「離職票を出さないと、給与は払わないからな」
もしこんなことを会社に言われたなら、今すぐこの記事を読んでください。これは複数の法律に違反する違法行為であり、あなたには正当に給与を受け取る権利があります。
本記事では、給与支払い条件付けがなぜ違法なのか、その法的根拠から、証拠収集の具体的方法、労働基準監督署への申告手順、給与未払い証拠の集め方、刑事告訴まで、今日から実行できる対応フローをすべて解説します。
「離職票がないと給与を払わない」は複数の法律違反
まず最初に確認しておきたい重要な事実があります。
給与の支払いと離職票の交付は、法律的にまったく別の問題です。
給与は「あなたが働いた対価」として労働基準法が支払いを義務付けているもの。離職票は「雇用保険の手続き」のために雇用保険法が交付を義務付けているもの。この2つを会社が「セット」にして条件付けすることは、そもそも法的な根拠がありません。
以下の表で、どの法律に違反するかを整理します。
| 違反行為 | 根拠法令 | 内容 |
|---|---|---|
| 給与支払い拒否 | 労働基準法24条1項 | 給与は全額・毎月1回以上・一定期日に支払う義務。条件付けは同条違反 |
| 離職票交付義務違反 | 雇用保険法74条1項 | 離職者に対し離職票を遅滞なく(10日以内に)交付しない行為は違法 |
| 脅迫罪 | 刑法222条 | 「払わない」という告知で害悪を加えることを示した場合に成立しうる |
| 強要罪 | 刑法223条 | 脅迫により義務なきことを強制した場合に成立しうる |
| 恐喝罪 | 刑法249条 | 給与という財産的利益の取得を目的に脅迫した場合に成立しうる |
なぜ「給与」と「離職票」は分離されるべきか
法律がそれぞれ別の目的・別の根拠で定めているからです。
給与(賃金)については、労働基準法24条が「全額払い・直接払い・毎月払い・一定期日払い」という4原則を定めています。この原則には例外規定がありますが、「離職票を交付するまで支払わない」という条件はそのどこにも含まれません。控除できるのは法令で定めるもの(所得税・社会保険料など)か、労使協定で取り決めたものに限られます。
離職票(雇用保険被保険者離職票)については、雇用保険法74条が「事業主は被保険者が離職した場合、遅滞なくハローワーク(公共職業安定所)に届け出て離職票を交付しなければならない」と定めています。厚生労働省の通達では、原則として離職日から10日以内に手続きを完了させることとされています。
この2つは根拠法令も所管官庁(労基署とハローワーク)も異なります。会社が「離職票と給与をセットにする」という発想自体が、法律の仕組みを無視した違法な論理です。
「脅迫罪・強要罪・恐喝罪」が成立しうる理由
「払わないぞ」という発言は単なるクレームではありません。
- 脅迫罪(刑法222条):害悪の告知(「払わない」という不利益を示す発言)により、相手を畏怖させれば成立します。被害者に金銭的損害を与える行為の予告は「害悪の告知」にあたりえます。
- 強要罪(刑法223条):脅迫によって義務のないことを強制した場合(例:離職票を渡すことを強制する、あるいは「払ってほしければ〇〇しろ」と要求する)に成立しえます。
- 恐喝罪(刑法249条):財産(給与)の交付を強要するために脅迫する行為が当てはまります。「給与を払ってほしければ離職票を渡せ」という構造は、財物取得目的の脅迫と評価される余地があります。
これらの刑事責任が現実に問われるかどうかは事案の具体的状況によりますが、証拠があれば刑事告訴も選択肢に入るということを覚えておいてください。
今すぐ始める証拠収集の手順
法的手続きを進めるうえで、証拠は命綱です。「証拠があるかどうか」が、労基署や裁判所での対応の強さを決定的に左右します。以下の手順を、できれば今日中に始めてください。
脅迫・条件付け発言の記録
【即日対応】
発言があった直後、または今すぐ以下をメモに残してください。スマートフォンのメモアプリで構いません。
記録すべき内容:
1. 日時(○月○日 ○時○分)
2. 場所(○○会社 ○○室 など)
3. 発言した人物(役職・氏名)
4. 発言内容(できるだけ一語一句)
例:「離職票を渡さない限り、給与は払わない」
例:「辞めるなら金は払わん。書類を出したら考える」
