基準法は、その一言で割増賃金の支払い義務が消えるとは認めていません

会社が使う3つの説明パターンと法的評価

会社が使う「月給に込み」系の説明には、主に3つのパターンがあります。それぞれの合法条件と違法になる境界線を整理します。

会社側の説明 法的な呼称 合法になる条件 違法になるケース
「残業代は月給に込みです」 固定残業代制 金額・対象時間数を書面で明示、超過分は別途支払い 口頭のみ・内訳不明・超過分未払い
「みなし残業で計算しています」 みなし残業制 業務の性質上、労働時間算定が困難な場合のみ適用 一般的なオフィス勤務に適用
「基本給に全部含まれている」 主張のみ 事実上、合法化する方法がない ほぼ全ケース

特に重要なのが「固定残業代制」です。 固定残業代(定額残業代)が有効とされるためには、最高裁判例の基準として、①基本給などと固定残業代部分が明確に区別されていること、②固定残業代が何時間分の残業に相当するかが明示されていること、③実際の残業時間が固定残業時間を超えた場合には差額を支払うこと——この3点が最低限必要です。

口頭で「込みです」と言われただけ、あるいは賃金明細に内訳がないままでは、①の時点でアウトです。

また、固定残業時間を実際の残業時間が超えているのに差額が支払われていない場合も、その超過分については労働基準法第37条に基づく割増賃金の未払いが発生しています。

「含まれている」が無効になる最高裁判例

裁判所は、「月給に残業代が含まれている」という会社の主張を無条件には認めてきませんでした。

テックジャパン事件(最高裁 平成24年3月8日判決) では、基本給の中に時間外労働の割増賃金が含まれるという合意の有効性について争われ、最高裁は「基本給の中から通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外労働等の割増賃金に当たる部分とを判別することができない場合には、その合意は無効」と判示しました。

日本マニュファクチュアリングサービス事件(最高裁 平成17年) でも同様に、内訳の明示なしには固定残業代の合意は有効にならないという判断が示されています。

要するに、「含まれている」と言うだけでは足りず、「何時間分の、いくらの残業代が、月給のどの部分か」が明確でなければ、裁判所はその主張を退けるのです。あなたの感じている「おかしい」は、法的にも根拠があります。


まず自分でできる「金額不足」の確認方法

会社に対して何かアクションを起こす前に、まず「本当に金額が不足しているのか」を自分で計算しておきましょう。これが後の交渉や申告の根拠になります。

正しい残業代の計算式を確認する

残業代の計算式は、労働基準法第37条に基づき、以下のとおりです。

残業代(1時間あたり)= 時間単価 × 割増率

時間単価の計算:
  月給(※)÷ 月平均所定労働時間

割増率:
  法定時間外労働(月60時間以下):× 1.25
  法定時間外労働(月60時間超)  :× 1.50(中小企業は2023年4月から適用)
  法定休日労働                  :× 1.35
  深夜労働(22時〜5時)         :× 1.25(時間外と重なる場合は1.50)

※ここでいう「月給」に含めない手当: 家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

つまり、会社が「月給に含まれている」と言っている固定残業代についても、その金額が本来の計算で出るはずの残業代より少なければ差額を請求できます

3ステップで「不足額」を計算する

ステップ1:実際の残業時間を集計する

過去の出退勤記録(タイムカード、交通系ICカードの履歴、メールの送受信時刻、Slack等のチャットログ、スマートフォンの位置情報など)を使って、直近3か月〜できれば過去2〜3年分の残業時間を集計します。

ステップ2:時間単価を計算する

例)月給30万円、所定労働時間が1日8時間・週5日の場合:
月平均所定労働時間 = 52週 × 40時間 ÷ 12か月 ≒ 173.3時間

時間単価 = 300,000円 ÷ 173.3時間 ≒ 1,731円/時間

ステップ3:本来の残業代と受け取った額を比較する

例)月の残業が実績50時間、固定残業代として2万円が含まれているとされている場合:
本来の残業代 = 1,731円 × 1.25 × 50時間 = 約108,000円
固定残業代として支払われている額 = 20,000円
不足額 = 108,000円 − 20,000円 = 約88,000円/月

