歩合給でも残業代は出る?最低賃金を下回る差分の請求方法

歩合給でも残業代は出る?最低賃金を下回る差分の請求方法 未払い残業代

歩合給で働いているから残業代はもらえない——そう思い込んでいませんか?それは誤解です。給与体系がどのような形であっても、法定労働時間を超えて働いた分には残業代の支払い義務が生じます。最低賃金を下回っていれば、その差分を請求する権利もあります。

この記事では、固定給+歩合給の給与体系における残業代の計算方法・最低賃金との差分の確認手順・未払い分の請求プロセスを、今日から使える実務レベルで解説します。給与明細とタイムカードを手元に準備しながら読み進めてください。


歩合給でも残業代は発生する|法律の基本を3分で理解する

「歩合給=残業代不要」は違法という前提

まず最初に断言します。「うちは歩合給だから残業代はない」という会社のルールは、法律上無効です。

労働基準法は強行法規であり、会社が就業規則や雇用契約でどのように定めていても、法律より労働者に不利な条件は適用されません。つまり「歩合給だから残業代は出ない」という約束をしていても、法律上の残業代請求権は消えないのです。

根拠法令①:労働基準法第37条(割増賃金)

労働基準法第37条では、次のように定められています。

使用者が、第32条の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

ここで重要なのは「通常の労働時間の賃金の計算額」という部分です。歩合給は、この計算の「基礎」に含まれます。固定給だけを基礎に計算するのではなく、歩合給も含めた総額が計算の土台になります。

根拠法令②:労働基準法第27条(出来高払制の保障給)

労働基準法第27条は、出来高払制(歩合給)で働く労働者を保護する規定です。

出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。

これは「出来高制(歩合給)で働いていても、働いた時間に見合う最低限の賃金は必ず支払え」という規定です。歩合部分の実績がゼロだったとしても、時間に応じた最低賃金水準の保障義務が使用者にはあります。

根拠法令③:最低賃金法第4条

使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。

実際に計算した時間当たり賃金が都道府県の最低賃金を下回っている場合、その差額を支払わなければなりません。

固定給+歩合給それぞれの役割

固定給+歩合給の給与体系では、両者の役割を次のように整理できます。

区分 内容 残業代計算への影響
固定給 毎月一定額が支払われる部分 残業代の計算基礎に含まれる
歩合給 実績・売上に連動して変動する部分 同じく計算基礎に含まれる
残業代 法定労働時間超の割増分 上記合計額から算出する義務あり

「歩合給は変動するから計算できない」という会社の言い訳は通用しません。その月に実際に支払われた歩合給の額を使って、その月の残業代を計算するのが正しい方法です。


給与明細の内訳を確認する|計算前に必ずやる3つの作業

手元の給与明細を用意する

残業代の計算を始める前に、給与明細から次の数字を拾い出してください。

確認すべき項目一覧

確認項目 明細上の表記例 なければどこを見るか
固定給の金額 基本給、固定給 雇用契約書・労働条件通知書
歩合給の金額 歩合給、出来高給、成果給、インセンティブ 明細に記載がなければ会社に内訳を請求
所定労働時間 所定内労働時間 就業規則・雇用契約書
実際の残業時間 時間外労働時間 タイムカード・勤怠システム
支払われた残業代 時間外手当、残業代 記載がない=支払われていない可能性大

今すぐできるアクション:給与明細が手元にない場合

会社には給与明細の交付義務があります(所得税法第231条)。過去分の再発行を書面で請求してください。「再発行ができない」と言われた場合でも、源泉徴収票や振込明細から金額を確認する方法があります。

タイムカード・勤怠記録を確保する

実際の労働時間を証明するための記録を確保します。これは残業代請求時に最も重要な証拠になります。

証拠として使えるもの(優先度順)

  1. タイムカードの写真・コピー(今すぐ撮影してください)
  2. 勤怠管理システムのスクリーンショット
  3. 業務メール・チャットツール(Slack、Teams等)の送受信記録
  4. 入退館記録・セキュリティゲートの通過記録
  5. 自分でつけた業務日誌・手帳(毎日記録する習慣をつける)

タイムカードは会社が管理していますが、閲覧・コピーを拒否されたとしても、自分でつけた日誌があれば労働基準監督署への申告時に有効な証拠になります。

所定労働時間と法定労働時間の違いを把握する

残業代の計算で混同しやすい概念を整理します。

概念 意味
所定労働時間 会社が就業規則で定めた労働時間 9時〜18時(休憩1時間)=8時間
法定労働時間 労働基準法32条が定める上限 1日8時間・1週40時間
時間外労働 法定労働時間を超えた労働 1日8時間・1週40時間を超えた部分