5. その場にいた第三者(目撃者)の氏名・役職
会話を録音できる状況であれば、スマートフォンで録音してください。 日本では一方の当事者が会話に参加していれば録音は適法です(会話に参加していない第三者による無断録音とは異なります)。録音データはクラウドストレージ(Googleドライブ・iCloudなど)にすぐバックアップしてください。
メール・チャット・書面の保存
以下をスクリーンショット+PDF形式で保存し、ファイル名に日時を入れてください。
- 会社・上司からのメール(条件付けに関するもの、給与・退職に関するもの)
- LINEやSlack・Chatworkなどのチャットやり取り
- 退職届・退職合意書のコピー
- 離職票の交付申請をした記録(申請書の控え、メールなど)
- 給与明細(過去数ヶ月分)
特に「離職票を出したら給与を払う」「書類が来るまで支払えない」などの文字が残ったメッセージは、最優先で保存してください。
給与未払い状況の記録表
以下のような一覧表を作成すると、後の申告や交渉で非常に役立ちます。
給与未払い確認表
対象月 | 未払い金額 | 支払予定日 | 会社の説明
--------|-------------|-------------|-------------------
○年○月分 | ¥○○○,○○○円 | ○月○日 | 「離職票がないから払えない」と口頭で言われた
○年○月分 | ¥○○○,○○○円 | ○月○日 | メールで「書類提出後に対応」と通知された
相談・申告先とその手順
証拠が揃ったら、あるいは揃えながら並行して、以下の機関に相談・申告してください。相談は無料です。
労働基準監督署への申告(最優先)
なぜ最優先か: 労基署は「給与未払い(労基法24条違反)」を取り締まる行政機関であり、事業者に対して強制的に是正命令・出頭命令を出す権限を持っています。申告から調査・是正指導まで動いてもらえます。
申告の流れ:
- 最寄りの労働基準監督署を確認する
- 厚生労働省ウェブサイト「全国の労働基準監督署」から検索可能
-
事業所の所在地を管轄する労基署に申告します
-
電話または窓口に相談する
- 「給与が未払いになっている。離職票を出さないと払わないと言われた」と伝えてください
-
匿名での相談も可能ですが、正式な申告は氏名が必要です
-
申告書(労働基準法違反申告書)を提出する
- 窓口でもらえます。以下を記載します。
申告書に記載する内容:
・申告者の氏名・住所・連絡先
・会社名・住所・代表者名
・事業場(職場)の所在地
・未払い給与の金額・対象期間
・会社からの具体的な発言内容(条件付けの事実)
・証拠の有無(メール・録音など)
- 証拠コピーを一緒に提出する
- メールのプリントアウト、LINEのスクリーンショット、給与明細コピーなどを持参
申告後のプロセス: 労基署は調査を開始し、会社に対して是正勧告・指導を行います。悪質な場合は送検(刑事事件として検察に送付)されることもあります。
ハローワーク(公共職業安定所)への申告
離職票の未交付については、ハローワークへの申告が直接の解決につながります。
手順:
- 最寄りのハローワークに出向き、「離職票が交付されない」と相談する
- ハローワークは事業主に対して「離職証明書の提出」を督促・指導する権限を持っています
- 離職票がなくてもハローワークで「被保険者資格喪失確認請求」を行うことで、失業給付の手続きを始められる場合があります(離職票の代わりに事業主が手続きを怠っていることを証明して対応)
ポイント: 「離職票がないので失業給付の申請ができない」という状態にはなりません。ハローワークに相談すれば、会社が手続きをしていなくても対応策があります。
内容証明郵便による給与支払い請求
行政機関への申告と並行して、会社への公式な請求文書を送ることも重要です。内容証明郵便は送付した事実と内容が郵便局によって証明されるため、後の法的手続きで強力な証拠になります。
内容証明郵便のひな型:
令和○年○月○日
〒○○○-○○○○
○○県○○市○○町○丁目○番○号
株式会社○○○○
代表取締役 ○○ ○○ 殿
〒○○○-○○○○
○○県○○市○○町○丁目○番○号
氏名:○○ ○○
電話:○○○-○○○○-○○○○
