外国人労働者の給与から換金手数料を天引きは違法【全額請求の手順】

外国人労働者の給与から換金手数料を天引きは違法【全額請求の手順】 未払い残業代

給与明細を見て「換金手数料」や「送金手数料」という名目で差し引かれている金額がある——そう気づいたとき、多くの外国人労働者は「日本ではこういうものなのかな」と思ってしまいます。しかしそれは違法です。日本の労働基準法は、あなたの国籍や在留資格に関係なく、すべての労働者の給与を守っています。

この記事では、換金手数料の天引きが違法である法的根拠から、証拠の集め方、労働基準監督署への申告、差額の全額回収までを順を追って解説します。在留資格への影響も含め、外国人労働者が特に不安に思うポイントにも丁寧に答えます。


給与から換金手数料を引かれている——それは違法です

日本の法律があなたを守っている:賃金全額払いの原則

日本の労働基準法第24条第1項は、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めています。これを賃金全額払いの原則といいます。

この条文のポイントは「全額」という言葉です。会社が「手数料がかかるから」「サービスを使っているから」という理由で、自分の都合で給与から差し引くことは、法律が明確に禁止しています

重要なのは、この法律は日本で働くすべての労働者に適用されるという点です。外国人技能実習生、特定技能外国人、就労ビザを持つ会社員、アルバイトのワーキングホリデービザ保有者——在留資格の種類を問わず、日本の会社で働いているなら全員が保護対象です。

📌 法的根拠:労働基準法第24条第1項
「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」

合法な控除と違法な天引きの違い

「控除(天引き)がすべて違法なの?」という疑問を持つ方もいるでしょう。そうではありません。合法な控除と違法な天引きには明確な基準があります。

合法な控除(引かれても問題ない)

控除の種類 根拠
所得税・住民税 法令(所得税法・地方税法)に基づく
健康保険料 法令(健康保険法)に基づく
厚生年金保険料 法令(厚生年金保険法)に基づく
雇用保険料 法令(雇用保険法)に基づく
食事代・寮費 労使協定があり本人が同意している場合のみ

違法な天引き(すぐに返還請求できる)

天引きの種類 違法な理由
換金手数料・両替手数料 会社が負担すべき業務経費
送金手数料・振込手数料 給与支払いにかかる費用は会社負担が原則
為替手数料 外貨換算による手数料は会社負担
システム手数料・管理費 曖昧な名目での控除は不法
「外国人特別料金」的な名目 国籍を理由とした不利益扱いは均等法違反

「同意した」場合はどうなる?

会社から「手数料控除に同意する書類に署名してください」と求められ、サインしてしまったという方もいるかもしれません。

しかし労働基準法は強行法規です。これは、当事者が合意していても、法律に違反する内容の契約や同意は無効になるという意味です。

仮に「換金手数料を給与から差し引くことに同意します」という書類に署名させられていたとしても、その同意は労働基準法第24条に違反するため法的に無効です。返還請求の権利はなくなりません。

また、就職時に日本語で書かれた書類を十分に理解できないまま署名させられたケースも多く報告されています。言語バリアを利用して同意を取ったとみなされる場合、その同意自体の有効性がさらに問われます。


あなたの被害がどれくらいか計算する

返還請求をする前に、まず「いくら差し引かれてきたか」を正確に把握する必要があります。

差額の計算方法

基本的な計算式は以下のとおりです。

返還請求できる金額 =
  雇用契約書または給与規定に記載された支給額
  ー 実際に振り込まれた金額(通帳の入金額)
  = 差額(月ごとに計算)

  ↓

月ごとの差額 × 被害を受けた月数 = 総請求額

計算例

契約上の支給額 実際の振込額 差額(天引き額)
1月 250,000円 247,500円 2,500円
2月 250,000円 247,500円 2,500円
3月 260,000円 257,200円 2,800円
合計 例:30,000円

給与明細に控除の名目が記載されていない場合でも、契約書の支給額と通帳の振込額の差が証拠になります。

時効に注意——請求できる期間は限られている

未払い賃金の請求権は時効(消滅時効)があります。

  • 2020年4月1日以降に発生した未払い賃金:時効は3年間
  • 2020年3月31日以前に発生した未払い賃金:時効は2年間

時効が過ぎると法的に請求できなくなるため、気づいた時点でできるだけ早く行動することが重要です。


証拠を集める——今すぐできる6つのステップ

証拠は申告・交渉・訴訟のすべてで使います。以下の順番で、できるものから今日中に始めてください。

ステップ1:給与明細をすべて保存する

すべての期間の給与明細を集め、スマートフォンで撮影またはスキャンしてクラウド(Google DriveやDropboxなど)に保存してください。

確認するポイント:
– 「支給額」の欄に記載された金額
– 「控除」の欄に何が記載されているか(換金手数料、手数料、システム費など)
– 「実支給額(差引支給額)」の金額