所定労働時間が法定労働時間より短い場合(例:1日7時間)、7時間を超えて8時間以内の部分は「法内残業」と呼ばれ、会社の規定による割増がない限り25%増しの義務はありません。しかし8時間を超えた部分は必ず25%以上の割増が必要です。


歩合給の残業代・最低賃金を自分で計算する

残業代の計算方法(歩合給の場合)

歩合給の残業代計算は、固定給のみの場合と計算方法が異なります。以下の手順で計算してください。

ステップ1:1時間当たり賃金額を計算する

歩合給を含めた時間当たり賃金の基本は次の式です。

1時間当たり賃金額 =(固定給 + その月の歩合給)÷ その月の所定労働時間

ただし、歩合給部分については特別なルールがあります。

ステップ2:歩合給部分の割増賃金を計算する(重要)

歩合給の場合、「時間外割増賃金」の計算は少し特殊です。歩合給は「その時間の労働に対して支払われた賃金」とみなされるため、残業代の「割増部分(25%分)」だけを追加で支払えばよいとされています。これは固定給のみの場合と異なり、固定給のように総額を125%で計算するのではなく、割増部分のみの追加支払いとなります。

【固定給部分の残業代】
固定給部分の残業代 =(固定給 ÷ 所定労働時間)× 1.25 × 残業時間数

【歩合給部分の残業代】
歩合給部分の残業代 =(歩合給 ÷ その月の総実労働時間)× 0.25 × 残業時間数

【合計残業代】
合計残業代 = 固定給部分の残業代 + 歩合給部分の残業代

法的根拠:労働基準法施行規則第19条第1項第6号。歩合給は「労働した時間の全てに対応する賃金」として扱われるため、割増部分(0.25)のみが追加義務となります。

具体的な計算例

条件設定

  • 固定給:200,000円
  • その月の歩合給:50,000円
  • 所定労働時間:月160時間(1日8時間×20日)
  • 実際の残業時間:月30時間

計算手順

①固定給の1時間当たり賃金
 200,000円 ÷ 160時間 = 1,250円/時間

②固定給部分の残業代
 1,250円 × 1.25 × 30時間 = 46,875円

③歩合給の1時間当たり賃金(総実労働時間で割る)
 50,000円 ÷(160時間 + 30時間)= 50,000円 ÷ 190時間 ≒ 263円/時間

④歩合給部分の残業代(割増部分0.25のみ)
 263円 × 0.25 × 30時間 = 1,972円(端数処理により約1,975円)

⑤合計残業代
 46,875円 + 1,975円 = 48,850円

この月に残業代がゼロ円なら、48,850円が未払いということになります。

最低賃金との差分を計算する

最低賃金の確認は、勤務地(就業場所)の都道府県の最低賃金で行います。毎年10月前後に改定されるため、対象となる月の正確な金額を確認することが重要です。

計算式

時間当たり実賃金 = その月の総支給額(固定給 + 歩合給)÷ 実労働時間

最低賃金を下回る差分 = 最低賃金 × 実労働時間 − 総支給額
(結果がプラスなら差額を請求できる)

具体例(東京都、最低賃金1,163円の場合)