このように、毎月数万〜十数万円の不足が、年間・複数年にわたって積み重なっているケースは珍しくありません。

時効に注意——請求できる期間は限られている

未払い残業代には時効があります。

  • 2020年4月1日以降に発生した賃金:時効3年(改正民法・労働基準法による)
  • 2020年3月31日以前に発生した賃金:時効2年

時効は毎月の賃金支払い日から進行します。「まだ在職中だから後でいい」と思っていると、過去の未払い分がどんどん時効消滅します。少しでも「おかしい」と思ったら、早めに行動することが重要です。


内訳開示を会社に求める方法

金額が不足していると思ったら、まず会社に対して「内訳を開示してください」と求めることが第一歩です。

確認すべき4つの書類

以下の書類の開示を会社に求めましょう。いずれも労働者には確認する権利があります。

書類名 確認すべき内容 根拠
賃金明細 固定残業代の金額・対象時間数の記載があるか 労働基準法第108条
労働条件明示書(雇用契約書) 固定残業代の金額・時間数の明記があるか 労働基準法第15条
就業規則(賃金規程) 固定残業代に関する規定があるか 労働基準法第89条
タイムカード・労働時間記録 実際の残業時間の記録 労働基準法第108条

会社への確認依頼の進め方

口頭で確認する場合(最初のアプローチ)

まずは上司や人事担当者に「賃金の内訳について確認させてください」と聞いてみましょう。このとき、やり取りの内容をメモしておく(日時・相手・発言内容)か、可能であれば録音しておくことを強くすすめます。

書面で確認する場合(口頭で回答がない・誤魔化された場合)

会社が口頭での説明を避けたり、「そういうものだから」と流したりする場合は、メールまたは書面で内訳の開示を求めます。記録が残る方法での請求が重要です。

書面の文例(メール本文):

件名:賃金内訳の確認依頼について

〇〇部 〇〇様

お世話になっております。〇〇部の○○です。

私の月給に固定残業代が含まれているとのご説明をいただいておりますが、
以下の点について書面にて確認させていただきたく、ご連絡いたしました。

1. 固定残業代として設定されている金額
2. 固定残業代が何時間分の残業に相当するか
3. 固定残業時間を超えた場合の差額支払いの有無と方法

上記について、根拠となる就業規則・賃金規程・雇用契約書の該当箇所も
あわせてご提示いただけますと幸いです。

ご対応のほど、よろしくお願いいたします。

このメールへの回答内容(または無視・拒否)も、後の証拠になります。


証拠収集:追加請求のために集めるべきもの

内訳確認と並行して、証拠を集めておきましょう。証拠は多いほど、交渉でも申告でも有利になります。

今すぐ集め始める証拠一覧

勤務時間の証拠(最重要)

  • タイムカードや打刻記録のコピー・写真
  • 交通系ICカードの乗降履歴(最寄り駅の入退場時刻)
  • 会社のメール・チャットツール(Slack、Teams等)の送受信ログ(スクリーンショット)
  • パソコンのログイン・ログオフ記録(IT部門に記録がある場合も多い)
  • 手書きの業務日誌・手帳のメモ
  • スマートフォンの位置情報・Googleタイムライン
  • 取引先との連絡記録(残業中に送受信したもの)

賃金・契約に関する証拠

  • 給与明細(過去分をできる限り保管・スキャン)
  • 雇用契約書・労働条件通知書
  • 就業規則・賃金規程(会社の掲示板や社内ポータルで確認)
  • 会社から受け取ったすべての書面・メール

会社とのやり取りの記録

  • 内訳を質問した際のメールの返信
  • 口頭でのやり取りを記録したメモ(日時・場所・相手・発言内容)
  • 上司から送られた業務指示メール・残業指示のやり取り

証拠収集で気をつけること

  • 退職後は会社の記録にアクセスできなくなります。在職中のうちにできる限りコピー・スクリーンショットを取得してください。
  • 会社のパソコンからの資料持ち出しについては、就業規則の規定を確認しましょう。ただし、自分の労働時間・賃金に関する記録は、労働者が証拠として保存することは正当な権利の行使として認められています。
  • 証拠はすべて自宅や個人のクラウドストレージに保存し、会社のメールや端末だけに頼らないようにしましょう。

会社への追加請求の手順

証拠が揃ったら、実際に会社へ追加請求を行います。

内容証明郵便による請求書の送付

会社への請求は、内容証明郵便で行うことを強くすすめます。「いつ、何を請求したか」という記録が公的に残るため、後の法的手続きで非常に重要になります。また、会社側に「本気で請求されている」というシグナルを与える効果もあります。