給与明細が紙で渡されている場合は絶対に捨てないでください。電子明細の場合は、ダウンロード期限が切れる前に保存してください。

ステップ2:通帳・銀行アプリの振込記録を保存する

実際に振り込まれた金額と給与明細の支給額を照合するため、銀行の振込記録を保存します。

  • 通帳を持っている場合:記帳して全ページを撮影
  • ネットバンキング・銀行アプリの場合:入金履歴のスクリーンショットを保存

「〇月〇日 ××株式会社より振込 ○○○円」という記録が、差額の証拠になります。

ステップ3:雇用契約書・労働条件通知書を確認する

採用時に渡された書類を探してください。

  • 給与(賃金)として約束された金額はいくらか
  • 控除に関する記載はあるか
  • 換金手数料や送金手数料についての記載があるか

記載がない控除は、それ自体が違法の証拠になります。

ステップ4:会社とのやり取りを保存する

メール、LINE、SMS、チャットツール(WeChatなど)で会社や担当者と交わした会話を保存してください。

特に保存してほしいもの:
– 手数料について説明・通知されたメッセージ
– 同意を求められたメッセージ
– 給与に関するやり取り全般

スクリーンショットで保存し、日付がわかるように管理してください。

ステップ5:同僚の状況を確認する(できれば)

同じ職場の外国人同僚が同じ扱いを受けているか、または日本人の同僚には手数料が引かれていないかを確認することで、国籍・外国人であることを理由とした差別的扱い(男女雇用機会均等法第3条違反)の証拠になります。

ただし、同僚に話を聞く際は慎重に。会社に知られると報復される可能性があります。

ステップ6:被害の一覧表を作成する

以下の表を参考に、自分の被害をまとめた「被害一覧表」を作成してください。申告書類の作成や相談の際に役立ちます。

項目 内容
氏名(名前) ○○
会社名 ××株式会社
所属部署 △△部
雇用形態 正社員 / パート / 技能実習など
被害開始日 2022年4月
最新の被害日 2024年10月
月ごとの天引き額 2,500円〜3,000円
合計天引き額 約65,000円
天引きの名目 「換金手数料」

外国人が特に心配する「在留資格への影響」

「労働基準監督署に申告したら、在留資格を失うのでは?」

これは多くの外国人労働者が最も恐れていることです。正確な情報をお伝えします。

申告しても在留資格は失われない

労働基準監督署(労基署)への申告は、在留資格の取り消し・強制退去とは無関係です。労基署は労働問題を扱う機関であり、出入国在留管理庁(入管)とは別組織です。

労基署が行うのは「使用者(会社)が労働法を守っているか」の監督であり、労働者の在留資格の調査ではありません。申告者の情報を入管に提供することは原則として行われません。

不法就労状態の場合はどうする?

もし在留資格の範囲を超えた就労(いわゆる「不法就労」)の状態にある場合、申告を躊躇するかもしれません。しかし、不法就労であっても働いた分の賃金を受け取る権利は法的に認められています(最高裁判所の判例があります)。

この場合は、直接労基署に行くよりも、まず弁護士や労働組合に相談することを強くお勧めします。秘密が守られる環境で相談できます。

技能実習・特定技能の場合の注意点

技能実習生・特定技能外国人の場合、監理団体や登録支援機関が間に入っていることがあります。これらの機関が不正に加担していることもあります。その場合は:

  • 外国人技能実習機構(OTIT):技能実習に関する相談・申告窓口
  • 法務省 特定技能外国人支援に関する相談窓口
  • 外部の弁護士・労働組合

監理団体を介さず、直接外部機関に相談することが安全です。


返還請求の手順——3つのルートを状況に応じて使い分ける

差し引かれた給与を取り戻すには、主に3つの方法があります。状況や希望に応じて選んでください。

ルート①:会社への直接請求(内容証明郵便)