【最低賃金をクリアしている月の例】
総支給額:250,000円(固定給200,000円 + 歩合給50,000円)
実労働時間:190時間

時間当たり実賃金:250,000円 ÷ 190時間 ≒ 1,315円
最低賃金水準:1,163円 × 190時間 = 220,970円

1,315円 > 1,163円 → この例では最低賃金をクリア

【最低賃金を下回る月の例】
総支給額:210,000円(固定給200,000円 + 歩合給10,000円)
実労働時間:190時間

時間当たり実賃金:210,000円 ÷ 190時間 ≒ 1,105円
最低賃金水準:1,163円 × 190時間 = 220,970円

差額:220,970円 − 210,000円 = 10,970円 → この分を請求できる

最低賃金は毎年10月前後に改定されます。必ず「厚生労働省 最低賃金 〇〇都道府県」で検索し、対象期間の正確な金額を確認してください。


未払い残業代を請求する手順|証拠収集から内容証明まで

まず会社に内部確認・是正を求める

いきなり外部機関に申告する前に、社内での確認・請求を試みることが推奨されます。解決が早く、関係性を維持できる可能性があります。

今すぐできるアクション:給与計算の内訳を書面で求める

メールまたは文書で、以下の内容を会社(人事・経営者)に請求します。書面で記録を残すことが重要です。

【請求文のテンプレート】

件名:給与計算の内訳に関する確認依頼

○○株式会社 人事部長 ○○様

私は○年○月より貴社に勤務している○○と申します。
毎月の給与について、残業代(時間外割増賃金)の計算内訳を
書面でご説明いただきたく、本書を送付いたします。

確認事項:
1. 固定給・歩合給それぞれの計算根拠
2. 残業代(割増賃金)の支払い有無とその計算方法
3. 最低賃金との比較検証の有無

労働基準法第37条・第27条に基づき、適正な賃金の支払いを求めます。

返答期限:受け取りから7日以内

○年○月○日
氏名:○○○○

会社が回答を拒否した場合や、計算が明らかに誤っている場合は、次のステップに進みます。

内容証明郵便で未払い残業代を請求する

会社が是正に応じない場合、内容証明郵便で正式な請求を行います。内容証明は送付した事実・内容・日付が郵便局によって公証されるため、後の裁判でも証拠として使えます。

内容証明に記載する項目

  1. 差出人・受取人の氏名・住所
  2. 未払い賃金の発生期間(例:○年○月〜○年○月)
  3. 未払い額の計算根拠(計算式と金額)
  4. 請求金額の合計
  5. 支払い期限(一般的に2週間〜1か月)
  6. 支払い口座
  7. 不払いの場合の対応(労働基準監督署への申告・法的手続きの検討)

内容証明郵便は郵便局で作成を支援してくれます。弁護士を立てなくても自分で行うことができます。

時効に注意してください

2020年の労働基準法改正により、賃金請求権の時効は3年に延長されました(改正前は2年)。ただし、2020年4月1日以前に支払日が到来した賃金は旧法の2年が適用されます。例えば2024年に請求する場合、2021年以降の未払い分を対象にできます。請求できる期間が限られているため、気づいたらできる限り早く行動することが重要です。


相談先と申告手順|労働基準監督署・労働局の使い方

相談先の選び方

相談先 特徴 向いているケース
労働基準監督署 無料・行政機関・是正勧告権あり 明確な法令違反がある場合
労働局(あっせん) 無料・任意・話し合い解決 会社との関係を維持したい場合
弁護士 有料・法的代理・交渉力高い 金額が大きい・会社が強硬な場合
社会保険労務士 有料・書類作成支援 計算が複雑・書類整備が必要な場合
ユニオン(合同労組) 比較的安価・団体交渉可 一人で交渉できない・心理的サポートも必要な場合

労働基準監督署への申告手順

ステップ1:最寄りの労働基準監督署を確認する

勤務先の所在地を管轄する労働基準監督署に申告します。「厚生労働省 労働基準監督署 所在地検索」で検索すると、都道府県別に一覧が確認できます。

ステップ2:申告書を準備する

申告時に持参するとよい書類:

  • 給与明細(過去3年分できる限り)
  • タイムカードのコピー・写真
  • 雇用契約書・労働条件通知書
  • 就業規則のコピー(入手できる場合)
  • 自分で作成した残業時間の記録
  • 内容証明郵便の控え(送付済みの場合)

ステップ3:申告書を提出する

申告書は監督署の窓口にあります。「賃金不払いの申告」として提出します。申告後、監督官が会社に対して調査・是正勧告を行います。是正勧告に従わない場合、送検される可能性もあります。

今すぐできるアクション:電話相談から始める

まずは「労働基準監督署 相談電話」または「総合労働相談コーナー(各都道府県労働局)」に電話してください。匿名での相談も可能です。相談だけなら申告したことにはなりません。


付加金請求と裁判手続き|取り戻せる金額をさらに増やす方法

付加金とは何か

会社が残業代を支払わなかった場合、裁判所に対して「付加金」の支払いを命じるよう申し立てることができます(労働基準法第114条)。

付加金のポイント

  • 裁判所が命じた場合、未払い残業代と同額(最大で2倍)の支払いを命じることができる
  • 付加金は裁判上の請求に限られる(労働基準監督署申告だけでは請求できない)
  • 請求できる期間は違反のあった日から5年以内(ただし当面は3年が経過措置上の実務基準)

未払い残業代が50万円なら、付加金を合わせると最大100万円を回収できる可能性があります。

少額訴訟・労働審判の活用

弁護士を立てずに自分で手続きできる制度として、以下があります。

制度 上限額 特徴
少額訴訟 60万円以下 原則1回の審理で判決。費用が安い
労働審判 上限なし 3回以内の期日で解決。審判委員会が関与
通常訴訟 上限なし 時間・費用がかかるが確実性が高い