給与支払い及び離職票交付請求書
私は、貴社に○年○月○日から勤務し、令和○年○月○日をもって退職したものです。
退職後、貴社から「離職票を交付しないと給与は支払わない」との告知を受けましたが、
給与の支払いは労働基準法第24条に基づく法的義務であり、
離職票の交付とは無関係の義務です。
ついては、下記の事項について令和○年○月○日までに対応されるよう請求します。
記
1. 令和○年○月分給与 ○○○,○○○円を直ちに支払うこと
2. 離職票(雇用保険被保険者離職票)を直ちに交付すること
なお、本請求に応じない場合は、労働基準監督署への申告及び
法的手続きを含むあらゆる手段を検討することを申し添えます。
以上
内容証明郵便は郵便局の窓口またはe内容証明(オンラインサービス)で送れます。
労基署申告後の流れと強制回収の手段
申告しても解決しない場合、以下の手段が順番に使えます。
是正勧告・出頭命令(行政段階)
労基署が申告を受理すると、原則として事業場への立入調査を行います。調査の結果、違反が認められれば是正勧告書が交付され、会社は期限内に是正報告を提出しなければなりません。これに応じない場合、送検(刑事事件化)されます。
労基法24条違反の送検・有罪の場合、30万円以下の罰金(同法120条)が適用されます。
労働審判(裁判所・迅速解決)
労基署の対応に時間がかかる場合や、金額が確定している場合は、労働審判を地方裁判所に申し立てる方法があります。
- 原則3回以内の期日で解決(通常数ヶ月)
- 弁護士なしでも申し立て可能(ただし弁護士に依頼するほうが確実)
- 和解が成立しない場合は審判(決定)が出される
少額訴訟(60万円以下の未払い)
未払い給与が60万円以下であれば、少額訴訟が利用できます。
- 原則1回の審理で判決
- 弁護士費用を抑えて自分で申し立て可能
- 勝訴すれば強制執行(銀行口座差押えなど)が可能
刑事告訴(脅迫罪・恐喝罪)
録音や書面など証拠がしっかりある場合、警察署または検察庁に刑事告訴状を提出することができます。
刑事告訴は行政手続きとは別に進行できるため、労基署への申告と並行して検討してください。告訴状の作成は弁護士に依頼することを強くおすすめします。
よくある「会社の言い訳」とその反論
会社側はさまざまな言い訳をしてきます。代表的なケースと正しい反論を整理します。
「就業規則に書いてある」という言い訳
反論: 就業規則で定めても、労基法24条を下回る条件(給与支払いに条件を付ける内容)は無効です(労基法92条・13条)。就業規則は法律に反する内容を定めることができません。
「会社のルールだ」という言い訳
反論: 労基法は強行規定であり、労使間の合意があっても法律を下回る取り決めは無効です。会社内部のルールが労働法令に優先することはありません。
「離職票の手続きが終わってから払う予定だった」という言い訳
反論: 給与の支払期日は就業規則・労働契約で定めた日です。「手続きが終わるまで」という条件は法律上認められません。支払期日を過ぎた時点で未払いは確定します。
「辞め方が問題だ(損害賠償請求する)」という言い訳
反論: 仮に会社が損害賠償を請求するとしても、それは民事上の別問題です。損害賠償請求があっても、給与の支払い義務はなくなりません。また、一般的な退職(2週間以上前の通知など)で損害賠償が認められるケースはほとんどありません。
相談窓口・支援機関の一覧
| 機関名 | 対応内容 | 連絡先 |
|---|---|---|
| 労働基準監督署 | 給与未払い申告・是正勧告 | 事業所所在地の管轄署に問い合わせ(厚労省ウェブサイトで検索可能) |
| 総合労働相談コーナー(都道府県労働局) | 労働問題の総合相談 | 各都道府県労働局へ問い合わせ |
| ハローワーク | 離職票未交付の督促・失業給付手続き | 最寄りのハローワーク(厚労省ウェブサイトで所在地を検索) |
| 法テラス(日本司法支援センター) | 無料法律相談・弁護士費用立替 | 0570-078374(無料) |
| 都道府県労働委員会 | あっせん(話し合いによる解決) | 各都道府県の労働委員会 |
| 弁護士会(法律相談センター) | 個別相談・代理交渉・訴訟 | 各都道府県弁護士会 |
対応フロー全体のまとめ
STEP 1(即日)