最初のステップとして、会社に直接「差し引かれた金額を全額返還するよう」求める文書を送る方法です。

内容証明郵便とは:日本郵便が「いつ、誰が、どのような内容の手紙を送ったか」を証明する郵便サービスです。法的な証拠として機能します。

内容証明郵便に書く内容(基本構成)

1. 自分の氏名・住所
2. 会社名・代表者名・住所
3. 事実の説明
   「私は20XX年X月からX月まで貴社に勤務し、
   給与から換金手数料として毎月X円が控除されてきました。
   総額はX円に上ります。」
4. 法的根拠の明示
   「これは労働基準法第24条第1項(賃金全額払いの原則)に
   違反する違法な控除です。」
5. 請求内容
   「本書面到達後X日以内に、控除総額X円を
   下記口座に振り込むよう請求します。」
6. 振込先口座
7. 未払いの場合は法的措置を取る旨の予告

内容証明郵便の作成が難しい場合は、弁護士や労働組合に依頼することができます。

直接請求のメリット・デメリット

メリット デメリット
費用がかからない 会社が無視する可能性がある
迅速に解決できる場合がある 証拠が不十分だと交渉力が弱い
法的手続きなしで解決できる 在職中は関係悪化のリスク

ルート②:労働基準監督署への申告

会社が対応しない場合や、直接交渉が難しい場合は労働基準監督署(労基署) に申告します。

申告の手順

STEP 1:管轄の労基署を調べる

会社の所在地(本社・就業場所)を管轄する労基署に申告します。厚生労働省のウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp)で都道府県・所在地から検索できます。

STEP 2:申告書を準備する

「労働基準法違反申告書」に以下を記入します:
– 申告者(あなた)の氏名・住所・連絡先
– 会社名・所在地
– 違反内容(換金手数料の違法控除)
– 被害期間・被害金額
– 証拠の添付

STEP 3:証拠書類を添付する

  • 給与明細(コピー)
  • 通帳の振込記録(コピー)
  • 雇用契約書(コピー)
  • 被害一覧表
  • 会社とのやり取りの記録

STEP 4:申告書を提出する

  • 直接持参(窓口に行く)
  • 郵送で送る

申告後の流れ

申告書の受付
 ↓
労基署による調査(会社への立入調査・書類確認)
 ↓
違反が確認された場合:「是正勧告」が会社に出される
 ↓
会社が是正勧告に従う:給与の返還・以後の控除停止
 ↓
会社が従わない場合:労基署による送検(刑事手続き)

💡 申告は匿名でも可能?
労基署への申告は氏名を記載することが基本ですが、匿名での相談も受け付けています。匿名申告の場合、調査が限定的になることがありますが、「どの会社でこのような違反が起きている」と伝えるだけでも労基署が動いてくれる場合があります。

ルート③:弁護士・労働組合への依頼

被害金額が大きい場合、会社が申告に応じない場合、または裁判まで見据えている場合は、弁護士か労働組合への依頼が最も確実です。

弁護士に依頼する場合
– 費用:着手金+成功報酬制の事務所が多い(回収額の20〜30%程度)
– 法テラス(日本司法支援センター)を利用すると費用の立替制度が使える
– 外国語対応している弁護士事務所を選ぶとコミュニケーションがスムーズ

労働組合(ユニオン)に相談する場合
– 個人でも加入できる「合同労組(コミュニティユニオン)」があります
– 会社との団体交渉を労働組合が代わりに行ってくれる
– 費用は加入費・組合費のみで弁護士より安い場合が多い
– 外国人労働者を専門に支援する組合もある


相談できる機関と多言語サポート

言語の壁を心配している方のために、外国語対応のある相談窓口を紹介します。

公的機関

機関名 対応内容 連絡先・備考
労働基準監督署 給与天引き等の労基法違反申告 全国各地にあり。通訳を連れて行ってもOK
外国人労働者向け相談ダイヤル(厚生労働省) 電話相談・多言語対応 0570-001-701(英語・中国語・ポルトガル語など)
法テラス(日本司法支援センター) 弁護士費用の立替・無料法律相談 0570-078374
外国人技能実習機構(OTIT) 技能実習に関する相談 0120-250-168(多言語対応)

民間・NPO支援団体

団体名 特徴
移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連) 外国人労働者支援の全国ネットワーク
外国人技能実習生問題弁護士連絡会 技能実習生の法的支援に特化
各地の合同労組・コミュニティユニオン 個人加入可能な労働組合