請求額が60万円以下なら少額訴訟が最も手軽です。裁判所の書記官に相談しながら申立書を作成できます。地方裁判所の民事部に「少額訴訟」として申し立てることで、1回の期日で判決が得られる可能性があります。


計算ミスを防ぐチェックリスト|請求前に確認すること

請求金額を計算したら、以下の点を確認してください。

  • [ ] 歩合給は「その月に実際に支払われた額」を使っているか
  • [ ] 割増率は時間外(25%増)・深夜(25%増)・休日(35%増)を区別しているか
  • [ ] 歩合給部分の割増計算は「0.25」で計算しているか(1.25ではない)
  • [ ] 最低賃金は当該年度・勤務地都道府県のものを使っているか
  • [ ] 時効(3年)の範囲内の未払い分のみを請求対象にしているか
  • [ ] 計算に使ったタイムカード等の記録を保存・コピーしているか
  • [ ] 会社が「みなし残業(固定残業代)」制度を採用していないかを確認したか

なお、「みなし残業(固定残業代)制度」がある場合でも、実際の残業時間がみなし時間を超えていれば、超過分の追加支払い義務は残ります。また制度の要件を満たしていない(割増賃金相当額が明示されていないなど)場合、そもそも無効となるケースもあります。


よくある質問

Q1. 歩合給が月によってゼロ円でも残業代は発生しますか?

はい、発生します。歩合給がゼロ円の月でも、法定労働時間を超えて働いた分については固定給を基礎とした残業代の支払い義務があります。また労働基準法27条の保障給規定により、実労働時間に応じた最低限の賃金が保証されなければなりません。

Q2. 会社が「歩合給には残業代が含まれている」と言っています。これは正しいですか?

原則として認められません。歩合給が残業代を包含するためには、①通常賃金部分と割増賃金部分が明確に区別されていること、②割増賃金部分が法定計算額以上であることの両方が必要です。最高裁判例(テックジャパン事件、国際自動車事件等)でも、これらの要件を満たさない「残業代込み歩合給」の主張は認められていません。

Q3. 残業代を請求すると解雇されるのではないかと不安です。

解雇を恐れる気持ちはよく理解できます。しかし、残業代請求を理由とした解雇は「不当解雇」であり、それ自体が違法です。解雇された場合は地位保全の仮処分申立てや解雇無効の訴訟を起こすことができます。労働基準監督署への申告は匿名でも行うことができます。

Q4. 未払い残業代はどれくらい遡って請求できますか?

2020年4月1日以降の賃金支払日分については3年遡って請求できます。それ以前の分については旧来の2年が適用されます。例えば2024年に請求する場合、2021年以降の未払い分を対象にできます。時効が進行しているため、気づいた今すぐ行動することが重要です。

Q5. 自分で計算した残業代と会社の計算が違う場合、どちらが正しいか判断できますか?

労働基準監督署の相談窓口または弁護士に相談すれば、計算の正誤を確認してもらえます。その際、給与明細・タイムカード・雇用契約書を持参してください。無料相談として、各都道府県の「総合労働相談コーナー」(労働局内)も活用できます。

Q6. 社内に労働組合がない場合でも、ユニオンに加入して交渉できますか?

はい、できます。「コミュニティ・ユニオン(合同労組)」と呼ばれる組織は、一人からでも加入できる労働組合です。加入後は団体交渉権が生じ、組合として会社と交渉できます。「全国ユニオン」「東京管理職ユニオン」「なかまユニオン」などが代表的です。



まとめ|今日からできる3つのアクション

この記事の内容を3つのアクションに絞ります。

アクション①:今すぐ給与明細とタイムカードをコピーする

証拠は時間の経過とともに失われます。会社が廃棄する可能性もあります。今日中に手元にある記録を全てコピーまたは撮影し、クラウドストレージに保存してください。

アクション②:この記事の計算式で自分の未払い額を計算してみる

「固定給÷所定労働時間×1.25×残業時間」と「歩合給÷実労働時間×0.25×残業時間」の2つを計算し、合計してください。複数月分を計算すれば、全体の未払い額が把握できます。

アクション③:総合労働相談コーナーまたは労働基準監督署に電話する

「0120-811-610」(労働基準関係情報メール窓口)または最寄りの労働基準監督署に電話し、状況を説明してください。相談は無料で、匿名でも対応してもらえます。電話での相談は一切記録に残りません。

法律はあなたの側にあります。歩合給であっても、正当な残業代と最低賃金は必ず守られなければなりません。今この瞬間から行動を開始してください。

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