内容証明郵便の基本的な書き方

令和○年○月○日

〇〇株式会社
代表取締役 〇〇 〇〇 殿

                    ○○県○○市○○町〇-〇
                    氏名 〇〇 〇〇

        未払い残業代支払い請求書

私は、貴社に○年○月○日から現在まで(または○年○月○日まで)
雇用されている(いた)者です。

貴社は私の月給に残業代が含まれているとご説明されましたが、
固定残業代として設定されている金額・時間数が書面により
明示されておらず、また、実際の残業時間数に対して支払われた
金額が著しく不足しています。

労働基準法第37条の規定に基づき、以下の金額の未払い残業代を
本書面到達後14日以内にお支払いいただくよう請求いたします。

記
未払い残業代合計:金○○○,○○○円
(計算期間:令和○年○月〜令和○年○月)

以上

内容証明郵便は郵便局の窓口(またはe内容証明のオンラインサービス)から送ることができます。

請求金額に加えられる「付加金」

未払い賃金の請求と並んで、付加金の請求も検討しましょう。労働基準法第114条は、裁判所が使用者に対し、未払いの割増賃金と同額以下の付加金の支払いを命じることができると定めています。つまり、実質的に最大2倍の額を受け取れる可能性があります。付加金は裁判手続きが必要ですが、請求できることを覚えておいてください。


労働基準監督署への申告手順

会社が請求に応じない場合や、在職中で直接交渉が難しい場合は、労働基準監督署(労基署)への申告が有効な手段です。

申告の流れ

1. 管轄の労基署を調べる

会社の所在地(本社または実際に働いている事業場の所在地)を管轄する労働基準監督署を、厚生労働省のウェブサイトで調べます。

2. 相談(申告前のステップ)

いきなり申告書を出す前に、まず「相談」として労基署を訪問することができます。持参するものは以下のとおりです。

  • 収集した証拠(勤務記録、給与明細など)のコピー
  • 自分で計算した不足額の計算書
  • 雇用契約書・労働条件通知書のコピー
  • 会社とのやり取りの記録

3. 申告書の提出

相談の結果、申告に進む場合は申告書を提出します。申告書の書式は労基署の窓口でもらえます。申告者の情報は使用者に漏れないよう保護されています(ただし、調査の過程で状況から特定されるリスクはゼロではありません)。

4. 労基署による調査・是正勧告

申告を受けた労基署は、会社に対して調査を行い、違反が認められれば是正勧告を出します。是正勧告には法的強制力はありませんが、多くの会社はこれに従います。重大な違反が認められた場合は、労基署が書類送検(刑事事件化)することもあります。

労基署以外の相談先

相談先 特徴 費用
総合労働相談コーナー(各都道府県労働局) 労働問題全般の相談窓口。あっせん申請も可 無料
弁護士(労働問題専門) 法的手続き・交渉の代理。成功報酬型が多い 相談料無料〜5,000円/30分程度
社会保険労務士(特定社労士) あっせん手続きの代理 要確認
法テラス(日本司法支援センター) 収入の少ない方向けに弁護士費用の立替制度あり 無料相談あり
労働組合・ユニオン 団体交渉権を使って会社と交渉 入会金・組合費

会社が「内訳を開示しない」「支払いを拒否する」場合の対応

会社が誠実に対応しないケースも、残念ながら多くあります。その場合の選択肢を整理します。

労働審判(迅速で実効的な手続き)

労働審判は、地方裁判所で行われる迅速な紛争解決手続きで、原則として3回以内の期日で結論が出ます(通常2〜3か月)。弁護士なしでも申し立てはできますが、専門的な書類作成が必要なため、弁護士への相談をすすめます。

少額訴訟・通常訴訟

未払い額が60万円以下であれば、少額訴訟(1回の審理で判決が出る簡易な手続き)を利用できます。60万円を超える場合や、争点が複雑な場合は通常訴訟になります。

弁護士に依頼するメリット

  • 未払い額の正確な計算と立証
  • 内容証明郵便の作成・送付の代理
  • 労働審判・訴訟の代理
  • 付加金・遅延損害金の請求
  • 精神的な負担の軽減