多言語対応のポイント

労基署に相談に行く際、日本語が不安な場合は:

  1. 通訳を連れていく:信頼できる人(支援団体のスタッフなど)に同行を依頼する
  2. 書面で伝える:相談内容を日本語で書いたメモを持参する(支援団体に作成を手伝ってもらう)
  3. 多言語相談窓口を使う:電話通訳サービスを提供している労基署もある

申告後・請求後に会社から報復されたら

「申告したら解雇されるかも」「シフトを減らされるかも」という心配は当然です。しかし、これも法律が守っています。

申告を理由とした不利益扱いは違法

労働基準法第104条第2項は、「使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と規定しています。

つまり、申告を理由として:
– 解雇する
– シフトを不当に削減する
– 配置転換で不利益を与える
– ハラスメントを行う

これらはすべて違法であり、損害賠償請求の対象になります。

報復があった場合の対応

  1. 報復の記録を取る:いつ、何をされたか日時と内容を記録
  2. 労基署に報告する:申告者への報復として追加で申告
  3. 弁護士に相談する:不当解雇や損害賠償の訴訟を検討

よくある質問(FAQ)

ここまでの内容をふまえ、外国人労働者からよく寄せられる疑問にお答えします。

Q1. 会社が「手数料は契約に含まれている」と言っています。それでも返還請求できますか?

はい、できます。労働基準法は強行法規であり、契約の内容がいかなるものであっても、賃金全額払いの原則に反する控除は無効です。「契約に含まれている」という会社の主張は法的に通りません。

Q2. 給与明細に控除の名目が書かれていない場合はどうすればいいですか?

給与明細の記載がなくても、雇用契約書の支給額と実際の振込額の差が証拠になります。また、給与明細に控除項目の記載がないにもかかわらず差し引かれているという事実自体が違法性の証拠です。

Q3. すでに退職した会社への請求もできますか?

できます。退職後も時効(最長3年)が来るまでは請求権があります。ただし、退職後は証拠書類を入手しにくくなることがあるため、退職前に必要な書類を保存しておくことが重要です。

Q4. 差し引かれた金額が少額(月1,000〜2,000円程度)でも請求できますか?

法的には1円でも不当な控除であれば請求できます。また、月1,000円でも2年間続けば24,000円、3年間で36,000円になります。少額に見えても、積み重なれば大きな被害です。

Q5. 申告したら会社がつぶれて給与がもらえなくなりませんか?

会社が支払い能力を失った場合でも、未払い賃金立替払制度(独立行政法人労働者健康安全機構)を利用できます。一定の条件のもとで、国が未払い賃金の立替払いを行う制度です。申告をためらう理由にはなりません。

Q6. 日本語ができないと申告は無理ですか?

そんなことはありません。通訳を連れて労基署に行くことができますし、外国語対応の相談窓口も整備されています。支援団体やNPOに相談すれば、申告書類の作成を一緒に手伝ってくれます。

Q7. 労使協定(書面の合意)があれば換金手数料の控除は合法になりますか?

なりません。労働基準法第24条第1項ただし書きは、法令に基づくもの(税金・社会保険)と「労使協定がある場合」に限り控除を認めています。しかし換金手数料は会社が負担すべき業務コストであり、労使協定があっても全額払いの原則に反する控除として違法と判断される可能性が高いです。


まとめ——今日から始める3つのアクション

給与から換金手数料や送金手数料を差し引かれることは、労働基準法第24条に違反する明確な違法行為です。外国人労働者であっても、在留資格の種類を問わず、法律はあなたの賃金を守っています。

今日すぐ行動できること

アクション1(今日中):給与明細・通帳・雇用契約書を撮影してクラウドに保存する

アクション2(今週中):被害一覧表を作成し、差し引かれた合計金額を計算する

アクション3(来週まで):労働基準監督署の多言語相談ダイヤル(0570-001-701)または支援団体に連絡して相談の予約を入れる

「日本語が不安」「在留資格への影響が心配」「一人では動けない」——そのような状況でも、支援してくれる機関は必ずあります。一人で抱え込まず、まず記録を取ることから始めてください。あなたが正当に働いた分の給与を取り戻す権利は、日本の法律が確かに保障しています。


本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な対応については、弁護士や労働基準監督署にご相談ください。

タイトルとURLをコピーしました