↓ 発言・メール・チャットの記録・保存
↓ 録音(可能であれば)
↓ 給与未払い記録表の作成
STEP 2(3日以内)
↓ ハローワークへ「離職票未交付」の相談
↓ 労働基準監督署へ「給与未払い・条件付け」の申告
STEP 3(並行して)
↓ 内容証明郵便で給与支払い・離職票交付の請求
STEP 4(解決しない場合)
↓ 労働審判 または 少額訴訟
↓ 証拠が揃っていれば刑事告訴(弁護士と相談)
実例:実際に対応した人たちの事例
実際に給与支払い条件付けで対応した事例を参考までに挙げます。
事例1:メール証拠で迅速に解決
製造業の社員Aさんは、離職1ヶ月後も給与が振り込まれず、上司から「離職票の手続きが終わるまで待て」と繰り返しメールを受けていました。このメールを保存し、労基署に申告したところ、2週間で是正勧告が出て、その1週間後に給与が振り込まれました。刑事告訴はせず、行政指導で解決。
事例2:録音で強い立場に
飲食店スタッフのBさんは、店長から「離職票を出す前に給与をあげるのはありえない。払いたくないなら辞めろ」と言われ、これを録音していました。この証拠で労基署が強く指導を入れられ、さらに店長自身が恐喝罪での告発対象になるリスクを感じた会社は、弁護士を通じて示談に応じました。
事例3:刑事告訴で解決
建設業の下請け社員Cさんは、3ヶ月分の給与(約120万円)が未払いのまま、元請けから「離職票がないから払えない」と言い張られていました。メールとLINEの証拠が十分だったため、警察に刑事告訴状を提出。告訴受理から1ヶ月で検察が強要罪で書類送検し、その直後に全額支払いで和解成立。
よくある質問
Q1. 離職票がなくても失業給付の手続きはできますか?
はい、できます。会社が離職票の交付手続きを行っていない場合、ハローワークに「被保険者資格喪失確認請求」を申し出ることで、会社の手続きを経ずに失業給付の申請手続きを進められます。まずハローワークの窓口で状況を説明してください。
Q2. 録音は証拠として使えますか?
使えます。自分が会話の当事者として参加している会話の録音は、日本の法律上適法です。ただし、自分がまったく関与していない会話を無断で録音することは違法になる場合があります。会社の担当者との直接のやり取りを録音したものであれば、労基署・裁判所でも証拠として認められます。
Q3. 内容証明を送ったら関係が悪化しませんか?
すでに違法な条件付けをしてきた会社との関係は、実質的に修復困難な状態にあります。内容証明は「法的手続きに入る前の最後の公式通知」であり、むしろ会社が自主的に解決する機会を与えるものです。送付したこと自体が証拠になるため、後の手続きで有利に働きます。
Q4. 弁護士に頼むべきですか?
未払い金額が少額(数十万円程度)であれば、労基署申告や少額訴訟は自分でも対応できます。ただし、金額が大きい・会社が組織的に対応してくる・刑事告訴を検討している、といった場合は弁護士への依頼を強くおすすめします。法テラスを利用すれば、収入が低い場合は弁護士費用の立替制度も使えます(0570-078374)。
Q5. 申告したら会社に報復されませんか?
労基法104条の2は、申告を理由とした不利益取扱いを禁止しています。解雇・降格・減給など申告に対する報復は違法であり、それ自体が新たな申告・請求の対象になります。万が一報復があった場合は、その事実も記録に残し、すぐに労基署に追加申告してください。
まとめ:「払わない」と言われても、あなたには必ず受け取る権利がある
「離職票がないと給与を払わない」という会社の主張は、法的根拠がまったくない違法行為です。
- 給与の支払いは労基法24条が義務付けており、条件を付けることは許されない
- 離職票の交付は雇用保険法74条が義務付けており、会社は10日以内に手続きしなければならない
- この2つを条件付けする行為は、脅迫罪・強要罪・恐喝罪の成立する可能性がある
恐れる必要はありません。労働基準監督署・ハローワーク・法テラスという強力な味方があります。
まず今日できることは、発言内容をメモに書き留め、メールやLINEをスクリーンショットで保存することです。それだけで、あなたの権利を守るための第一歩が完成します。
一人で抱え込まず、すぐに相談の電話をかけてください。あなたの権利は必ず守られます。