多くの弁護士は「未払い残業代請求」を成功報酬型で受けており、初期費用なしで依頼できるケースも多いです。まず無料相談を活用しましょう。


在職中に動く場合の注意点

「まだ会社に在籍しているから、申告したら報復されないか」という不安は当然です。以下の点を頭に入れておきましょう。

申告・請求を理由とした不利益取扱いは違法

労働基準法第104条第2項は、労基署への申告を理由に労働者を解雇・降格などの不利益に取り扱うことを禁じています。もし申告後に不当な扱いを受けた場合は、それ自体が新たな法律違反となり、さらに強力な対抗手段を持てます。

会社に知られないまま進めたい場合

  • 最初は労基署への「相談」として訪問し、申告書を出す前に状況を整理する
  • 弁護士に相談して戦略を立てる(弁護士は守秘義務がある)
  • 退職のタイミングを見計らって、退職と同時に請求する方法もある

証拠隠滅に注意

在職中にあなたが内訳を確認しようとした事実を会社が知ると、勤務記録が改ざん・削除されるリスクがゼロではありません。証拠の収集と保全は、会社に動きを悟られる前に済ませておくことが重要です。


よくある疑問

Q1. 雇用契約書に「固定残業代として〇万円」と書いてあっても請求できますか?

契約書に金額の記載があっても、①対象となる残業時間数が明記されていない、②実際の残業時間が固定残業時間を超えているのに差額が支払われていない、③固定残業代の金額が法定の割増賃金額を下回っている、といった場合には請求できます。契約書の記載があるからといって、必ずしも適法というわけではありません。

Q2. 「就業規則に書いてある」と言われたのですが、それでも請求できますか?

就業規則に固定残業代の規定があっても、労働者に周知されていない、または固定残業時間数と金額が明確に記載されていない場合は無効となりえます。また、就業規則の規定が労働基準法の基準を下回る部分は無効です(労働基準法第92条)。

Q3. 退職してから請求できますか?

できます。退職後も、時効の範囲内(直近3年間)であれば請求権は生きています。退職後の方が、会社からの報復を気にせず請求できるという面もあります。

Q4. 固定残業代の時間数がそもそも多すぎる(例:月80時間分)場合はどうなりますか?

固定残業時間数が過大である場合は、公序良俗違反(民法第90条)として無効と判断される可能性があります。また、月45時間を超える固定残業代の設定は、法律の趣旨からも問題視される場合があります。

Q5. 証拠がほとんどない場合でも請求できますか?

証拠が少なくても、あなたの陳述(供述)も証拠の一つです。また、会社には労働時間の管理記録を保存する義務(労働基準法第108条)があり、労基署の調査や裁判手続きを通じて会社の記録を開示させることができます。「証拠がないから諦める」必要はありません。まず相談してみてください。


未払い残業代請求でよくある失敗事例と対策

実際の相談現場では、いくつかの失敗パターンが繰り返されています。あなたがそれに該当していないか確認しましょう。

失敗例1:証拠収集を後回しにして、気づいたときには時効が消滅していた

時効は待ってくれません。「今度考えよう」と先延ばしにしている間に、毎日が時効に向かっています。今すぐタイムカード・メール・給与明細のコピーを取ることをお勧めします。

失敗例2:会社の説明を疑わずに、固定残業代が合法だと思い込んでいた

「就業規則に書いてあるから合法」「契約書に署名したから有効」——それは誤りです。最高裁は明確に「内訳の明示と超過分の精算がなければ無効」と判示しています。

失敗例3:相談もせず、独断で動いて状況を悪化させた

間違った方法での請求や、余計な一言を加えることで、交渉が決裂するケースもあります。まずは弁護士や労基署に相談し、適切な手順を確認することが重要です。


まとめ:「月給に含まれている」を鵜呑みにしないでください

「月給に残業代が含まれている」という会社の説明は、適切な条件(書面による明示・時間数の特定・超過分の精算)を満たさない限り、法的に無効です

今すぐできることを整理します。

  1. 自分の残業時間を集計し、本来受け取るべき残業代を計算する
  2. タイムカード・メール・給与明細などの証拠を集めて保全する
  3. 会社に書面で内訳の開示を求める
  4. 回答がなければ、内容証明郵便で追加請求を行う
  5. 労基署・弁護士・法テラスなどに相談する

時効は確実に進行しています。「また今度考えよう」と思った今日も、1日分の時効が進んでいます。感じている「おかしい」には根拠があります。一人で抱え込まず、まず相談から動き出してください。

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